大凶

(第二部『第 [3] 編』のちょっと前)

『クレイジー・プリンセス』映画祭で爆笑トークも公開ホットラブ?

 ティディア姫が28日、ジスカルラベイエリアで行われている中央大陸セントラコン映画祭にお出ましになった。伝統ある王立プリンスポート劇場において『御作』の特別上映が終わると、姫君は恋人のニトロ・ポルカト(16)を伴って舞台に登場。バラをモチーフにした真紅のドレスが姫君の無限の情熱と類稀なる美貌を引き立て、見目麗しいそのお姿に幸運にも抽選を突破した2507人の観客らは骨抜きにされた。
 上映された作品の評判も高く、終始ご機嫌であられた姫君は撮影中にポルカトから受けた印象を披露。特に最後の決闘シーンの迫力には演者であることを忘れてゾクゾクしたと、世間を圧倒した少年の演技力を称賛した。一方で一躍時の人となったポルカトは緊張のためか終始固い表情。しかし時に姫君のお言葉を遮る声には驚くほどの力があり、それを聞けば彼があの『クレイジー・プリンセスにグーパンチ』という鮮烈なデビューをした人間なのだと誰しも納得させられる。お二人のトークは映画への愛に溢れた観客らを虜にし、この日一番の拍手喝采によって閉じられた。
 なんとも艶かしい事件が起こったのは、この後のことだ。
「ティディア様のお召し物が弾け飛んだんです」
 事件を目撃した映画祭関係者は語る。
「姫様はお控え室にお戻りになる途中でした。舞台挨拶の成功に興奮したのでしょうか、ニトロ・ポルカトが姫様の肩に手を触れると、いきなりパン!と音がして、突然ドレスがバラバラになってしまったのです」
 複数の証言によれば、姫君は深紅に白い刺繍の入ったビスチェと両脇の透けたエレガントなパンティをお召しになっていたという。かわいらしい悲鳴を上げられた姫君は、
「『部屋まで待てなかったの?』と、頬を染めて仰っていました。姫様のお肌着を凝視するニトロ・ポルカトも顔を赤くしていました。周りには人も多かったのですが、お二人ははばかることなく見つめ合い、そこにはお互いに挑みかかるような、もしかしたらあの『映画』のように今ここで殺し合いが始まるのでは? と思わされるほどの熱気が渦巻いていました。姫様は何かをニトロ・ポルカトにお囁きになられたようです。とうとう我慢できなくなったのか、ニトロ・ポルカトは荒々しく姫様を抱きかかえるとお控え室に飛び込んでいきました」(前述の関係者)
 しばらくして控え室から出てきたのはポルカト、ただ一人だったという。
「汗びっしょりで息も荒くて、乱れた服を直しながらね。ほっぺについた口紅を拭い落としてたわ」(関係者B)
 彼はドアの外にいた姫君の執事に声をかけるとそのまま帰路に着いたらしい。
「どうやら姫様はお気をおりになられていたようです。執事様が部屋に入り、十分ほどすると姫様は出てこられたのですが、足元がおぼつかないらしく執事様にお手をお借りになられていました」(先述の関係者)
 気を失った恋人を残して去るポルカトを非難する者もないではなかったが、聞こえてきたのは羨望の声ばかりだ。
「姫様は本当にお幸せそうでした。ニトロ・ポルカトは、ああ見えて“やる”のかもしれません」(同関係者)
「いいわよねぇ。私もあれだけ熱く愛されたいわ」(関係者B)
「ニトロ・ポルカトが羨ましすぎて……」(目撃者・男)
 熱しやすいものほど冷めやすいと言う者もあるが、ティディア姫が新しい恋人を楽しんでおられることは衆目の一致するところである。
 ニトロ・ポルカトが、このまま姫君のご関心を引きとめられれば良いのだが。

<『ルーマージスカルラ 6月27日号』より>

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