120円の幸福 メニュー

 夜の帳の黒の中、白い光がぼんやりと浮かんでいる。光の中に並ぶのは、色とりどりの商品とボタン。小さな公園の脇にある自動販売機は、寝静まった住宅街に小さなモーター音を遠慮がちに垂れ流していた。
 普段は気にも留めないが、いざ気にしてみると耳障りな音だ。四角く重い販売機自身が細かく震えているようで、ただの鉄と機械の塊が生きているように感じられて気持ちも悪い。
 ついさっきまでは、そんなことを思っていた。
 深夜、急に缶コーヒーが飲みたくなってやってきた青年は、夜の息吹に感受性が高まっていた心を奪われ、販売機の前に突っ立っていた。
 彼の目は、販売機の一点に注がれている。3段に分かれたディスプレイの下段。温かい飲料が並ぶその端に、オレンジ色に白の抜き字で『なまぬる〜い』と書かれた台座があった。それを見たときは笑ったが、その上にある、ラベルもなく銀の地に油性マジックで『幸福一発』と書かれた商品には意表をつかれた。

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20040425-0614-20050120+0810