6:43 ―大凶― (ハラキリ:スタート)


 もやりとした目覚めだった。
 眼を開いても、まだ現実を見られてはいない気がした。
「……」
 ハラキリは体を起こし、頭を掻いた。
 目の前には見慣れぬ風景がある。自室の天井に生える草――タタミもなければ、最近窓に取り付けた鉄格子に紙を貼ったショージもない。ビジネスホテルの殺風景な部屋模様が、周囲に狭苦しく展開している。
「……」
 ハラキリは、夢を見ていた。
 だが、夢にありがちなことに、起きた途端にその内容を忘れてしまっていた。
 しかし、夢の中で何だかやたら面倒な相手と戦っていたことは覚えている。しかも相手は『クレイジー・プリンセス』やら『ニトロの馬鹿力』やら『負いの渡り姫』とはまた違ったベクトルの厄介さで、それをまともに相手にするくらいなら麻薬の密売組織に探りを入れる方がずっと気が楽といったていで……何だろうか、義理とか人情とか善意とか友情とか世に正しいと言われるもの全てが敵……敵? 敵と言い切っていいのかどうかも分からないが、とりあえず味方ではなくなっていた。周囲からはまるで素手で巨灰色熊ギガント・グリズリーを目の前にしているようなプレッシャーが押し寄せていて――つまり、有り体に言って、それは悪夢だった。
「ひどい朝だ」
 思わずつぶやく。ひどく寝汗もかいている。おかしいと思えば、何故かエアコンが止まってしまっていた。四季の移ろい穏やかな王都には厳しい残暑がほとんどなく、前夜も過ごしやすい気候であったとはいえ、窓を閉め切っていては空調無しでは流石に暑い。ナイトテーブルに放っていた板晶画面ボードスクリーンを手に取り部屋のシステムを確認してみれば、どうやら前の客の設定したタイマー機能がそのまま生きていたらしい。
 ハラキリは改めてエアコンを動かし、起きてしまったからには仕方がないとこの部屋に来て初めてテレビをつけた。
「……」
 前の客は、最後に有料アダルトチャンネルを視聴していたようだ。チャンネルもエアコンの設定と同じくそのままになっていた。しかもこの有料番組の方式、客を掴むためにチャンネルを合わせてから数十秒間は低画質ながらも内容が視聴可能であるようだ。
「……」
 前の客は、とても一捻りあるご趣味をお持ちであったらしい。
 半ばパニックに陥った顔であんあん言ってる女の喘ぎ声と、半ば意識を喪失した顔でふんふん言ってる男の唸り声とがハラキリの鼓膜を叩き、それから食事時にはまず見ない方がよい物体がとても正常ではない使用方法で彼の網膜を直撃した。実にスカっとハードストライクである。
「……」
 ハラキリはテレビを消し、頭を掻いた。
「酷い朝だ」

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