一郎は忙しない朝が好きだった。毎日のように繰り返される、時間に追い詰められ怒涛のように過ぎるこの一時は、どんなにしても飽きることはない。常に心には緊張があり、常に周りには微笑ましい光景が溢れている。
鍋に沸く湯に出汁が染み出している。換気扇はコンロが焚く火の残り香を晩秋の空に流し、テレビにはいつもと同じ顔ぶれが日々変わるニュースを読み上げている。
「もーっ、寝癖が直らない!」
洗面所から聞こえてくるドライヤーの音は、いつにも増してがらついていた。寝坊した上にひどく跳ねた髪の乱れに悪戦苦闘する優香子を逆なでしているかのような音だ。あれではまともに温風も出ていないのではないだろうか。もう悪くなっているのだから買い換えようという兄の言葉に、まだ使えると頑として耳を貸さなかった彼女は後悔していることだろう。
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20040831-0914-20050115+0705