案の定、ヴィタの登場はメディアの格好のネタになった。
ある貴族が開いた社交パーティーで正式にティディアから紹介された彼女は、その風貌もあいまって、瞬く間にニュースソースを席巻した。
ヴィタ・スロンドラード・クォフォ。
地上波・衛星・ネット通信あらゆるメディアに蠱惑の姫とミステリアスな麗人のツーショットが溢れ、人心を吸い込みそうなそのマリンブルーの瞳は、早速クレイジー・プリンセスの魔石とまで称されている。
「こりゃ、しばらくは注目あっちが持ってくれるな」
ニトロは夕食に作った白身魚のムニエルをつつきながら、壁掛けのテレビモニターに流れるニュースをぼんやりと眺めていた。
それにしてもかわいそうに、社交パーティーを開いた貴族は完全に蚊帳の外だ。
本当だったらティディアに並んで主役だったはずだろうに。
それがワンカットも出てきやしない。
(ティディアが邪魔したくなるようなことでもしたのかな)
他人の宝石に嫉妬するような柄でもないから、別のことでだろうが……いや、自分には関係のないことだと、ニトロはそれ以上の詮索をやめた。
ボンゴレのパスタを、フォークに絡めて口に運ぶ。
アサリから出たダシとパセリの風味が舌で踊った。
「ん、大成功」
我ながら良い出来だと頬を緩ませ食事を勧めていると、芍薬がテレビモニターの隅にデフォルメ
「プロフィール公開サレテタヨ」
「どんな感じ?」
「異常ニ多芸ダヨ。コリャ傍仕エトシチャ超一流ダ。バカ姫モ重宝スルダロウネ」
「そんなに?」
「身ノ周リノ世話サセレバ三十人分ノ働キハスルヨ。実用性高イ資格ヲ幾ツモ持ッテルシ、会話可能ナ言語モ二十ヲ越エテル」
「へえ〜」
素直にニトロは感心した。
あのティディアが選ぶのだから基本的な能力も高いのだろうと思ってはいたが、ちょっと予想以上だ。
「ソレト――
「……なんで?」
「名前カラ身元ガ知レチャ、
「あ、なるほど」
ヴィタが自身の特徴や能力を隠している理由は『ばらした時の面白さ』のため。ティディアも、そう思うだろう。
なら身元は適当にそれらしいのをでっちあげて、真は隠してくるはずだ。
例え詐称がばれたところで、ヴィタをSPとして『警備部門』にも所属させておけば、セキュリティの観点からそうしていたと言えば済む話であるし。
「じゃあヴィタってのも偽名かな」
「……エーット。…………ソレダケ本名ダッテ」
「なんで判るの?」
「ホットライン繋ゲテ聞イテミタ」
「ちゃんと物理的に切断しといてね」
「御意」
テレビの中ではヴィタが丁寧にインタビューに応じている。
淑女然と、まさに上流階級の人間である様子で。
あれが『ティディア属性』だと分かった時、周囲の目の色がどう変わるのか……それはちょっと、楽しみではあった。
「他に何か、気になることはあった?」
「趣味ガ、引ッカカル」
「なんて?」
「園芸」
「ああ、やっぱり」
あの毒草はヴィタが育てていたんだな――と、ニトロは母と見たテレビ番組の中で、王城地下の植物園で熱弁を振るっていた彼女の姿を思い返した。
「それじゃ母さんと気が合いそうだなぁ」
「
「ん?」
「毒草専門」
「…………」
ニトロの脳裡に、嫌な光景が浮かんだ。
「……芍薬、毒草とか、毒とか、知識はどう?」
「……御免、少ナイ」
昔、短時間の記憶障害を引き起こす、麻薬にもなる毒草を用いた詐欺事件が起こり大騒ぎになったことがある。
昔、ノンフィクション小説で、量によっては媚薬となる毒草を巡る物語を読んだことがある。
昔、母が庭で育てていた食用になる植物が、実はそれによく似た毒草でえらい目にあったこともあった。直後メルトンにその手の知識を叩き込ませたのを鮮明に覚えている。
「すぐに、できる限り蓄えて。使用料ちょっとくらい高くついてもいいから
「承諾」
「それと、その手の本も買ってきて。備えあれば憂いなし、今日から俺も猛勉強だ!」
「御意! 頑張ダヨ、主様!」
「おうよ!」