夜の茶会うちあわせを終えたミリュウは、セイラが作ったプレスリリースの文面を確認した後、弟と共に姉の部屋を出た。
 向かった先は、城の地下――『天啓の間』という様々な伝説と逸話を持つ部屋。
 宇宙を模して造られたそこは初代王が宗教統一にも用いた場所であり、ロディアーナ朝のみならずアデムメデスという国にとって非常に重要な史跡でもある。
 部屋に入ったミリュウは、城の地下に忽然と現れた広大な宇宙空間を無感動に眺め、先客に声をかけた。
「ご苦労様」
 するとミリュウの眼前で、『ミリュウ』が深々と頭を垂れた。
 その背後には第二王位継承者の写し身であるアンドロイド四十八体がある。壁に沿って三列に重なり隙間なく立ち並ぶ精巧な機械人形は、己等のオリジナルへ無感情な人工眼球をひた向けている。
 その密と動かぬ群像を見れば、不気味だと人は震えるであろう。あるいは霊威を感じて息を飲むかもしれない。
 しかしミリュウはそれにも無感動を示し、頭を下げたままのアンドロイド――首に象徴イコンをかける神官アリン――現在は、それを動かすフレアに面を上げるよう言った。
 それから、ここまで手をつないでやってきて、今も手をつないだままの弟に顔を向け、
「パティ。痛みも有効にしていいから」
「え?」
 パトネトは戸惑いの声を上げた。これから行う作業の中には、アンドロイドの思考ルーチンが経験したものを姉が追体験する過程がある。ミッドサファー・ストリートのものはともかく、巨人の得た『痛み』を有効にしては……いかに疑似体験とはいえ、目に携帯電話がぶつかる痛み、膝を開放骨折し、腹を拳で貫かれ、そして体内に電撃を放たれる苦痛の全てを姉の脳は限りなく現実的に味わうことになってしまう。
「……でも」
 まごつくパトネトの手を離し、服を脱ぎながらミリュウは言った。
「お願い」
 その声は震えている。今にも泣き出しそうに、揺れている。
「…………でも」
 天啓の間の中央には、リクライニングチェア様の筐体が置かれている。
 ショーツを残し裸となったミリュウは、静脈の透く柔肌に星明りを浴びながら、躊躇も迷いもなくその安楽椅子に座った。
 そして、もう一度言う。
「お願い、パティ」
「制限ハカケサセテイタダキマス」
 と、応じたのは『アリン』だった。しかし声はミリュウのそれではなく、男とも女ともつかない、されどはっきりとした口振り。
「『ショック死』サレルワケニハイキマセン」
 パトネトのオリジナルA.I.――フレアは、マスターの代弁をしていた。それは明らかに断言であり、王女たるミリュウに拒絶を許さぬ意思まで伺える。
「……そうね」
 やおらミリュウは、うなずいた。
「そこまで考えてなかった。パティ、お姉ちゃんを守ってくれる?」
「うん!」
 パトネトはすまなそうに眉を垂れるミリュウの首に抱きつき、その頬にキスをした。
「ちゃんと守る。頑張ってね」
「うん、頑張る」
 ミリュウはパトネトにキスを返した。
 そして、彼女は思う。今日は先に休むよう、セイラに言っておいて良かったと。
「ソレデハ――」
 ミリュウの背後にフレアが立ち、二人の傍らにパトネトが座り込み、残りの『ミリュウ達』が周囲を取り囲む。
「失礼致シマス」
 フレアはフルフェイスヘルメット型のインターフェイスを、ミリュウの頭に丁寧に被せた。別のアンドロイドが安楽椅子に取り付けられているベルトでミリュウを固定していき、また別のアンドロイドの数体が体内から伸ばした電極を彼女の裸身に貼り付けていく。他のアンドロイド達は自他のコンピューターを有線で繋ぎ合わせ、最後にミリュウの座る筐体と一個のシステムを構築していった。
 パトネトはヘッドフォンと一体になったヘッドマウントディスプレイをつけると、フレアから渡されたモバイルコンピューターを起動させ、
「それじゃあ、いくよ」
 ミリュウは汗の滲む手を握りこみ、一度大きく息を吸った。
「ええ、いいわ」

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