アデムメデスに点在する王家縁の建造物の中で最も威厳のあるものは何だと問えば、小学生でも口を揃えて王城――
では、アデムメデスに点在する王家縁の建造物の中で最も優美なものは何だと問えば、誰もが答える。それは
ロディアーナ宮殿は、しかし、ただ優美な外観のために人々に愛されてきたわけではない。
美術・建築・文化等において歴史的な価値と重要性を持ち、女性的な
同時に、また何より、ロディアーナ宮殿は伝統的に副王都を治める第一王位継承者の所有となるため、まさに今この一秒を生きるアデムメデス国民を『未来』に繋ぐ重要な
現在は第一王位継承者が王に代わり政を担っている事情と彼女本人の意向により、その所有権は
およそ5000ヘクタールに及ぶ敷地は百人の庭師・各三人のアシスタントと四百体のアンドロイド・千二百機のロボットに守られ四季を通して常に美しい庭園としてあり、詩人が神の花園でまどろむ淑女と喩えた宮殿を目にしようと訪れる者がない日は十年を通してもなく、平時一般人の立ち入りが許されるエリアの最内にある第三門と庭園の外囲に点在する駅とを結ぶシャトルバスは深夜になっても走り続けている。
バスの中、客のある者は毎日一度は宮殿を見ないと落ち着かないと言い、ある者は再び目に焼き付けたく戻ってきたと語り、ある者は初めて肉眼に観るその御姿を想像して熱に瞳を潤ませて。
……今宵、ロディアーナ宮殿はいつにも増して一層華やいでいるようだった。
それは、もしや、その内におよそ一年半ぶりに宿を取りに来た前の主人を迎えているためだろうか。
六月の夜風の中、宮殿は穏やかな初夏の花咲く園の中心で品良く夜に溶け込んで、美しい王女を一目でも見られたらと第三門の前に詰め掛けた人々のため息を誘っていた。