ぎゃー! と悲鳴を上げた後、そう言われたところで結局振り返った先には何も見えず、見えないなら恐れることはないかと気を取り直した俺は、何を考えているのか「里芋を買って来い」とサキチに言われて訳も分からぬまま近所のスーパーへと自転車を走らせた。
しかし――
思い返せば、化け猫と同居している俺が今更幽霊ごときを恐れることはないのではなかろうか。
なにせ一度は悪霊に取り殺されそうになった身でもある。それを考えれば、やっぱり「何を今更、幽霊ごとき恐るるに足らず」なんて言い切ってもいいくらいのレベルじゃないか? 俺。
――と、そう思い至ってからは心も平静そのものに、しかしそう思い至ると同時に悲鳴を上げた自分が恥ずかしくてたまらなくなるもので。化け猫の、悲鳴を上げた俺を見るあの人を食った顔つきをも思い出すと、悔しいやら情けないやらでなおさらいたたまれなくなる。
ポップに今が旬だと書かれていた里芋の大袋を入れたエコバッグを片手に帰ってきた俺は、もうサキチに馬鹿にされてはやるもんかと、悲鳴を上げた自分を打ち消すように自信満々の顔で玄関を開け、
「ぎゃー!」
悲鳴を上げた俺を眺めるサキチの目は、実に底意地悪く細められていた。