電脳空間の部屋の中、芍薬は、一人思い返していた。
(『わーい』ってなんだい?)
その時の
それは良い。
実際に喜んでいたし、
(……『わーい』って、ナンだい!?)
その時の
それは良くない。
実際に喜びに溢れ嬉しさに舞い上がっていたとしても、だからといってこんなにも無邪気に――いや、無防備に感情を暴露してしまうなど、
「恥ずかしいじゃないか!」
それは思えば思うほどに子どもっぽい――ぽい、どころか、そんなのは思い描く自分のあり方としては幼すぎる。あれじゃあまるで牡丹だ。
芍薬は思う。
アタシは主様のオリジナルA.I.として格好良くありたい。
そのための理想像も明確に存在している。
とはいえ無論、そのあり方をそのままトレースしようとは思ってはいない。そもそも理想を追いかけるということはそのコピーになろうというのではなく、それを篝火としてその先にある己の境地を求めることだ。その境地にある『格好』を求めることだ。だからその『格好』は、最後には明確な理想像とは違うものになるのだろう。
――だが!
だとしても、今日の、今朝の、あのアタシの喜びようは、違う。
あれはアタシの理想には欠片も当たらない。
でなければこんなにも動揺するものか。
この感情は、この種の恥は、そう、理想と現実の差異に吹き込んでココロに嵐を巻き起こす!
「あああ、何をやってるんだいあの時のアタシ!」
己の構成プログラムの一文字一文字が擦れあっているのか、痒みにも似た衝動が内部から噴き上げてきて堪らない。
身悶える。
構成プログラムの一行一行が軋んでいるのか、キイキイと不愉快な音が思考の隙間を満たして我慢ならない!
「うああああ!!」
あの時の自分の
「にやあああああああ!!!」
悶絶する。
頭を抱えて転げ回る。
いっそその時の記憶も記録も
だから芍薬はこれ以上悲鳴も上げてたまるかと口を塞ぎ、ぷるぷると震えながらようやく堪えた。
この恥も、いつか主様のオリジナルA.I.として、誰にも恥じぬ存在になるためのステップになろう。
ならばこれも我が身のうちに納めて未来の糧にすべきだ。
しかし、それでも祈らずにはいられない。
アタシ達になく、人間達にある特性に頼る。
(――どうか)
どうか主様があのアタシを自然と忘れてくれますように。
忘れないにしても、どうかぼんやり記憶が薄れてくれますように。
こればっかりは、いつになっても『笑い話』にはしてくれませんように……ッ!
終