ドバガン!!
「!!!!!?」
突如、部屋を揺らした爆音!
「何事!?」
飛び起きたニトロは寝起きも何も完全に覚めた目で、とにもかくにも周囲を見回し叫んだ。
カーテンの隙間から漏れる外の灯りに薄ぼんやりと浮かぶ部屋、だがどこにも異常はない。
夜影に異変が隠されているのかとも思ったが、芍薬が点けてくれた微光灯の下でも、全く何事もない。
腑に落ちず警戒だけは解かずにいると、のんびりとした声で芍薬が言った。
「バカガ一匹罠ニカカッタヨ」
遠隔操作の
「うわっ」
窓の外、ベランダを見てニトロは思わずうめいた。
ゴシックドレスを着こんだティディアがひっくり返って痙攣していた。
冷たいコンクリートの上で、まるで殺虫剤をかけられた虫の死骸のように。どうやら目が回っているらしく、彼女はこちらに注意も向けられず天を仰いでいる。
ベランダの柵の外には、夜空から垂れるザイルが、ゆらゆら虚しく揺れていた。
「ネ? ハラキリ殿ニ頼ンデ正解ダッタロ?」
機嫌良く芍薬が言った。嬉々の色が声に満ち満ちていた。
「ああ。だけどまぁ、見事にかかったなぁ」
ティディアが失敗した『突入』を再び仕掛けてくることを予想したニトロは、窓を強力な防弾ガラスに替えることにした。
初めは業者に頼もうとしていたが「ソレジャ気ヅカレルシ、間ニ合ワナイ」という芍薬の提案で、多少値が張ることになったが、ハラキリに正式な依頼として張替えを頼んだ。
今は別の星にいる彼に代わって、彼の母親が即座に工事してくれたのが前夜のこと。
芍薬が、機嫌を直してくれた数時間後。
「ネ? 昨日ノ今日デ来タロ?」
「よもやねえ……」
感嘆のままに腕を組む。
ようやく意識を取り戻したらしいティディアが立ち上がり、なにやら身振り手振りにわめき始めたが……まったく聞こえない。
人一人分の質量を簡単に弾き返すだけでなく、これは防音性も素晴らしい。
「それにしても、よくこんなガラスをすぐに用意できるよな」
半ば呆れのニトロの言葉に、芍薬が笑う。
「母上殿ノ『趣味』ノ在庫サ」
「……ほんと、変な家族だよ。ジジ家は」
ティディアが、がっくりと肩を落とした。
取り合ってくれる気がニトロに欠片もないことを悟って、しょんぼりと踵を返す。
「意外に早く諦めたなあ」
つぶやいたニトロに、それが聞こえたわけでもないだろうが、ティディアが肩越しに振り向いた。
その顔は完全に拗ねていて、ちょっと涙目にも見える。
ニトロは笑顔でバイバイと手を振ってやった。
ティディアは文句を言いたげにしばらく彼を見つめていたが……やがてしんみりと、ザイルを伝って下に降りていった。
「やれやれ」
ニトロはカーテンを閉め、部屋の中に向き直ると――拳を握った。
噴き出る会心の心地に笑みが満面と浮かぶ。
彼は、芍薬と鬨の声を揃え唱えた。
「大っ勝利イェー!」