映画の脇役達のことにも触れておこう。
 サイボーグの、バッテス・ランラン。
 彼は原因不明の奇病にかかり、それを克服するためのマシンテクノロジー治療の治験参加者だったそうだ。映画を機に、現在は宇宙を飛び回って講演を行っている。
 ティディア姫の執事、犬。
 スクリーンの中の自分に惚れ込み、役者デビュー。意外やナルシストさんだったんだね。結構売れる。
 生物兵器。
 生物兵器やクローンではなかったものの、なんか色々あったらしい。
 高速道路で巻き込まれた一般人の皆さん。
 全部エキストラ(アンドロイド)だった。
 ニトロに『三下』呼ばわりされた兵士。
 退役して両親が経営していた不動産屋を継ぐ。初仕事で、住所の割れた実家を離れ一人暮らしを始めたニトロに物件を紹介。
 JBCSのアナウンサー、ジョシュリー・クライネット。
 ニトロへの独占インタビューで名を馳せるが、カメラマンのデバロ・オレブと不倫騒動起こして雲隠れ中。引退説も。
 ポルカト夫妻。
 旅行から帰ってきた空港で、凶鬼きょうきと化した息子のモンゴリアンチョップ食らってしばらく入院。どうやら突然ティディアに旅行に送り出されたそうで、映画のことは知らなかったようだが、それを明かされた時、怒るどころか脳天気に『お姫様のプロポーズ』を喜んでいた。ブレーキ役不可欠な天然っぷりを見るに、ニトロのツッコミが後天性の才能と窺い知れる。
 メルトン。
 結局、ポルカト家のA.I.に戻る。が、ニトロが一人暮らしを始めたことで代わりにポルカト夫妻のブレーキ役を担うはめになり、その上、いつ誤って夫妻に消去デリートされるかと怯えて暮らす毎日。
 そして、拙者。ハラキリ・ジジ。
 ティディア姫の誘いを蹴って、現在、学生生活満喫中。映画のお陰で一時期目立って大変だったが、時間の経過と共にそれも落ち着き安心している。たまにアルバイトで――
「ハラキリ君」
 ん?
「ちょっと相談なんだけどね」
 おや、いつの間に。
 撫子に通されたらしく、部屋に上がりこんできたおひいさんが困り顔で腕を組んでいる。
 おかしいな。昨夜のメールでは、今日来るとは言ってなかったのに。
「いきなりですね。まさか昨日今日でもう寄稿これを取りに?」
「いいえ別件、だけど……進み具合はどう?」
「ちょうど草稿を書いているところです。まったく……『映画』絡みの仕事はこれきりですよ。目立つの嫌いなんですから」
「やー、ごめんね。無理言って。お詫びに今度奢るからさ」
「では、バラノサ星料理の一号店ができたそうなので、そこのフルコースお願いします」
「また物好きなこと言うわねえ。いいよ、私も食べといて損は無いし。ところで〆切には間に合うかな?」
「何があっても間に合わせますよー」
「ん、よろしく。
 それで本題なんだけどさ、ニトロがねー、どうしても誘惑に乗ってこないのよねー」
「そりゃ大変ですねぇ」
 適当な相槌を打っておひいさんに良いように話させる。お姫さんは単に拙者と話してニトロ君に関する情報を確認したいだけ、ついでに『どれだけ真剣なのか』彼に拙者伝えに演出したいだけなので、これでいい。
 それにしても、最近『相談』の回数が増えてきました。お姫さんも、さすがに焦れ始めたのかな? 悪い傾向だ。
「普通さ、思春期の男の子」
「ニトロ君を思春期の男子と思うとうまくいかないと前も言いましたよー」
「それがおかしいのよ。それが本当なのか確認したんだけど――」
 悪いと言えば、タイミングも悪い。
 今日は拙者と相談したいという人がもう一人やってくる。頃合も、そろそろだ。
「ん?」
 と、どたどたと階段を駆け上がってくる音に気づいて、おひいさんがそちらに顔を向ける。
 ああ、そうか。
 これはタイミングが悪いんじゃなくて、彼の間が良いのか。
 それともお姫さん、これを目当てに来たのかな? フスマを勢いよく開いて、ニトロ君が入ってきた。
「聞いてくれハラキリ、またあのバカが」
「私がなぁに?」
「うわーお!」
 王女と平民のソープオペラは星中の注目を集めている。
 想い人に配慮して王女様が報道に対する絶対的な規制をかけたから、苛烈な報道合戦はなんとか行われていない。だが誰もが注目している。今も隠し撮りや潜入取材のデータを、A.I.たちが探し出してはしらみ潰しにしているだろう。
 それを間近で見られることは、ちょっと気分がいい。
「ま、役得ってやつですね」
「何を他人事みたいにしてんだハラキリ! こいつに何とか言ってくれ!」
「あ、でもこれだと真実書き過ぎで矛盾も出てるな。ボツだな」
「聞ぃてお願い助言して!」
「馬耳東風」
「何それどゆこと!?」
「ねーねー、ニトロってまさか他に好きな奴いるの?」
「黙秘だ、聞く耳持たん! あ、こういうことか!」


←8-1 へ

メニューへ