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 古代の遺跡から発掘されたぎょくの仮面を見ていたハラキリが、
「ああ、そうだ。先程の話からですが」
 ロディアーナ朝中期に行われた大宇宙開発の記録である『月の石』を見ていたニトロが振り返る。
「あの機体、一日ばかり預けてくれませんか?」
 ニトロは怪訝に小首を傾げ、
「先程の話から、と、後半が微妙につながってないぞ?」
「先程の、製作者」
「――うん?」
「ニトロ君と芍薬の連携に比して、気に入らないことがあるので少し手直しをしたいと」
「気に入らないこと? 手直し?」
「何でも、あの機体を芍薬そのものにしたいそうです」
「……今でも十分似てるよ?」
「それはまあ、元々芍薬がモデルですからね」
「あ、そうなんだ」
「ええ。とはいえ『こんな感じ』程度のやり取りだったそうなので、完璧ではないのですが」
「こりゃまた微妙に伝聞調だね」
「あれの“本来の”所有者は母でして、先のやり取りの当事者も母ですから。あれに関してもう一つ付け加えると、正確には、酒の席での口約束の扱いに母も困る賜物を拙者は押し付けられた形です」
 そう言うハラキリは何か嫌な記憶を思い出したのか。彼の渋い顔にニトロは笑った。
「で?」
「それで、先方が『やっと返ってきた』使用報告書を見たら、その素晴らしいデータにほくほくしつつも、逆にデータが満足だからこそ自分の仕事に不満が出てきたと」
「ああ、それが『外見』か」
「ええ。アフターサービスとして無料でやってくれるそうですが、どうします?」
「どうしますも何も良い話じゃないか。受けるさ。これは芍薬も喜ぶよ」
 ニトロが即決してそう言うと、ハラキリは少し意外そうな顔をした後、ふっと笑った。
「……なんだよ」
 ニトロが訝しく問うと、
「いえ、てっきり君は神技の民ドワーフには安易に関わりたくないという反応をすると思っていましたから」
「それは、まあ確かにね。色んな意味で危ないから」
「でも、芍薬のためならひょいと話に乗るんですね」
「だって喜ぶよ?」
 その無邪気な即答に、ハラキリは微笑んだ。
「ええ、喜ぶでしょうね」
 ニトロはハラキリの妙な微笑にいくらか釈然としない様子を見せたが、はたと何かに気づいたように、
「でも、それで……一日だけで大丈夫なのか? 結構な手間のかかる仕事だろう?」
「心配には及びません。先方はそれなりの腕前ですし、そもそも本人がそう言っていたそうですから」
「いやお前、天下の神技の民ドワーフ捕まえてそれなりって……」
 呆れ気味に言った後、ニトロは再度はたと気がついた。
「また伝聞っぽいね」
「基本ドワーフとのネットワークは母経由です」
「ああ」
 そういえば、以前ジジ家の事情としてそんな話も聞いていた。しかしニトロがドワーフグッズに接するのは、まるでそのセールスマンのように扱いに長けたハラキリ経由だから、てっきり彼自身でもネットワークを持っているように感じてしまっていた。
「でも……そうすると」
 ニトロは、苦笑した。
「ハラキリも大変だな」
「いやいや、大変なのは大変ですが、とはいえそれでもわりと美味しい思いをしていますし……」
 ハラキリは、そう言って片眉を跳ねてみせ、
「何より、お陰で今、こうしてここにもいられるわけですからね」
 そのセリフにニトロはおどけるような片笑みを返し、言った。
「そいつはきっと、ドワーフにも作れない『巡り合わせ』ってやつだよ」

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