オリジナルA.I.狂想曲

 ティディア姫の誕生日会から一週間が経とうとしている。
 アデムメデスの主要メディアは、未だに祝宴の熱に浮かれまくっていた。
 地上波放送局、インターネット放送局、新聞各社に通信各社の情報ポータルサイト……そのどこででも、王女と『英雄』の二人きりのダンス、あるいは『余興』最後の決闘のシーンが映し出されない日はない。毎日特集が組まれ、毎日少なくない時間を割いて祝宴の様子が報じられ続けている。独自・独特・独立独歩な個人報道インディペンデント・リポート群でさえ大半がこの件を取り上げ続けていた。マクロに見てもミクロに見ても、その取り扱われ方を冷静に判断すればくどいほどであろう。例えどんなにそれが素晴らしい映像であったとしても、あまりに繰り返せば飽きを呼び、飽きたところにさらに同じものを繰り返し流し込まれれば反感を呼んでしまうこともある。が、しかし、一週間に渡って途切れなく続く誕生日会の特集にはその反感を呼ぶ要素が存在しなかった。
 何故なら、受け手へ攻勢をかける情報量が、あまりに豊富であったために。
 それも、主役たるティディア姫、もう一人の主役たるニトロ・ポルカトを除いてなお手短には語りつくせぬほどであったために。
 王家広報は誕生日会の翌夜、会の様子を伝える映像をプレスリリース版と一般公開版に分けて提供した。また、それらとは別に王家広報は二つの『特集』を用意し、広く公開した。その二つの特集は、『余興』、そして『王女と未来の夫のダンス』を最高のカットを選りすぐって作られた映像であった。
 特に『余興』については半ば中編映画にも思えるほどで、その長さ・内容密度からもフォーカスを当てられる箇所が盛りだくさんだ。乱戦の模様を剣術の専門家の解説を交えて手短に編集するだけでも一本の番組が出来上がるのだから報道者は大歓迎であるし、一方の視聴者も大満足。何しろ、最後の『決闘』――それだけでもコンテンツとして非常に大きな価値があったが、さらに、この余興には天才と『英雄』にも劣らず視聴者にインパクトを与える『三剣士』が存在していたのだから。
 無論、その三人が世間の注目を集めないわけがない。従って情報を求める取材陣は我先にとそれぞれの下へ押し寄せた。
 まず、注目を集めたのはグラム・バードン公爵である。彼は元より知られた人物であるが故に脚光を浴びるにも慣れ、つまりニュースソースとして扱いやすく、『三剣士』の中で取材陣に最も喜ばれた。それもあって公爵への取材は多く行われ――また、公爵からすれば“広報活動”をするに非常に有効的な状況である――彼は忠君に相応しい態度で王女を湛える一方、君主へ忠誠を誓う王軍への“わざとらしい、しかし真剣な勧誘”を行うという茶目っ気も見せて人気を呼んでいた。
 そして、次に取材を集めたのはフルセル氏である。ティディアが事前に彼への取材は王家広報を通すよう通達していたために大きな混乱はなかったが、それでも老剣士は一躍時の人となり、彼は思わぬ環境の変化に驚きながらも、環境が変化したところで自分の生き方は変わらないとばかりに悠々と過ごし、次から次へと押しかける取材陣に対しても穏やかに対応していた。――その人柄が、また人の心を揺さぶっていた。過去の経歴から様々な教育機関から指導のオファーもきているという。
 ところで、『三剣士』の最後の一人は、少年、それも、あの『映画』にも出ていたハラキリ・ジジであったことには不思議な驚きがあった。いかに『ニトロ・ポルカトの師匠』という話が流れていても、その響きには、彼が『映画』に出ていることで逆にフィクションに近いイメージが覆い被さっていたのだ。単純に言えば、メディアによくある誇張であろう?――という感覚。本当だとしても話半分、師匠ということにはしておきますが……本当は兄弟子のようなものでしょう? 本当の師匠は別にいて、あまり実力的には変わらない親友を持ち上げているだけでしょう?――そこへ、彼は目の醒めるような活躍を見せたのである。グラム・バートン公爵との一騎打ち前半に展開した一見卑怯な戦法は玄人から見れば舌を巻くほどの機と間合いの正確さにより支えられるもの。後半の剣戟は素人から見ても舌を巻くほど。それは、まさに『師匠』と呼ばれるに相応しく。
 当然、メディアの足は彼にも向いた。しかも、彼は不思議と恐怖の王女様から保護されていない。となればその勢いは当初『三剣士』の中で最も大きなものとなり、映像公開翌朝のジジ宅や彼の通う学校は大量の取材陣で取り囲まれていた。が、それを見越していたのかどうか、既にハラキリ・ジジは国際宇宙港から出国し、いずこかへ姿を消していた。唯一の家族の母親もしばらく前から星外に出かけていて、対応に出てくるのはあの『ニトロ・ポルカトの戦乙女』を真似したような民族衣装を着るオリジナルA.I.のみ。完全に肩透かしを食らった取材陣だが、しかしマスメディアがそれしきで諦めることはない。折角の好餌である。多数のマイクカメラが学校の同級生らへと向けられた。『ニトロ・ポルカト』の在籍する高校である。ある意味で取材慣れした生徒も多数おり、首尾よくニュースソースは集まった。そうしてハラキリ・ジジの(世間的な)人となりは世に伝えられたのである。
 とはいえ、それだけの情報量ではすぐに枯渇する。現在、『三剣士』の中でハラキリ・ジジの話題は極端に少ない。どのメディアの特集でも、名は挙げられても追加情報のないためにスポットライトは当たらない。だが、話題はなくとも、ハラキリ・ジジは間違いなく今回の特別な会のキーパーソンとして数えることに誰の異論もなく、また、スポットライトに照らされる頻度の少ないが故にかえって『ハラキリ・ジジ』の存在感は高まりもしていた。
 何しろ、彼は『決闘』の場面において『王女の愛、その恋人への思い遣り』を語った人間でもあるのだ。
 会から五日後には彼の言葉を証明する動きが東大陸で見られ、それにより『ハラキリ・ジジ』という謎多き少年は、謎多きが故、また『映画』の時分にはさして話題にはならなかったその家族構成が故の――そう、彼の両親はあのクロノウォレスで起こった悲劇に巻き込まれた人間であった!――大きな注目を静かに呼び寄せていた。

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