映し出されたそのパーティーは、ティディアが運営する文化振興に関する慈善事業――例えば新たな才能を発掘・支援したり、家庭の事情などで活動を続けられない優秀な学生への援助を行ったりするなど、有体に言えばパトロンとなる活動を行っている団体の懇談会であり……つまり、今夜ニトロが巨人に襲われている間に王城で開かれていたパーティーだった
 ティディアはゆくゆく、この団体をミリュウ姫に担当させるという。
 そのためもあって開かれたこのパーティーは、ミリュウ姫を中心に囲んで、実に和やかに進められていた。
 画面中央で、団体の支援を受ける若い女性がヴァイオリンを弾いている。彼女は将来を嘱望される演奏家であり、現在、事業の広告塔ともなっている。
 ヴァイオリンの演奏に合わせて初老の男――元ホームレスだ――がパントマイムを始め、二人の芸術家が即興で生み出す滑稽劇に笑いが起きていた。無言劇の内容を鑑みると、どうやらパーティーの締めとしてこの演目は披露されているらしい。
 会場にはこの画を撮影する者の他にも、多数の報道関係者がいた。
 変化は、まずそれら報道関係の顔に起きた。
 カメラに映りこむ何人かが各々の端末に連絡を受け、そして目を丸くしている。そうする内に馴染みであるらしい老婦人と歓談するミリュウに女執事が駆け寄り、耳打ちし、急ぎ去る。次第にヴァイオリンの音が小さくなり、パントマイムの表現が『?』を表したところで止まった。
 異変に気づいた皆がざわめき始めていた。
 報道関係者の一人が、モバイルを操作して宙映画面エア・モニターを起動させた。
 限界目一杯に拡大された画像を見た全ての者が、息を飲んだ。
 そこに映し出されたのは、異形の巨人と『ニトロ・ポルカト』。
 駅構内にいる少年は周囲に避難を叫び、襲い来る巨人へ立ち向かう。
 ついさっきまで和やかな笑いに包まれていたパーティー会場に、絹を裂く短い悲鳴が響き渡った。
「……」
 ニトロは、ミリュウ姫を注視し続けていた。
 同い年のその王女は――
(演技だとしたら……凄いな)
 ケルゲ公園駅からの中継を観る会場の皆と同様に息を飲み、言葉を失う姫君の様子は実に自然極まりない。ティディアの薫陶を受けてきた彼女からすればそれは容易いことなのかもしれないが……それにしても今朝に見た、疲れを隠せぬ少女と同一人物とは思えないほどだ。
 と、そこに番組のキャスターの声が入り込んできた。
 今までノーカットで流れていた映像が乱暴にぶつりと切れ、そこからは結末までのハイライトが組まれ、やがて、ミッドサファー・ストリートで演説する神官の姿を見る会場が現れる。
 神官がローブのフードを下ろした時、最大のどよめきが会場を揺らした。
 全ての視線がミリュウ姫へと集まる。
 ミッドサファー・ストリートにいるのは、ミリュウ・フォン・アデムメデス・ロディアーナ。
 だが、確かに、会場にはミリュウ・フォン・アデムメデス・ロディアーナその人がいる。
 そうだ。ニトロも、だから惑い驚いた。あの時、彼女が何故ミッドサファー・ストリートにいるのかと、いられるのかと
 プカマペ教団の全てがミリュウの姿をしていることが明かされた時にも会場は揺れた。皆、直接目にする姫君と中継画面とを食い入るように見比べている。
 その時だった。
 大人しい姫君を見る会場の目が見開かれた。ニトロも同様に目を瞠った。
 突然、ミリュウが満面の笑みを浮かべ、大きな拍手を打ち鳴らしたのだ。
 静まり返ったパーティー会場に、ミリュウの手を打つ音が異様に激しく残響する。
<さすがはニトロ・ポルカト! 語り継がれるであろう『狂戦士』にして『救世主』!>

→4-3-dへ
←4-3-bへ

メニューへ