「気が合うわね」
言葉にはしていないが、あの
「素晴らしい洞察ありがとう」
ニトロは取り合わないと体全体で主張して、皮肉を返した。
「やっぱり私達、うまくやっていけそうね」
ティディアは観念しなさいと瞳で言う。
「いやいや、偶然って怖いよなー」
お前こそ諦めろとニトロは態度に表す。
「きっと神様の思し召しね」
面白い冗談だとティディアは笑った。
「この世に偶然はないって説もあるけど、絶対偶然はあると思うんだ。そう、今まさに」
ニトロは冗談違う本気だボケと笑い返した。
その様子を、話は微妙にかみ合っていないのに互いの意図を完璧に理解している二人を見ながら、ヴィタは含み笑いをこぼした。
耳ざとくニトロが気づいて、振り返る。
「何さ、フィナさん」
ヴィタは目を細めて、一度ティディアを、それからニトロを見た。
「
その言葉に、ニトロはうめいた。
言われてみれば、そう思われて当然のやり取りをしていた気がする。いや、していた。ティディアの顔面の緩みっぷりを見れば確信もできる。
しかし、
「いやでもそれって断じて好意とか、気が合うからとかじゃないよ」
ニトロはヴィタに言いながらも、ティディアに向けて釘を刺そうと声を強めた。
「敵に勝つには敵を知れって言われた成果だよ。うん、きっとそうだ」
「誰に言われたの?」
横手からティディアが訊いてくる。
「ハラキリ。あと芍薬が買ってきてくれた兵法書」
と言って、ニトロは思い出した。ちょうどいい話題の転換になると、間を置かずにティディアに向き直る。
「そうだ、ハラキリはいつ帰ってくるんだ? ティナなら知ってるだろ?」
問われてティディアは、苦笑した。
「ティディア、でいいんじゃない?」
「――あ、そうだな。いや、それはどうでもいいんだよ」
「どうでもいいって、酷いわー」
ふて腐れたように言いながらティディアがヴィタに目をやると、ヴィタは銀色の腕時計をちらと見た。
「約五時間後に到着されます」
「だってさ」
「あ、今日帰ってくるんだ」
ハラキリが未だに帰星していないのは、彼が道中で巻き込まれた事故の調査協力のためだった。
その事故そのものは彼が搭乗していた
そして、救助活動への協力を申し出た、特殊な技能を有した民間人の一人が重傷で、もう一人が軽症。
「一緒に迎えに行く?」
「うん……行く、けど……」
ティディアの申し出に、ニトロは引っかかった。
『一緒に』――
まるでそれは自分の予定の中にあったというような物言いだった。王女自ら、迎えに。ハラキリを友達だからと迎えに行くくらい彼女なら気軽にしそうなものだが、本当に迎えに行くだけなら前からこちらに声をかけてきていたはずだ。これほど都合のいい『デートの誘い文句』は、ないのだから。
「やっぱり、結構
セスカニアン星に向かっていたその
そのため芍薬に情報を集めさせて事故の詳報を追っていたが、追うに連れてニトロは大きな違和感を抱くようになった。
公表されている事故の規模にしては聴取にかかる時間が長過ぎた。ハラキリ達だけならまだしも、同じ星間航空機に乗っていた客達の帰星もまだだ。
そして――死者が出た以上けして軽い事故ではないとはいえ、しかしそれでもセスカニアン星の『政府』が被害者達を厚遇して留めるほどの事故ではないだろうと、ニトロは思っていた。
「ハラキリ君もついてないわよねー」
愉快気にティディアが言う。彼女はまたヴィタに目配せし、ヴィタは時計をいじって何やらデータを呼び出すと、うなずいた。
「予定の時刻通りに公表されています」
「ん、分かった」
「何がだよ」
あからさまに隠し事を手にしている彼女らに険立てて問うと、ティディアはまた愉快気に笑った。
「やー、むしろ私がついてたのかな」
「だから何が」
「ハラキリ君が巻き込まれた事故は、
笑顔で言いのけた彼女のセリフに、ニトロの頬が激しく引きつった。
「
「そ、
彼らの詳細は謎に包まれており、どこの国にも、どこの組織にも属さず、またどこを本拠にしているのかさえ知られていない。未開の惑星に秘密の居住区を持っているとも言われるし、その脅威の科学力を持って亜空間に居を構えているとも言われてもいる。
ただ分かっているのは、彼らには中心となる種族がいて、そこには絶えず優秀な――オリジナルA.I.の素プログラムを作成したプログラマーや、
しかし、
史上に
そして『呪い』とでも言うべき『失敗作』の悪影響は、今でもその星の近隣に悲惨としか形容できない被害を残している。
迷惑なことに
「よくそれで……」
『事故』で済んだものだと絶句したニトロを見ながら、ティディアは背もたれに体重をかけた。
「まあ、それでハラキリ君もその起動しちゃってた
むしろハラキリが主体になって
ついさっき『むしろ私がついてたのかな』と彼女は言った。それはアデムメデス人のハラキリの働きで、アデムメデスが外交上の良いカードでも手に入れられたということだろう。
彼女はその
いや、知りたくない。
知ればそれが自分のティディアへの『弱み』になる。機密なんぞ知らされて深みにはまっていくのは絶対に避けたい。
「それでさー」
それに『お母さん』と『親父さん』にもいい迷惑だ。こんな話。
「原因はラミラスの」
「待った待て待て! もういいよ、あとはハラキリに聞くから」
「えー。ニトロに話したくてうずうずしてたのに」
「なら夢の中の俺にでも存分に話してくれ。とにかくっ、この話は終わり!」
大手を振って×印を作るニトロの勢いに、ティディアはちぇっと舌を打った。必死な彼が楽しいからもうちょっといじってみたくもなるが……背後で鳴る食器の音を耳にして、やめておくかと口を閉じる。
「お待たせしました」