モカブレンド メニュー

 飴色に変色した紅褐色の木肌が美しかった。ドアの前に立つたびに、小さな店内が覗き窓の向こうに見えるのが好きだった。それは窓の青銅製のフレームを額にした、いつも違った風景を見せる楽しい絵画のようだった。その下には営業中の札の代わりに掛けられた、小さな長方形のネームプレートがある。黒ずんだ鉄製のそれには、色褪せた赤いさくらんぼが二つだけ描かれている。それが、この店の名前だった。
 ドアを押し開けると、すぐに芳ばしい香りが全身を包み込んだ。温もりが漂う中にまだ肌寒い空気が入り込み、木漏れ日の明るさの店内にあった眼のいくつかが、静かに閉じていくドアの隙間から差し込む陽光を白く撥ねるスプリングセーターに引きつけられた。それもドアが閉じるのにあわせて戻っていき、新しい客を受け入れた店内は元のように落ち着いていった。
 店に入ってきたのは女性だった。やや小ぶりなスポーツバッグを左肩に提げている。フレンチ・タートルネックからのぞく首から顎にかけた輪郭ははっきりとして、薄く桜色のルージュが引かれた唇は彼女の品の良さを感じさせた。

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20040706-0921-20050121+1005