三日目はさらに動きの少ない一日であった。
 プカマペ教団の祭事――日の出と日没時に行われる唱え言葉の合唱は教団信徒の姿がなくとも各地で開かれるようになり、それに参加する者の数は時が進むにつれて増え続け、教団のサイトに流れる謎の心音は大きさを増していき、それを報道するメディアの熱は止まることを知らない。
 が、その一方で、増し続ける熱量を消化するための『イベント』は一つも起こらなかった。
 クロノウォレスの式典で大歓声を受けながら両国の友好と発展を願う第一王位継承者の美しくも誇らしい姿、また、人の変わったような第二王位継承者が重要にして大規模な国策へ認証のサインを毅然として記した姿――それらがアデムメデスの目を満足させたことは確かだが、しかしそれだけでは、肥大した祭の熱に巻き上げられた願望が衰えることは決してなかった。いやむしろ、太陽のごとく輝く王女と、ようやく自分の空で輝き出した月――ティディアとミリュウの王女姉妹が放つ光熱に願望の喉は渇くばかりであった。
 祭には、ある種の犠牲が必要なのである。
 神に捧げられる生贄、荒い昂ぶりを鎮める暴力的とも映る行為、人々の怒りを、あるいは切実な願いを一手に引き受ける神代。
 今やアデムメデスに必要とされるのは、それだった。
 ――ニトロ・ポルカトは、『劣り姫の変』にそもそも乗る気はないのではないか?――
 だから、生贄ヤギになれ、カルト教団を排除する暴威ヒーローともなれ、また祭りにおけるあらゆる感情を一手に背負うこともできる “もう一人の主役”が一向に姿どころか動向すら見せないことは、人心に大きな不安を呼んだ。
 ティディア姫の『夫婦漫才』の相方として知られる彼は、それだけに、真面目で、そして筋の通らぬことを嫌うということを衆人に知られている。筋の通らぬ突然の悪戯を仕掛けてくる『恋人』を毎度毎度根負けせずに叱責し続けていたことも、皆、よくよく知っている。であれば無断で今回の仕掛けを講じたミリュウ姫に対し、怒り、その行為を無視を決め込むことで潰しにかかっているのではないか? そう思われ、それが筋の通る理屈であるために、余計にこの『劣り姫の変』が空回りに終わる危険性を誰もが感じ始めていたのである。
 だからこそ。
 西日の射す王都。
 まさに太陽の沈む先から中央大陸に戻ってきたミリュウ姫を乗せる王家専用機が降り立とうとする滑走路に人影があることが確認された時――そして各放送局のカメラが陽炎ようえん揺らめく滑走路に立つ人影の正体を『ニトロ・ポルカト』であると暴いたその時。
 くにが、揺れた。

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