ミッドサファー・ストリートにそれが現れたのは、ティディア姫がアデムメデスを出国して
良くも悪くも賑やかな王女が留守にする王国はどこか寂しげで、
――初めは。
パフォーマーの集団が現れたのだろうと、それを見た者達は思った。
街灯と店舗がもたらす煌めきの中、古めかしいローブに身を包む数十人の黒い集団。
それはふいに地下鉄口から現れたかと思うと、一糸乱れぬ歩調で車道に雪崩れ込んだ。
その様子は、まるで黒いアメーバが素早く路面を滑っていくかのような印象を見る者に与えた。それがパフォーマー集団だと思われたのも無理からぬことだった。
そもそも、ミッドサファー・ストリートにパフォーマーが現れること自体珍しくないのだ。昔から多くの人の目を求めてパフォーマーが舞台に選ぶ場所であったし、その性質は『トレイの狂戦士』を生んだクレイジー・プリンセスの幻惑舞踏祭以降、特に顕著となっている。
だから、ここに店を構える者や来慣れた者達は「またか」と思った。
しかし驚いたのは車道を通行していた車である。
突然車道に現れた者達を轢かぬよう急ブレーキをかけた先頭車が、集団に向けてクラクションを鳴らした。後続の何台かは地元のドライバーらしく、パフォーマーだろうと察して慣れた調子でため息をついていた。
クラクションが鳴り響く中、黒い集団は車道の真ん中に陣取った。計四車線の車道は強制的に通行止めとなり、クラクションを鳴らし続ける一台につられて他の何台かも警笛を爆発させた。警笛を追って罵声も飛んだ。声の主は急ブレーキをかけさせられた車のドライバーだった。
異変が起きたのは、その時だった。
ミッドサファー・ストリートにある全てのモニターが、一様にただ一つの画を表示させたのだ。ビル壁にある巨大なモニター。店舗内にある用途各種のモニター。立ち往生する車のシステムや道行く人々の携帯電話といったモバイルに備わる全て――
全てだ。
ミッドサファー・ストリートにある全てのモニターが、その時、いっせいに『プカマペ教団』のサイトを映し出したのだった。