ようやくクレイグから連絡があり、ニトロとフルニエは合流地点に指定されたフードコートへ向かった。
 ちょうど先刻買い物組と休憩組で別れた所に空席があった。
 二人はそこでまたしばらく待たされた。
 そろそろフルニエが我慢しきれなさそうになった頃、クレイグとキャシー、それにもう一組のカップルがやってきた。
 彼らの姿を見た瞬間、フルニエの苛立ちは霧散した。
 男子は二人とも荷物を抱えていて、ヘロヘロに疲労していた。しかも片方には悲壮感すらある。それは経済的困窮からくる心労の相であった。カノジョに一体どれほど支払わされたのだろう? そのカレシ氏は休憩組と行動を別にする前、その時点で電子マネー残高を削られまくっていたことを哀れに感じたニトロからレモネードを受け取って弱々しく笑っていた――その時より彼はずっとおののいていた。
 一方でクレイグには困窮の心配はない。
 だが、彼の笑顔の奥底には形のない不安があるようにニトロには感じられた。
 フルニエの話を聞いた後だからかもしれない、そのおぼろげな不安は、経済的な危機よりもずっと深刻に思えた。
 二組のカップルにフルニエは二言三言文句を垂れると、その後、少し遅めの昼食に行く場所を発表した。初めは勝手に予定を決められたことに反感を見せた恋人達も、その店の名を聞いては驚き、一転して素晴らしい思い出になるであろうことへ顔を輝かせた。それからすぐに料金のことを気にしたが、それも特別リーズナブルに済むとあっては喜びも倍増。魅力的なキャシーに花もほころぶ笑顔を注がれたクレイグの笑顔からは不安が消えていた。彼の瞳には、喜ぶ恋人への恍惚があった。
 それを見た時、ニトロは食事代も自分がサービスした方がいいのかなと思ったが、流石に止めた。そこまですればクレイグに重荷を感じさせてしまうだろうし、それにフルニエは無闇に人から奢られるのを嫌う。貧乏性の自分が急に太っ腹になるのも不自然だ。
 レストランに向かう前に購入した商品を配送しようと皆で移動を開始した際、ふいにフルニエがニトロに耳打ちをした。
「カノジョを持つのも考えもんだな」
 その直後にキャシーに笑顔で話しかけられたニトロは苦笑を封じ込むために多大な努力を要した。――それは、彼がこの日の晩に異常な危機に遭遇するまでは、確かに今日一番の努力であった。
 無事に屈託無い笑顔を浮かべられたニトロと数語を交わしたキャシーはすぐにクレイグの横に並び、腕を組んだ。二人の笑顔が同じリズムで弾む二人の肩越しに見える。その先ではもう一組の恋人達が楽しげに言葉を交わしていている。
 フルニエは一人先頭に立って自信満々に皆を率いていた。
 未来の話を交わした友人と、現在の幸福に浸る恋人達を一つに眺め、ニトロは――何故だろうか――この一時が、心底楽しいと感じられてならなかった。



後凶



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