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ガリの書斎 掲示板


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12/5拍手返信 投稿者:楽遊 投稿日:2015/12/06(Sun) 21:08 No.1069

12月5日にいただきましたコメントへの返信です。


===


拙作をお読み返しいただき、ありがとうございます。ニトロの修行は、ニトロとハラキリの関係にとって重要なものとなり、特にハラキリ自身への影響も大きなものとなりましたので、彼の心情にも思いを馳せていただけたことに嬉しい感慨を与えていただきました。
そしてまた、編み上げた文によりご共感をいただけたことに、こちらこそ深い感謝を申し上げます。このコメントを拝読したとき、寒さの厳しくなっていく最中、作者としての喜びに胸が温かくなりました。いっそう精進しなければと思うと共に、そのための活力もいただきました。本当に、ありがとうございます。
今後もそのように思っていただけるお話をお届けできるよう頑張りますね!


削除しました 投稿者: 投稿日:2016/10/04(Tue) 23:11 No.1287

二週間を過ぎましたので、予告通り削除しました。
もし問題がありましたら復元可能ですので、その場合はお知らせください。


削除済みです - 2016/10/05(Wed) 00:28 No.1288


削除済みです - 2016/10/05(Wed) 23:40 No.1289


掌編2015 投稿者:楽遊 投稿日:2015/10/10(Sat) 00:00 No.1051

タイトルが携帯からだと12バイトしか書けないとか orz


パソコンは現在故障箇所の買い替えか、新しいのをサブに加えるかで検討中。いずれにしろ物入り時にやられたので先立つものが用立てられねば動きが取れず、申し訳ない思いで一杯です。
しかし申し訳ないばかりでは何ですので、復帰までこちらでぼちぼち活動しようと存じます。

こちらは掌編。
携帯で打っているもので勝手が普段と同じようにできているか不安ではありますが、お楽しみいただけたら幸いです。

また、字数制限により分割するご不便、どうぞご容赦いただけますようよろしくお願いいたします。


プール(前) - 楽遊 2015/10/10(Sat) 00:02 No.1052

 プール・スーサイド



 ニトロは50mプールの滑らかな水面を見渡し、ゆっくりと、大きく呼吸した。
 体は今も燃え盛っている。つい三分前まで格段に厳しいサーキットトレーニングに励んでいた。腕立て伏せ、スクワット、腹筋、懸垂、ジャンプ等々、何種もの課目を繰り返す。それぞれの負荷や回数は少ないが次から次へと移行するために休みなく、苦しい。いくらか呼吸を整える間をもらえたとしても、それは次なる苦しみのためのバネを自ら巻き上げる行為に過ぎない。
 苦しい、苦しい。
 苦しみ抜いた末にニトロは汗を滝とばかりに落としたフロアから追いたてられ、階段を駆け降りさせられ、ほんの一分で水着に着替えさせられると、カラスよりも早くシャワーを浴びさせられ、そうして今、スタート台の上に立っている。汗が顎の先から落ちる。一度洗い流した後にも吹き出して止まない汗は水中に没するまでもなく全身をずぶ濡れにしている。まったく、普通なら、こんな状態でプールに飛び込むなどマナー違反も甚だしい。
 静かだった。
 煌々と輝くライトが照らし出す凪のプールは広々として、プールサイドに打ちつける波の音もなく、レーンを分けるコースロープもひっそりと水面に浮かんでいる。
 ニトロは目に落ちかかる汗を指で拭い、ゴーグルをかけた。
 プール内にも、プールサイドにも、人一人いない。
 この後の撮影のため、今日、このスポーツジムは貸し切りなのだ。
 このジムは、ニトロのいつも利用する場所ではない。だが、トレーニング内容に関してはいつも以上にハードである。
「いつまで休んでいるんです」
 ニトロの背後で鬼が言う。
「ちゃっちゃと5往復。もう5秒休んだら倍です」
「マジで!?」
「あと3秒」
「うわあ!?」
 慌ててスタート台の縁に足の指をかけるや否や、ニトロは跳んだ。
『師匠』はマジである。そんなペナルティはごめんである。ニトロはこの地獄を早く終わらせたかった。元よりこの地獄はまた別のさらなる地獄に落ちぬがために自ら望んだことではあるが、それでも苦しみは短い方が幸いである。もちろん良い効果を増すハードトレーニングにならばいくらでも労を払おうが、ただ単に苦を増すだけの罰金ならば支払いは断然拒否したい。
 そもそも今日のトレーニングは全てがおかしいのだ。
 水面へ向かって空を飛び、ニトロは思う。
 このハードにハードを重ねたハードトレーニングは、半ばハラキリの不満から来ているのではなかろうか?
 原因は例のごとくティディアである。
 この後の撮影――それはつまり『ニトロ・ポルカト』のプロモーションビデオのため、ひいては『ティディア&ニトロ』のデビューに向けたキャンペーンのために行われる。
 普通なら、ハラキリがそのような件を承認するはずはなかった。彼は目立つのが嫌いだし、それに最近は熱心にこちらを鍛えてくれている。『ティディア&ニトロ』の活動が本格化する前にもう少し“できる”ようにしておきたいのだろう、トレーニングの時間が削られることに対して面白くなさそうな素振りもよく見せるようになった。それはこちらにとっては非常にありがたく、また同感なこと。何しろ今回の撮影プランときたら、トレーニングとは名ばかりに実質デートである。王女と少年が戯れるように泳ぐシーンから始まり、談笑しながらエアロバイクを漕ぐ二人、間にストイックなマシントレーニングを一つ二つ挟んで、いちゃつくようなストレッチの後は庶民的なレストランで庶民的なディナーを楽しむ。
 ……それで未来・日常の危機をどうして防げるものかッ。
 ハラキリがジムに先入りしてのトレーニングを提案してきた時、ニトロは一も二もなくそれに応じた。しかしそれにしたってここまでハードにしごかれるとは思ってもみなかった。
 撮影には『師匠』もコーチ役として参加する。驚愕である。おそらくよっぽどバカ姫にしつこく強請(ようせい)されたか、よっぽど大きな取引でも持ちかけられたのだろう。
 スタート台から着水するまでの間、ニトロの脳裏にはそれだけのことがよぎった。――あるいは、それは走馬灯に近いものであったのかもしれない。
 着水する間際、水面から水中へ切り込むように鋭く腕を伸ばし、ぐっと顎を引いた彼は見た。ほんの刹那の間に、確かに見た。
 穿いた時には確かに膝上まであった競泳水着のその裾が、ボロボロに溶け出していることを。
「!?」
 ニトロは仰天した。仰天のあまりバランスを崩し、派手に水面に体表を激突させた。ザ・腹打ちである。束ねた皮の鞭を大理石の床に打ち付けたような酷い音がした。しかしニトロは痛みに悶える神経を、それとはまた別の痛みで燃え上がった神経によって征服し、と同時に彼は水上へ浮かび上がると口と鼻から水を吹き出し怒号を上げた。
「ハラキリィッッ!」
「痛そうですね」
「痛いよ、主に心が!」
「はて、何かありましたか?」
「はても何かもッ、一体どういうことだよこの水着は!」
「水で溶ける水着です」
「概念がねじ曲がっとる!」
 拳を振り上げ水面を殴り、ほとばしった水飛沫に噛みつくようにニトロは怒鳴る。
「てかそうじゃなくてだな! 何でこんな水着が用意されていて、しかもそれを着させて、さらにあんなに急いてプールに飛び込ませたのかってことを聞いてるんだ!」
「ベタなネタですよねぇ」
「ベタでもやられる方はたまったもんじゃねえの!」
「そこまで言うなら全部解っているのでしょう?」
「だから訊いている!」
「実に良い報酬でした」
 ニトロは言葉にならぬ叫びを上げた。彼を中心にして波紋が立った。その眼孔に焔が揺らめく。揺らめく焔の熱が、スタート台の後ろに立つハラキリに届く。
「つまり友達を売ったんだな!?」
「売ったつもりはありませんよ?」
「つもりがなくても実際売ってるだろうが! 俺はてっきり――」
 ニトロはそこで言葉に詰まった。歯噛み、息を吸い、別の言葉を叩きつける。
「ティディアの企みには違いねぇだろう!?」
「それ以上こちらには近づかないように」
 一歩を踏み出しかけていたニトロを、ハラキリが制した。しかしニトロに聞く耳はない。彼は水を圧して歩を進め、そして叫んだ。
「痛ぁ!?!」
 鳩尾の辺りに走ったのはまるで棘付きのキリで突き刺されたかのような激痛だった。反射的にバックステップを踏んだニトロは、しかし地上とは勝手が違い足を滑らせた。ざぶりと頭まで沈みそうになるところをまた反射的に立ち上がり、目を白黒させる。
「え? 何だ今の!?」
「コースを外れないように」
 冷静な、いやニトロには冷徹に聞こえる声が、続ける。
「君のいるコース以外、また君が進んだだけの範囲を微小なクラゲ型ゴーレムが埋め尽くしています」
「じゃあ今のは……」
「毒はありません。今のは一匹にやられた程度のようですがね、しかし群の中に飛び込んだが最後、何百何千と一時に刺されれば……」
 王家がオーナー企業のトレーニングウェアに身を包んだ『師匠』は腕を組み、
「例え全裸で無抵抗な君を前にしたお姫さんでも気絶は免れません」
 ごくりと、ニトロは息を飲んだ。そして思い至る。
「――全裸?」
「裾から上に向かって溶けていき、TバックTフロントを経て丸出しに至る」
 ニトロは太腿を探った。溶解は進み、そろそろ鼠径部に辿り着きそうである。
「大体3分ほどで全壊だそうです」
 そこで、パン! とハラキリは手を叩いた。びくりとニトロが我に返る。
「急ぎなさい、ニトロ君。ゴールに新たな水着、普通の水着があります。じきに撮影隊もやって来ますよ?」
 ニトロの下っ腹がぞっと冷えた。それはつまり、死である。
 彼は身を翻して全力で泳ぎ出した。この忌々しい“水着”が消え去る前におよそ50mを泳ぎきらねばならない。その距離は、そのまま我が余命である。初めはスパッツタイプだったのに、今やブーメランパンツとなっているこの“水着”――忌々しくとも頼らねばならぬ命綱をもっと持ちこたえろ心で叱咤し、己は必死に水をかく、水を蹴る。息継ぎも最小限に、先の疲労の消え去らぬ心臓が爆発しそうになるのを魂で押さえ込む。
 急がねばならない。
 急がねばならない。
 ゴールに辿り着いただけでは駄目だ。
 そう。
 彼は理解していた。
 察していた。
 認識し、既に認めていた。
 残り10m。くい込みが激しくなっている。
 そして、
「ウェルカぁム! ニ・ト・ロー!」


プール(後) - 楽遊 2015/10/10(Sat) 00:07 No.1053

 ゴール直前、彼の目指すその場所に、いずこから現れたのか一人の絶世の美女がすっくと立ち現れた。
「貴方の求める物はここにある!」
 更衣室にあるべきニトロの制服のワイシャツを着たティディアが両手を前に突き出す。そこには面積の少ない水着、辛うじてブーメランに分類できるパンツが広げられていた。全体はブラック。しかし股間に黄金の太陽が登り、生地に散らされたラメが絶えずキラキラと光を放っている。
 悪趣味な。
 奴の声を予期し、その声を聞いた瞬間、そちらを目視したニトロはそう思った。
 しかし何より悪趣味であるのはバカ姫の格好である。人のシャツを無断借用してくれたのはまだ良い。許せぬのはどうせその下は全裸ということだ。水を浴びればスケスケだ。そうしてこちらにその悪趣味なパンツも簡単には渡すまい。となればパンツを求める丸出しの少年と、全裸に“恋人の”シャツ一枚の王女はプールの中で鬼ごっこ。きっとヴィタの案内で撮影隊はそこに現れるだろう。他人の目にはさだめし奔放な恋の戯れと映ることだろう。
「さあ、取れるものなら取ってごらんなさい!」
 予想通りのその台詞を、ニトロは途中から聞いていなかった。
 潜水したのである。
「あれっ?」
 てっきり大慌てでゴールしてくると思っていたティディアは当てが外れた上に意表を突かれた。
 ゴールの上から覗き込むと、乱雑に凹凸を生む波に歪んで水底にうずくまる影が見える。その影の色は黒、それは水泳キャップ。他は肌色、彼の肌の色。少しばかり“水着”の紺が揺れるが、それは本来の用途にはもはや足るまい!
 ティディアの胸は高鳴った。――ニトロは判断を誤った。その潜水、そして意味をなさない潜伏は致命傷に他ならない。状況をモニタしているヴィタは最高のタイミングでカメラを引き連れてくるだろう。彼女は期待に胸を膨らませた。
 しかし、本当に判断を誤ったのは、ティディアであった。
 彼女が期待に身を委ねた瞬間、そこに油断が生まれた。
 彼女が瞬きをした次の瞬間、ゴーグルを着けたニトロの顔が、彼女の鼻の先にあった。
「!?」
 ティディアがそれを視認し、驚愕し、身をのけ反らせることまで出来たのは、ひとえに天賦の才のなせる技だろう。
 そして彼女は理解していた。何故、刹那の後に水底にあったはずの顔がそこにあったのか。彼はさながらカモメを狙って海中から飛ぶ鮫のごとく、食らいついてきたのだ。――それを彼女は、“宙に浮きながら”理解していた。落下しつつある逆さまになった世界の中心に、ティディアは見る。鍛えられ、鍛え上げられつつある少年の逞しい背中、裏腿――お尻にパチンとフィットするブーメランパンツ。
(嗚呼……)
 彼の吹き上げた水飛沫が私と一緒に逆さまの天へ昇っていく。その一粒一粒が美しく煌めいている。絶えず崩れながら、絶えず球となろうとしながら、それらがスローモーションに見えて、その向こうに彼がいる。
(なんて綺麗)
 ティディアは微笑み、危険なクラゲ型ゴーレムの満ちるプールに落ちた。
「―ッほぎゃああああ!!!!!」
 断末魔にも等しい王女の悲鳴を、ハラキリは背中で聞いていた。
(久々に……ッ)
 戦慄が、彼の口元を自然と歪ませる。
 何度見ても驚嘆させられる『馬鹿力』。水中からの跳躍はまだしも、どうやって彼が彼女を投げ飛ばしたのか、見えなかった。遠目にしていてなお理解できなかった。
 ハラキリはプールの非常口に行き着いていた。扉に手を掛け、開き、身を滑り込ませ、締める。それは非常に洗練された動作で、締め切るまでに二秒とかからない。しかし、ドアを閉めたところで、彼は思わず笑った。
「ま、仕方ありませんかね」
 振り返ると、そこには鬼がいた。黄金の太陽が登る夜色のブーメランパンツをぴっちり穿きこなし、非常通路の不安げな電灯にゴーグルを光らせてポタポタと水を滴らせる激怒の化身が、そこに佇んでいた。
 ハラキリの記憶は、そこで途切れた。


 民放各社の代表者で構成された撮影隊は、プール内への立ち入りを許されなかった。待機場にも届いた凄まじい悲鳴に誰もが動揺し、かつスクープへの期待に誰もが浮き足だったのだが、それを王女の執事の毅然とした態度が押し留めたのだ。――いや、正確には、騒ぎ立てる一同を抑える彼女の顔には毅然とせざるを得ない何かしら張り詰めたものが表れており、それが撮影隊の皆の心を凍りつかせたのである。
 警備アンドロイドと共にその場に残された撮影隊の何人かは、プールへと向かう麗人の姿に奇妙な印象を持った。彼女はまるで、飢えた猛獣の檻に武器も持たずに単身乗り込もうとしているかのようだ、と。
 実際には、ヴィタはそれ以上の覚悟でプールに赴いていた。
 静かだった。
 ここが事件現場とはまるで思えぬほど、静かすぎた。
 わずかに水の触れ合う音が静寂に花を添えて、ヴィタの鋭い聴覚を不気味に愛撫する。
 彼女は内履きを静かに脱いだ。足をネコ科のものに変え、柔らかな肉球で湿り気のある床を音もなく踏む。視力を全開にして首を巡らせ、ピンと立てた耳を常に動かし音を探り、殺菌された水の匂いをむせ返りそうなほど嗅覚に送り込んで『彼』の動向を探る。
 しかし、影はない。
 今一度、持てる感覚の全てで探索する。
 しかし影もない。
 ヴィタはいくらか安堵した。そこで初めて目をある一ヶ所に留め、そして思わず吹き出した。
 我が姫君は素晴らしい姿勢で水にプカプカと浮いている。プールサイドの程近く、半ば浮き半ば沈みながら水面に真っ直ぐ身を横たえるその様は、ヴィタの脳裏に恋に破れて神の泉に身を投げた乙女――その神話の一節を元に描かれた暗く美しい絵画を思い出させた。ふわふわと波になぶられる白衣(しらぎぬ)もそっくりだ。違うのはその白を透かして乳房が突き上がっていること、何より、こちらは白目を剥いて口から泡を吹いていること。いやはや実にひどい顔である。
 ヴィタはクラゲ型ゴーレムが停止していることを確認してからプールに入った。ひょいと持ち上げてプールサイドに移動させ、失神している主人の愉快な顔をうっとりと眺めて考える。
 さて、これからいかにすることがティディア様の望みとなるだろう?
 ヴィタは迷うことなく行動に移った。もう一時(いっとき)バカ姫様のひどい美顔を網膜に焼き付けてから、それを少しだらしない美顔に作り変えていく。気付けはしない。作業中に気がついたとしても、こちらの意図を悟れば主人はそのまま気絶していてくれるだろう。――やがて出来上がったのは、うっすら白目を剥いたまま、口元は悦楽に呆けて緩んだ恍惚の顔。
 作業が終わってすぐ、医療用ロボットが二台やって来た。一台が王女を担架(ストレッチャー)に載せて医務室へ運んでいく。もう一台には、非常通路でエビ反りで壁にもたれて気絶しているハラキリを――彼の居場所はモニタしてあった――地下駐車場の彼の車に送るよう指示を出す。
 ニトロの居場所が分かった。既に更衣室で着替えている。
 モバイルに表示される芍薬からの激しい抗議を真顔で受け取るヴィタは、その一方で顔色を全く変えずに遠回りをするよう医療用ロボットを操作していた。慌てず騒がず芍薬に怒られ続けつつ、しかし芍薬も主犯が気絶中となれば次第に勢いを失って、それだけの罰が下ったことに満足を隠せないでいる。それをヴィタは愛らしいと思う。
「――問題ありません。このような体験はティディア様も初めてでしょうが、それだけに天国を見たことでしょう」
 ヴィタが話の流れで芍薬へ“洒落”を返したちょうどその時、ロボットに牽かれるストレッチャーは撮影隊の視界に“偶然”入り込んだ。その内の幾人かは執事の言葉を耳にし、そして気絶した王女の“その顔”を確かに目撃した。ヴィタはちらりとその際の様子を確認して内心微笑んだ。目撃者の中にはゴシップ関連に強いコネクションを持つスタッフもいて、彼はきっとすぐに部下の女性を体調がすぐれないと医務室に送り込んで来るだろう。その時、王女がプールでどんなふしだらな格好をしていたかを“運悪く”知られてしまうだろう。
 そしてゲスの勘繰りは、往々にして一直線であるものだ。
 ヴィタは芍薬に言った。
「かしこまりました。ニトロ様のご意見も当然です。本日の撮影は中止せざるを得ないでしょう」
 その言葉を芍薬から伝え聞いたニトロは消えぬ憤りを抱えたまま、一方で撮影中止の喜びを抱いて一人帰宅した。
 ……それからしばらくの間は、何もなかった。
 しかし四・五日経った頃、“出所不明の”ゴシップネタが世間の関心を一手に集めた。
 野火の広まるがごとく世間の口を渡ったその猥談に触れた時、そこでニトロは初めて、あの時、気のつかぬ間に己が失態を犯していたことに気がついたのだった。
 その奔放かつ卑猥な話の流布は彼を心底辟易とさせた。ピーク時には周囲の、特に同級生の女子の視線が痛くてならなかった。ある仲の良い陸上部員などは変に顔を赤くしてよそよそしくしてくれたものである。もちろん彼女に悪気はなく、ただただ羞恥が彼女にその態度を取らせたのだろう。それが判っていても、しかし流石に心に堪えた。
 されどそのゴシップの渦の中、その件のことを否応なく省みることになったニトロは、ふと不思議なことにも気がついたのである。
 そういえば、あれ以降、トレーニング風景を撮影させろとティディアは一度も言ってこない。少なくとも中止分の撮り直しくらいは要求してきてしかるべきなのに、その気配すらない。もしや今後二度と自分からは企画を持ちかけてくることはないのではないか……ニトロにはそんな予感があった。
 そこで彼は、それとなくハラキリにその疑念を匂わせた。
「あのベタな水着ネタを聞いた時に、これはイケルと思いましてね。副作用もまあ、ありそうだとは思いましたが」
 そう言って笑うハラキリがクラスメイトの様子を思い出しているのは明白だったが、同時にそれで『師匠』が王女に求めた報酬が何だったのかもニトロには明白となった。すると困惑するやら良心が痛むやら。とはいえ親友が騙し討ちを仕掛けてきたことには違いなく、感謝してもそれを受け取るつもりが相手には毛頭ないであろうから、結局、苦笑するしかない。
「なあハラキリ。今日はこの後、暇か?」
 ただそれだけでは気が済まないので、ニトロはあの日食べるはずだった庶民的なディナーを奢ろうとした。だが、ハラキリはその申し出を一言の下に断った。
「え、何で?」
 あまりに無下に断られたためにショックを受けた様子のニトロの問いに、ハラキリはニヤリと笑ってこう言った。
「ですからね? ニトロ君。拙者は、ただ目立つのが嫌いなだけなんですよ」




 ―終―


護身 - 楽遊 2015/10/14(Wed) 22:32 No.1054

「ししょー、質問でーす」
 その問いかけの気楽さに反して、その声にはどこか張り詰めたものがあった。すると空中で皮膚と肉の剥がされた膝を曲げ伸ばししていた人体模型が動きを止めた。
「何です?」
 テニスコート二面分は優にある地下室に深韻(しんいん)と響いて消えた質問を追いかけて、グロテスクな立体映像を傍らにした師匠が応じる。
 タイルともリノリウムともつかぬ象牙色の床に置かれた小卓を勉強机として簡素な丸椅子に腰かける弟子は、そろそろ充血し始めた眼をはっしと見開き、何食わぬ顔の相手を見上げ、
「今さら聞くのも何だけどさ。ここまでやる必要はあるのか? なんかもうちょいとした解剖学の領域にまで踏み込んでるじゃないか。いや、関節技の技術向上のために関節の構造を知ろうってのは理解できるよ? だけどそんなリアルな、えっと」
 ニトロは空中に寝そべる人体模型――まるで実体のあるかのようなその立体映像を一瞥した。ハラキリが応える。
「フランシナイ君」
「そう、その腐乱しないナイスガイの筋肉の繊維を一束一束追いかけてまで詳細に知る必要はあるのかな。正直、膝十字固めの習熟のために滑膜とやらの存在を知ってるかどうかなんて関係ないと思うし、てか、このままだと下手な外科医志望より詳しくなりそうだ」
「そこまで流暢に口が回るなら、後二時間はいけますかね」
「ししょー、実際には二秒後にも意識が飛びそうでっす」
 このジジ家の地下トレーニングルームに時計はない。ニトロは現在午前五時頃だろうかと検討をつけていた。間違ってもそれより早いことは無いだろう。ここにやって来たのは昨晩の七時。異文化情緒溢れる夕食をごちそうになった後、八時にここにやって来て、今は南大陸にいるティディアから『漫才』のための特訓を受けた。アンドロイドに意心没入(マインドスライド)した王女が課してきたのは発声練習を始め、姿勢矯正などおよそ舞台稽古の基礎ばかり。それを休憩無しで三時間。それが終わると講師がハラキリに切り替わり、きっつい基礎体力トレーニングの後には模擬刀を用いた剣術の実戦的トレーニング、さらに小休止を挟みつつナイフ術と槍術も軽く――内容は重く――触って、それからカプチーノが出てきたからやっとまともな休憩かと思いきや座学である。ニトロの体は鉛のように重く、逆に脳は軽い。無闇に軽い。
「だけど俺に暇がないことは解ってるんだ。俺にはししょーから習っておかないといけないことが山ほどあるんだ。山ほどあっても足りないと思うんだ。たまに挟み込んできてくれる剣術やら馬術やらはまだしもワルツの踊り方とか紳士の優雅なお辞儀の仕方まで仮想訓練にプログラムされているのは(いつも何度もいつまでも疑問ではあるんだけど)ホントは要らないんじゃないかなー? とは思いつつも、まあそれはそれで良しとしてはいるんだけども、それでもやっぱりンなことに時間を割かずにみっちり護身術に特化して欲しいなあと希望するんだけども、それはそれとして習うより慣れろとも言うじゃないか、だから座学はここらで切り上げて実践的に教えてはくれませんかししょー」
「エスプレッソでも飲みます?」
「カフェイン増でよろしく」
「撫子」
「カシコマリマシタ」
 ふいにオリジナルAIの声が淑やかに表れて、奥床しく消える。
 一息を置いて、ハラキリは腕を組んだ。
「さて、ニトロ君。
 確かに君の言うことには一理あります。しかし、そう言うということは、どうやら君がこの講義において何ら想像力を働かせていない証拠でもあります」
 ハラキリの言に、ニトロは反論しようとした。しかし『師匠』はその隙を与えずに言う。
「ちゃんと考えていましたか? 君は新しく得ていく知識を経験に、体験に擦り合わせてイメージしていましたか? 仮想、現実に限らず実践的に関節技の極めて・極められていたその時に、その膝が構造的にどうなっていたかを想像し、どうなっていたから膝にダメージが与えられていたかを思い返していましたか? もしそうでなかったのであれば、君の言う通り、このような学習をするより実践練習をしていた方が良いでしょう」
「いや、考えたよ、でもあんまり詳しすぎないかってことを言ってるんだ。話されることにはもう感覚的に知ってることもあるし」
「その感覚を知識によって補強するんです。感覚が頼りにならないときのために。それに君は感覚で知ると言いましたが、君は感覚だけで技術を全て入(い)れられるのでしょうか。サブミッションの名手の誰もが解剖学を納めているとはけして言いません。優れたグラップラーにはこんな講座など必要ないでしょう。何故ならその人々はたゆまぬ実践(れんしゅう)と、そこで磨かれた感覚、そして身に宿るセンスによって人体の壊し方を体得しているからです。しかしニトロ君、君にはそのようなセンスはありません。感覚は磨いている最中ですし、妥協できるまで実践を積むにも時間が足りなさ過ぎる。君が必要としている技術を君が“体得”したと言えるまでに進めることは難しい。君が格闘技の天才なら話は別ですが、そうではないからには“理解”にまで持っていくしかありませんし、持っていかなければならない。理解は体得への道になり、あるいは体得が不可能であったとしてもその代用品にはなり得ますからね」
 ニトロは反論できなかった。疲労困憊の頭でも理解できる。『師匠』の論に逆らうには自分が天才、それとも天才的であらねばならない。彼は才能がなければいけないとは言っていないが、その場合に味方とすべき時間が貧弱である以上、天才と主張できぬニトロには、ようやく一つの隙しか見つけられなかった。
「なら、もっと格闘技に直接関係する構造を繰り返しみっちり教えてくれればいいじゃないか」
「だから、今みっちり教えているじゃありませんか」
 ハラキリは飄々と言い、続ける。
「こと学術・学習において言うならば、君は一を知って十を知るタイプではありません。基本的には五を知って三四(さんし)を知るタイプでしょう」
 ニトロは苦笑した。
「せめて五を知って五を知りたいなあ」
「それは秀才です。まあ、そうなりつつあるとは思いますよ?」
「色々必死だからね」
 おそらくはフォローに過ぎないであろう言葉、しかし嬉しい言葉に照れてニトロは小さく笑った。ハラキリはうなずき、
「そこで、今、君に十まで教えているんです。九までいかなくてもいい、ただ五までは十分知ってもらうために」
 格闘トレーニングにも使われているマネキンのようなアンドロイドがトレイを持ってやってきた。
 小さなカップとシュガーポットがニトロの傍らの小卓に置かれる。
「君が言うように繰り返し学ぶことは極めて重要です。ニトロ君。君にとって“不要”な知識が語られる時、その周辺組織には君にとって“必要”な構造がありませんでしたか? それを明示しなくともこのフランシナイ君が献身的にも膝の内部までをも明らかにしれくれる時、君には不要に思える組織の一部を必要不可欠な全体に関連付けて想像することが視覚的にもも容易だったはずです」
 ニトロは香りからして濃厚なエスプレッソに砂糖をたっぷり入れた。溶けきらずに底に溜まる砂糖をスプーンで突き砕く。ハラキリは既に彼好みに加糖されているエスプレッソを受け取った手で一気に飲み干して、すぐに空いたカップをアンドロイドの手のトレイに戻す。ニトロも飲んだ。思い切り甘くしたカフェインプラスのエスプレッソは、それでも苦くて芯に効く。
 ニトロからもカップを回収した撫子(アンドロイド)が頭を垂れて下がっていく。
「ついでに言えば」
 ハラキリは指を振り、グロテスクな立体映像(じんたいもけい)を操作した。皮を剥がれてむき出しとなった筋肉が半透明化し、変わって体中に網のように展開する血管が強調される。
「君は外科医並みになっていいんです。むしろそうなるつもりでいて下さい。“それ”が無いに越したことはありませんが、君はどんな窮地に陥り、あるいはどんな負傷をするか……君が抵抗し続ける限り、可能性はゼロではない。王家に婿入りすればこれ以上ないセキュリティに守られましょうが、そうではなく、しかも君自身が最大の不安要素にして脆弱性ともなれば、いかに無敵の王女様でも守りきれませんからね」
「芍薬がいるよ」
 ニトロは言った。
 ハラキリは目を細め、
「それに、何か事件とまではいかなくとも、レジャー等の最中に怪我をすることもあるでしょう。ニトロ君自身でなくとも誰か友達が怪我をするかもしれない。そんな時、医者ともなれば応急処置にも心強い」
「……師匠、講義の続きをお願いしまーす」
 ニトロは態度を改めた。ハラキリは、そこでふと苦笑した。
「拙者は君の『師匠』になった覚えはないんですけどねぇ」
「なんか定期的にそんなこと言ってるけど、もう今更じゃないか?」
「そんなことはありませんよ。世間にニトロ君が『恋人』と認識されているほど手遅れではありません」
「おうし、がっつり目ぇ醒めた。解剖学が終わったら情報操作についても一コマ頼むよ」
「はあ、知りうる限りはお教えできることもありましょうが……」
「何だよ、徹夜は無理だってのか?」
「いや、ニトロ君はそうやって自ら実にお姫さんの喜ぶ人材になっていくんだろうなあ、と、ふと思いまして」
 その一言には異様な破壊力があった。理由は単純にして簡潔。ニトロはハラキリの指摘を一も二もなく認めてしまったのである。
 しかしここには彼にとって激烈なジレンマがあった。確かにこちらの成長をあいつが非常に喜んでいる節はある。あいつを喜ばせるのは御免だし、あいつの望むようには心底なりたくない。だが、ある範囲ではあいつの希望に沿わねばならないのも事実なのだ。何よりもそれが我が身を守るためならば。だが、だが、ああ! さすれば我が意に反してあいつをまた心底喜ばせてしまうのだ!
 激烈は熱を生み、熱は神経を焼き切らんばかりの負荷となる。
 ニトロの疲労しきった脳は、そこでジレンマを拒否した。さらに言えばジレンマの原因となるハラキリの指摘から拒否することにした。そのためにはどうすれば良いのか。聞かなかったことにすればいい。聞いたとしてもすぐに忘れてしまえばいい。忘れるために、記憶しなければいい!
 次の瞬間、ニトロはほとんど気絶するかのように眠りに落ちていた。
「おや?」
 驚いて、ハラキリが目を丸くする。
 一拍の呼吸停止の直後、がくりと頭を垂れた勢いで椅子から転げ落ち、にもかかわらず安らかな寝息を立て出した友を眺め、眠りに落ちるほんの刹那にだけ見えた哀れな苦悩を思い返し、事態を概ね理解した彼は次第に大きな困惑を覚えて眉根を寄せた。
「モシ人ヲ本当ニ直接殺シ得ル言葉ガアルトスレバ、ソレハ何気ナイ一言デアルノデショウ」
 撫子が思わずといったように言葉をこぼす。ハラキリは、肩をすくめた。
「仕方ない。ニトロ君を客間へ」
「カシコマリマシタ」
 マネキンのようなアンドロイドがハラキリの視界に入り込んでくる。その顔面にはろくな表情を刻めるだけの機能はないのに、どこか学者じみた興奮が垣間見える。
 ニトロは、早くも悪夢でも見始めたのだろうか、顔をしかめて小さく言葉もなく唇を震わせていた。
 アンドロイドは実に興味深そうに眠る少年を覗き込む。彼をそっと抱え上げながらも、その両目は震える唇から声を読み取ろうとしている。
「撫子、研究もほどほどに」
 苦笑いのマスターに釘を刺されたアンドロイドが肩を揺らし、恥じるように振り向いた。やはり何の表情もないその顔には、険しい寝顔のニトロ・ポルカトとは反対に、不思議と何か夢見るような明るさがあるようにハラキリには思えてならない。そしてそう思ったことで彼はまた苦笑するのであった。




 ―終―


紙一重 - 楽遊 2015/10/18(Sun) 14:24 No.1055

『ティディア&ニトロ』として漫才コンビになるまでも大変だったが、複雑にも無事にデビューしてからがまた大変だった。
 年の瀬迫る時期。前代未聞の大型新人を放っておけるメディアはあるはずもなく、ニトロは今日も放送局にやって来ていた。これで13日連続。テレビ・ラジオ、電波・インターネットを問わねばもう何ヵ所巡ったか分からない。確か50は既に超えていた。その中には実際には“芸”を披露せず、要するに『希代の王女とその恋人』のための特集番組も数多くあったが、それにしたってバカに対するツッコミは不可欠であり、結局それはバカとの情報戦を加味したおおよそ漫才の体をなし、するとどちらにしたって馬鹿みたいに疲れることに相違はない。
 しかも高校生にとっては学期末である。学期末には試験がある。楽屋として提供された応接間で、ニトロは勉学に励んでいた。立派な机にコーヒーと共に置かれたボードスクリーンには銀河共通文字が並んでいる。長文読解。異文化交流についての小論。内容そのものは難しくない。しかし簡単なことを複雑に述べる文体が目を押し留める。基本的に『やさしい言語』として開発された共通語でここまで難解な文章を作れることは驚きであった。
 未知の単語の意味を調べようとニトロが辞書機能を呼び出した時である。ふいに声が上がった。
「うんバほーいさーい」
 ニトロは顔を上げた。
 机の向こう側に、ティディアがいる。彼女は斜になって座り、行儀悪く足を机に乗せていた。びっくりするほど滑らかな足の裏がニトロの心を引きたいとばかりに揺れていて、一本一本象牙から削り出されたかのような指が時折グッパッと閉じては開く。フリルたっぷりの絵に描いたようなお嬢様ルック、甘ったるくも洗練されたデザインの長いスカートの裾が膝までずり落ちていた。そこから体のラインをレースが上品に隠す前身頃を遡れば不機嫌そうなお姫様の顔に辿り着く。
 ニトロは一目見た際、ティディアにその服は似合わないとはっきり答えた。以降すねて沈黙していた彼女は、彼の視線に、やはり応えない。
 ニトロは読解に戻った。分からなかった単語は『通過儀礼』という意味だった。
「うんバほーいさーい」
「……」
 ニトロは再び顔を上げた。ティディアの土踏まずがアーチを描いている。その向こうには不貞腐れた顔がある。
「……何だよ」
「……掛け声」
「掛け声?」
「マッケンバブトン祭の掛け声」
 ああ、とニトロはうなずいた。
「あの奇祭か」
 秘境感溢れる有名な温泉地の奇妙な祭を思い出す。だが、それがなんだというのか。ニトロはうなずくなり、予習に戻った。文中において『通過儀礼』は本来の意味で使われていたのではなく、折衝中の文化間に生じる軋轢を乗り越えるべきもの、それを乗り越えてこそ真に強靭にして成熟した文化を得られるもの――という文脈で使われていた。
「うんバほーいさーい」
「……」
 ニトロは三度顔を上げた。そして吹き出した。いつの間にかティディアは口紅を唇からはみ出させて塗りたくっていた。
「何してんだ?」
「マッケンバブトン祭の女衆の化粧はね、子どもの頃の化粧への憧れを表しているそうよ」
「ああ、つまり子どもが悪戯して失敗した化粧、みたいなもんか」
「そう。いかに独創的に失敗するかが女衆の腕の見せ所」
「で?」
「うんバほーいさーいって声を上げながら灰色の“泥”を辺り構わず投げつけるじゃない?」
「ああ」
「あれは元々馬や豚の糞だったそうよ」
「マジか」
「歴史的には男尊女卑の激しい地域だったから、祭は女衆のガス抜きでもあったわ。嫁姑での糞の食わせ合い、夫の浮気相手をやるために糞担ぎの男衆を囲い込んでの集中砲火なんかも風物詩だったみたい」
「なんか色んな意味でエグいなあ」
「でも街道が拓けて、幽玄な温泉地として有名になり出した頃から事情が変わった。流石に糞を投げ合い擦り付け合う祭は保養地にそぐわない。てことで近辺から取れる泥を投げ合うことにした」
「ああ、それで今に至るのか」
「いいえ、またちょっと違う。昔の泥と今のは別物」
「それじゃあ?」
「温泉地、泥、ときたら?」
「あー、泥パック?」
「そ。糞から泥に変えて投げ合って数年、どうもその泥が肌に良いみたいだと噂が立った。町の特任を受けた学者が文献を紐解き情報を集めてみると他の場所では泥を使ったサービスが行われているらしい、しかもそれが評判だ。さらに学者によればうちの泥は非常に優秀であるらしい」
「『商品』になるからには無駄にはできない」
「世知辛いわよねー。でも女衆は投げたい。一時は有名保養地として相応しい振る舞いを、ってことで投げつけ合いの廃止も検討されたけど大反対にあった。そこから紆余曲折を経て現在の“泥(ペースト)”に行き着いたのよ。衛生的に問題なく、特産の泥より成分はずっと少ないけど一応『美容』を謳い文句に出来るものをわざわざ開発してまでね」
「そうか。興味深かったよ。じゃあ静かにしてくれ」
「うんバほーいさーい!」
「うわうるせぇ!」
「うんバほーいさーい!」
 机の上に飛び乗って、両手を空に何度も振り上げながらティディアはぴょんぴょん跳び跳ねる。突然の奇行にニトロは度肝を抜かれた。彼の顔を見て頬を明らめたティディアはいよいよ叫ぶ。
「うんバほーいさーい!」
 ぴょんぴょんと跳び跳ねる度、足首まであるスカートの裾も一緒に小さく跳ね上がる。健康的な脛がちらめいて、ステップを踏む素足は実に軽やかだ。振動でがっちゃがっちゃとコーヒーカップが踊って中身がこぼれる。ニトロは慌ててカップを持ち上げた。
「うんバほーいさーい!」
「おいおい落ち着けどうしたティディア! ついにその日が来たのか!?」
 ニトロの言葉にティディアはキッと彼を見下ろし怒鳴った。
「もっと構え! 折角二人っきりなのに寂しいじゃない!」
 その不平にニトロは頬を引きつらせ、負けじと怒鳴り返す。
「何を抜かす! もう十二分すぎるほど構ってるだろうが!」
「どこが!?」
「こうして『漫才』に付き合ってる!」
「それはニトロが承知した貴方の仕事でしょう!?」
「それで十二分だっつってんだ! できるならお前となんて少しも一緒にいたくないんだからな!」
「うわひっど! 流石に泣くわよ!?」
「どうぞ!」
「慰めてくれる?」
「No!」
「この外道!」
「お前が言うなあ! つうかな、そんなに寂しいんならヴィタさんと話でもしてこいよ」
「ヴィタは取り込み中だから駄目よ。彼女は――」
「待てそれ以上言うな聞きたくない」
「王佐家(しんぞく)の馬鹿が詐欺に関係したからその始末の指示で忙しいの」
「ほらやっぱり聞きたくなかったー!」
「本人は詐欺に利用されただけみたいだけど、デリケートな案件だから秘密にしてね?」
「ンなこと誰にも言えるかッ! てかいい加減降りろよ、そして顔を拭け」
「そしたら構ってくれる?」
「これ以上構えと申すかこの強突く張り」
「やー、別にこんなふうに楽しませてくれなくてもいいのよぅ」
 クスクス笑いながらティディアは机から飛び降りた。フリルに飾られたスカートがふんわりと広がり、ふんわりと閉じていく。
 ニトロは、もうぬるくなっていたコーヒーを飲み干した。カップを置く。そこにクレンジングシートで紅を落としたティディアが言う。
「例えば私を家庭教師にしてくれたら嬉しいな「断る」
「スーパー即答!?」
 度肝を抜き返されたティディアは瞠目し、両手で机を叩いて問う。
「何でよ!」
「まあ、お前はどうせ教え方も上手いんだろうよ」
「えへへ、そうよ、もちろんよ」
「だがどうせ余計な知識も植えつけようとしてくるに決まってる」
「あら、何を言うの、ニトロ。余計な知識なんてこの世に一つだってないのに」
「ん?」
「あるのは、知識を活用“できる”か“できない”か、それだけ。そしてその主語は知識でなく、あくまで人間よ」
 ニトロは眉をひそめた。何だかさっきまで読んでいた小論めいた言い回しだ。彼はティディアの主張を咀嚼し、翻訳した。
「つまり、活用の是非で知識の価値を図るのは自分の無能力を宣伝している事に他ならない、と」
 ティディアは嬉しげにうなずき、
「ニトロはそうならないようにね?」
「てかそれなら既に無能宣言しているだろ俺は。だからこんな俺には構わないでくれないか」
「それならそれで教育しがいがあるってものよ」
「ホントにお前は言い負けないなあ」
「愛があるからねー」
「そりゃ話が飛躍してるし、だとしても鬱陶しい愛だ」
「ちなみに問3の答えは『35214』よ」
 ニトロはきょとんとティディアを見つめた。
「何の答えだって?」
「次のテストの答え」
「……」
 ニトロの眉間に、皺が寄った。
「大丈夫よ、ニトロ。私が教えれば貴方は100点間違いなし。何故なら私は全てを知っているから!」
 そのセリフに、全てを理解したニトロはあんぐりと口を開けた。やおら頭を抱えて天を仰ぎ、叫んだ。
「おぉまぁええ! そりゃ教えるなんてもんじゃねえ! 完ッ全に不正じゃねぇか!」
「これほど役立つ知識はないわよ!?」
「知識の活用について云々言ってた舌の根も乾かぬうちにッ、てかむしろそいつは絶対に役立たない知識だろうが!」
「何で?」
「聞いちまった以上その問題は回答不能になったからだ! 故にその知識を活用することは永遠にない!」
「えー、遠慮しなくてもいいのにー」
「おいおいお前は俺をどう教育するつもりだ? お前がしようとしているのは、堕落への誘惑だぞ」
「ええ。堕落させようとしているの。一緒に堕落しましょうよぅ」
「糞食らえ」
 言って、ニトロははたと息を止めた。
 ティディアは満足そうに微笑んでいる。
 ニトロはがりがりと頭を掻き、嘆息した。
「真偽は?」
「真」
「なら、本当にもう黙れ。もう一度でも漏洩しやがったら二度と口を利かない」
「最後に一つだけ、聞いてもいい?」
「……何だよ」
 するとこれまで少しも悪びれた様子もなかったティディアがふいに元気をなくし、スカートを軽くつまんで言った。
「これ、本当に似合っていない?」
 その時、ニトロは理解した。こいつは、つまりは、この問いを投げるためにこそあれだけ無駄な会話を仕掛けてきたのだ。紆余曲折を自ら設けて、こちらを怒らせてまで。そんなことをせずにそれだけを問いかけてくれば良かったろうに。
 彼は半ば睨むようにティディアを見つめた。彼女も彼を見つめ返し、回答を待っている。
「見た目だけは、確かに似合ってるんだろうさ」
 やがてニトロは口を開いた。意地悪に、持ち上げてから落としてやろうと毒づくように言った。
「だけどやっぱり、お前には似合っていないよ」
 ニトロはティディアがしょげ返るか、それとも怒ってまた不機嫌になるだろうと思っていた。
 しかし、ニトロはまたもきょとんとした。
 ティディアはしょげ返ることも不機嫌になることもなく、満面に笑みを浮かべたのである。それは、むしろ似合っていると称賛されたところで浮かべられるものとはとても思えなかった。だから、ニトロにはティディアの笑顔の意味を捉えることができなかった。すると逆に彼が不機嫌に襲われた。何だか無性に馬鹿にされている気がしてむっつりと黙り込み、とにかく勉強に戻る。銀河共通語の練習問題を取り止め、数学の問題集を引っ張り出す。苦手な教科こそが今の彼には薬だった。
 いまいち理解の深くない問題に取り組み出した彼を見つめながら、ティディアはそれ以降言葉を口にしなかった。どうせ仕事の時間までの辛抱でもあるし、今、彼に何が必要なのかも知っている。
 ティディアはコーヒーポットを持ってきて、ニトロのカップに新たに注いだ。砂糖菓子を添える。彼は彼女を見なかった。彼女はポットの残りを新しいカップに注ぎ、元の席に座った。
 ティディアはコーヒーを口にする。
 ニトロは芳しい香りを嗅ぎながら、先月習った公式を思い出そうと一人格闘を始めていた。



 ―終―


ランチ(前) - 楽遊 2015/10/22(Thu) 19:32 No.1056

 ランチと共に、思い出を


 知り合ったばかりの少女は、その痩けた頬に微笑みを浮かべた。
「遠慮する。私、ベジタリアンなんだ」
「あ、そうなんだ」
 ニトロは相手側に押し出していたランチボックスをそろそろと引き戻した。そこにはBLTサンドとハムカツサンドが詰められている。
「そりゃゴメン」
「謝らなくていいよ。知らなかったんだし、別に厳しいのでもないし」
「どの程度です?」
 と、横手から問いかけたのはハラキリである。美術室の大きなテーブルに包装されたライスボールを三つ置いて、ニトロの隣に座っている。ハラキリの正面にはバゲットとサラミとチーズにミルクを揃えたダレイがいて、その隣に、つまりニトロの正面にクオリアがいる。
 ニトロとハラキリの注目を浴びる美術部員は机に両肘をつき、枯れ枝のような指を組み合わせた上に顎を載せ、
「単に肉食をしないだけ。人が食べる分には構わないから、こっちのことは気にしないで。むしろ人が食べているのを見るのは色々な表情が見られて好きなくらいだから」
「魚は?」
 ハラキリがニトロのハムカツサンドを一つ取りながら問う。ニトロが断りもない親友をたしなめようとした時、反対側からまた一つの手が伸びてきてBLTサンドをつまみ取った。言葉を左右に振り分けられずに黙ったニトロの顔を興味深そうに眺めながら、クオリアは答える。
「魚も食べないわ」
「卵、乳製品」
 カツサンドを食(は)みながら畳み掛けるようにハラキリが問う。クオリアはまるで平然と、
「無精卵は食べる。乳製品も食べる。野菜も果物も収穫方法にこだわらず普通にね」
「ゼラチンなどの動物由来は?」
「由来、は平気。というより何が動物由来か全部解ってるわけじゃないから。あくまで『肉』が問題」
「植物プランクトン由来の調整肉(アジャストミート)は?」
 これはニトロの問いであった。クオリアは淡々と答える。
「食べられる。でも積極的には食べない」
 ニトロはうなずき、質問者がハラキリに戻る。
「肉、魚と一緒に調理した野菜」
「積極的には食べない」
「虫は?」
 ニトロの左から嫌そうなうめき声が小さく鳴った。クオリアはそちらを一瞥しつつ、
「蜂蜜は大好き。でも“本体”はどんな加工品であれ生理的に無理。虫については触るのも嫌、でも見る分には平気。観察対象としては素晴らしい生物だわ」
「して、家庭・宗教上の理由で?」
「個人的な理由」
「それは殺生の忌避?」
「個人的には、殺生の忌避って理由は『霊長植物(コギタンス・プランツ)』に笑われるか怒られると思ってる」
「では?」
「結局は、殺生の忌避なのかしら」
 矛盾する答えに、ハラキリはライスボールの包みを外しながら余所事のように訪ねる。
「つまり?」
「小さい時、動物が人間と普通に話すお話が好きだったの。その中に大好きで、とても感動的な話があった。魔女と戦っている女の子がいて、その子は友達の黒犬と白猫と灰色のカラスと旅をしているの。ある日、魔女の手下に襲われた時、友達の白猫が身を呈して女の子を守って死んだ。その猫は海を見たがっていたのだけれど、見られなかった。それで棺に入れたその猫を、以前友達になっていた川の魚に海へ運んでいってもらうことにした、女の子達は壊された魔法の腕輪を直しに行かなくてはいけなかったから。猫と仲の悪かったはずの魚は、猫の死を知ると大声を上げて泣いたわ。泣きながら運んでいってくれた。普段忠犬を気取りながら、いざという時には臆病だった黒犬は女の子と一緒に猫を見送りながら、“本物”になることを決意するのよ」
「『サマラの冒険』?」
 感激したようにニトロの隣でミーシャが言った。クオリアは何か戸惑うようにうなずき、それから落ち着かなげにハラキリに目を戻し、一つ息を置いてから言った。
「それに感動した日の夕食は、マスのムニエルだったわ」
 そこでクオリアは声を潜めた。
「それを一口食べたらね、もどしちゃったんだ」
 ミーシャが顔をしかめる。それを横目にしたニトロは、それは汚い話への嫌悪ではなく、人の好い彼女がクオリアの体験への同情を示しているのだと判じた。が、今日、いやこの昼休みに初めて言葉を交わす同級生の女子(ミーシャ)に対し、クオリアは距離を測りかねている。ミーシャのその表情からも意図を掴みかねたようだ。動揺を隠すようにハラキリへ顔を向け、やがてクオリアは声の大きさを戻して続けた。
「全然そうなるなんて思ってなかったし、我ながら今でも不思議に思ってる。でも、私は魚だけじゃなく肉も食べられなくなっていた」
 クオリアの隣でダレイはサラミとチーズをかじりながらバゲットをもりもり食べていく。
「そうなってからも魚を美味しそうに食べる人を見たら美味しそうに食べるなって思うし、肉料理を誰かのお皿へ取り分けることもできる。レンジで料理を温めることなんて朝飯前。でも、食べたくない」
「なるほど」
 ハラキリはうなずいて、それきりだった。これで自分の仕事は終わったという体である。するとクオリアは愉快そうな顔をした。
「ハラキリは聞きにくいはずのこともずけずけ聞くね」
 魚の切り身の入ったライスボールをひとかじりして、ハラキリは言い放つ。
「後顧の憂いこそ遠慮すべきものです」
 その堅苦しい物言いにクオリアは笑った。その様子にダレイは楽しげに見える。他方、ミーシャは戸惑っているようだ。癖の強いハラキリ・ジジにこうも早く順応している新参に驚いていいのか感心していいのか判らないのだろう。その新参は快活にうなずいていた。
「そうだね。そうしておけば、いらないトラブルも防げるわね」
 ハラキリはそれに応える代わりというように、
「ニトロ君、今日はデザートなんかも持ってきてます? どうせちょっと凝ってきたんでしょう?」
 ライスボールを食べながらのその口ぶりに、ニトロは唇をへの字に歪めた。
「その通りだけどさ、そう言われるとなんだか俺が馬鹿みたいじゃないか」
 そう言いながらもニトロは机の下に置いてあった鞄から容器を取り出す。その隙にハラキリが動く。
「おかずも普段より明らかに多いですし、つまんだらいかがです。ニンジンのマリネなんかお勧めですよ」
 サンドイッチ用とは別の、ニトロのもう一つの(いつもより大ぶりな)ランチボックスを、ハラキリが勝手にテーブルの真ん中に押し出す。
「おいこらハラキリ」
 と、流石にニトロが怒ろうとした時、またもミーシャが手を伸ばしてきた。今度はダレイも参加する。ミーシャは購買で買ってきた弁当(ランチボックス)の使い捨てのフォークでポテトサラダを掬い、ダレイは楊枝の突き刺さっていたミートボールを奪っていく。保冷機能のある弁当箱は品質を保って二人を喜ばせる。
 野菜ジュースとライ麦の丸パンだけを手元に揃えているクオリアは進退を決めかねていた。ダレイとミーシャの様子からニトロのおかずに心引かれているようではあるが、フォークもスプーンもないから手が出せない。
 そこにニトロが使い捨てのフォークを差し出した。
「なんかハラキリに使われてるようで癪だけどさ」
 渋面のニトロにクオリアは笑顔を返してフォークを受け取る。ハラキリの進めたニンジンのマリネを食べて、頬をほころばせる。
「話には聞いてたけど、美味しいね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
 ニトロも笑って、デザートの容器の蓋を開けた。純白の底に輝くプチイチゴのコンポート。ミーシャが歓声を上げた。本来クオリアとの親睦のために作ってきたものだが、ミーシャが喜んでくれるならニトロは嬉しい。なにしろ本人は隠しきっているつもりらしいが、長らく彼女の眉間には常に失恋の影がある。あるいは未練の雲だろうか。どちらにせよ、それを見ているのは正直心苦しいものがあった。かといって何の手助けもできないのだから、こうして一時でも気晴らしを贈ることができるなら幸いなのだ。
 そしてクオリアは、デザートを見て瞳を輝かせるミーシャを関心深げに見つめていた。
 ニトロは思う。もしかしたらクオリアは既にミーシャの悩みを見抜いているのかもしれない。少なくとも、悩みの理由までは悟らずとも、そこに少女の苦しみを確実に認めているだろう。
 クレイグは恋人キャシーの希望で屋上に行ってしまった。大抵は二人も自分達と一緒に昼食を取ることが多いのに、今日ははっきりとした理由もなく去ってしまって、それは奇妙なことだった。ハラキリは何やら事情を見抜いているらしかったが、二人を見送りながら何も言わずにいた。ニトロは今ではキャシーの性質を捉えていたものの、さりとて事情は見えずにいた。ただ彼の中では、少し、手応えのない寂しさが増していた。
「ジェードさん」
 と、キノコのソテーをニトロのランチボックスから取りながら、クオリアがミーシャに話かけた。その瞳には大いなる好奇心があり、目元には臆病さがある。
「ジェードさんも『サマラの冒険』を知っているのね」
 購買弁当の美味しくて味気ない調整肉のハンバーグをかじっていたミーシャは、目を丸くしていた。クオリアから突然話しかけられた驚きが去った後、彼女はうなずいた。
「知ってるもなにも、わたしも大好きだったんだ。でもお肉もお魚も食えなくなったことは一度もなかったよ」
 自嘲というよりも話頭を探るような物言いだった。ニトロはその作品を知らない。おそらくは児童書かアニメであろう。ミーシャが付け足すように言う。
「カルテジアは、優しいんだな」
「どうかしら。自分じゃ自分を優しいなんて思ったことはないわ」
「……わたしも」
 ミーシャは今度こそ自嘲した。
 クオリアの瞳はいよいよ好奇に力づく。しかし目元の怯えがそれを言葉にするのを許さない。
 ニトロは、ふと不安に駆られた。もし二人がもう少し親しくなったら、クオリアの好奇心がミーシャをひどく傷つけることもあるかもしれない。口が走ればハラキリとも議論できるクオリアは、交友能力に自ら不安を漏らしていた彼女は、ミーシャの触れられたくない場所に勢いに駆られて容赦ない言葉を打ちつけてしまうかもしれない。
「優しいと自称する人は信頼しないことにしているの」
 クオリアが言った。
 ミーシャがはっと目を上げる。
 その目と目がぶつかって、クオリアは慌てて視線を外した。彼女はその態度を誤魔化すようにニトロのランチボックスを目で探り、またもキノコを取り上げる。
「これ、美味しいね」
「マジ?」
 クオリアはニトロに言ったのだが、ミーシャが応えた。ミーシャもキノコのソテーを食べてうなずく。うなずいて、それだけでは悪いと急に思ったのか、ニトロに自分の弁当を差し出した。


ランチ(後) - 楽遊 2015/10/22(Thu) 19:35 No.1058

「好きなの取れよ、お返しだ」
 ニトロはハラキリが無表情に笑っているのを感じながら、ミーシャからヤングコーンを分けてもらった。ダレイは静かにミルクを飲んでいる。
「ルンシェンのぬいぐるみ、今でも持ってるよ」
 やおら、ミーシャが言った。
「もうぼろぼろで、グジウみたいな色になってきてるけど」
「私は、ハッチーのキーホルダーを、持ってる。尻尾が折れちゃったけど」
「ああ、やっぱりルンシェンかハッチーだよな」
「グジウの魅力は、子どもの時には解らなかったからね」
「それじゃあ今はグジウ派?」
「ジェードさんは今もルンシェン?」
「実はハッチー派なんだ。周りがルンシェンばっかりだったから」
 ミーシャは眉を垂れる。クオリアは納得を見せ、
「一番人気あったもの。それなのにあの展開だから」
「わたしも泣いたよ」
「そう」
 クオリアは目を細める。
 その眼差しにミーシャは照れたように顔を背けてニトロのプチイチゴのコンポートに目をやる。
「……ミーシャでいいよ」
「……うん。私のこともクオリアで、いいわ。ダレイ達だけなのも変だし」
 二人は交互に大粒の真っ赤な真珠のようなコンポートをフォークに刺した。生では酸味の強すぎるが、加熱すると素晴らしい風味となるプチイチゴが二人の頬を赤らめる。それを見るニトロは、笑顔を得意気に噛み殺す。
「俺はルンシェンだったな」
 ふいにダレイが言った。
「ハラキリは知ってるか?」
「ええ」
「誰だった?」
「強いて言うならハッチーですかね」
「グジウじゃないのか?」
 と、意外そうにミーシャが言った。他の二人も同意見らしい。ハラキリは肩を軽くすくめ、
「グジウはひねてますから」
「ハラキリがそれを言うんだ」
 ミーシャがそう言うと、彼女も含めて三人が笑った。
「……おお、知らないのは俺だけか」
 予想外の展開にニトロが思わずつぶやくと、それに気づいてハラキリ以外の三人がまた意外そうに彼を見つめた。
「それは人生を損してるよ」
 ミーシャが言った。すると彼女が筆頭となってニトロへ『サマラの冒険』のいかに素晴らしいかの講義が始まった。幼児期の思い出も手伝ってそれはなかなか猛烈であり、しかも悪いことにそれは書籍であったから次第にクオリアが燃え上がり、最後にはニトロだけでなく全員が聴衆となっていた。
 ふと気がつけば、クオリアの眼前にはぽかんとした顔が二つあった。ニトロとミーシャが、二人揃って目を丸くしていた。その横でハラキリが興(おもしろ)そうにこの光景を眺めている。振り返るとダレイは笑顔だ。立ち上がっていたクオリアは、急に身を縮めておずおずと座った。
 ニトロは熱中したクオリアの迫力を既に知っていたためひたすら感心するだけだったが、ミーシャは違った。彼女はひたすら圧倒されていた。陸上競技にはその細い体からは全く想像もつかない力を引き出す超人がいるし、実際競技場で同世代の鋼のような才能に打ち負かされてきた彼女であったが、それでもこのひ弱に痩せ細ったクラスメイトの情熱には心を飲まれていた。我に返るなり小さくなってしまった――特に新しい女友達(わたし)の視線に縮こまってしまったクオリア・カルテジア。馴染みのない芸術の世界に呼吸する同級生。……ミーシャは、ため息をついた。それは感嘆に他ならなかった。
 二つの素直な気性に見つめられるクオリアは居心地が悪くてならない。かといってハラキリには心を見透かされそうで目をやれない。ダレイに向くにはあまりに二人から顔を背けることになるので都合が悪い。クオリアは逃げ場を求めて、食べかけだったライ麦の丸パンをかじった。不思議とひどく味気なく感じた。そこでプチイチゴのコンポートと一緒に食べてみた。不思議なほど美味しくなった。誰も何も言わない。ダレイは落ち着いて座っている。ペットボトルの茶を飲むハラキリには元より口を挟む気がないらしい。ニトロとミーシャは、むしろクオリアの発言を待っていた。
 やがて、クオリアは小さく吹き出すように笑った。
 居心地が悪いのに、四つの純朴な瞳が、このままでは変に癖になりそうだ。
「私ね、今なら平気で肉も魚も食べられると思うんだ」
 想定していなかった発言に、ニトロとミーシャが戸惑う。クオリアはハラキリを見た。
「殺生の忌避は、もっともらしい理由よね? ま、別に全くの嘘にはなってなかったと思うんだけど」
 ハラキリはうなずいた。彼に肯定されたことで勇気を得て、クオリアは躊躇いがちに内心の装甲を一時胸から外した。
「笑わないでね?」
 笑われたら、きっとうまくやっていけない。
「私は、その体験を、大事にしたかったの。そして今も大切にしているのよ」
 ニトロとミーシャは、笑った。しかしそれはクオリアの危惧した笑いではなかった。二人は微笑んでいた。彼女と物語を共有するミーシャは受容に共感を含ませて、物語を知らぬニトロは理解と納得を織り交ぜて。
 ――クオリアも笑った。
 そこにハラキリが口を挟んだ。
「そろそろお開きにしましょうか」
 彼の視線につられてニトロ達がそちらを見ると、時が昼休みの終わりを告げつつあった。
「やべ」
 ミーシャが弁当の残りを慌ててかきこむ。ニトロも残っていたおかずを平らげにかかった。次の時間は選択授業だ。皆、指定の教室に行かねばならない。
「残りはもらってもいい?」
 クオリアがプチイチゴのコンポートの容器を手にして言う。
「いいよ」
 と答えたのはミーシャだった。反射的な返答だったのだろう。しかしその許可を与えられる立場ではないとすぐに気づいて彼女は「ん」とうなった。
 それはおかしな「ん」だった。およそミーシャの喉から鳴り出るとは想像もつかない音であった。
「ッふ」
 最初に空気を吹き出したのは誰だったろう。だが、その直後には爆笑が美術室のありとあらゆる空間を占め、誰が一番に笑ったかなど全く判らなくなっていた。
 初めは笑う友人達に怒っていたミーシャもついには一緒になって笑い出し、そして、五人は揃ってそれぞれの授業に遅刻した。しかし遅刻したことはまた後の話題になり、クオリアがその日『サマラの冒険』を思い出しながら描いた絵は明るい色彩に輝いて、約束通り部活帰りに美術室に立ち寄ったミーシャを、心から感動させたのであった。




 ―終―


望遠の記憶 - 楽遊 2015/10/26(Mon) 18:54 No.1059

「主様。ヨカッタラ、聞イテモイイカナ」
 夜、旅を題材にした5分アニメを見ていたニトロは、芍薬の問いかけにゆっくりと応じた。
「何を?」
 壁掛けのテレビモニターでは飛行車の行き交う都市を背景に、クラシカルな馬車が草原を渡っている。幌を下げたシートには無口な少女が二人座っていた。エンディングの曲が、のどかに流れている。
「オ祖父様、オ祖母様ノコト」
「ああ、思い出話か。それなら別にそんなに改まらなくてもいいのに」
「ソレモ聞キタイケドネ、先ニ『家庭環境』ヲ聞キタイ。主様ノオリジナルAIトシテ、知ッテオキタインダ」
 ニトロは自分で淹れた、カフェインレスのカフェオレを一口飲んだ。
「それなら記録を見れば良くない?」
「書類ニハ記憶ガナイヨ。デモ話シ難イ事カモシレナイカラ、聞ケナクテモ、ソレデイイヨ」
 ニトロはもう一口カフェオレを飲んだ。アニメの始まる前から飲んでいたものだ。もう温い。ほとんど台詞もなく、登場人物は引き立て役にすぎず、旅情という形のないものをアニメーションにするその番組は次回予告もなく終わった。
「消して」
 スピーカーから流れ出した陽気な音楽が、画面に表れたスポーツコーナーの題字と共に消える。モニターはそのまま壁の色と同化して、部屋には夜の静けさが満ちていく。
「もう悲しみは覚えてない。悲しみを味わっていたかもはっきりしない」
 ニトロは言った。自分の年齢で父方母方双方の祖父母が亡くなっているのは、医療の発達した現在においては比較的珍しい。
「みんな小学校の頃にはいなくなっていたからね。思い返せば寂しさはあるけど、話せないことじゃないよ」
 テレビモニターに芍薬の肖像(シェイプ)が現れる。芍薬は背筋を伸ばして正座していた。
「えーっと、てことは、両祖父母についての情報を俺の知る範囲で話せばそれでいいのかな?」
「御意。モチロン思イ出話ガ混ジッテモ構ワナイシ、ムシロ大歓迎サ」
「了解」
 ニトロはカフェオレを飲み干し、もう一杯作り出した。材料それぞれの分量と手順を芍薬はじっと観察する。
「父方のバアちゃんは、俺の生まれる前にもう亡くなってた。病弱な人だったらしい。元々体質的なものもあったみたいだけど、それはちゃんと治療されていて、なのに病弱であり続けた原因は心理的なものだったらしい。どういう形のものだったのかは判らないけど、ジイちゃんが『バアちゃんは意志が強すぎた』って言ってたのは印象的だったな……その意味は、実は俺には今もまだよく理解できていないんだけどね。それで、ジイちゃんとバアちゃんは晩婚で、父さんが生まれるのも遅かった。バアちゃんはありったけの愛情を父さんに注いで、父さんが高校生の時に亡くなった。そういう年齢でもないのに、ほとんど老衰に近かったそうだよ」
 ニトロは温かなカフェオレを飲み、
「ジイちゃんが亡くなったのは俺が小学校に入った時だったかな。ジイちゃんは自然に老衰だった……ああ、ジイちゃんとバアちゃんは30くらい離れてたかな。先に亡くなったのが年下のバアちゃんだったから、ジイちゃんは墓参りの毎になんでかなあってぼやいてた」
 芍薬は時折うなずきながら聞いている。
「ジイちゃんは、俺のことを『手土産』だってよく言ってたよ。バアちゃんはあんなに父さんを可愛がってたから、おまえのことも喜んでいるぞ。ほら、そのおいしそうな丸いほっぺを私に触らせてくれ。バアちゃんにどんなに可愛かったか伝えなきゃなあ――小学低学年くらいまで、俺はちょっところころしていてね」
 彼は頬を緩める。芍薬は写真を見てその頃のマスターの姿を知っている。が、ただの記録として固着している過去のマスターのその姿は、芍薬にとって言わば断崖の向こうに見える彫像に過ぎない。それが今、芍薬は現在のマスターに写真の中の小さなマスターから続く体温を認めた。すると固まって動かない過去の記録(データ)が、わずかに脈打って芍薬には感じられた。
「母方の祖父母は早くに結婚したけれど、母さんが産まれたのは遅かった。二人とも医者で、ずっと仕事に打ち込んでいたそうだし、その頃は結婚してはいたけど夫婦というより尊敬し合う同業のパートナーって感じだったらしいよ。それと、もしかしたら二人は子どもを作る気はなかったのかもしれない」
「何故ダイ?」
「母さんが産まれたのは、二人が50近くになってからなんだ」
「別ニ、今時珍シクハナインジャナイカナ」
「自然妊娠なら珍しくなるだろ?」
「御意」
「二人はね、その頃には生き方を変えていたんだ」
「ドウイウコトダイ?」
「その頃、二人は都会から山村に移って、医者もやめていた。――正確には簡単な診療や医療の相談に乗っていたりはしたんだけどね、大病院でばりばり働くのは止めていた。何かあったことは間違いないと思うよ。でも理由は解らない、母さんも聞いたことがないそうだけど、実際に二人は『最前線』から退いて、それどころか積極的に身から斥けたんだ。そして自然に……自然的にかな? そうやって生きることを求めた」
 芍薬は目をわずかに丸くした。
「だけど二人は自分達の生き方を自分達だけに適用していた。母さんは二人が誰かにそういう生き方を勧めるのを聞いたことはないし、若い人が村を出ようという時には親密に相談に乗ったし、近所のお婆さんが死にかけた時には最新の携帯型生命維持装置を自ら操作して助けもしていたって話だ。何より祖父母は母さんに何も強制しなかった。けれど、自分達に関してはあくまで頑なだった」
 ニトロはカフェオレを飲む。そして芍薬の顔に納得の気配を感じて、うなずく。
「母さんの名前はね、移り住んだ地方の民話の『山神様から授かった子』から取られているんだ。ちなみにその山村のある領の領都が、父さんの生まれ故郷。それが大学で二人の話の種になったんだよ」
 芍薬は今度ははっきり目を丸くした。その縁に感心したようにうなずき、少し間を置いてから訊ねる
「ソレデ、ドンナ人達ダッタンダイ?」
「祖父母が俺から見て?」
「御意」
「学者然としてお喋りで、母さんから見ても風変わりな人達だったらしいけど残念ながら覚えてない。二人ともはっきりと物心がつく前に――祖母が癌で先に亡くなって、祖父はその半年後に亡くなった。領で癌で亡くなった人は何十年ぶりとかいう話だったかな、そんなことを葬式の時に聞いた気がするような、後から聞いたんだったかな」
 曖昧につぶやいていたニトロは、ふとそこで天を見た。
「ああ、でも、祖父の訃報に母さんが取り乱していたことはよく覚えてる。祖父は凍死だった。庭先の祖母の大好きな花木の下で半分雪に埋もれているところを見つかったんだ。祖母が生きている間は二人で村の社交場によく出てきていたのに、死後は引きこもりがちだったから自殺かとも思われたらしい。だけど調べてみると凍死する前に脳出血を起こしていたことが判った。直接の死因は凍死でも、だからそれが本当の死因かな」
 ニトロは遠くを見つめて息をつく。段々記憶を鮮明にして、
「母さんは、祖父の死に顔を見て微笑んだよ。祖父の死に顔は本当に穏やかで――脳出血を起こしたはずなのに痛みの痕跡は少しもなくて、むしろとても幸せそうだった。そういえば誰かが言っていたな、きっと悲しみに暮れる祖父を哀れんで神様が奥さんを迎えに遣わしてくれたんだろうって」
 芍薬は深く感じ入っていた。マスターの明るく朗らかで天然ボケの入ったご両親からは、そのような悲しみを経験してきたことは微塵も感じ取れない。この話題に触れたのは一緒に暮らし始めたマスターの感覚にこそ触れるためであったが、考えてみれば当たり前のことながら、マスターのみならずポルカト家の息吹を感じて芍薬は心を震わせていた。
 そして、その一方で芍薬には非常に気にかかることがあった。
「主様ハ、ドウ思ウ?」
「ん?」
「死後ノ世ハアルト思ウカイ?」
 ニトロはすぐには答えなかった。その質問を投げかけてきたオリジナルAIを不思議そうに見つめて、一度目を落とし、また芍薬を見る。芍薬はニトロを真っ直ぐに見つめている。
「わからない」
 彼は言った。
「わかるとも思えない。あると信じきることもできない。けれど、ジイちゃんが孫を見ることのなかったバアちゃんに孫の話を手土産にできて、祖母が悲しみと脳出血の苦しみから祖父を助けることができたなら……他にも例えば恩人にお礼を言う前に死なれた人とか、心配をかけ続けた大切な人の死後に安定を得た人が、お礼を、報告を、どうしても伝えたかったことを恩人や大切な人に届けることができるできるのなら、死後の世界はあって欲しいなと思う」
「……ソウカイ」
 芍薬は、うなずいた。今はそれで十分だ。
 するとニトロがふいに笑った。
「ドウシタンダイ?」
「ちょっと思い出した。8歳の時、高熱を出したことがあるんだよ。そうしたら母さんも父さんも体温計の数字に慌てふためいてさ」
 彼はカフェオレを飲む。先を聞きたい芍薬が焦れてポニーテールを揺らす。
「ちょうどその時、ミリュウ様が高熱を出したってニュースになってたんだ。王妃様とティディアが――」
 と、そこで彼は口を止めた。隔世の感がその面に現れる。無理もない。彼は、気を取り直して続けた。
「妹様を看病しているってことを聞いていた父さんと母さんは、それを思い出してこう思ったらしい。同じ病気の同い年の姫様が看病されている、ニュースは主治医がどうとかも言っていた、それはスーパー一流のお医者様に決まってる、そこにはどんな事態にも対処できる最新の医療機器もあるに違いない、そこはつまり病院だ!」
「ナンデダイ」
「そう、まさに『何でだ!』だけどね、車に乗せられた俺はそんなことには気づいてなかった。ぼうっとした頭でやけに遠いなあと思っていた。いや、遠いとも近いとも判ってなかったかな、ただ窓の外に光が流れてたことを覚えてる。父さんが車を運転していて、抱き締めてくれている母さんの腕は俺より熱く感じられて、それから、気がついたら父さんにおぶられていた。父さんが必死に走っているのが感じられた。母さんの励ましの声が遠くから聞こえるようだった。そしてとうとう二人がどこに来たのかを知って、さらに呆然としたんだ」
 彼は苦笑する。
「さすがに門番さんもびっくりしてたなあ。病気の子どもを連れてきた夫婦、城門を守る兵士、両者は絶望的に話が噛み合わない。噛み合わない中で門番さんは俺を心配する。両親はそのせいでさらに心配になる、パニックが増す。病院に連れていくように促す門番さんと病院に連れてきたつもりの両親でさらに話が噛み合わなくなってメチャクチャだ。門番さんは、たった一言必要なことを言ってくれれば良かった。だけどテロリスト相手の方が楽に対処できたのかもね、あんまり頓珍漢なボケに晒されて大困惑してそれを期待できない。だから俺はやっとのことでツッコンだんだ『ここはお城だ!』『あ、そうだった!』」
 芍薬はくすくすと笑う。
「門番さんは唖然としながらも親切に一番近い病院を教えてくれたよ。大学病院だったかな。夜間診療をしている所は家の近くにもあったのに、無駄に距離を運ばれて無駄に設備の整ったところで治療を受けたんだからアホらしい。帰ってみるとメルトンはたじろいでたなあ、後から聞いたら父さん母さんの行動が理解できずに混乱してたらしい。その頃は、あいつも可愛いげがあったよ」
 芍薬は笑顔の奥にジェラシーを揺らめかせた。しかし思い出に浸るニトロは気づかない。彼はカフェオレを飲み、
「その後、母さんはハーブに凝り出して、父さんは献立を健康の視点から見直してね」
「ソレデコロコロジャナクナッタノカイ」
 ニトロは懐かしげにうなずき、
「さて、そろそろ寝るよ。他の話はまた今度」
「御意」
 カフェオレを飲み干したニトロの側にマルチクリーナーが走り寄る。空のカップをロボットハンドに受け取って、それをキッチンに運びながら芍薬は言った。
「今度カラ、カフェオレハあたしガ作ルヨ」
 トイレに向かいかけていたニトロがモニターへ振り返る。芍薬は、微笑んでいた。
「うん、よろしく頼むよ」


天空茶会@ - 楽遊 2015/10/30(Fri) 19:05 No.1060

 ニトロは困惑していた。
 イベント出演のための移動中、用意された中型飛行機に乗り込むと、そこはまるで瀟洒な館のティールームであった。――それは良い。タラップ昇るとラブホテルだった、なんて事態に比べれば快適至極だ。スケジュールの都合上1800kmの空を『敵』と同道せねばならない状況で、正直言うと拍子抜けした感さえある。
 しかしニトロを困惑させたのは、そこに一人の貴婦人がいたためだった。新しいパターンである。彼は内心身構えたが、その貴婦人は淑やかに辞儀をした。優雅で、洗練されていた。落ち着いた色彩のドレスはフォーマルとまではいかなくとも王女を迎えるに失礼のないデザインで、しかも当人の顔立ちをよく引き立たせている。首にはアデムメデス国教会の象徴(イコン)が下げられていた。
「今日のこの日を、お待ちしておりました」
 そう言って彼女は顔を上げた。その華美な顔立ちは娘時代を遠く過ぎた現在でも若々しい。そしてその若さ溢れる美貌は本人の強く自覚するところであるらしく、その自意識は高慢な光となって額の奥から漏れ出している。
 ニトロは、この淑女に見覚えがあった。
「ご機嫌いかが? ヘイレン・ユウィエン・ラドーナ」
「姫様のご尊顔を拝した今、この胸に例え万の苦みがあろうと晴れやかな心地にならぬことがありえましょうか」
 ティディアは小さく笑った。
「そんな言葉が出てくるくらいには元気みたいね」
 ニトロは貴婦人の正体を思い出していた。彼女の父である侯爵は小さな町の名士に過ぎないが、兄が学識と高潔さで知られる大司教であり、彼女自身も慈善に励む篤志家だ。一方でエクストリームスポーツを愛し、王都で行われるパーティーには頻繁に姿を見せ、メディア受けする容姿と物言いからよくカメラの前に立っている。齢は既に五十を超えているが、本人の弁によると若化療術(リプロ)に寄らず美貌を保っているそうで、それ故に少なからぬ信奉者も持つ貴婦人であった。
「お初にお目にかかります、ニトロ・ポルカト様。こうしてお茶をご一緒させて頂きますこと、大変光栄でございますわ」
 ニトロは仰天した。あまりに慇懃に挨拶されて動揺してしまうが、これもバカ姫の何か良からぬ企てに違いない――例えこれが“メイン”でなくとも何らかの“イベント”に関係しているに違いないという猜疑と警戒心によって彼は平静を取り戻し、ラドーナ婦人へ自分なりに礼節を尽くす。それは王女と時間を共にするうちに何度となく見た挨拶の見よう見まねであり、本式に上流社交界で薫陶されたわけではないことが明白であるものの、少年が懸命に紡いだ言葉は幾らか不細工ながらもそれだけに誠実であった。
 ラドーナは『ニトロ・ポルカト』の挨拶を気立て良く受け止めた。貴婦人の半ば感嘆を込めた笑顔にニトロは安堵しつつ、一方で彼女の目つきに奇妙な違和を感じた。それは世間には認められずとも、明に暗にティディアと戦い続けているために明敏となった彼の神経が感じ取った“何か”であった。しかし“何か”以上には解らない。婦人は最後に王女の執事へ言葉を与えている。彼は婦人の横顔からティディアに視線を移した。王女は微笑している。それが彼をまた警戒させた。婦人は彼の警戒心には全く気づいた様子はない。少年の客人を――己の客ではないにせよ――不愉快にさせまいとする生来の人の好さが、その“敵意”を覆い隠していた。
 三人が席に着くと、飛行機は離陸した。機体が安定したところでヴィタがティーセットを携えてきた。
 ニトロは、困惑していた!
 眼前で繰り広げられる王女と貴婦人の会話は、有り体に言って違う世界の住人達の会話であった。二人はニトロの馴染むアデムメデス語を用い、かつ平易で一般的な単語を操っているのにも関わらず、しかしそこに込められるニュアンス、あるいは価値観までもがどこか違う。彼には、上流社会のご婦人方が彼にも理解できているはずの話題の中で一体何によって笑っているのか理解できないことがままあった。ティディア――バカ姫と呼び慣れた第一王位継承者が、こんな時には遠い存在に思える。できればそのまま遠い所に居続けてほしいものだが、彼が少しでもそう思おうものなら、彼女はまるで心を読んだかのように身近な話題をこちらへ振ってくる。彼が内心戦慄しながらそれに応えると、今度はラドーナが何か再発見した世界を覗き込むかのような目つきで話を合わせてくる。話はそこからまた社交界の内枠に吸い上げられてゆき、少年はまた尾根を見上げる傍観者となる。そして時折、その尾根に転落の危険のある箇所を認めるのだ。その時彼の心は、穏やかで、所作も口ぶりも優雅な王女と貴婦人の会話に、酷く剣呑な不安定さを感じて底冷えしてしまう。婦人は王女に対しても“何か”を抱いているようであった。
 ニトロは思う。
 一体、何のために俺はここにいるんだろう?――そして、
(何のために、いさせられているんだろうな)
 まさか上流社交界の話し方を見聞させるためか。いずれ俺を放り込もうという世界へ慣らさせるための一環なのだろうか。
 あり得ることだ。
 二人の女の会話の調子はロマン主義のクラシック音楽に似ている。慈善事業について語る際には高邁な精神が潤沢に溢れ、それにはニトロも素直に感心させられるものの、しかし次の瞬間には溢れ出ていた清水が調子も色合いも全く変えずに某資産家が某伯爵の娘に贈ったネックレスの話題へと流れ込む。その贈り物は断片的な情報だけでも非常な価値を推測させるものであったが、王女と貴婦人のその愛の品への総評は、めたくそであった。特に嘲笑を浮かべることもなく、特に攻撃的な単語を使っているわけでもないのに、とにかく辛辣。口調に気品があるだけに余計に嫌味極まりない。もしその資産家がこれを聞けば恥辱に赤くなり、同時に貶められた己の品性を自ら疑い蒼白となるだろう。娘は娘で己の名誉を取り戻すために自らネックレスを投げ捨てるはずだ。しかも全ては空々しく語られていて、ニトロがいつ罠が現れるかと極限の集中力で観察していたところ、どうやらその空々しさこそは洗練と上品さの証明であるらしい。少なくとも婦人の態度にはその匂いが芯から染み付いていた。ティディアは――解らない。ただ、とても自然に馴染んでいる。
 ニトロは側に控えるヴィタを一瞥した。執事は会話には無関心といった様子で涼やかに立つのみだ。彼はいよいよ困惑する他なかった。折角の紅茶も、スコーンも、誰かが王女のためにと精魂込めて作ったジャムも――味気ない。こんなにも薄っぺらい味がするものだったろうか。彼女らの会話にツッコミ所はある。無数にある。しかしツッコんだところで笑えない。笑えないどころか、そのツッコミまでもが恋にときめく男女への侮蔑に転じてしまうことだろう。この場面に似合うのは安全地帯から殴り付ける類の冷笑に違いない。……そう思っていると、ふいに話頭がこちらに向けられた。ラドーナが言う。
「ポルカト様は、ティディア様へきっと素晴らしい贈り物をなさるのでしょうね」
 その問いかけには、明らかに婚約なり結婚なりの指輪のことが含められていた。しかしこの会話の流れでその問いをかけるのは一種の皮肉にも思えるし、実際、答える側には危険であった。ニトロは笑った。そこに嘲笑が浮かばなかったことを我ながら感心しつつ、彼は言った。
「ティディアに似合うものなど、ありません」
 それはニトロなりの冷笑であり、またそんなものを贈るつもりはないという含意があった。今観察した限りの上流の流儀で測ってみれば、そのニュアンスはラドーナに容易に伝わったはずである。
 しかし婦人はそれを少年の恋人への“驚異の賞賛”と受け止め、王女へ惜しみない感嘆と賛辞を送ってしまった。ニトロは失望しかけ、と、ふいに婦人のその表情の裏に“何か”があるとまたも感じた。そしてまたも、それを掴みきれなかった。
 大きく事態が変化したのは、ニトロを困惑の渦中に弄ぶ茶会が一時間も進んだ頃のこと。
 突然だった。
「さあ、そろそろ時間でございますね」
 ラドーナがそう言いながら、いささかの躊躇いもなく立ち上がった。刹那、ニトロは身構えた。しかしティディアには何の動きもなく、婦人もまるでニトロの存在を忘れたかのように王女を見つめていた。
「……?」
 ニトロの警戒心がもう何度目かの困惑に変わる。彼が傍観する中、ティディアが言った。
「やめてもいいのよ?」
 するとラドーナの頬が赤らんだ。ニトロは、少なからず驚いた。婦人は明らかに何かを勝ち誇っていた。――それも、この『ティディア』に対して! そこで振り返ると、王女は婦人へからかうように微笑んでいた。
 ニトロはぎょっとした。
 ティディアの瞳の色を認めて、ニトロは思わず動揺してしまった。そして彼は疑念を得た。ラドーナ婦人は何故この瞳を前にそんな表情ができるのだろうか。もしや婦人は王女のからかうような……同時に何かを取りなすような微笑に囚われて、この王女の本質に気づいていないのではないか。彼が振り返った時、婦人が高らかに言った。
「寛大なるお心を感謝いたします、ティディア様、しかしお止めになりますな」 その時、ニトロは婦人の中の“何か”の一端を理解した。それは敵意にも勝る優越感であった。
「私(わたくし)はけして卑しい心からでなく、私の純粋な意志と誇りを以てこれを実行するのです。そして実行することによって、偉大なる姫君に我が魂をご覧に入れるのです」
 ラドーナはそう言ってくるりと背を向けると、何歩か力強くテーブルから離れ、そこでまた振り返った。その時、未だ婦人の頬は赤らんでいた。その目は彼女の曰く魂を反映して輝き、その身にはそびえ立つ自尊心があった。――が、次の瞬間、その頬の色が褪せた。目の光は薄れ、自尊心は揺らいだ。距離を置いたことでやっと気がついたのだ、姫君の微笑を飾るその宝石に、それが示すものに! それに気づいた婦人は、しかし持ちこたえた。そして彼女はここで思い出したようにニトロを一瞥した。その視線の動きはあからさまであり、彼女を眺めるティディアもそれに容易に気づいただろう。
「それでは」
 心持ち顎を上向け、半ば傲慢な、あるいはこの恐ろしい『クレイジー・プリンセス』を侮蔑するかのごとき挑戦的な顔つきで婦人はネックレスを外し、腕を背に回した。それから身じろぎをしたと思うと、彼女のドレスの襟が大きく開き、そのまま両肩を露にして滑り落ちていった。
 婦人は下に何も着けていなかった。脱ぎ落とされたドレスの上に、一糸纏わぬ裸体が堂々と晒されていた。年齢を感じさせぬ若い輝きが肌を着飾らせていた。
「!?」
 驚いたのはニトロである。喉の奥で驚愕の声が鳴る。反射的に目をそらそうとするが、その瞬間、ヴィタの動きが視界の端にちらついた。それが彼に貴婦人の裸を目にする羞恥を忘れさせた。いや、羞恥だけでなく、彼は女性の裸を凝視する無礼をも忘れた。いつだって異状の中心であるティディアへの不信と警戒心が一気に彼を支配し、それは恐ろしく冷静な観察眼となって彼の表面に現れ出た。
 それを見て激しく動揺した者がいた。他でもない、ラドーナである。彼女は己の女としての魅力に多大なる信頼を置いていた。五十を超えても何の外科的施術もなく――そう、同年輩の“淑女”達が競って追い払おうとしている老いを、彼女らとは違ってその醜い争いに混じることなく超然としてこの神から賜った身の一つで打ち負かしている己の美を、彼女は高慢に誇っていた。女相手だけではない。豊満な乳房、淫欲を誘う腰つき、それらが眼前に暴露されて平気でいられる男はいないのだ。実際、一人たりとていなかったのだ。
 しかし!
 ラドーナは少年の眼差しに震えていた。そこに性の表れはない。性に対して最も過敏な時期にあるはずの少年の眼には、ただ目に入るもの全てに配られる平等な感情しかない。ニトロ・ポルカトは、“王女の恋人”は、我が肉体などに情を煽られることはなく、また我が裸体などに興味も示さず、何より最大の関心を常に“ティディア”から離さない……離せない!


天空茶会A - 楽遊 2015/10/30(Fri) 19:07 No.1061

 一方、ラドーナの心に壊滅的な激動を引き起こしていることなど露知らず、ニトロは保身のために心を砕いていた。表向きは――敵に先手を取られないよう――落ち着き払い、しかし意識は特に最大の敵に向けながら注意を突然裸になった“協力者”と、手に何かを携えているヴィタへ振り分ける。その内に、彼はヴィタの手にあるものが何かを悟った。パラシュートバッグだった。それを悟ると同時にラドーナがエクストリームスポーツ好きで、その中にスカイダイビングもあることを思い出した彼は急激に婦人と執事への注意を薄めた(それが婦人にまた悲惨な一撃を加えた)。パラシュートバックは一つだけ。ティディアは事も無げに婦人を眺めるだけで椅子を立つ気配もない。いよいよ彼の疑念は深まる。それに比例して全裸で立ちすくむ女の自尊心はいよいよ虚飾へと変わっていく。虚飾はそれに気づかぬ内にはまだメッキなりの価値を示せるが、それを自覚したが最後、二度と光り輝くことはない。少年がふと王女の執事をまるで己の召し使いのごとく働かせてパラシュートバッグを装着している婦人へ注意を差し向けると、彼女は急に老け込んだようであった。ニトロは驚いた。その驚きに婦人はふと激しい羞恥を覚えたようで、少年をキッと睨み付けた。少年はひたすら困惑するしかない。婦人の目には恨みすらあった。それにも困惑し、お人好しの少年は訳も解らず傷つく。だが婦人は恨みよりも強い感情をふいに目に宿したかと思うと、それを王女に差し向けた。
 ティディアは、一貫してラドーナを眺め続けていた。
 その瞳にはおよそ人間らしい感情がなかった。もしや路傍の石を見る時の方がよほど人情に満ちているかもしれない。透徹した瞳、超然とした目だった。ラドーナが見せた勝ち誇る心など全く届かぬ場所にいる、もはや勝負などできるはずもない全てを超越した眼であった。石が路傍をいくら転がろうとも太陽には何の影響もあるはずがない。石が己を太陽だと思い込み、太陽と輝きを競おうと挑んだところで滑稽劇にすらなるまい。石が石として太陽に勝る方法を忘れた物語など苦い悲哀劇にしかなるまい! そして悲哀は、誰かの哀れみを引き起こすことなどは……誰よりも自分自身が我が身を哀れむことなどは、ラドーナには耐えられるものではなかった。
 パラシュートバッグを背負った貴婦人は、今や、みすぼらしく萎んでいた。
「ご機嫌よう、ユウィエン・ラドーナ」
 ティディアのその声は朗らかであった。
 その声が一体誰に向けられたものであるのか、一瞬ラドーナには解らないようであった。
 しかしそれが自分、他ならぬ自分自身に向けられたのだと悟った時、少し前には王女への憎悪を燃え上がらせていた婦人の目に現れたのは――どうしてだろう――僅かにも慈悲(ひかり)を得た歓喜であった。
 ニトロは、初めて感じるこの感情をどう表現したらいいのか解らずにいた。彼は今、婦人のその歓喜を以て、そこに完全なる敗北者を認めたのだ。
 と、思ったのも束の間。
「わ!」
 ニトロは驚愕した。そして戦慄した。腰に勝手にベルトが巻き付いてきて、体が椅子に固定されてしまったのである。彼は失態を犯したと思った。しかし眼前の茶器の並ぶテーブルにドーム型の覆いがかかっていく段になると、これは別の事態が進行していると察した。
 ラドーナはヴィタの手を借りて、躊躇いつつも後部に向かっている。それも、乗降口へ。その乗降口から少し離れた所でヴィタは足を止めると、隠された装置を探り、壁の中からベルトを引き出した。全裸でパラシュートバッグを装着した――頭のおかしい光景だとニトロは頭の片隅に思う――婦人がそこに固定される。彼女の手には光るものがあった。それは先刻まで彼女の首にかけられていた象徴(イコン)であった。婦人の安全を確認し終えた執事もすぐに別のベルトで自身を固定する。と同時、後部ドアが開き出した。
「うわあ!?」
 ニトロの悲鳴は誰かの耳に入っただろうか? 轟音と共に風が吹き荒れた。機内に閉じ込められていた空気が、ふいに開かれた穴から自由の空へと喜び勇んで脱出していく。彼は耳を押さえた。急激な気圧の変化に体がついていかない。椅子やテーブルは磁力か何かで固定されているらしく、でなければ彼はクラシカルな椅子と共に寒空へパラシュート無しスカイダイビングと洒落込むはめになっていただろう。暴れ狂う風の中、三人の女性の髪は等しく一点に向けて激しく流れている。だが乱れ舞う髪の間から覗く顔は三者三様であった。一つは涼しげで、一つは喪失で、一つは、何事もない。
 やがて風が落ち着き、しかし開かれたドアから流れ込んでくる大きな音は止まず、恐ろしく気温も低下した中、ヴィタに促されて震えるラドーナはよろよろと乗降口へ向かっていった。今日は良い天気であった。その時、どうにか耳の痛みから解放されたニトロは青空へ向かう婦人を見て我に返った。
 婦人の足取りに力はない。意思もない。彼女はもはや最前の意志の残滓によって機械的に動いているだけなのであろう。
「おい! 止めなくていいのか!?」
 この事態が何によって、また何のために起こっているのか理解できないまでも、ニトロは風音に負けじとティディアに叫んだ。
「止めてやれ!」
 事態について理解していなくとも、ニトロは本能的にティディアしかラドーナを止められないことを悟っていた。ヴィタに頼んでも、ましてや婦人本人に懇願したとしてもそれは止まらない。ただ眺めることで全ての進行を支配している魔女をこそ説得せねば何も止められない!
 されど、ティディアは、眺め続けていた。
 ニトロは視線を感じた。
 振り向くとラドーナがこちらを見ていた。彼女は青くぽっかりと開いた穴の縁に手を掛けて、ティディアではなく、ニトロ・ポルカトを見つめていた。奇妙な顔つきだった。始めに疑惑があり、次に発見と驚愕が襲いかかり、最後にまた羞恥が表れる。その恥は肉体的なものではなく、もっと精神的なもので、その両目は淡く潤んでいた。
 少年がさらに何かを言おうとした瞬間、まるでそれを聞いては身が張り裂けると言わんばかりにラドーナは飛び出した。大空へとその裸体を捧げるように。彼女は、瞬きをする間に消えた。去ってしまった。
 ドアが閉まり、気圧がゆっくりと調整され、室温も快適に、瀟洒な館のティールームといった体の機内に安定が戻るまで誰も何も言わなかった。
 やっと言葉が発せられたのはヴィタが使用済みの茶器を下げ、新たに茶を淹れた時、
「ありがとう」
 とティディアが執事に言った時である。先刻の王女は茶を淹れた執事に礼を言うことはなく、ラドーナも無論言わず、ニトロだけが言っていた。今度は彼が何も言わなかった。
 合図も同意もなく、茶会が再開される。
 ラドーナにはヴィタが代わった。
 ニトロは沈黙を守っていた。その顔には様々な感情が表れていたが、その最大たるものは、やはり困惑だった。
 色も香りも先とは変わった紅茶を一口飲んで、ティディアが言った。
「怒らないのね」
 ニトロは紅茶の横に並ぶ小さなカップケーキからティディアへ目を移した。彼女は微笑んでいた。その瞳は、地上に降りていた。
 事の成り行きを顧み、そこに顕れた要素を解剖していたニトロは無言のまま目を鋭くした。その底には怒気も光るが、表には出さない。ティディアの微笑に慈しみが射す。
「怒らないのね?」
「……お前が俺を怒らせたいんだとしたら、それは罠なんだろうさ」
 ティディアは唇を緩ませた。ニトロはそこでやっと紅茶を口に含んだ。美味しいと感じて、乾いていた唇が、歪んだ。
「結局、何だったんだ?」
「ギャンブル」
「つまり、賭けられていたのが全裸でスカイダイビングだったと? それが出来るかどうかと」
「出来るかどうかっていうのは外れ。賭けの対象に関しては半分正解」
「もう半分は?」
「借金」
「借金?」
「ちょっと前にアドルル共和星(きょうわこく)で暴落があったでしょ?」
「覚えてる。こっちでもちょっと騒ぎになってたし、お前も何か王様に進言してたみたいだな」
 ティディアは誇らしげにうなずき、
「さて、彼女はギャンブル狂なのよ」
 話題が急に戻った。虚を突かれたニトロは二重の驚きに目を丸くしたが、その婦人の性癖と株の暴落とが無関係ではないと理解して耳を傾けた。
「彼女は国のお得意様でね、しかも非合法な世界でも上客だった。方々に借金があって、大好きなパーティーを渡り歩くためにも負債を増やしていて、そのため若々しくお綺麗だと評判の貴婦人の内情は実は常に火の車。それでも定期的に投機で当て続けてきたから、彼女はこれまで破綻は避けてこられた」
「だけど、今度の暴落で致命傷を負った?」
「平均的に十回くらいは死ねる傷かもね」
 ということは、ティディアはその正確な数字を知っているのだろう。
「……それで?」
「そのニュースが流れた時、彼女は国と王家に絶賛奉仕中だった。一報を受けた時のあの顔は見物だったわー」
 ティディアは身を震わせる。ヴィタはうっとりと思い出を反芻している。ニトロは、ため息をつく。
「てことはお前も同じカジノにいたと」
「ええ」
「まさか、狙って?」
「あの暴落がその日その時起こるなんていくら私でも予見していないわよぅ。ましてやその瞬間、彼女がロイヤル・カジノにいて、ポーカーでボロ負けしているなんて、そこに居合わせただけで奇跡だわー」
「……まあ、いいや」
 カップケーキを一つ食べ、気分を落ち着かせる。
「でも、破産すりゃそりゃ絶望するだろう」
 それは間合いを整えるための何気ない一言だったが、
「一時的にはね。だけど本当に絶望するとしたら、それは後のこと」
「?」
「彼女は破産程度で絶望するタマじゃないわ。一時的には絶望のどん底で真っ青になっても、三日も経てばまた明日から当ててやるさと鼻で笑い出す」
「……それで?」
「だけど、今回ばかりは限度を超えていた。彼女の“ツキ”は失われた。いつか彼女は気づいたことでしょうね。自分のこれまでの生命線は己の博才によるものではなく、ただ運が良かっただけだと。運の良さももちろん博才の一つではあるけれど、それは努力や何かで取り返せるものではない。その時初めて彼女は絶望は底無しだと気づくのよ、そして絶望し、絶望することによって絶望する」
「なんか……変に教義問答みたいな言い方だな」
「まあ、時日を待たずに彼女はさっき別角度からやってきた絶望にやられたみたいだけどね」
 ニトロはぐっと息を詰めた。彼の眼光が鋭くなるのを上目遣いに見、ティディアは語る。
「そこで一時的な絶望にうちひしがれていた彼女に私はこう持ちかけた。勝負しましょう、もし貴女が勝ったら借金を肩代わりしてあげる」
 ニトロは紅茶を吹きそうになった。それがティディア個人にどれほどの負担になるかは解らない。しかし負担の度合いがどうあれ軽々しく賭けられる金額ではないはずだ。
「彼女は言った。顔どころか魂まで輝かせて、なのに苦々しく」
「しかし私には賭けられるものがありません」
 言ったのはヴィタだ。そこにティディアが応じる。
「別に何でもいいわ。そうね、その髪の毛一本でも」
「ッもし負けましたら」
 ヴィタは屈辱に抗するように言った。
「全裸で空から舞い降りてご覧にいれましょう。それでご満足頂けなければ、髪の一本と仰られず、この身をどうにでもご自由にお取り扱い下さいませ」
「面白い、それで受けましょう……アドルルでは暴落のことを俗にスカイダイビングって言うから、そこから連想でもしたんでしょうね」
 ティディアは紅茶で唇を湿らせた。ヴィタはカップケーキを食べる。
 ニトロは、ふいに、飛び降りようとする婦人を止めようとした自分にひどく偽善的なものを感じた。急にどうしてそんなことを感じたのか判らぬまま、それを吐息に混ぜて薄めるように彼は言った。


天空茶会B - 楽遊 2015/10/30(Fri) 19:08 No.1062

「あっちが言い出したことだったのか」
「私がそれを誰かに提案するくらいなら、ニトロの前にそうやって降臨しているわよ」
「そしたら撃墜してやる」
「それも一興ねー。
 で、それでポーカー一発勝負」
「よくやるもんだなあ。負けたらとは考えなかったのか?」
「愚問」
「愚問承知」
「ふふ。――でもね、さっきもちょっと触れたけど、彼女はギャンブル狂だけどギャンブラーじゃない。負けを取り戻そうと躍起になってる相手を捻るのは簡単なものよ」
 ニトロからすれば、だとしても普通は金額の重さがそれを“簡単”にしないと思うのだが。
 ティディアはカップケーキをつまみ上げるとひとかじりし、
「負けた彼女は、今度は絶望しなかった」
「……開き直ったのかな」 ティディアは首を振った。カップケーキの残りを食べると先程までの上品さはどこへやら、ぺろりと指を舐めながら言う。
「希望があったからよ」
「希望?」
「表向き慈善事業に熱心な貴婦人――ギャンブルに狂いながらもその人物像を巧みに維持してきた彼女のような人間が、全裸でスカイダイビングなんてことをすれば身の破滅。それをキッカケにどうしてそうなったのかと探られて、彼女の意外な素顔も暴露されてしまう」
「ゴシップが潤うな」
「だけどそれをしてもなお彼女には利益を得る計算があった」
「……」
「思い当たることが?」
「……ある種の恥は、あるいはあらゆる恥の経験は、その恥にどう向き合うかによって後には勝利となる」
「国教会お得意の説教ね」
「お前がそう言うか」
 ニトロは流石に苦笑した。ティディアは目を細めて小首を傾げ、
「でも、正解。彼女はギャンブラーじゃないけれど、博徒としての誇りはあった。そして貴方の言う通りに打算した。それがどんな恥であり、身の破滅であろうとも、それを自ら受け入れ堂々と実行することで克己の精神を手に入れ、その精神によって何人たりとも犯せぬ神聖な勝利を我が胸に刻むことになる――と」
 ティディアはそこでニヤリと笑った。
「だけどね? 彼女はやっぱりギャンブル狂なのよ」
「……つまり?」
「敗北した時点で、彼女の中では新たな勝負が始まった。勝ち負けが付くなら何であれ賭けにできる」
 ニトロはうなずく。ティディアは笑みを得意に染めて、
「彼女はこう目論んだでしょうね。その勝負における勝利は、つまり“ティディアから”科された恥辱に打ち勝ったという“ティディアからの”勝利に転じられる――と。それが例え世間的には勝利と認められなくても、それを武勇伝として吹聴できる別の世間がある。一方で認めない世間様に対しては、『私はティディア様に目を覚まさせて頂いたのです』とでも涙ながらに悔悟を装っておけばいい。そうすれば片方では豪胆な勇ある女となり、片方では悔い改める模範としての女性となれる。しかも『クレイジー・プリンセス』に勝ったと認められるなら独特の存在感をも獲得できるわ。その点で自分の利用価値は“方々に”アピールできるでしょう」
「確かに……それなら『希望』尽くめだな。目論見道理にいくかどうかも“賭け”だけど」
 そのセリフにティディアは楽しげにうなずく。
 そしてニトロは思い出していた。ティディアの一度の軽い制止にラドーナが見せた、勝ち誇った顔。そこには思うよりも多くのものが込められていた。しかし、哀しくも、それすらティディアによって操られたものでしかなかった。
 ここに語られたことは、賭けの顛末以外はおよそティディアの予測にすぎない。しかしニトロが目撃した一連の情動と照らし合わせれば、それは真であろうと彼は思う。彼は、訊ねた。
「俺が同席する必要はあったのか?」
「貴方の存在は彼女に面白い影響を与えていたわね」
「実に興味深く拝見しました」
 ヴィタが興奮を隠さずにうなずく。ニトロは苦笑し、ティディアを目で促す。
「この席を設けたのは、ニトロに破滅する人間の、破滅に向かう最後の一時を見せたかったから」
 ティディアはニトロを見つめる。彼は真顔となり、再度問う。
「何のために」
「後学のために」
 と、そこでティディアは不思議な顔をした。
「色々話しはしたけれど、実際には、彼女に希望なんてもうなかったのよ。ギャンブル狂であることだけが玉に瑕、なんて善人じゃあないしね。自分がその手の醜聞において注目を浴びればどんなホコリが叩き出されるか彼女も解っていたでしょうに、けれど、彼女はそれを考えていなかった、解っていながら、考えられなくなっていた。自分の身の破滅を知りながら、それでも破滅に突き進む者はどの階層にも、どんな人種にも存在する。それは単に愚かであるからではなくって、大抵何らかの熱に浮かされているから。その中でも最も世間に知られ、受け入れられさえしているものが、恋愛による破滅ね」
 ティディアの意味ありげな眼差しを、ニトロは断固拒絶する。王女は小さく息をつき、
「誘惑した私が言うのも何だけど、彼女はただ破産するだけの方が幸せだった。それとも勝負なんかにこだわらず私の“慈悲”にでもすがればよかった。何しろ勝負なんて始めから成立していなかったんだから」
 そう、結局、ラドーナの魂を砕いたのはその事実だった。
「ギャンブルこそ最たるものだけど」
 ティディアは波模様の描かれたティーカップを眺め、それからニトロを刺すように――そう、刺すように見る。
「潮時を読み違えてはならないわ」
「……」
 ニトロはしばらくティディアを見つめた。見つめ合う二人は、しかし感情の交歓とは無縁だった。やがて彼は苦笑した。彼女の示した大きな意味をわざと矮小化して、挑戦的に言う。
「それも、お前がそう言うか」
 ティディアはまた不思議な顔をした。その意図をニトロが探りきる間もなく、彼女はころりと表情を変え、どこか下卑た風情を唇に漂わせた。
「というわけで、ニトロがいようがいまいが破滅は確定していたから、彼女の結果については何も気に病むことはないわよ? 裸の恥辱だって、本当は彼女には何の痛みもなかったものなんだもの」
「?」
「ドレスアップした紳士淑女と全裸の紳士淑女が入り乱れるパーティーも、彼女は大好きなのよ。ていうか彼女はそういうパーティーでこそ最も輝いた。一晩でのセックス相手の人数が勲章となり、倫理や道徳こそ恥で、乱れに乱れるだけ名誉となる。禁じられたあらゆる物も快楽のためには神の恩恵よ」
「……それがホコリか」
「巻き添えになるのがいくらかいるでしょうねー。全く、私がそれを知らないと思っているとは滑稽だったわ。あれの“全裸で”スカイダイビングなんてそれこそ髪の毛一本の価値もないのに」
 くすくす笑うティディアは実に愉快そうだ。一方、ニトロは考え込んだ。やはり自分の存在が彼女に与えたものは相当大きかったらしい。“本当は”なかったはずの恥辱を、地へ落下する前、確かに彼女は感じていた。
「何十年ぶりに、彼女は羞恥心を感じたのかしらね」
 ティディアが言った。ニトロは、彼女の目を見た。
「以前は処女の頃かしら。だけど、その時の羞恥と、現在の羞恥はまた違う。ねえ、ニトロ、それはあれが勝手に作り上げた勝負に勝手に挑んで自爆した結果よ」
 アフターケアとでも言うのだろうか? ニトロはティディアの目に目をぶつけたまま、言った。
「良心の呵責を感じているわけじゃない。本当ならそれを感じることが“正しい”のかもしれないけど……何だろうな、ずっと困惑させられっぱなしだ」
「この後の仕事に影響は出そう?」
「それはきっちりやる。折角、楽しみにしてくれてるんだ」
 ティディアは満足そうに、そして頼もしげに微笑する。
 そこにニトロは言った。「だけど、それだけか?」
 ティディアは虚を突かれたようにニトロを見つめた。
「本当は、お前は俺の“効能”も計算していたんじゃないのか?」
「何故?」
「そう思うからだ。まだ何かあるだろう、そう感じるからだ」
 ティディアはニトロを見つめたまま、しばし黙していた。それからふと微笑し、
「後日、ニトロはその理由を知るわ。
 そして、そうよ、まだ私とあれとの間に“背景”はあるけれど、それはやっぱり私にはどうでもいい。あちらはそうでもなかったみたいだけどね」
 そう言って、ティディアは、はっきりと嘲笑を刻んだ。
「長兄とヤったことがあるくらいで私と張り合えると思うなんて、滑稽を通り越して無惨だわ」
 ニトロは、ティディアの瞳の内側に何も見なかった。だからこそティディアの“恐ろしさ”を感じた……より正確に言えば、思い出した。その瞳にはその口から吐き出された言葉に呼応する軽蔑や嫌悪、あるいは怒りがあって然るべきなのに、それらは全く存在しない。彼女は本当にどうでもいいのだ。頬に浮かべた嘲笑も全く表面的なものに過ぎない。その顔は、まるで人間を相手にしているから人間用のインターフェースを用意してみました――そういった類のものだ。『恐ろしいティディア姫』の片鱗が、そこにあった。
 それに、なるほどティディア個人にとってはどうでもよいだろうが、そういう手合いは『王家には』少々面倒な存在だろう。王や王妃はまだしも、心優しい妹姫にとっては特に。
「それにしても、ニトロは全然気にしてくれないのね」
 急に人間味を取り戻し、恨めしげな目つきでティディアが言った。
「何が?」
 きょとんとして、ニトロは問い返した。それは思わず警戒心の隙からこぼれた素の反応で、それだけ偽らざる心情であるからこそティディアはむっとする。
「何でそんなパーティーを知っているんだとか、まさかお前も? とか少しは疑ってくれてもいいんじゃない?」
 ああ、と、ニトロは理解した。ティディアはさらにむっとする。ヴィタは目を細めている。彼はその頬に、薄笑いを刻んだ。
「それこそなあ、心っ底どーでもいいことだ」


天空茶会C - 楽遊 2015/10/30(Fri) 19:10 No.1063

 後日、ヘイレン・ユウィエン・ラドーナに関するゴシップは刑事事件への発展を見せていた。考えてみればよくある話なのだが、彼女は慈善事業の関連資金に手を出していたのである。芍薬がジジ家のネットワークを通じて調べてきたところによると、それを捜査当局にたれ込んだのはラドーナ婦人の『友達』だったようだ。もしそれがなければ横領についての捜査は始まりもしなかった可能性もある、それほど婦人はその手の事には慎重かつ巧妙であったようだが、セキュリティホールは友情だった。つまり、彼女の醜聞からの飛び火を恐れた『パーティー仲間』の臆病な誰かが、火の粉の舞う向きを変えようとより大きな火を点けたのだ。その中には彼女のおこぼれに預かっていた者もあるだろうに、その忘恩不義理の行為は、やはり報いを受けることとなった。婦人の横領に無関係とは言えない一派が反撃に出たのだ。『パーティー』の写真がどこからともなくばらまかれた。吹き戻された火の粉は巨大な火の玉と化した。かくして全裸でスカイダイビングというエクストリームスポーツは、広範囲に渡って、我が足元に穴が開くとは予想もしていなかった人々にも危険と興奮を提供したのである。これは婦人は知らなかったそうだが、暴かれた『パーティー』の中には違法薬物や売春において組織的に繋がっているものもあったようで、まだまだ延焼は止まりそうにない。もしや捜査線上に浮かんでいる人物の中に王女の“政敵”がいて、そちらの方が狙いだったのかと疑うこともできるほどだ。富裕層に厳しい案や庶民に厳しい案など、それぞれ各方面からの抵抗によって難航が予想されていた議案がいくつか結(けっ)されていた。
 そして事件の発端、その火種を生み、また煽り立てた『クレイジー・プリンセス』はこの件に関して白々しくも仰天顔である。しかも社交界の腐敗を嘆きつつ、しかしそれは一部のことであり、どの世界でもそうであるように善人もいれば悪人もいる、ただ一面を以て全てを眺めないようにしてほしいなどと――話し振りにはブラックジョークが溢れているものの――内容的にはそのように道徳的なことを述べる有り様だ。ニトロは呆れ、浮かぶのは苦笑いしかない。
 さらにもう一つ、この件に関しては国教会でも大きな事件となっていた。何しろヘイレン・ユウィエン・ラドーナの実兄は大司教であり、それだけでなく彼は次代の大老(たいろう)入りが確実視され、しかも将来の法老長の最有力候補とも目される人物である。この実妹の不祥事は、勢い大司教のスキャンダルともなっていた。彼はすぐさま辞任を申し出たそうだが、法老長に強く慰留され、現在も大司教を続けている。とはいっても彼が出世競争から大きく後退したのは否めない。
 アーレン・ユウィエン・ラドーナ大司教は、善良で高潔で学識深く、欠点と言えば高潔すぎることくらいだそうで、実際組織内の人間にも熱心な信徒にも深く敬愛されていた。裏もなく、いくら叩いてもホコリはでない。叩き続ければホコリが出るより先に彼の命が尽きることだろうと真剣に語られている。
 それなのに、事態がいくらかの進展を見せた時、ニトロにはこの大司教こそが王女の標的であったような気がしてならなかった。根拠はない。やはりただの勘である。本人に問い質すことは気が進まないから、彼は芍薬と議論を試みた。しかし事はバカ姫のすることだ。どんな理由でもあり得そうで考えはまとまらない。実は大司教もティディアしか知らないような重大な犯罪に関わっているのかもしれないし、それとも高潔な彼が未来の法老長になることを型破りな次代の女王は疎ましく思い、そこで足を引っ張っておいたのかもしれない。あるいはこの動揺によって国教会内部の政治力学を私利に叶うよう動かしたのだろうか? 国教会内の誰かに頼まれた可能性もある。単に頼まれたからといって動くような奴ではないが、利害が一致していればあり得ない話ではない。最悪、単純な愉快犯ということも考えられた。
「あとは『高潔すぎて融通の利かなすぎる大司教を成長させるために試練を与えた』なんてのがありますかねぇ」
 ニトロと芍薬が議論をしている最中に部屋に訪ねてきて、勢い議論に巻き込まれたハラキリが至極面倒臭げに言った。テーブルの上には南国土産のフルーツがある。彼は『全国ガラクタor大発明品大展示会』に出かけた母親に忘れ物を届けた帰りだそうで、傍らに置かれたモバイルの上には『アロハー』姿の立体映像(なでしこ)がちょこんと正座していた。
『師匠』の意見を聞いたニトロは、言った。
「それだとむしろ大司教に期待をかけてるってことになるな」
「それでも偉そうに何様のつもりだって話にもなりますがね」
「王女様だろ?」
「違いない」
 ハラキリは喉を鳴らして笑う。彼の手元にはニトロが早速作ったミックスジュースがある。夕陽のように赤いトロピカルフルーツがコップの縁を飾っていた。
「まあ、確かに彼は高潔で、聡明で、宗教家として民衆の中に進んで入っていく活動家でもあります。人類貢献の精神篤く、自己犠牲を恐れず、貧困に立ち向かい、また魂の貧困にも立ち向かう」
「聞いてると本当に聖人だな」
「しかし実際が足りない」
「『実際』?」
「これは父に聞いたことなんですが」
 ハラキリが父のことを口に出すのは珍しい。ニトロは驚きつつ、しかし特異な『師匠』の父の言うこととなればと居住まいを正した。
「彼は良くも悪くもお坊ちゃんなんです。活動家として、宗教家としての挫折は何度もあったようですが、しかし個人としては順風満帆です」
「それで?」
「つまり、魂の貧困に立ち向かう彼自身、彼個人の魂の危機とも言えるほどの試練に立ち向かったことがあるかと問われれば、それは“否”であろうと。彼の欠点が高潔すぎることと言われるのは、同情の――宗教的な意味での“同情”の薄さを含意しています。彼は学識の高さゆえに理屈で相手の心を理解し、困ったことにその理屈の応用力も高いから表面上聖人並みの実篤さを発揮しているし、できている。しかしそれはやはり心、ひいては魂の目で観ての真(まこと)に実際的な行為ではなく、だからこそ、その誤解はいつか取り返しのつかない過ちを引き起こしかねない……と、法老長もご心配なさっているそうで」
「うん、今のは聞かなかったことにする」
 ジジ家のネットワークは本当に一体どうなっているんだ。ニトロは濃いピンク色のミックスジュースを一口飲み、甘味と酸味で爽やかに心を落ち着け、
「ユウィエン・ラドーナ婦人は、大司教にとってそれだけ深刻な問題になるのか?」
「なるでしょうね。二人は仲も良い、仲が良いからこそ妹の“真の顔”に驚愕し、それに気づかなかった己の不徳も恥じるでしょう」
「それは、大司教としてかな」
「使命感も強い方ですからねえ。そして今頃大司教として妹に接しているんじゃないですか? 噂によると婦人は以前に比してどうも矮小な性格になっているそうですが」
 ニトロの目元が歪む。ハラキリはそれを無視して続ける。
「しかし、大司教として接すれば接するほど、彼は妹を見失うでしょう。すると実は淫蕩に耽溺していた頃の妹との方が心を通じ合わせていたことになる。それは彼にとって、宗教的にも、個人的にも非常に恐ろしい事態です。価値観は崩れ、信仰心も揺らぐでしょう。その上で、彼は大司教の職務は立派に果たさなければならない」
「ああ、そうか。法老長は甘いって話ばかりだったけど」
「事実は逆ですね。史上稀に見る寛大呑気と言われる方ですが、巨大な国教会のトップに登り詰めた人ですからねえ」
 ハラキリはストローでミックスジュースを吸い上げる。
「お姫さんの狙いが大司教にあったとして、その思惑が何であれ、まあこの事だけは確実でしょう。あとは彼女の言う通りに後日――それこそ本当に“判る”のは、いつになるか分かりません」
 ハラキリは何事か考え込んでいる様子のニトロを見て、眉をひそめた。
「何か気になることが?」
「その場合、婦人は大司教の試練のための犠牲になった、犠牲にされた――ってことになるんだよな」
 所々言いよどみ、話しながら考えを推敲しているといった様子のニトロの言に、ハラキリは大きくうなずいてみせた。
「構造としてはそうですね」
「それで大司教が試練を乗り越えて高みに昇ったとして、その時、犠牲になった婦人はどうなるんだろうな」
「いい大人です。彼女は彼女で自分の問題を解くべきですよ」
「まあ……それは解ってるけど」
 ハラキリはミックスジュースを飲む。ニトロの疑問は、判っている。いくらか躊躇った後、思いきったようにニトロは言った。
「前からさ、昔の聖人の話の中で納得のできないことがあるんだ」
「どのような?」
「例えば過去に何人もの人を殺したり、陥れたりしておいて、後にその事を悔い改め、その過去の罪によって生じた試練を克服したことで神に祝福されたとか、そういう類の話なんだけど」
「ありますね」
「その場合、祝福される者はいいさ。だけど“害”された者はどうなるんだ? 誰かの犠牲の上に成り立つ聖なるものって、何だ?」
「国教会的には、その加害者が聖人となった場合は“聖人に糧を『与えた』”功績によって天に祝福されますね。そしてこの場合は犠牲の上に、ではなく犠牲の下(もと)にと言われます。あえて上下を付けるならあくまで犠牲者が“上”で、その尊さにはそのタイプのいかなる聖人も並ぶことはできません」
「……」
 沈黙する友の顔に、ハラキリは苦笑する。
「それはアデマ・リーケインも答えを出せなかった問題ですよ」
 ニトロはハラキリを見た。
「リーケインはその著作において重大な信仰問題を幾度か取り上げていますが、やはりどうしても断言はできなかった。そのため全ての問題は登場人物それぞれの人生的帰結、あるいは人物間の愛によって決着した。天の答えに、人の答えで代用した形ですかね。だけどそれは多くの人の胸を打ち、今も読み継がれている」
「……」
 ニトロは目を落とした。ややあって、ハラキリが言った。
「欺瞞、ですか?」
 ニトロはハラキリは見た。ニトロの瞳には肯定と、それを欺瞞と指弾しながらもただただ素直な疑念があった。ハラキリは思う。世の実直な宗教家は神に興味のある無神論者の攻撃的な問いには容易に対抗するだろう。しかし、この一種無邪気な眼差しにはどう応えるだろうか。
「全テ“教(オシエ)”ト名ノツクモノハ、常ニ真実ト欺瞞ニヨッテ成リ立ッテイルモノデス」
 そう言ったのは、じっと興味深げに議論を聞いていた撫子だった。
「ソシテ真実ト欺瞞ノ間ニコソ、真理トイウモノハ存在スルノデショウ」
 ニトロは携帯(モバイル)の上の小さな撫子を見つめた。カラフルな半袖を着て、結い上げた黒髪に真っ赤な花飾りを付けて、いつもと印象の違うオリジナルAIは何を思ってかとても柔らかに微笑んでいる。
「私達流ニ言エバ、1ト0ノ間ニ」
 電脳の世界に生きる者の、その言葉。ニトロはあまりに大きな“何か”を感じて思わず笑った。
「それは確かに難問だね」
 撫子は楚々として頭を下げる。
 ニトロは横目に壁掛けのテレビモニターに映る芍薬を見た。芍薬はとても考え込んでいる。それから彼は過去を遠望した。写真で見たことのある文豪が、書斎でため息をついていた。
「なあ、ハラキリ」
「何です?」
「走りに行かないか?」
「走る?」
「ああ、脳味噌がカビ臭くなる前に、風通しにさ」
 ハラキリは声を上げて笑った。
「いいでしょう。付き合いますよ」
 親友の笑顔に、ニトロもその頬に、自然と大きな笑みを刻んだ。





 ―終―


コケオドシ - 楽遊 2015/11/03(Tue) 18:33 No.1064

「お呼び出しを申し上げます」
 静かな時間を求めてニトロが王都立セリャンダ植物園にやってきていた時のことである。ウグイスのように高く美しい声が何処からか聞こえてきた。
「ティディア様の愛し君、ニトロ・ポルカト様」
 湿度高くも涼しい空間に揺らめき渡るその呼びかけに、ニトロはゆっくりと気を失いそうになった。蘚苔(せんたい)類を育成する観覧温室の地表はいわゆる『コケの絨毯』に覆われていて、広葉樹の青葉の作る薄明かるさの下、観察用の木道にうずくまって小さな植物を観ていた――いや、むしろその小ささの中に入り込まんばかりに没頭していた彼は、まことにそのまま失神して緑の寝床に横たわれたらどんなに幸せであったろう。
「当園園長ルクサネア・セリャンダ・ゼワネットがお待ちしております。大至急総合受付までお越しください」
 その声は、いつしか震えていた。震えながらも懸命に懇願していた。
 ニトロは立ち上がった。立ちくらみのようなものに襲われてふらりとする。またもこのままコケの絨毯に倒れ込みたい誘惑にかられるが、彼は、ぐっと堪えた。続いて何事にも我関せず立ち去ろうかという誘惑にかられるが、それも堪えた――というより諦めた。
 行かねばなるまい。
 ニトロは木道を歩き出した。彼は孤独だった。王都唯一の蘚苔類専門の植物園、マイナーなジャンルである上に分かりにくい立地にあるから休日の真っ昼間でも他に客はない。チケット売り場では「え? お客様?」なんて驚かれてしまった。研究者や好事家はともかく、ただの高校生が観覧にやって来たことが相当珍しかったらしい。思えばその時応対してくれた女性の声は、アナウンスのそれと同じだった。
 彼の今いる観覧温室は約2500平米あり、それだけの広さを全面ガラス張りに包み、しかもそのガラスは断熱に優れ遮光率を調節できる新時代の産物だ。王都の風土に合わぬ植生を維持する困難さが忍ばれる。そしてこの温室は一見ゴシックホラーの舞台にでもなりそうな古い館に隣接していた。この館は苔の研究・栽培・展示及び運営業務を担う園の心臓部であり、この苔庭を縫う木道も館の裏口から直接延びている。
 苔むしたレンガ造りの壁をえぐった穴に木道を通って入っていくと、足下はいつしか石床に変化して、靴裏の殺菌装置の設けられたゲートを抜ければ広々とした館のエントランスホールに出る。
 ニトロから見て右手には館内展示場への通路があり、左手には園芸用の苔や(需要の薄そうな)グッズの販売コーナーと申し訳程度の喫茶スペースがあって、そこから正面出入り口に向けて半円形のカウンターがある。
 カウンター、つまり総合受付では作業着を着た若い女性が待っていた。その顔は青ざめ、凍りついている。彼女はニトロの姿を確認するや厳しい顔の中にほのかな紅を差した。そして、どこか油断をすれば倒れそうな様子で歩いてくる。その手には小ぶりなラップトップがあった。黒縁の大ぶりな眼鏡の奥では緑の瞳が揺れている。ニトロは入園時にチケットの買い方を教えてくれたこの女性が、どうやら園長その人であるらしいと悟った。ということは先ほどのアナウンスも園長が行っていたのか。他にスタッフの姿も見えないし、販売コーナーと喫茶スペースの手作り感からして、この植物園は彼女を含めたセリャンダ・ゼワネット家だけで切り盛りしているのだろう。今は『王都立』となっているが、この植物園は昔は王家の施設であった。そしてそういう施設にはその維持管理を担う一族の存在がよく見られるもので、また彼ら彼女らは自らを貴族であると保証してくれるその施設を維持し、管理することを生業ともしている。かといってその職は安穏としたものではない。運営の実際は半官半民のようなもので、一応運営を“任された”自治体から予算は出ているが、大抵それだけでは回しきれない。そこで一族は兼業したり、家族の何人かは外で働いたりと役割分担し、自己資産からの持ち出しで運営を続けている所がほとんどだ。なのにもし潰れれば極めて不名誉となる。そのため、これらの施設は一族の重要な収入源でありながら、同時に重大な負債であるのだ――貴族も楽ではない。ふと視線を感じればホールの隅に園長と血の繋がりを感じる老人と老婆がいて、揃って何事だろうとこちらを窺っていた。
「お待ちしておりました」
 ルクサネア・セリャンダ・ゼワネットは美しい声を押し込めるようにして辞儀をした。
「お呼び立て致しましたご無礼をお許しください」
 明らかに、ルクサネアは自分を圧し殺していた。明らかにもっと吐き出したい言葉を、噛み殺していた。
 ニトロは全く事情の解らないこの時点で、しかしほとんど全ての事情を理解していた。だから、必要な一言だけを言った。
「王女は、何と言ってきましたか?」
 ルクサネアは何も言わず、ただ、手にしていたラップトップを開いてニトロへ差し出した。そのモニターには押ボタン型のスイッチが表示されていた。しかも何やらカウントダウンされている。
「……」
 ニトロはルクサネアを見た。やはり彼女は何も言わない。彼の無言の問いかけに対して無言で容赦を乞うている。……きっと、説明してはならないのだろう。と、何か重要なことを思い出したように彼女はラップトップのキーボードを素早く叩いた。すると二人の傍らにエア・モニターが投射された。
「――まらない質問をするのねえ」
 エア・モニターに表れたのは、王女が差し向かいで誰かと話している姿だった。
「何かぼろっちい店でお粥を食べたわ。ハナバ菜のお漬け物が素晴らしかった。名物なんでしょ? ここら辺の」
 王女と対談しているのは若い男だ。細面で、髭を顎の先にちょろりと伸ばしている。雰囲気からして王女の訪れている地方で有名なコメディアンといったところだろうか。彼は王女にその“ぼろっちい”店を知っているかと問われてしどろもどろになっている。それで王女に地元愛を疑われてさらにしどろもどろだ。やはり彼は当地の人気コメディアンであるらしい。
「……」
 ニトロは再びルクサネアを見た。植物園園長の顔は若い男と同じくらい、いや、カウントダウンが進むにつれてさらに色を失っていく。
 その間、コメディアンはちらちらと視線を上向けていた。それはまるで天上の神へ救いを期待しているかのようだった。
「……」
 ひとまず、ニトロはこうする他はないのであろうと、行動した。ルクサネアの持つラップトップのモニターの、明らかに胡散臭いスイッチに指を押し当てる。するとエア・モニターの中で男の顔が輝いた。男と王女の間に上からするすると何かが降りてくる。それは――何だろう、糸、その糸の先に結ばれているのは……フック? そこに男が手を伸ばす、が、それに先んじて、しかも極自然に王女がその天からの贈り物に手を伸ばした。数式に適切な数値が当てはめられたかのごとく、彼女の動きは自然であると同時に必然だった。二人の間に降りてきたフックが、王女の鼻に装着される。見事にフィットした。
「え、ええ〜! ええ〜!?」
 鼻フック王女にコメディアンがひどく慌てふためく。それと同時に――この放送は生中継であるらしく、さらに王女と男の対談はある番組の“コーナー”であるようで、これを視聴者と並んで観ているスタジオのタレント達が驚いている様子が右下に表れた。なるほど、この光景は、つまり主題はあのコメディアンに対する『ドッキリ企画』であるらしい。そしてその仕掛人はスタジオにおいても“サプライズゲスト”であったのだろう。だとしても、それが王女様であるとまでは誰も思いもよらなかった、スタジオもほとんどパニック状態だ。笑っている者もいるが、それは面白いから笑うというより、もはや笑うしかないから笑っているといった有り様である。
「……」
 しかしニトロにはコメディアンや他のタレント達の反応などどうでもよかった。彼は園長のラップトップに目をやった。――カウントダウンは、止まっていない。
「……」
 ニトロは園長を見た。やはり未だ彼女からは緊張と不安、いや恐怖が去らない。残り三分弱、刻一刻と減少する時間に対してスイッチには何の変化もない。コメディアンは動揺しまくって顔面を汗まみれにしている。ただ一人、鼻フックの王女様だけが平然と他愛もない話を続けていた。もはや独演会である。
「……」
 ニトロは己の顔から熱が引いているのを自覚していた。瞼が半ば落ちる。眠気にも似た虚無感が去来する。だが、彼は、ほぼ義務的にスイッチを押した。
「え〜! ええーッ!?」
 コメディアンが狼狽する。スタジオでも大きな騒ぎが起こる。フックを結ぶ糸がニトロのスイッチに応じて巻き上げられ、となれば美しい王女の鼻は必然、豚鼻となった。しかしそれでも彼女は平然と語り続ける。話は何故か恋愛論になっていた。ミニスカートから抜き出る足を組み直し、誰の目も奪う美女がやや前のめりにコメディアンに顔を寄せる。鼻の穴はさらに縦方向へとおっぴろげ。穴の奥まで手入れが行き届いているにしても、これはネットを通じて世界配信なのですぞお姫様!
 とうとう事態に耐えきれなくなったらしいコメディアンが四方八方に向かって腕を振って喚き出した。ギブアップとか聞こえる。助けを呼んでいる。スタジオは大爆笑どころか引きつった笑いで思考停止である。
「……ああ」
 一方、ラップトップを差し出していたルクサネアは嘆声を吐き出し、へなへなとその場に座り込んだ。そしてラップトップを床に置くと両手で口を覆い、泣き出してしまった。思わぬ展開にニトロがぎょっとしていると、彼女の親族らしき老人達が慌てて駆け寄ってくる。老人達に声をかけられたルクサネアは安堵に声を震わせながら「予算が、予算を」と繰り返す。ふと見るとラップトップのモニターでは『おめでとう! 成功報酬は例の口座に振り込むね!♪!』と文字が踊っていた。ニトロはエア・モニターを見た。番組はまだ続いている。興が乗ってきたらしいティディアが言葉を躍動させるように身を乗り出したり身を引いたりする度に、鼻フックのテンションが強まり弱まり、引き上げられた鼻の穴がクッと伸びたりパッと縮んだり、その滑稽さが段々スタジオの笑いを誘っている。されど彼女と直接相対するコメディアンは己の取るべき行動が見定められずに顔の上半分で笑い、下半分で泣いていた。それが面白いらしいバカ姫は拳を握って熱弁し、しかも自説の補強のためにコメディアンの女性問題を暴露したものだから彼は堪らない。鼻フック王女に同意を求められる彼はもはや半狂乱である。事情を理解してこちらも泣き出した老人達と喜びを分かち合っていたルクサネアがふと我に返り、あの少年に礼を言わねばと立ち上がった時、そこには、既にニトロ・ポルカトはいなかった。


 ――ニトロは、再び観覧温室に戻ろうとゲートをくぐりつつあった。
 簡単な報告を芍薬に送り、もしまだあのバカが鼻フック恋愛論を弁じているなら現場の制御システムをバグらせるように頼む。……するとなんかすごい悲鳴がホールから響いてきた。同時にルクサネア園長以下セリャンダ・ゼワネット家の合唱が驚愕を伝えてくる。しかしそれも温室内に入るとすぐに聞こえなくなった。
 ニトロは苔むす空間を奥へ奥へと進んでいった。木陰の薄明かるさに映える緑は染み入るように美しく、これで霧でも出れば神秘的なものとなろう。コトン、コトンと木道に立つ足音は尾を引くことなく、細やかな苔の間に吸い込まれて消える。それがまた幻想を彼の胸に差す。彼は、ため息をついた。
 あのバカは、本当にしょうもない。
「嗚呼」
 本当に、このコケの絨毯の中に飛び込んでしまおうか。そしてどこか隅の方で横たわり、それから我が身を苔に覆わせてしまうのだ。苔がすっかり隠してくれるまでは眠っていよう。そうすればきっと静かに暮らすことができるだろう。
 コトン、コトンと木道に足音の鳴る。
 ニトロは、ため息をついた。
「そんなわけあるはずもないか」
 彼は苔むす小宇宙を歩き続けた。コトン、コトンと、緑色の世界の底に、孤独な足音が鳴り続けた。





 ―終―


923拍手返信 投稿者:楽遊 投稿日:2015/09/25(Fri) 21:15 No.1050

嬉しい拍手とコメントをありがとうございます。
9月23日に頂いたご感想への返信です。


〉読んでいて芸術は奥が深いなあと思いました


芸術って奥深いですよねえ。過去の芸術家の色んな逸話を読み聞きしているだけでもよく驚かされます。でも同時に、そこに不思議なほどの面白味も感じもします。それがまた奥深さをさらに深くするのかもしれませんね(^^)


『続々』のこぼれ話 投稿者:楽遊 投稿日:2012/02/05(Sun) 21:26 No.956

エピソードとしてはあるけど一本の話としてはまとまらないなあ……と考えていた裏話的なものを、いくつか実験的に上げてみようと思います。


お値段 - 楽遊 2012/02/05(Sun) 21:31 No.958

『劣り姫の変』終結から五日後の夜。ニトロは王城へやってきていた。セスカニアン星の王女、マードールとの約束を果たすためである。
 現在、マードールはセスカニアンから連れてきたー―正確には追ってやってきた――使節団から代表として二人を引き連れ、同様に代表二人を連れたアデムメデスの王女と会談をしている。当方の王女は会談の場として『天啓の間』を用意した。ただでさえ神秘的な迫力のある地階に国の将来に大きな影響を与える話し合いの重圧が加わり、友好を取り繕う駆け引きとそれによる緊迫感が常に空気をひきつらせ、そこに、アデムメデスの蠱惑の美女とセスカニアンの幻惑の美女が互いの王威を背負って対面している……そのテーブルに同席する者はいかに百戦錬磨の交渉人であっても心が騒ぎ、魂を磨り減らすことになろう。そしてきっと、その中でティディアは皆が磨り減らす魂を吸い取るように生き生きと何もかも有利に事を進め、それにマードールは懸命に抵抗しているだろう。
 足元で冷たい火花の散る戦いが行われている一方、同じ王城内で、ニトロは半ば茫然とした面持ちで佇んでいた。
 ニトロがいるのは、会談終了までの待機所としてあてがわれたのは『展示用宝物庫』――城に保管されている歴史的かつ貴重な品々の一分を、客の目を楽しませるため、また一種の貴族的見栄のために飾る部屋である。彼の眼前には、拳大もあるピンクダイヤモンドを三つもあしらったネックレスがあった。正直アクセサリーというより無駄に豪華な武器のように見えてしかたがないが(ある意味では確かに『武器』ではあるのだが)、それより何より気になるのはこいつの価格だ。浪費家で知られた王が愛妾のために作らせたこのネックレスは時価にして何億積めば買えるのだろう……と、そう思った時、ニトロはあることを連想する形でふと思い出した。
「なあ、ハラキリ」
 自分と同じ用件で城に招かれた親友に声をかける。
「何でしょう」
 すると少し離れたところで、中央に大きなダイヤモンドを、その左右にダイヤより一回り小さなサファイアとルビーをそれぞれ飾った宝冠をしげしげと眺めながら、ハラキリが声を返す。
 ニトロは問うた。
「芍薬の、あのアンドロイドさ」
「はあ」
「あれ、『込み込み十億』でも安くね? ていうか、むしろ単体十億でも安いだろ」
 ニトロの疑問は当然ではあった。
『劣り姫の変』において非常な働きをしたあの機体。その搭載された機能は最先端もいいところ、かつ実に多機能であり、ニトロの知る限り、アンドロイドがアンドロイドたるための機構に加えて『外付け』無しであれほどの日常生活用のシステムと戦闘用をオールインワンにしているものは存在しない。バッテリーの性能も桁違いだ。さらに内蔵されている武器に至っては……あれらは、もはや武器ではない。兵器だ。ひょっとしたら弱小国の一個師団くらいなら一人で相手にできるかもしれない。ニトロにはそう思えてならない。
 ハラキリは初代覇王が戯れに作らせたという純金の甲冑を見ながら、
「まだ値段はつけられませんが……無理矢理つけるなら、現状色々鑑みて小さい星(ほし)くらいなら買えるかもしれませんねえ」
「……」
 部屋一杯の国宝――中にはもう金額をつけられないレベルの宝に囲まれている反面、ハラキリの口振りは、まるでそこらの雑貨屋で売買ができるものを扱うようなものだ。なんだか金銭感覚がどうにかなりそうであるが、しかしハラキリのセリフには驚かずにはいられない。
「……ぇ?」
 ニトロの呼気が一つ、疑問符となる。十億はいくらなんでも安いと思っていたが、いざ真価を知ると動転してしまう。
 ニトロの様子に、一方のハラキリは笑って、
「まあ、そうはいってもあれは基礎となった素体(アンドロイド)代……まあそこはそれなりですが、それ以外はほとんどただで手に入れたものですから。気にせず使い倒してやってください」
 へらへらとして言われ、はたとニトロは感づいた。
「まさか……っ」
「流石鋭い」
 ハラキリはうなずき、声を潜め、
「そう。あれは『試供品』みたいなものです」
 ニトロの顔が、さっと青ざめた。ハラキリが『試供品』と言う時、それは大抵ドワーフ由来を意味する。そしてその意味するところは国際的に色々と法的に危ない橋を渡っているということであり、何より、ニトロからすればドワーフの『試供品』にはろくな思い出がない。というかとんでもない目に会った記憶がもれなくオンパレードである。
「いやー、譲り受けたはいいけど扱いに困っていたところがありまして。芍薬は気に入って使いたがっていましたが、そう簡単に動かすわけにもいきませんし、何より面倒なのは、もし使う場合は有用なデータを一つは返さないと先方にぐちぐち言われることだったんですよ」
 唖然とするニトロをおいて、ハラキリはからからと笑う。
「君と芍薬のコンビネーションをフィードバックして人間とAIの連携への研究材料にしろ――あたりで手を打ってもらおうと思っていましたが、いやいや、結果はそれ以上。『女神像』とのデータで先方はほくほくでしてね。あ、もちろん今後はモニターしないのでそこはご安心を。こちらとしましても厄介払いもできたので、いやいや丸儲けです」
 そこまで言ったところで、ハラキリはニヤリと笑い、
「おや、どうしました? そんな慄然とした顔なんかして」
 ニトロは……やおら、苦笑いとも呆れ笑いともつかぬ片笑みを浮かべた。
「やっぱりお前は曲者だよ」
「そんなつもりはありませんがねぇ」
 飄々とすっとぼけられてはニトロは笑うしかない。が、すぐに彼はハッとして、
「おい、ハラキリ」
「何でしょう」
「あのアンドロイド、まさか俺を面白筋肉に変身させまいな? 前からもらってたんなら、ほら、あの『天使』も内蔵されてていつでもどこでも瞬時に投薬可能とか」
 ニトロはひどく真剣である。
 しかしハラキリは、ニトロが真剣だからこそ喉を鳴らして笑い、
「安心してください。『天使』の製作者とは別口です。当然そんな機能はついてませんし、もしそんな機能がついていたとしても芍薬は使いませんよ」
 言って、ハラキリは
「いや……」
 と、彼の表情の変化に眉を潜めているニトロへ、
「もし、そんな機能があったとしたら」
「あったとしたら?」
 ハラキリはどこか怖気を振り払うように言った。
「今頃、『劣り姫の変』どころかロディアーナ朝も終わっていたかもしれませんね」
「俺の上腕二頭筋のせいで?」
「もしくは大胸筋のぴくつきと腹筋の割れ目から生まれる深淵的な何かのせいで」
「なるほど、そりゃ『悪夢(ナイトメア)』だ」
 ハラキリは、笑った。
「ええ、まさに」


お値段+ - 楽遊 2012/02/10(Fri) 21:13 No.959

 古代の遺跡から発掘された玉(ぎょく)の仮面を見ていたハラキリが、
「ああ、そうだ。先程の話からですが」
 と、言った。
「あの機体、一日ばかり預けてくれませんか?」
 ロディアーナ朝中期に行われた大宇宙開発の記録である『月の石』を見ていたニトロが振り返る。
「先程の話から、と、後半が微妙につながってないぞ?」
「先程の、製作者」
「――うん?」
「ニトロ君と芍薬の連携に対して、気に入らないことがあるので少し手直しをしたいと」
「気に入らないこと? 手直し?」
「何でも、あの機体を芍薬そのものにしたいそうです」
「……今でも十分似てるよ?」
「それはまあ、元々芍薬がモデルですからね」
「あ、そうなんだ」
「ええ。とはいえ『こんな感じ』程度のやり取りだったそうなので、完璧ではないのですが」
「こりゃまた微妙に伝聞だね」
「本来の所有者は母でして、先のやり取りの当事者も母ですから。あれに関して、正確には、酒の席での口約束の扱いに困る賜物を拙者は押し付けられた形でした」
 そう言うハラキリは何か面倒な記憶を思い出したか、彼の渋い顔にニトロは笑った。
「で?」
「それで、先方が『やっと返ってきた』使用報告書を見たら、その素晴らしいデータにほくほくしつつも、逆にデータが満足だからこそ自分の仕事に不満が出てきたと」
「ああ、それが外見か」
「ええ。アフターサービスとして無料でやってくれるそうですが、どうします?」
「どうしますも何も良い話じゃないか。受けるさ。これは芍薬も喜ぶよ」
 ニトロが即決してそう言うと、ハラキリは少し意外そうな顔をした後、ふっと笑った。
「……なんだよ」
 ニトロが訝しく問うと、
「いえ、てっきり君はドワーフには安易に関わりたくないという反応をすると思っていましたから」
「それは、まあ確かにね。色んな意味で危ないから」
「でも、芍薬のためならひょいと話に乗るんですね」
「だって喜ぶよ?」
 その無邪気な即答に、ハラキリは微笑んだ。
「ええ、喜ぶでしょうね」
 ニトロはハラキリの妙な微笑にいくらか釈然としない様子を見せたが、はたと何かに気づいたように、
「でも、それで……一日だけで大丈夫なのか? 結構な手間のかかる仕事だろう?」
「心配には及びません。先方はそれなりの腕前ですし、本人がそう言ってたそうですから」
「いやお前、天下のドワーフ捕まえてそれなりって……」
 呆れ気味に言った後、ニトロは再度はたと気がついた。
「また伝聞っぽいね」
「基本ドワーフとのネットワークは母経由ですから」
「ああ」
 そういや、以前そんな話も聞いていた。しかしニトロがドワーフグッズに接するのは、まるでそのセールスマンのように扱いに長けたハラキリ経由だから、てっきり彼自身でもネットワークを持っているように感じてしまっていた。
「でも……そうすると」
 ニトロは、苦笑した。
「ハラキリも大変だな」
「いやいや、大変なのは大変ですが、とはいえそれでもわりと美味しい思いをしてますし……」
 ハラキリは、そう言って片眉を跳ねてみせ、
「何より、お陰で今、こうしてここにもいられるわけですからね」
 そのセリフにニトロはおどけるような片笑みを返し、言った。
「そいつはきっと、ドワーフにも作れない『巡り合わせ』ってやつだよ」


特別トレーニング - 楽遊 2012/02/14(Tue) 23:07 No.960

「明日の夕方、休暇が欲しい?」
 そろそろ日も変わろうかという深夜。北大陸のとある領で論争の的となっている公共工事の資料に目を通していたティディアは、今しがたふいに投げかけられた希望をおうむ返しに口にして、眉をひそめた。彼女にその希望を提出した当の執事はコーヒーの粉を匙ですくいながら、
「はい」
 とだけ応え、量り取ったきめの細かい粉をエスプレッソマシンのフィルターに丁寧に詰める。
 ティディアはいよいよ怪訝に執事たる藍銀色の髪の麗人を見やった。
 基本的に、公私にわたって王女の補佐をするヴィタに、彼女個人で独立した定期的な休暇はない。彼女の休暇はすなわち主人の休暇と同義であり、主人の休暇がなければ彼女の休暇も存在しない。その上、往々にして、主人が休暇中であるがために休めない場合も当たり前に存在する。
 しかし、ティディアは、だからといって従者に休暇を与えぬ主人ではない。必要な休みはきちんと用意するし、自由な時間も作らせている。もちろん理由の確かな休養の要請に無視などしたことはない。いかに『クレイジー・プリンセス』とはいえ、その辺りは一般よりもずっと一般的だ。その分仕事に対する高い質を求められる点はあるものの、故にヴィタの待遇は下手な大貴族の執事のそれよりもずっと恵まれている。それなのに、ティディアが今回のヴィタの希望に対して顔を曇らせているのは、純粋に一つの疑念のためである。
「随分急な話ね」
「急な話でしたので」
 そしてティディアがヴィタの希望に対して怪訝を募らせるのは、ヴィタが根拠を勿体振るように速やかに明示しないためであった。と同時に、その理由は、まず自分にとって面白くない理由があるためだと察知しているためでもあった。しかも涼しい顔でエスプレッソマシンを扱っているこの女執事、明らかにこちらの反応を楽しんでいる。
「急な話を振ってくるとしたら……」
 ヴィタの――ニトロの言葉を借りるなら『同好の同志』の態度に腹を立てることはない。というよりも互いに相通じる感覚に腹を立てることも――同族嫌悪を与え合う間柄でもないため――ない。それよりもティディアには気にかかることがあった。
「ハラキリ君に何か頼まれた?」
 ヴィタは目を細めた。美しいマリンブルーの瞳が輝く。その閃きに、ティディアは胸が締め付けられる思いがした。
「明日の夕方、『トレーニング』を手伝って欲しいと」
 ――それは、つまり。
「そこにあなたに『補佐を頼まれた私』が参加することは可能ッ?」
 そう言ったところで、ティディアは自分が思った以上に語気を強めていたことに気づき(気を付けていたつもりなのに!)ハッとして口をつぐんだ。
 ヴィタはマリンブルーの瞳をキラキラと輝かせながら、しかしその喜色に染まる顔とは反対に首を横に振り、
「記録媒体も持ち込み禁止とのことです」
 ティディアの顔から、幾つかの色がさっと消えた。
 妹の件でニトロから受けた罰――プライベートでの一ヶ月の接触禁止。それは、予想してはいたが、ティディアにとって非常に苦しいことだった。頻繁に彼と言葉を交わし、阿呆な発言にビシッとツッコミを返してもらえる時間がどれほど日々の楽しみ――日々の糧、人生の手応えとなっていたことか。罰の開始から、やっと一週間が経った。ようやく七日が過ぎてくれた! そして、きっとこれからが一番辛い時期なのだろう。なんらかの中毒患者が禁断症状に喘ぐように、ティディアには今、ニトロ成分が枯渇していた。その上、悪いことに、先日『仕事』で彼と会った際、彼に徹底的に上っ面の付き合いをされたことでショックを受けたばかりだ。処罰期間中にも点在する仕事……ニトロと直接会う機会は、ニトロ成分を微かにでも補給するどころかむしろさらに干上がらせることが判明している。そう、今現在で枯渇しているというのに、これからずっと渇いていくのだ!
 そこに、このタイミングでこの『持ち掛け』である。
 もちろん仕事ではない。また、ニトロに禁じられた行為にも触れない。ただヴィタに付き添ったために『たまたま』彼と一緒になるだけだ。話しかけたら約束を破ることになるが、それなら話しかけなければいいだけのこと。そうして森林浴をするように、きっと楽しい空間を堪能し、潤いも満ち満ちて帰ってくることができる――絶好の機会!
 期待するなというほうが無理であるし、失望するなというのも無理な話だ。
「厳しいわねぇ……」
 ティディアはため息をつく。
「ハラキリ様は、今はどんなに誤魔化せる環境があっても大人しく息を潜めておくが吉――そう言っていました」
 その言葉に、ヴィタの言葉の意味するところに、ティディアの顔に幾つかの色が戻った。
「なんだ。ニトロのお達しじゃあないのね?」
 記録媒体の持ち込み禁止がニトロ(及び芍薬)からの意志ならば、それはつまり拒絶の意志である。
 だが、ハラキリの手回しであるのならば、これはつまり、友達が、私がより不利な状況に陥る可能性を未然に防ごうとしてくれた思い遣りである。
「一ヶ月経ったらトレーニング用に映しているビデオを提供しますから――とも」
 そのビデオは、師匠たるハラキリが、弟子たるニトロと見返しながら修正点の指摘などをするためのものだ。
 ティディアは、大きくうなづいた。一つ、これは嬉しい処罰明けの楽しみができた。
 ――が、そうはいっても、一人、除け者となる状況には変わりはない。
 ……されども、
「許可するわ。そのまま朝まで自由にしていい」
「ありがとうございます」 少し仏頂面のティディアにヴィタは頭を下げ、それからエスプレッソマシンを操作し、手早くカプチーノを作り上げた。
 カップを受け取ったティディアは早速口をつけようとし、はたと思う。
「ヴィタの手伝いが必要って、ハラキリ君、何をする気なの?」
「私には身の丈ほどの戦斧を用意するそうです」
 ティディアは、再び眉をひそめた。
「それで?」
「加えて獣人化して、ニトロ様が悪夢に見るほど追い回して欲しいと」
「……何のために?」
「ニトロ様は、今回の件で一つの成果を見せました」
「立派にね」
「なので慢心しないよう釘を刺しておくそうです」
 ニトロは……それで慢心するようなタイプではない。それでもハラキリがそれをするのは――
「『無意識の傲り』まで虱っ潰しにするつもりかしら」
「はい。その上で『自信の正確な固定』を狙うと」
 それはつまり、一つトレーニングの段階を上げるということだ。おそらくニトロには、ニトロのレベルが上がったからここまでできるようになったのだ――とでも言うのだろう。ある種の証明書。無論扱いを誤ればせっかくの『一つの成果』から得られるはずのものまで潰しかねないが、まあ、あの師弟には信頼がある。問題はあるまい。
「にしても、ハラキリ君もまめねえ」
 こちらとしてはニトロに慢心してもらった方が隙を突きやすくて都合がいいのだが、それは叶わぬ希望であるらしい。
「それで、ハラキリ君は何を?」
「本当の『多勢に無勢』を教えると息巻いていました。芍薬様も参加させるそうです」
「てことは、撫子ちゃんとハラキリ君のタッグ?」
「『牡丹』様に『お百合』様も総出の多勢に無勢だそうです」
 ティディアは思わず苦笑した。
「それは酷いわねー」
 いかにニトロと芍薬のコンビネーションが素晴らしくとも相手が悪すぎる。簡単に考えて、ニトロからすれば自分達の上位互換が数の暴力付きで襲いかかってくるのだ。さらに、彼は、個人戦では巨大な戦斧を軽々振り回す怪力の獣人に追い回されるのだから――
「……」
 カプチーノを一口飲み、ティディアは一つ息を吐いた。
「残念ね。ニトロを慰めるチャンスだったのに」
 そう言いながら、自分が彼を慰めることなんてできないのに……と、誰に言われるまでもなくそう思って、ティディアはまた苦笑する。
 それから彼女は己の執事に目を向け、
「間違ってもニトロを殺さないようにね」
「かしこまりました」
「ハラキリ君にも『心遣い』へのお礼を」
「はい」
「もし打ち上げがあるなら貴女が出しておきなさい、私が持つから。あ、領収書はいらないからね」
「はい」
「それから、もし泣きたかったら私の胸を使ってねって、ニトロに一応伝えておいて」
「全くの無駄と思いますが、一応かしこまりました」
 ヴィタの――自分の執事の返答にティディアは本日一番の苦笑を刻み、
「もう。皆していけずなんだから」
 そう言って、想い人の好きな飲み物で喉を潤した。


特別トレーニング+ - 楽遊 2012/02/15(Wed) 21:11 No.961

 ハラキリの家の地下で行われた『特別トレーニング』を終え、自宅に帰ってきたニトロと芍薬は――うなだれていた。
「……酷い話だ」
「……御意」
「恐ろしい……あれは本当に恐ろしいことだよ」
「御意」
「……」
「……」
「……」
「完敗ダッタネ……」
「うん」
 ニトロの網膜には未だオオカミ然と変身したヴィタがちらついている。イヌの力と鋭い牙にネコの爪と敏捷性を備えた相手のあからさまな身体能力差からくる恐怖。その一見細い腕でゲームやマンガでも滅多に見ない『身の丈ほどもある巨大な手斧』を軽々振り回し、普段は美しいばかりのマリンブルーの瞳を獲物を狙う狂暴な肉食獣の光でギラつかせて追い回してくるあの姿――!
 寸止め、というルールの試合(スパーリング)……こちらに与えられたのは、『ニトロ・ポルカト』なら平時から持ち歩いていても不思議ないという理由でちっぽけな果物ナイフであった。
 どうしろと?
 身の丈ほどもある巨大な戦闘仕様の斧に対してどうしろと?
 しかも彼女は本当に寸止めする気があるのかってくらいに物凄い勢いで戦斧を振り回してくる。果物ナイフ? はッ、そんなもの、むしろこっちが果物の皮のようにやすやす両断(きら)れてしまうわ。そして確かに彼女は寸止めを実行した。肉厚の、見るだけでも恐ろしい斧の刃が何度も身に迫り紙一重で止まるのだ。念のためと例の戦闘服にプロテクターを重ねていても伝わってくる死の気配。金属の刃の冷気。その、『劣り姫の変』の『巨人』とも『女神像』とも違う肉薄した生々しい恐怖!!
 その上……最後に一矢だけでもと決死の覚悟で懐に飛び込んだら、大きな口に立ち並ぶ牙で首を噛まれるし……野生の草食動物にこれほど同情した日はない。
 さらに、である。
 ヴィタには恐怖を味わわされたが、ハラキリには絶望を味わわされた。
 数は四対二。もちろん『劣り姫の変』ではもっと大きな人数差での戦いを経験した。
 だが、あれこそ暴力だ。ハンデとして装備にかなりのアドバンテージ(こっちは『毀刃』あっちは果物ナイフ等)をもらってはいたものの、はッ、そんなものが何になる。
 ぼこぼこにやられた。
 芍薬とのコンビネーションには自信を持っていたのに……いや、それは今ならはっきり言える、慢心であったと!
 ハラキリと撫子の連携は、さらに磨き上げられていた。その素晴らしさに驚き見とれて負けてしまった一戦もあるほどに。
 加えて『援護』に特化した動きで牡丹と百合花の操るアンドロイドが攻撃を仕掛けてくるのだ。完璧に統率された組織を数でも実力でも負けながらに相手にする、その絶望。
 芍薬が奥の手に数える身を捨てた戦法を以ても、最も戦闘が苦手な百合花を抑えるのがやっとであり、こちらは二つの命を差し出してあちらは一つ……いや、あくまで『抑えた』だけであり『仕止めた』わけではない。逆に、厳密に言えば百合花を餌にされて一網打尽にされたとも解釈できる。
 完敗だった。
 意識的にしろ無意識にしろ心に打ち立てられていた自信の塔が木っ端微塵に崩壊した。
「デモ……」
 と、芍薬が呟く。
「……うん」
 と、ニトロがうなずく。
 一つだけ、確かな手応えがあった。
 ヴィタ、ハラキリ、どちらとの試合中も、どちらも常に真剣であったことだ。自分よりずっと強い二人が――特に『師匠』が! 芍薬にとっても、あの撫子が……これまでになく真剣に『叩きのめしてくれた』のだ。
 ――「いやはや、なかなか迂闊なことはできなくなりましたね」
 ハラキリの、そのセリフ。
 嬉しかった。
 そこに込められていた実感が、本当に嬉しかった。
 芍薬も撫子に何かを言われていた。それは自分が受けたものと同種のものであった。
 ぼこぼこにされ、自信を木っ端微塵にされ、長らくうなだれさせられた――が、ニトロも芍薬も、互いに得たものが、時を経て今確かに心に積み上がっていることを感じていた。
 そう、それは、崩壊したはずの自信の塔が、崩壊した先で積み重なり、新たな土壌となっていること。そのためにゼロ地点が以前よりも高くなり、つまり塔のように壊れやすく不安定なものではなく、地面という確実な基礎として『自信』を得られたということ。
 なるほど、今日は完敗だった。恐ろしい目に会い、絶望も味わった。
 しかし、ニトロは、それでもなお恐怖と絶望との距離を把握し、言えるのである。
「頑張ろうね」
「承諾」
 そして芍薬も、うなずけるのである。


残り物には - 楽遊 2012/02/19(Sun) 17:24 No.964

 ティディアは我慢の限界だった。
 彼女はベッドの上で目覚めるなり、こう言った。
「足りない……」
 人生に、
「ニトロが足りない!」
 しかし彼と今会うことはできない。電話することもメールすることもできない。
 ここしばらく完全にツッコミ欠乏症である。
 あんまりツッコミが欲しくて堪らないからだろう、つい先ほど夢の中、私は一人でボケて一人でツッコんでいた。それがまたあんまり空しいものだから思わず目を覚ましてしまった。
 ああ、なんという……なんという哀れな私!――などと悲哀に耽溺すればこの処罰期間の本当の苦しさから逃れられるのだろうか。
 ……否。
 無理だ。
 例え悲哀で誤魔化したところでニトロを忘れられるわけではない。であれば、ニトロのことを思い出す度に私はこう思う。
 ボケたい!
 ツッコんでもらいたい!
 話したい、触れ合いたい、彼と、楽しい時間を一緒に過ごしたい!
 しかしそれは決してならない!!
 ティディアは飢えていた。渇ききっていた。
 ティディアは、我慢の限界であった。
「こんなに早く使うことになるなんて……」
 まだ二週間も経っていないのに。
 だが、彼女は決意していた。
 もう我慢の限界なのである。
「はぁ」
 気だるい息をつき、ベッドから降りる。まるで夢遊病者のようにふらふらと彼女は部屋の一角に向かう。
 そこには、普段は壁に隠されている小さな『流し』があった。シンクの横には茶葉や食器を納めた棚があり、その一番下には冷蔵庫がある。
 ティディアは冷凍室の扉を開いた。
 冷凍室には、今、箱が二つだけ入っている。
 そう、クロノウォレスに発つ際に、ニトロからもらった『手作り弁当』である!
 行程を変更したために食べることなく残っていた、たった二食の貴重品。『罰』を受けることが決まった時、この時のために残していたのである。
 ティディアは一箱を、まさに貴重品を扱う学芸員の慎重さで取り出した。おずおずと――まず間違いはないと解っているが――弁当箱をそのまま冷蔵庫の上にあるレンジに入れる。
『解凍』『お弁当』『開始』の手順で操作することに、ティディアは恐ろしいほどの神経を使った。
 ブン、と音がしてレンジが働く。この用途に適した作りの弁当箱と共に、中身を適切に解凍する。その上、ご飯類はピンポイントで温めてくれる機能付きだ。
 ピーッと完了の音がした時、ティディアの胸は高鳴った。
 レンジを開け、ちょうどよい温もりの弁当箱を手にしっかりと持つ。
 そして部屋のフランス窓の傍に据えてある小さな机に向かう。と、気がつけば夜明けもまだの時間であった。時計を見れば就寝してから一時間も経っていない。
「……」
 空しい夢から覚めた時は、もっと時間が経っていたように感じたものの……
「……」
 ティディアは弁当箱を机に置いた。
 椅子に座って『ニトロの手作り弁当』と向き合えば、自ずと口内が潤ってくる。
 彼女は蓋を開けた。
「!」
 大好きなニトロのエビピラフ!
 ティディアは自分が無意識に歓声を上げていたことに気づいた。そしてフォークも何も持ってきていなかったことにも気づいた。
 一瞬にして棚に戻り、一瞬にして机に戻る。
 椅子に座り直したティディアは、ポテトサラダやホウレン草とベーコンのソテーなど彩り豊かなおかずと、何よりほかほかと湯気の立つエビピラフを改めて見て、今度は目を潤ませた。
「いただきます」
 きっと夢の中にいるであろう彼に向かって感謝を投げ、そしてまずエビピラフを口にする。
「……嗚呼」
 ティディアはうっとりとため息をついた。
 彼女は、その瞬間に限界を乗り越えていた。
 ――これでまたしばらくは大丈夫。
 心のニトロ関連のメーターが針を戻す。
 ティディアは黙々とお弁当を食べた。
 黙々と夢中で食べる彼女は、幸せだった。


天網恢恢疎にして漏らすな - 楽遊 2012/02/23(Thu) 19:34 No.965

「『手料理ブーム』?」
 騒動から半月後の夕方、最近よく遊びにくる王子様を城に送り届けた後のこと。
『劣り姫の変』関連の雑事にも色々一段落がつき、これなら強力な機体(ボディーガード)を一時手放しても平気だろうと算段がついた折り、約束通り芍薬のアンドロイドを再整備してもらおうとハラキリの家に立ち寄ったニトロは、話の流れの中で親友が嬉しげに語るその単語に眉根を寄せた。
「おや、知らないので?」「今は努めて浮世離れしているんだ。これでも一応受験生だしね」
 ニトロがここで言う『浮世離れ』はテレビやネットからの情報をシャットアウトしているということであるが、それだけでなく、彼は現在、滅多に外出もしていなかった。外を歩けばたちまち人にメディアに取り囲まれて大騒動になる。そのため今日のように'どうしても'必要のある時以外は日がな一日自宅にこもっているのだ。ここ十数日は食糧や雑貨の買い出しにも出ず、それらは店のデリバリーサービスを利用するか、あるいは『何でも屋』のハラキリに頼んで事を済ませている。お陰でハラキリは、野菜や魚介の基本的な目利きを覚えてしまった。
 ハラキリは笑いながらうなずき、
「君と付き合っているとうっかり忘れそうになりますが、今時料理なんて大抵『趣味』か『職業』でしょう? 上質のレトルト、便利なデリバリー。そうでなくとも、多目的掃除機やアンドロイドがあればAIに任せきりでもちゃんとした料理だって出てくる、味の程度はともかくね。だから君や……特に君のお父上のように『日常』として料理を家庭で作るのは、割合少数派です」
 AIの操る機械への味覚センサーの有無や、機能の程度、また常に変わる食材への対応力などAIの資質を裏に含めて語るハラキリに、ニトロはうなずく。
「とはいえAIが作るにしても調理器具や食材は必要不可欠。家庭の営みを求める本能とでも言うのか、週に一・二度ちょっと作るのはそこそこマジョリティ。『ハレの日』ならば手作りはむしろ珍しくない。そのため、なくなりはしない市場であることも確かで」
「『市場』?」
「ええ、ブームと言ったでしょう? 『ニトロ・ポルカト』が『英雄』とまでなった今、その嗜好を真似る人間達が大急増、手始めに姫君とのエピソードに頻繁に出てくる『手料理』に注目、頻繁とは言わないまでも隔日ならば無理なく手軽に始められる、また、『英雄』を育てた環境から家族の手料理による食卓の重要性を教育評論家がここぞとばかりに主張して、勝ち馬に乗りたい芸能人もアピールし出し、となればメディアの話題にならぬ日は皆無。かくしてその市場に空前の好景気をもたらしているんですよ」
 流麗に朗読をするようなハラキリの解説に、ニトロは半ば呆けているような顔で感心しきり、
「……ああ、なるほど……」
 そういえば、以前にも、芍薬がそんな兆候がチラチラ見えると言っていたっけ……そう思いつつ、また自分が起源となってそのような流行が現実に起きてしまっていることには複雑なものを感じつつ――と、そこではたとニトロは思い至った。
「それで、何でハラキリが嬉しいんだ?」
「市場、好景気」
 言って、ハラキリが目を投げてニトロを促す。ニトロは連想し、
「経済……株?」
「ご名答」
 ハラキリは目を弓なりに細めた。実に楽しげに。
「いやー、こういうこともあろうかと買っていたものが全部合わせると凄いことになっていましてねえ」
「なっていましてねえ、じゃ、ねぇ」
 腹の底から愉快げなハラキリに対し、じとりと半眼でニトロは親友を見据えた。
 が、彼のその反応は、彼の真面目さからすれば容易に推測できる。ハラキリはまた笑い、
「何か?」
 真正面から堂々と問われ、ニトロは言葉を失った。
 ――何か……
 何か悪いことが? 何か問題が?
 ……どちらにも、該当しない。インサイダーと言うには余りに遠い。友達の情報を株の売買に利用するとは、と言いたくても、そこに明確な『悪』があるかと言われればうなずけない。――しかし!
「ちょっと不愉快だ」
「奢りますよ」
 不愉快、という感情が、実に悪びれること一つもないハラキリの爽快な物言いに吹っ飛ばされる。

 ニトロは色々な意味で嘆息をつき、
「……向こう一年ファミレスお前持ちな」
「毎日三食でもオーケーです」
「どんだけ儲かったの!?」
「素敵な感じで」
「ていうかンな不確定なことによくそんだけ儲かるほど投資できたね!」
「最後はあれです、ほら、度胸」
「お前いつか絶対痛い目見るから気を付けろな!?」
「肝に命じましょう。けど、その様子だと芍薬は買ってなかったんですかね」
「何を?」
「ですから関連株を」
「……」
「……」
「……」
「おや?」
 ハラキリの頬がひきつった。
「これは根本的に知らなかったので?」
「うん」
「……おや。これはうっかり」
 と、その時だった。部屋のフスマをけたたましく開けて、一体のイチマツ人形が飛び込んできた。
「ハラキリ殿ォォ!?」
 イチマツの絶叫は、芍薬のものであった。イチマツを使っているのは既に『体』を預け終えてしまったためだ。あのアンドロイドの無い明日明後日は一泊二日で『仕事』に出る。護衛は王軍と警察ががっちり固めてくれる。そこで芍薬は一度先に家に戻り、その件について改めて先方と確認を取っていたはずなのだが、どうやら撫子から連絡を受けて『おっとり剣』でやってきたらしい。
 芍薬(イチマツ)はハラキリに飛びかかり、襟を掴んでがっくんがっくん首を揺らして叫ぶ。
「何デバラシチャウンダイ!?」
 がっくんがっくん首を揺らされながら、ハラキリはへらへら笑いをひきつらせて言う。
「いや、こういうことはしっかりやってるはずだと思い込んでましてね?」
「ヤッテルヨ! ケド『一緒ニ』ジャアナインダヨ! ダッテ主様面白クナイ思イモシチャウカモシレナイダロ!?」
「そうだね、芍薬」
 その一言に、イチマツが凍りついた。メンテナンスの行き届いているはずなのに、あちこちからギギギと音を立ててニトロへ振り返る。
「定期や保険は聞いてるけど、それは聞いてないな」
「……御意」
「資金はどこから?」
「あたしノオ小遣イカラコツコツト」
 まあ、そんなところだろう。
「それは、芍薬に、芍薬のために使って欲しいお金だよ?」
「……」
 芍薬の操るイチマツが床に下り、うつむく。応えのないのは、まあいい。
「でも、口座はどうしたんだい」
 AIは口座を持てない。
「母様ニ協力シテモラッタ……」
 ニトロはうめいた。『してはならない』ことに関しては高頻度でうっかり失敗する母にも隠し通されていたとは! 確かに金銭の関わることにだけは異常にしっかりした人だけども!(ちなみに仕事も会計経理関連である)
「デモ……」
 と、芍薬がつぶやく。
「主様ノタメダモノ」
「気持ちは嬉しいよ。けど、だからってさ」
「まあまあ」
 そこに、流石に事の発端である以上居たたまれなくなり、ハラキリが口を挟んだ。
「何も悪いことをしていたわけじゃないんですから」
「悪くなけりゃ何しててもいいわけじゃないだろ? 話を聞いている、いないで話が大きく変わることもある」
「まあ、そういうこともありますが」
「まさに、そういうことだよな」
 ハラキリは、内心で額に手を当て天を仰いだ。またもうっかり裏目に出してしまった。火に油とまでは言わないが、歯車に潤滑油とはなっている。
「でも俺はお金がどうこうっていうよりも、芍薬がそんな大事なことを黙ってやってたのが嫌なんだ」
「あたしノタメノヘソクリジャナインダカラ、イイジャナイカ」
 流石にすねはじめ、芍薬が反論する。ニトロも反じた。
「芍薬のためのヘソクリなら笑ってたよ。そして、それなら『必要なら言ってくれればいいのに』って思ったよ。いくら俺が貧乏性でも」
「違ウヨ主様、ソウイウコトジャナクテ」
「解ってる。そんなつもりじゃないのは。だけど」
「デモソレッテあたしニソウ'悪ク'思ワレテルッテ、主様ガソウ思ッテルッテコトダロウ?」
「違うよ芍薬、そういう話でもなくて――」
 売り言葉に買い言葉、とは少々違うものの、それでも少しの掛け違いから始まった口論は喧嘩の様相を呈してきた。やがてそれは加速していき――
「だから!」
「デモネ!」
 ニトロと芍薬の喧嘩は非常に……実に非常に珍しい。
 ハラキリは、どうも今日は日が悪い、もう口は挟まず黙って事の推移を見守っていた――が、ふと、目の端に新たに現れていたイチマツを捉えてぎょっとした。そのイチマツ……撫子の操るイチマツは、物凄い目で睨み付けてきている。
「……」
 勢いを増して大喧嘩となったニトロと芍薬の言い争いをBGMに、ハラキリはボードスクリーンを手にし、
《大丈夫、『雨』は結局『地』をまたさらに固める》
 ハラキリの筆談に、撫子が片眉を微かに跳ね、一言だけを返した。
《後デ私達モ話シマショウ》
 ハラキリは、思った。どうやらこの対応も裏目ったらしい。撫子の視線から逃れるように顔を背け、頬をひきつらせ、内心うめく。
(これは早速、痛い目をみるはめに――!)


天網(略)+ - 楽遊 2012/02/24(Fri) 19:59 No.966

「ちなみに、『クノゥイチニンポー流護身術』の受講希望者も大量発生しているそうですよ」
 今夜は夕飯を撫子に作ってもらえないらしいハラキリがピザのデリバリーを取ると言い。
「へえ」
 芍薬と大喧嘩をした手前、家にすぐに帰るのも憚られ、ハラキリに付き合うことにしたニトロは、取り分けた内の最後の一切れを手にしながら気のない相槌を返した。
「全く、価値があると思い込んだら『架空』かどうかも鑑みずに殺到するのですから、人間はいつまでも成長しませんねえ」
「いや何悟っちゃったように言ってるのさ」
 ベーコンポテトピザをかじりながら、思えばどこか芝居がかったハラキリのセリフにニトロは苦笑する。
「でも『クノゥイチニンポー流護身術』は存在しないけど、俺の知ってるやつは実在するよ?」
「一つ旗揚げしろと?」
「きっと儲かるよ」
「これは手厳しい」
 ハラキリは深く苦笑した。しかしこればかりは甘んじて受けねばならない『棘』だ。
 サイドメニューで頼んだミートボールをかじって苦笑を押し流し、ハラキリはさっぱりと言う。
「ですが、無理です」
「目立つのは嫌いだから?」
「それもありますが、メニューが基本的にオーダーメイドですから。万人向けに最適化・体系化したものではありません。それなりに『覚悟』が必要でもあります。無理に教えても結局は生兵法、怪我人出すだけで役に立ちませんよ」
「そうか? 基本の『一に逃げる、二に逃げる、三四も逃げて、五に逃げろ』ってのは役立つと思うよ。それから『危ないことはしない、危険には近づかない』ってのも」
「それを常に実行できれば免許皆伝ですがね。しかしそれじゃあ『生徒』は納得しないでしょう」
 ハラキリは力なく言い、ニトロも力なくピザをかじった。
「それに、そのために必要な逃げ足の強化はどっちかといったら『陸上競技』ですし」
「よく走らされたね」
「よく走りきりましたね」
 ハラキリのそれは、誉め言葉だった。思わぬタイミングのことでニトロは思わぬほどの喜びを感じた。しかし、どこかやりきれない。とはいえ、その喜びは一つの決意を後押しする力をくれた。
(やっぱり、俺から謝らないとな……)
 南副王都(サスカルラ)での『仕事』を終え、アンドロイドが戻ってくる明後日の夜には、そのまま芍薬とハラキリと小旅行に行く予定だ。その翌日にはハラキリが帰宅し、それからは芍薬と二人で一日ゆっくり楽しんでくる旅程。それも鑑みれば仲直りは必須事項である。問題は、どう謝るかだが……やはりそれも、答えは一つだろう。
 ピザを食べ終え、ナプキンで手を拭き、ニトロは言った。
「さて、そろそろ帰るよ」
「もうですか?」
 何となく引き止めたい様子でハラキリが言うが、ニトロは口に揺らがない意志を込め、
「車はちょっと預けておいていいかな。すぐ後でまた取りに来るから」
 ハラキリはその言葉に片眉を跳ねて、
「芍薬と、ですか?」
「そう」
 ニトロはどこか吹っ切れたようにうなずく。ハラキリは何故か苦笑し、
「その前に呼んだらどうです? 芍薬は来ますよ。車内でも話せるでしょう、何なら呼ぶ時にだって」
「それはそうだけどね。でもそれだと『まず使うために謝る』なんて感じもするじゃないか」
「気にしすぎでは?」
「気にしたいのさ」
 そう言われては仕方ない。ここら辺の堅物さ、あるいは誠実さがマイナスに働かないのもニトロの強みであるのだろう。
 しかし、
「では、今日はどのようにお帰りで?」
「初心に帰って走って帰るよ」
「騒がれますよ」
「ここからならほとんど川沿いのコースを辿っていけるから、まあ、皆で健康になろうかな」
「食べたばかりですし、脇腹痛くなりますよ?」
「ああ、それは……そうか。でも」
 と言いかけて、ニトロは口を閉じた。それを罰としたとしても芍薬は喜ばない。むしろまた怒らせてしまうだろう。
「……タクシー、呼んでくれる?」
「イエ、韋駄天ニ送ラセマショウ」
 と、そこに、口を入れてきたのは撫子だった。イチマツを操作し、客人のいるために、お茶を運んできたところだった。
「いいの?」
 ニトロが問うと、撫子は意味ありげにハラキリを一瞥し、
「ハイ」
 うなずく撫子の明るい顔とは対照的にハラキリは苦笑を深めている。ニトロはそれを気にはしたが、まあ、そちらの間にも何かとあるのだろう。
「それじゃあ、お願いするよ」
「スグニ用意サセマス。ガ、一ツ、コチラノオ願イヲオ聞キ下サイマセンカ?」
「何?」
 ニトロが了解を前提にした問いを返すと、撫子は優しい微笑みを浮かべて言った。
「幾ツカ『体』用ノ服ヲ作ッテイマシタノデ、芍薬ヘドウゾ持ッテ帰ッテヤッテ下サイマセ」


天と地と(時期・『天網』の前) - 楽遊 2012/02/25(Sat) 18:31 No.967

「主様、チョットイイカイ?」
 銀河共通語の勉強を終え、アデムメデス史の勉強を始めようとしていたニトロへ、芍薬がシャツを畳みながら言った。
「飛行車(スカイカー)ガ必要ダト思ウンダ」
 ニトロは板晶画面(ボードスクリーン)にテキストを表示させながら、小さく苦笑した。
「初めから『兼用』を買っておけば良かったね」
 芍薬の提案は、至極当然なものだ。現在の自分が走行車(ランナー)で外に出ようものならたちまち渋滞を引き起こす。
 以前、車を買う際に、芍薬は飛行機能のある車を強く求めていたものだった。しかし、
「俺の見込みが甘かったよ」
 そう、その時はニトロが反対した。何しろ走行車と飛行車では文字通り金額の桁が違う。
「ソンナコトハナイサ。アノ時ハ、今頃主様ハ自由ノ身ノ予定ダッタンダ」
 芍薬はそう言うが、正確には『予定』ではなく、それは『ニトロのたっての希望』に他ならなかった。それに、その時に脳裏にあった『予定外』と現状を比べれば、その悪化度は桁違いにも程がある。
 ニトロは芍薬の小さなフォロー(と、もしかしたら慰め)に笑みを浮かべて、
「良さそうなのをピックアップしてくれる?」
「予算ハ?」
「全部芍薬に任せる。ただ『詰め』だけ、一緒に考えさせてくれるかな」
 裁量権を渡しながら、しかしAIがマスターと共同作業をすることに喜びを感じる点をしっかり押さえたマスターの指示に、芍薬は瞳を輝かせながら大きくうなずいた。
「承諾!」


 さて、それで大騒ぎとなったのは自動車業界である。
 発端は、芍薬が三社のディーラーに試乗の予約と、納車可能日を問い合わせたこと。
 ――『ニトロ・ポルカト』が飛行車を買おうとしている!
 そのニュースは偶然も重なって瞬く間に業界全ての人間に知られることになった。……というか、その『偶然』が、たまたまメールを受け取ったディーラーが浮き足だった際、たまたまそこに来店していた客の一人――噂話に関して特異な才能を持つ種類の人間が、その才能を発揮して鋭く感づき、いち早くネットのコミュニティに情報を書き込んだために社会的にも知られることとなった。
 即座に、ニトロの下に『提供の依頼』が殺到した。
 無理もない。彼は今や『次代の王』にして『英雄』である。彼が所有するとなれば宣伝効果は絶大、最高級車を複数台贈ったとしてもつりがくる。
「アル程度ハ予想シテタケドネ」
 国内どころか国外メーカーからもきたメールをザッと紹介して、芍薬は器用にアンドロイドの口許に苦笑を刻んだ。
「ドウスル?」
 売り込みが来たところで、芍薬が候補とし、ニトロの気も引いたのが初めの三社のもの。あとは実際の乗り心地を確かめて絞り込み、それから楽しいカスタム談義に入るところだった。
 だが、
「全社きてるんだねぇ」
 ライバルに出し抜かれてはならないとばかりに、
「御意。全社」
 もしここで『お客は平等に扱う』とばかりに沈黙を決めるメーカーがあれば飛びついていたかもしれない。もちろん、安全のために手に入れようというのだから情で決定することは無いのだが、とはいえ情が働かないこともない……そんなことを止めどなく思いながら、一方でニトロは頭をしばし悩ませ、
「ひとまず、最初の以外は丁重にお断りして」
「承諾」
「三社には試乗次第と」
「御意」
「で……あくまで個人で購入することを伝えてくれるかな。そうだね――『購入するあかつきには、是非素晴らしい製品への正当な対価をお贈りする機会をいただければと存じます』……そんな感じの、変でなければ文脈に合わせて使ってくれる?」
 その手の文章ならAIに任せきりでもよいものを……慣れぬ文言をちゃんと自分の言葉で作る誠実さに、芍薬の口許に自然と笑みが浮かぶ。
 さらにニトロは続けた。
「それから、もしそれでも受け取れないと言ってきたら――」
 ティディアとの『映画』の時、両親が交通事故で死んだと思い込まされていた折りに知ったことが、ニトロの脳裏に蘇る。
「『交通遺児のための基金に寄付してください』って話がまとまるように」
 言ってニトロは、芍薬に、まるで照れ隠しをするように格好つけた顔をして、
「どうかな?」
 芍薬の答えは、無論、一つである。しみじみと誇らしく、芍薬はうなずく。
「承諾、主様」


天と地と+ - 楽遊 2012/02/28(Tue) 19:46 No.968

 ニトロ・ポルカトの飛行車購入に関する小さな騒動は、彼が即座に示した態度のためにあっさりと鎮火した。
 もし、少しでも躊躇や誘惑への揺らぎを見せていたらきっと各社の競争は激化し燃え上がっていたであろうが……
「ティディア様のお言葉通りになりましたね」
 9月に東大陸で行われる領主会議(ラウンド・テーブル)に向けて、部下から上がってきた大量のレポートを恐ろしい速度で精読するティディアに、紅茶を差し出しながらヴィタが言う。
 彼女の言葉はつい昨晩のことを示していた。ラミラス星(こく)の外相と会談を終えた王女は、会談についての会見の最後に『恋人』の件についてコメントを求められ、
 ――『私が何か言うことはないわ。彼は自分できちんと答えを出すから』
 とだけ言ったのだ。
『恋人』への強い信頼を示したセリフとも取られたそれは、今頃はニトロが私に応えた……転じて、一方通行でなく、二人の間にある双方向の信頼をまた担保するセリフとして皆に受け止め直されているだろう。
「でもねー」
 前回(さくねん)前々回(いっさくねん)の会議前にも見たような代わり映えのなくつまらないレポートから、ヴィタの淹れた紅茶の美しい明褐色に目を移し、ティディアはことさら面白くなさそうにつぶやいた。
 ヴィタが小首を傾げる。
「……何か?」
「相談が――そりゃ相談なんか元からされないけれど、それでも全くないのは寂しいなあと思うのよ」
「はあ」
「それに、折角の楽しいネタじゃない? 社長、部長、課長、新人あたりでチーム組ませてニトロへの進呈権争奪チキンレース! とか、業界的常識クイズ大会・色々暴露しちゃう罰ゲーム付き! とか……絶対楽しめたのに」
「それは確かに!」
 ヴィタはやたらと力強くうなずいた。
 レースにしろクイズにしろ、開催されていたなら極限状態における様々な人間模様が見られただろう。もしくはそんな企画を開いたクレイジー・プリンセスが彼に面白おかしくお仕置きされていただろう。
 確かに……確かに!
 しかし、ああ、なのに!
「ッ残念です」
 唇を噛み、心底悔しそうにうつむく執事を目にすると、不思議とティディアの心境は転じるものだった。
「ね、残念よ」
 そう言いながらも、先程までの面白くなさは胸にはない。妙にさばさばとしたティディアは紅茶を飲みながら、この件でのニトロの振る舞いに彼の成長の証を見て嬉しくなり、一方で途端に沸き上がってきた彼と会いたい気持ちに胸を痛め、そして、
「……残念です……」
 うなだれたままのヴィタがしみじみと繰り返したのに、彼女は思わず笑ってしまった。


充実一途(時期・一番最初) - 楽遊 2012/02/29(Wed) 21:08 No.969

 全ての事を終え、『霊廟』からニトロと共に帰ってきた芍薬は、張り切っていた。
「サア、主様」
 観衆とメディアの大歓迎を受け、騒ぎへ区切りをつけるコメントに加えて帰還した『戦士』の背中を全国に送り、そうして安息の自宅に辿り着き、ようやく一息をつこうとしていたニトロに芍薬は大きく腕を広げて言った。
「ドントオイデ」
 ニトロは、部屋に入るなりの芍薬の言動にいまいちピンとこず、小首を傾げて……
「ああ」
 と、うなずき、続けて苦笑した。
 彼の脳裏に『霊廟』でのやり取りが蘇る。確かに、自分は芍薬に「胸を貸してくれる」かと訪ね、芍薬は快く承諾を返してくれていた。
 ――が、
「もう泣きたい気分は消えたから、大丈夫だよ」
 ニトロがそう言うと、芍薬は少し寂しげに
「ソウカイ?」
 とつぶやくように言い、渋々腕を下ろした。
 しかし、芍薬は張り切っていたのである。
「ソレナラマッサージデモシヨウカイ? 整体モデキルヨウニナッタヨ?」
 再び腕を広げて、さらに軽く手を振りながら瞳を輝かせる。
 ニトロは、戸惑った。
 芍薬は、まるで鼻息でも荒く吹き出しそうな勢いである。どうしても――胸を貸すなり、マッサージなりをしたい願望だだ漏れである。
 されど、
「この戦闘服(ふく)の機能でクールダウンは適切に行われてるし」
 しかもそれは芍薬の監督下で、だ。
「整体も、日頃の『メンテ』が効いてるから……」
 しかもそれも芍薬(とハラキリ)の監督下にある事だ。ジムのトレーナーが一流アスリート並みに恵まれていると舌を巻くほどの細やかさで、普段から、特に芍薬が世話をしてくれている。
「だから、今日はどっちも平気だよ」
「……ソウカイ?」
 ニトロの返答は、当然と言えば当然のものである。芍薬もそれは理解している。だが、芍薬は張り切っていたのである。
「ソレモソウダネ……」
 つぶやくように言って腕を下ろす芍薬は未練たっぷりだ。
 ニトロは怪訝に思い、ちょっとしょんぼりしかけている芍薬を観て……
(ああ、『できるようになった』――か)
 彼は芍薬のセリフを反芻し、そこに込められた芍薬の『歓喜』に気がついた。そして気がつくと同時、自分は果報者だと目元を弛ませる。
「明日の朝は、焼きたてのクロワッサンが食べたいな」
 ニトロの、その突然の希望に芍薬は小首を傾げながらも、
「御意」
 と返すと、マスターはさらに言った。
「昼は生パスタがいいな。ソースも任せるよ」
「……」
 その時には、芍薬は理解していた。
 ニトロの意図、気持ち、その思いやり、
「夜はちょっと豪華にフルコース。メニューも買い出しも、全部任せていいかな?」
「承諾!」
 そう、マスターの注文は、いずれもこれまでの多目的掃除機だけでは出来ないことばかりだった。クロワッサンは生地を作り、また生地とバターを折り重ねて伸す必要がある。生パスタも生地をこねる必要がある。この『伸す』や『こねる』という作業が、つまり体重をかける作業が、多目的掃除機では苦手とすることなのだ。もちろんそれぞれ専用の家電を併用すれば多目的掃除機でもなんら問題なく対処できるし、今時家庭でパンを作るなら『パン作り機』を使用するのが常識なのだが、そこら辺『手作り』を仕込まれているニトロはそれらを所有しない。ということは、必然、『その体で』手作りしてね――そういうことになる。買い出しなどは特に極めつけであろう。
 マスターがこちらの気持ちを汲んでくれたことも嬉しくて、芍薬は何度もうなずきを繰り返した。
 その様子に満足したニトロは笑み、
「それじゃあ汗を流してくるから」
「甘イノガイイカナ?」
 ニトロはうなずき、バスルームに向かった。
 芍薬は早速ミルクティー用の茶葉を用意し――新しい体は本当に便利だ――湯を沸かして――この体は多目的掃除機と違って細かい作業もしやすいし、基本的に『人間』のために作られている間取りの中で動きやすい――棚からカップを取り出した。
 そして、
(ソウダ)
 防音の効いた部屋の中にいても、人間レベルに調整した聴覚(みみ)を澄ませれば外の騒ぎ声がかすかに聴こえてくる。部屋のコンピューターは、必要最低限の機能を残して『壊した』ままであるため、マンションの各監視カメラを通して外を観ることはできないが……
 芍薬は、閉め切ってあるカーテンと窓に向かった。ニトロが出掛ける際はセキュリティのためにいつもこうしているのだが、反面これでは外から中を窺うことはできない。もちろん手段を選ばない悪質なパパラッチは様々な『違法ではない』装置を用いる者もあるが、軍用レベルの防音・防弾・防振動等各種性能のある特殊ガラスを用いた窓には偏光機能、赤外線カメラ対策機能等を備えた最新防犯シールも貼ってあり、よほどの計器を用いても、さらに分厚いカーテン(もちろん最新のセキュリティグッズ)を重ねられては太刀打ちできない。もしこれをも見透せるような物を使ってきたら? 民間では明らかにあり得ない。『国家保安上のための協力』という建前で現行犯逮捕のために『自由に攻め込める』から、それはそれでありがたいものだ――特に、この機体を手に入れた今となっては。
 芍薬は部屋の電気を消し、カーテンを少しだけ開き、窓を開けてベランダに出た。
 その瞬間、全開にされていた芍薬のセンサーが無数のカメラの視線を感じ取った。カメラは、ニトロ・ポルカト宅が早くも消灯しているのを見るだろう。
 芍薬はベランダの際、手すりの直前に立ち……ここから最も遠い位置にいるカメラに眼差しを投げた。カメラを携える者は――ある大手放送局の『下請け』であったのだが――ゾッと背筋を凍らせた。
 最遠のカメラが目を反らしたのを『目視』した芍薬は、マンション敷地内に侵入して隠れている者に視線を移し、そして唇に人差し指を立てた。
 凛とした姿の、異国の装束に身を包む『戦乙女』の静かに叱りつけるその立ち居振舞いは、アンドロイドながらに……いや、アンドロイドであるからこそ美しく、激動と狂騒の『祭』を仕舞う絵として、芍薬のその画像は長らく評判となる一枚となった。そしてまた、芍薬の『警告』はそれが故に強力な規制ともなったのである。
 目論見の成功をセンサーで確認した芍薬は部屋に入り、窓とカーテンを閉めた。それから暖色の常夜灯だけを点け、マスターの真新しい下着とパジャマをバスルームの前に置いておく。首尾良くシャワーの音が止んだ。キッチンに戻った芍薬は電気コンロの上で保温状態に保たれていたヤカンからお湯をカップとティーポットに入れ、それぞれを温めながらヤカンを再沸騰の火に戻した。
「……」
 芍薬は、その時、ある事に思い至り、夕食のための『買い出し』はできないなと考え直していた。ついさっきのマスメディア等の反応が表す通り、今は事件後最大の混乱期だ。マスターの側を離れるわけにはいかない。
 では、
(デリバリーヲ使ウカ)
 宅配ボックスに取りに行く程度なら、許容範囲である。
(注文内容ヲ漏ラスヨウナ所ヲ選バナイヨウニシナイトネ)
 そうこう考えている内、アンドロイドの『耳』に湯の沸騰を知らせる音が聞こえてきた。湯気を吹くヤカンを見ながら、そこでまた芍薬はふと、まるで天啓のごとくに思い至った。そして――そう、芍薬は張り切っているのである!――大きくうなずいた。
 やがてニトロがバスタオルで髪を拭きながら戻ってくる。
 そのタイミングで甘いミルクティーも出来上がっていた。
 ニトロは嬉しそうに微笑み、あえて冷たいミルクを多目に加えることで風呂上がりにちょうどいい温度に整えられた飲み物に口を添えた。
 ニトロはため息をつく。
 疲れが中からほどけていく。
 一人の時間……とでも言おうか。芍薬は話しかけず、ニトロもそれに甘えて話しかけない。ただゆっくりと、薄暗い部屋で静かな時を過ごす。そういえば何故部屋は暗くされているのかと疑問に思うが、しかしそれも一瞬のこと。芍薬が何らかの気を利かせてくれたのだろうからそれでいい。
 やがてミルクティーを飲み終えたニトロは、
「美味しかったよ」
 と言って振り返り、そこでまた怪訝に眉を寄せた。
「芍薬?」
 床に、芍薬が正座していた。きちんと揃えられた膝の前にはクッションが二つ縦に並べられ、また芍薬の揃えられた膝と腿の上には折り畳まれたタオルが敷かれている。
「耳モ綺麗ニシヨウ」
 瞳を輝かせて、芍薬は言った。
 ニトロは思わず笑ってしまった。芍薬のその行動は明らかにはしゃぐ気持ちにあかせたものだ。そこまで? と半分呆れてしまうし、反対では、そこまで……と我慢させていたことに詫びる気持ちになる。
 ――しかし、
「サ、主様」
 ぽんと膝を打つ芍薬のもう片方の手には耳掻きがある。
「いや……」
 ニトロは苦笑した。
「でもそれはちょっと気恥ずかしいかな」
「何言ッテルンダイ。恥ズカシイコトナンテ一個モアルモンカ」
 チャキチャキとした調子で芍薬は言う。ニトロからすれば何はともあれ『膝枕』という行為自体が何ともあれなのだが……
(まあ、ね)
 ニトロは、うなずいた。
 芍薬の正面、クッションの上に一度座り、それから少しだけ躊躇いながら芍薬の膝に頭を載せる。
「硬クテ痛カッタラゴメンヨ」
 いくら素晴らしい人工皮膚と人工筋肉を使っていても、大部分は金属や無機質から成るアンドロイドの体だ。確かにその膝は特に人間のものらしからぬ硬度を感じさせ、『体温』も不自然である。
 だが、ニトロはそれらの奥にあるものは時に人より『あつい』ものが流れていることを知っていた。
「大丈夫だよ」
 言って、横を向く。
 すぐに耳掻きが絶妙の力加減で掃除を始める。
「痛カッタラ言ッテオクレ」
「大丈夫、気持ちいいよ」
 実際、本当に気持ちがいい。
 こうして誰かに耳を掃除してもらうのは幼い日以来のことだ。母は下手だったから、この役はもっぱら父のものだった。しかし、その思い出の補正を借りてもなお、芍薬の腕前は素晴らしい。
「ハイ、反対」
 言われて向きを変えるニトロは、いつしかまどろんでいた。
 汗を流し、甘いミルクティーを飲み、そして、胸を借りることはなかったが、膝を借りてのこの心地よさ。
 数日に渡って強い緊張の中にあったニトロの心はすっかり弛緩し、彼が急速に深い眠りにつくのは自然なことであった。
「……主様?」
 聞こえてきた寝息に問いかけを返してみるが、マスターは反応しない。
 自分の膝の上で眠りについたマスターを、芍薬は微笑んで見つめた。
 丁寧に掃除を終え、多目的掃除機を走らせて持ってきたドライヤーで髪を乾かす。
 その間もニトロは起きない。
 すっかり安心しきり、無防備に眠り続ける彼の姿は、つまり、芍薬への信頼に他ならなかった。
 芍薬は、オリジナルAIとしての『人生の手応え』あるいは『生の実感』を強く強く胸に抱きながら、眠るマスターの体を軽々抱き上げた。
「コレカラハ、毛布ヲカケルダケ――ジャアナクナルネ」
 言いながら、ひょいと足も軽やかにベッドに向かう。そうしてマスターを優しく横たえ、ケットをかけ、
「オヤスミ、主様」
 返事はない。
 ただ穏やかな寝息だけが続いている。
 しかし、何よりこれこそが芍薬への最高の返事であった。
「――サテ」
 常夜灯も消し、真っ暗な部屋の中でも芍薬は昼の平原を歩くようにキッチンへ向かう。
(クロワッサンノレシピハ……)
 守りきった主のデータからパンのレシピ集を参照し、
(足リナイモノハ、ナイネ)
 ならば支障はない。
 芍薬は張り切っていた。
 朝が来たら、マスターを焼きたてのクロワッサンの芳しい香りで起こすのだ……と。


思い出の(時期・一番最後) - 楽遊 2012/03/02(Fri) 22:35 No.970

 早朝、ミリュウは畜舎にいた。心から楽しく、心から嬉しい成人のお祝いを受けた翌日である。
「よし」
 東に高い尾根があるため、この地の日の出は遅い。土地が西南に向けて開けていることもあり、南の空には暁光の気配を感じるが、それでも太陽の温もりはまだまだ遠い。熱源を失ってから一晩を経た空気は涼しいというより冷たい。
 だが、ミリュウの頬には汗が流れていた。今の今まで、ルッド・ヒューラン家の子女と共に畜舎の掃除をしていたためだ。この掃除は、元々はお世話になるのだからと彼女自身が望んで得た仕事だったが、今では彼女の楽しい日課である。執事のセイラにはお姉様と弟様がいらしているのだから今日はお休みになってと言われたものの、しかし彼女は変わりなく参加した。昨日飲み過ぎたルッド・ヒューラン家の父と長男が二日酔いで寝込んでいるため人手が足りないという理由もある。が、もう一つ、何より大切な目的のあるために。
「準備できましたか?」

 ヤカンと、必要な道具を入れたタライを持ってやってきた作業着姿のセイラが、肩にかけたタオルで汗を拭く同じく作業着姿のミリュウに声をかけた。
 ミリュウは振り返り、
「ええ。ばっちりよ」
 綺麗に整えられた房に立つ彼女の傍らには、柵に繋がれ黙々と飼い葉を食む一頭のヤギがいた。その乳房は見事に膨れている。他のヤギは別のところで搾乳機に繋がれているが、この一番乳を出す一頭を特別に借りてきたのだ。
 カロルヤギ。
 この辺りが原産のヤギで、受胎率の低さゆえ数が少ないものの、そのミルクの味はアデムメデス自生のヤギの中で一番と評される。
「でわ、はずめましょうか」
 故郷にいるからだろう、セイラは近頃よく訛る。始めはその度に恥ずかしそうにしていたが、しばらくすると開き直って気にしなくなった。ミリュウも当然気になどしないのだが、しかし、油断すると訛りがうつりそうだとちょっと心配している。
 ミリュウは水場で手を洗ってきた。その間に、セイラが持ってきた湯を含ませたタオルでヤギを拭き清めていた。仕事をミリュウが引き継ぐ。新しいタオルを湯に絞り、ヤギの乳房を最後に丁寧に綺麗にして、それから彼女はヤギの傍らに屈み込むと慣れた手つきで乳を搾り出した。始めの数回は衛生のために捨て、次いで手持ちの搾乳缶で受け止めていく。
 ヤギに余計なストレスを与えないよう一定のリズムで搾りながら、ミリュウは思う。
(喜んでくれるかな)
 脳裏にあるのは、愛する姉でも弟でもない。ニトロ・ポルカト――大変な迷惑をかけたのに、私の全てを受け止め、その上で叩き潰し……許し、救ってくれた恩人。
 敵対しながらの会話ではあったが、彼はルッドランティーを飲みたいと言っていた。新鮮な乳で淹れた本場のお茶は本当に美味しい。味に関して言うなら手搾りも搾乳機も変わらないが、それでも可能な限りこの手で贈りたいと思う。
 ミリュウが一心に乳を搾っていると、
「これは」
 と、セイラが驚きを声にした。
「そんな畏まらないで下さい」
 続いて聞こえてきた声に、ミリュウも驚いた。思わず声を上げそうになり、ヤギを驚かせてはいけないと息を飲んで声を潰す。
「上手いもんだね」
 その声は、今度はすぐ近くから聞こえた。
 ミリュウは手を止め、振り返った。
 そこにはやはりニトロがいた。長袖のシャツとジーンズを着た彼の背後には、ユカタという異国の服を着たアンドロイド――芍薬がいる。
 腰を曲げてこちらを覗き込むニトロの顔は思わぬほど近くにあり、どぎまぎしながらミリュウは口を動かし、
「おはようございます」
 言って、ミリュウは「しまった」と内心で顔をしかめた。ニトロには楽に付き合おうと言われている。なのに今の口調は『畏まり』、まるで『目上』の人に対するものだ。
「うん、おはよう」
 しかしニトロはミリュウの心配には気を回していなかった。それよりも、初めて生で見るヤギの乳搾りに彼は興味津々であった。ミリュウは彼の瞳に童心が宿っているのを見て取り、安堵した。
「早起きなんですね」
 乳搾りを再開しながら、ミリュウは言った。敬語ではあるが口調は軽い。
「普段はそうでもないよ」
「では……」
「折角だから、色々見ておきたいからね。パティもここで馬に乗ったのをきっかけに、動物に関心を持ったって言っていたから」
 ミリュウの脳裏に、すぐそこの乗馬場で弟と二人乗りした記憶が蘇る。彼女は得心の吐息を漏らし、
「それで」
「そう、それで動物園」
 ミリュウは動物園の思い出を語る弟の顔を思い出して笑顔を浮かべた。あの子は動物園で買ったパジャマをわざわざ持ってきていた。姉と一緒に寝ている弟は、ひょっとしたら今ごろ馬に乗る夢でも見ているかもしれない。いや、それとも動物園の夢だろうか。
「いつも弟がお世話になっています」
「いやいやこちらこそ」
 ニトロの反応に、ミリュウはどうしても微笑ましい気持ちになってしまう。ため息が出そうなほど、本当に……『楽』だ。
「ところで」
「はい?」
「俺にもできるかな」
 ミリュウは手を止めた。
 振り返って見ると、ニトロはうずうずとした様子だった。この瞬間だけは、彼が年下の男の子のようにも見える。
 ミリュウはセイラを一瞥した。そこに許可の笑顔があるのを確認し、たちまち微笑を刻んでニトロへうなずく。
「ええ、もちろん」
 そこでニトロはセイラに連れられ水場へ行った。手を清潔にしてくる短い道中で、基本的な諸注意も受ける。
「あなたのマスターは、本当に優しい人ね」
 ニトロを待つ間、ミリュウは芍薬に言った。思えば初めてちゃんと言葉を交わす。芍薬は、微笑み言った。
「姫様モ、オ優シイ」
 意外な応えに、ミリュウは戸惑ってしまった。
「そんなことは……」
 芍薬には――『ニトロ・ポルカトの戦乙女』には嫌われ、憎まれているとも思っていた。なのに、
「随分ト素敵ニ見エマス」
 主に恥をかかせないための丁寧な口調、しかし、そこに世辞は感じられない。
「……ありがとう」
 ミリュウは、つぶやくように言った。
 芍薬は何も応えない。
 だが、十分だった。
「お待たせ」
 ニトロがセイラと共に戻ってくる。
 ミリュウは感激を胸に大事に仕舞い込み、腕まくりをしたニトロを迎えた。
 セイラが、そろそろ食事を終えてしまいそうなヤギへの対処を鑑みて、すぐにヤギの綱を取れる場所に立つ。
 ――と、言うことは、
「よろしくね」
「はい」
 セイラに教わった通りの位置に屈むニトロの側に、ミリュウも屈む。文字通り初心者の彼の代わりに搾乳缶を構えるためだ。
「えっと」
 ニトロがおそるおそるといった様子で、ヤギの乳首に手を差し出す。
「こんな感じ?」
「もっと根本から……そうです」
 たどたどしく、ニトロが乳搾りに挑戦する。が、何度手を握っても上手く搾れない。苛ついたようにヤギが身じろぎした。その時、あんなにも度胸のあったニトロが怯えたようにびくついた。
 それがあんまり不思議で、だからおかしくて、ミリュウは思わず笑みを浮かべてしまう。さらには、マスターがびくついても全く動じず事を見守っているAIの態度を思えば、そこにはつまり過保護はなく、むしろマスターへの確固とした信頼があるのだと窺えて、今改めて、二人のその関係性を尊く思う。
「ニトロさん」
 声をかけ、ミリュウはニトロの手に手を重ねた。
「このように」
 言って、力の入れ方を伝える。
 ミリュウが手を離し、ニトロは今の感覚を忘れぬ内に、
「こう?」
 と、搾った。
 すると搾乳缶に、勢いよくヤギの乳が注がれた。
 パッとニトロの顔が明るくなる。
「そうです」
 ミリュウの声を受け、また搾る。一度失敗し、次は成功する。その次も成功し、次は失敗、が、その後は安定して上手くいきだした。
「覚えがお早いのですね」
 セイラが感心して言う。 ミリュウも感心していた。
 ニトロは微笑み、
「先生がいいからだよ」
 その言葉にセイラは少し驚いたような顔をして――しかしすぐに、己の主人を嫌味なく『先生』と言い切った少年の心に、とても嬉しそうに目尻を垂れる。
 一方で『先生』と言われたミリュウはどのように応えたらいいのか解らず、ただ黙って手伝いを続けていた。
「そういや、このミルクはどうするの?」
 慣れぬ労働に、額に汗を滲ませながらニトロが問う。
「あの……ルッドランティーを」
「作ってくれるの?」
「はい」
「そりゃ楽しみだ」
 ニトロの言葉にも世辞はない。彼は純粋に、喜んでくれている。
「使ふハーブわミリュウ様がお摘みになられた野生種でスよ。香(こぉ)りがイチだンと強ぃンです」
 故郷にいるためもあるのだろう、かなり訛りながら、それだけに、ひどく自慢気にセイラが言った。
「野生種?」
 ニトロは感嘆の吐息混じりに応えた。ルッドランティーに使われるハーブは、元々は足場の悪い岩肌の斜面に生えるものだ。カロルヤギの好物でもあり、昔は牧者が放牧ついでに採取してきたという。
「大変だったでしょ」
 乳絞りを続けながら問うと、ミリュウは小さく
「いえ……」
 とだけ応える。
 気を良くしたのはセイラであった。彼女はやはり誇らしげに、
「ミリュウ様わなンでぃも嫌がらづにお手伝いくだせぃまス。房(ぼー)の掃除も『ボロ』も気んせズに「ちょっとセイラ」
 いたたまれず、恥ずかしさに顔を赤くしてミリュウが執事を制止する。そこでセイラは
「あら、お恥ずかしい」
 と、口も訛りも止めた。
 その間、ニトロはずっと笑い出したいのを我慢して、ゆっくり丁寧に乳を搾っていた。
 やおら、恥ずかしさを振り払うように努めて平静な顔つきでミリュウが、
「ニトロさん、そろそろ」
「おしまい?」
「ええ、おしまいにしましょう」
 ニトロは『先生』に従った。その場をどき、立ち上がって腰を伸ばす。
 ニトロに代わったミリュウは素早く残りの乳を搾り取った。けして急がず、しかし素早く。リズミカルで慣れた手つきに、ニトロがそうしていた時に比べ、ヤギは明らかにリラックスしている。
 ニトロは改めて感嘆した。
 その姿は、ある種の美しさを持っていた。
 ここに居ること、そしてここでの仕事を『謹慎中のただの義務』、あるいは『腰掛け』などと少しでも思っていたらこうはいくまい。これは真剣に取り組んでいるからこその姿だ。彼女の執事が自慢したがるのも解る。執事だけではない。昨日のパーティーでも、ルッド・ヒューランの家族らは純粋な妹姫への信望を口にしていた。中には子ども達もいて、その子どもであるがゆえの手厳しい審判達も、心から彼女を慕っていた。それから……面白かったのは、第一王位継承者を眼前とする緊張のあまりにへべれけに酔っ払ったルッド・ヒューラン卿とその長男が即興で作った『姫姉妹』を讃える調子っ外れな歌だ。姉に対する詩は華美すぎていまいち要領を得なかったが、妹に対するものは素朴ながらも惜しみない親愛が込められていた。
 ――その微笑みは人の心を和ませる、優しく真面目なミリュウ姫。
 蓋をした搾乳缶を大事に抱え、乳を搾らせてくれたヤギを労うように撫でる彼女に、ニトロは言った。
「えらいね、ミリュウは」
 すると、ミリュウはニトロを凝視した。
「いえ……そんなことは……」
 ふいに投げかけられた身に余る言葉に、ミリュウは心から驚いていた。
 そんなことはないと本当に思うから、自然と否定を返してしまったが……
 しかし、ニトロは微笑み首を振る。
「えらいよ、ミリュウ」
 ミリュウの目に、涙が浮かんだ。
「あれッ?」
 思わぬ反応に、ニトロがたじろぐ。
 彼は助けを求めてセイラを見たが、何とセイラはどういうわけかぼろぼろ泣いていた。
 頼みの綱の芍薬は、ただ――どこか嬉しげに――微笑みながら肩をすくめるだけ。
 戸惑い慌てるニトロを目に、ミリュウは涙の玉を指で拭った。お礼に代えて、感謝と真心を込めて、はにかむような笑顔で言う。
「さあ、ニトロさん、お茶にしましょう。きっと美味しく淹れてみせますから」


ホームページを拝見しまし 投稿者:つねさん 投稿日:2014/02/08(Sat) 07:45 No.1047

こんにちは。
ホームページを拝見させて頂きました。
素敵なサイトですね。これからも運営頑張って下さい。

お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3〜30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
イラスト・詩・漫画・小説・エッセイ(あなたの日々の出来事や思っている事)などジャンルを問わず何でも掲載しています。
月刊で150ページくらい。全国に約180人の会員さんがいます。
投稿される作品は新作でなくても構いません。あなたがホームページで発表している作品を雑誌に掲載してみませんか?
東京都内で集会も行っています。お友達や創作仲間作りにご活用下さい。

興味を持たれた方には現在、雑誌代と送料とも無料で最新号をプレゼントしています。
よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページにある申込フォームから簡単に最新号をご請求出来ます。


Re: ホームページを拝見しまし - 楽遊 2014/02/08(Sat) 21:59 No.1048

つねさん、コメントありがとうございます。
早速ですが、投稿雑誌の件、申し訳ないのですがお誘いを受けることはできません。
あしからずご了承ください。

当サイトの運営をもって読者の皆さんに喜んでいただけるよう、頑張りますね。


(期間限定?)ある日のティディアのラジオ「『補』のどこかで」(後でまとめるかも) 投稿者:楽遊 投稿日:2011/02/09(Wed) 21:28 No.832

−−オープニングテーマ、OFF−−

「……」
「……」
「……あー、やる気でないわー」
「出鼻挫きもあまりある!」
「……」
「おい黙るなバカ! つーかお前やる気ないにしても何かしゃべれよさっきのだって危うく放送事故じゃねえか!」
「……」
「なおだんまりか!」
「放送事故って、貴重じゃない?」
「ンな貴重体験いらんわ! 今お前ガラスの向こうの体温総下がりだぞ、ディレクターなんて日に焼けた顔が真っ青になったぞ、やめてやれよ来月嫁さん臨月なんだから」
「そんな妻を放ってパルタン行って日に焼けてくる旦那と仕事したくなーい」(※パルタン=有名な熱帯のリゾート地)
「り・ふ・じ・ん! あまりまくりにも程があるわボケ上司! お前がパルタンのバップビーチの波の音を録らせに行かせたんだろうが! 日に焼けてるのだって真っ白なビーチで一日中体育座りでマイクを波に向けてたからだろ余計な音が入らないように水着姿の観光客にじろじろ見られたり一時間に一回職質されたり日焼けっつうか日火傷しながら! 夕日観ながら泣いてたじゃねぇか最後には!」
「意外にアクセス少なかったのよねー。やる気出ないわー」(※ネットでリアルタイム中継されていた)
「あったり前だ数字取れるかあんな地味な絵面で」
「うん。分かってた」
「うん、まあ分かってただろうよ。
 ……ん? てことは何か? ここまで既定路線?」
「さあここでブロイアDに愛しいハニーからのメッセージです。ミーちゃん、例のをキュー」
「え?」

−−ホテル・ベラドンナから観た夜景は綺麗だった? ふふ、次は殺すから−−

「…………あの、ティディアP?」
「何かな?」
「何かブロイアさんが真っ青通り越して真っ白になっておられるわけですが……」
「来月予定の嫁さん放って浮気はもっと駄目よねー」
「……」
「……」


後編 - 楽遊 2011/02/09(Wed) 21:40 No.833

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「うわあ! 今のは事故ったろ!」
「はい、そういうわけで元気出た! こんばんは! ティディアです! そして今日のゲストは私の恋人、ニトロ・ポルカト!」
「え! この流れで!?」
「ブロイアは今日はもう急いで帰りなさい、そして謝り倒しなさい!」
「あ、うんそれならそれのがいいかもしれないけどていうか俺はお前のこぃ「良い嫁さんじゃないあれで許してくれるってんだから。仕事仲間内で殺人事件は嫌だから手伝ったけど、次は私は知らないからね。でも一発二発は覚悟なさい」
「一発二発て……ハンナさん、元プロボクサーじゃなかったっけ」
「元ヘビー級史上最美の世界チャンピオン」
「……ブロイア、そこで何を突っ立ってる! 足がすくんで動かない? 知るか! 死ぬ気で走れ! そして……死ぬな!」
「……ああ、やっと行った。誠心誠意謝るのよー」
「大丈夫かなあ……。一応『次は』って言ってたけど……」
「急に相談って何かと思ったら。普段あんなに惚気(のろけ)てるくせに、男ってヤーネー」
「……ヤーネーっつうわりにどうでも良さそうじゃないか」
「んー? んふふふふ」
「何だよ気色悪いな」
「んー、だって、私は『浮気』の心配がないもの。ニトロにはそんなことありえないでしょ?」
「そりゃまあ、「んふふふふー。ほらー」
「いやまて話は最後まで−−ってミーリャンさん、なにそのマキの合図、え? CM? ちょっと待って今大事な話「それじあ公共広告の後はお便りのコーナー、今日のお題は『浮気』について」
「おま、また台本にないことを……っ!」
「臨機応変が売りだもの。大変よニトロ、ブロイアDの弁護を仕切れるかしら」
「無茶ぶりにもほどが極まりある!」
「さあ、今夜は二人の男がサンドバッグ? みんなどしどしメールしてね!」
「やぁめてええええ!!」


−−(CM)あなたは悩みにつけ込まれ、強引な勧誘を受けていませんか?……





誤字脱字等連絡用 投稿者:楽遊 投稿日:2010/12/05(Sun) 22:41 No.758

誤字脱字や誤用などのご報告にお使い下さい(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2010/12/30(Thu) 22:19 No.794

少々うろんとなって酔いの程度を彼に伝えた。

うろんな目付き 相手を疑うような場面で用いるはず。
とろん とかなら 眠気とかに大して使われるボンやりとした目付きのはず。


こたへ も酔による言い方が悪い、ろれつが回らないという言い方なのか。 答え か 応え かなぁと推測したけど。


この二点が気になったところです、書き込みする前に色々調べてたら、投稿時間制限ひっかかってパァ・・・

この二点だけのはずなんです。


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2010/12/31(Fri) 00:14 No.795

こんばんは、常闇さん。
早速ですがご指摘・ご質問にお答えいたしますね。

まず『うろん』ですが――

1 正体の怪しく疑わしいこと。また、そのさま。「―な者がうろついている」
2 確かでないこと。真実かどうか疑わしいこと。また、そのさま。
「誤を正したり、―な所は字書を引いて見たりして」〈風葉・恋ざめ〉
3 乱雑であること。また、そのさま。
「かき本は字が―ですぢない字どもをかきをけども」〈史記抄・高祖本紀〉
(goo辞書)

となりまして。
ここの「少々うろんとなって酔いの程度を彼に伝えた」では、1と2によって『正体が怪しくなりかけている』ということと『確かでなくなってきている』のどちらともとれる形の意味・ニュアンスで扱っています。
また、「酒で正体を失う」という言葉もありますので、それに“少々”なってきている、ということでもあります。もちろん、こちらのニュアンスでは、辞書の「1」に強くよることになります。

ご指摘の『相手を疑うような場面』で使う場合は、「うろんな目付き」そのものが相手を疑う目なのではなく、「うろんな相手を疑う目付き」等という文の形にすると僕は理解しています(辞書「1」の用例ですね)。


そして『こたへ』は、ご推察の通りろれつの回ってない表現です。
こちらはこの表現に変更する前は『応え』の字を当てていました。


以上となります(^^)


投稿時間制限についてはご面倒をおかけ致しました。もう少し長く設定しておきますね。これ以降は大体60分くらいは許容されるはずです(この時間は投稿キーの表示から、ということになっています)。

それにしても、本年も丁寧な誤字脱字のご指摘をありがとうございました。
来年もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を!(^^ノシ


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/04/04(Mon) 23:21 No.856

掲示板
全裸の女も全開のアレも物の見事に真ッ金々、

小説
全裸の女も全力のアレも物の見事に真ッ金々、

ちょっと解らないんですが、掲示板での全開はひりだしている最中ということ、小説では全力? いきんでいるというほぼにた描写で造ろうという意味ですか?

裸婦像ってことはまたお前はぞろモデルが必要だとかで町の皆さん困らせるだろ?

ぞろ単体における意味はなんでしょう?

保健も効くから

 ●利く(役に立つ・作用する・機能する)

▽例▽
応用が利く・機転が利く・気が利く・顔が利く・ごまかしが利かない
学割が利く・利いたふうなことを言う・利き腕・ブレーキが利く
  
●効く(ききめがある・効果がある)

▽例▽
効き目がある・薬が効く・宣伝が効く・風刺が効いている

このあたりはむずかしい・・・利くに軍配あげてみる。


あれ? 一時間も開いてないのにキー無効にされた・・・


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/04/05(Tue) 21:45 No.857

おひさしぶりです、常闇さん。
お元気そうで何よりです(^^)

さて、早速参りますね。

『全開のアレ』と『全力のアレ』は、前者だとより「肉体方面」のみを想像させそうで、“出されたもの”にもかかる意味合いが薄れているな――と考えましたので、後者に変更したものです。「全力で出してるアレ」と「全力でだされたアレ」のように解釈の余地が広がるように、と。
……って、いたって真面目に書いていますが、下品で失礼いたします(汗)


『ぞろ〜』は使用方法を勘違いしていました。
正しくは『またぞろ』です。
直す前は「またお前はぞろモデルが〜」と書いていましたが、これ、「また〜ぞろ……」と活用できると思い込んでいまして。いや、お恥ずかしい。
念のため、goo辞書から引用しておきますと、

[副]《副詞「また」に「そうろう」が付いた「またぞうろう」の音変化》同じようなことがもう一度繰り返されるさま。あきれた気持ちや一種のおかしみを込めていう。またしても。またもや。「―遊びの虫が騒ぎだす」

という意味です。


『保健も効くから』は、おっしゃるとおり「利く」ですね。
ついでに「保険」だったので(大汗)こちらも直しておきました。

ご指摘、ありがとうございました。



それから投稿キーですが、思い当たる項目をいじっておきました。
原因は不明ですが、これで多分大丈夫なはずです。

ただ、他の方もキー無効されたとおっしゃっていたんですよね。
僕のPCや携帯からは投稿できるので原因がつかめていないのですが……んー、あんまり問題が続くようだと、掲示板のレンタルも考えないといけませんね。


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/04/06(Wed) 01:07 No.858

「臭いも再現しようと思うの。流石に常にそれだと厳しいだろうから、日に三度、フレーバー放出って感じで、こうプ〜ンって」

フレーバー(Flavor)とは食品を口に入れた際に、舌の奥から喉にかけて感じられる味と香りの総称である。

英語ではWhat flavor of icecream do you like?だが、日本語では「何味のアイスクリームが好きですか?」となる。 つまり、日本語では「風味」として表現される感覚であり、アロマとは明確に区別する必要がある。アロマの場合口に入れなくとも、香りとして感じる事が出来る嗅覚を指している。これに対し、フレーバーは食品の香りが喉の奥から揮発し、鼻腔内を通じて嗅覚として感じられる香りの余韻を指している。 鼻をつまんでワインを飲んだら、味気ないのは、フレーバーが感じられない為である。

味も再現するような意味合いかも・・・
スメルやパヒュームも匂いの意味かな?

スパン! と、ニトロの振るった平手がティディアの額と小気味良い音を奏でる。

と があるから何かと何かを連ねている?
額と平手のスパンと小気味いい音?


排泄を必要としない種族がいるでしょう?〜


生物学的側面から見た糞
消化器系
人間の場合の内容物は、食物繊維など摂取した食物のうち消化しきれなかったもの、新陳代謝によってはがれた腸内細胞、大腸菌などの腸内細菌、胆汁などの体内分泌液、水分、または体内に蓄積していた毒素などで、未消化物の組成は摂取した食物により左右される。かつては子供の本などで、「大便は食べ物が消化しきれなかったかすである」という記述が多かったが、便を構成する成分のうち、食べ物の残滓はおよそ5%に過ぎない。大半は水分(60%)が占め、次に多いのが腸壁細胞の死骸(15%〜20%)である。また、細菌類の死骸(10%〜15%)も食べ物の残滓より多く含まれる。

うーん、この世界では昔の、食べたものが未消化で排出する=
エネルギーの無駄という観念?
本当に不要な物を出す、エネルギー絞りとる感じかな?
原発とか要らないカスは出ちゃうけど、エネルギー効率のいい
完全消化吸収できる生命体って排泄器官無いんだろうね・・・
体内の老廃物は自己リサイクルかそんなモノは出てこないとか。

ウイキペディアのフレーバーと糞から引用。
アドレスは貼り付け不可、管理者権限でできる仕様の掲示板かな? ゲストとは違う利用方かも。


ティディアの誤算でニトロの悲劇 第三部
だから、第一部の少し後で初めてのチュウはOK?

ふっと、ティディアの唇がほころんだ。嬉しそうに何度もうなずき、軽くニトロに口づける。
 ニトロはティディアのキスを避けようとはしなかった。初めてただ受け入れ、しかし睨みつけたまま、彼女の答えを待った。

時事系列でいうと先に金のでキスしているから
この時天使による変身ではセカンド以降のチュウ?
肉体と意識が別なんでノーカウントとか。


チャック全開のオープンさと
全力で相手になるの力強さとの違いかな?
金の像よか、人肌のリアルドールのほうが嫌そうだけど
金の像をリアルに観たことないのでわからないです。

精巧に作る方が芸術性あると思ったけど、
素朴な仏像みたいな感じの芸術性で地面に埋め込んで
モニュメントかイベントアイテムにするのかな。

ぞろ・・・またぞろしか思いつかないからそう突っ込む予定だけど ぞろ という物があるのかと訪ねてみました(検索しても ぞろ は無い、候の変化とか説明はあるけど)

保健は気がつかなかったorz


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/04/06(Wed) 23:17 No.859

うわ!
『フレーバー』は仰るとおり、「フレーバー(Flavor)とは食品を口に入れた際に、舌の奥から喉にかけて感じられる味と香りの総称」です。
誤使用だから直そうと思っていながら、直し忘れていました。
「スメル」に直しておきますね(こちらは「臭い」でよかったはず)。


> スパン!〜

に関しては、『額と平手のスパンと小気味いい音』の解釈で受け取っていただけるよう書いた部分ですので、特に訂正はないです。


そして、

> 排泄を必要としない種族がいるでしょう?〜

について。
『食べたものが未消化で排出する=エネルギーの無駄』と考えているのは、ティディア達人間がそう考えているのではなく、彼女が例に出した種族の中にある主たる思想の一つ、ということになります。
逆に排泄を必要とする種族は、排泄は必要性のあること(例えば毒素の排出など)と考えているので、『=エネルギーの無駄』とは思っていません。もちろん、逆にそう考える人がいることも不自然ではありませんが。
そして常闇さんのご推察の通り、具体的な描写はしませんでしたが、『体内の老廃物は自己リサイクルかそんなモノは出てこないとか。』――と、つまりそういう一種の完全生命体のようなものになります。ですので当然、『エネルギー効率のいい完全消化吸収できる生命体って排泄器官無いんだろうね』の流れで、排泄を必要としないでいられるように進化した種族、となります。
ただ、一方では何でも食べられるというわけではないでしょう。身近で言うなら植物のように、一定の栄養素と水分だけ……のような感覚でしょうか。また、老廃物もリサイクルできるのですから、おそろしく少食でもあるでしょう。永久機関がないのと同じ理屈で何も摂取しなくてもいいというわけにはなりませんが、それでも少しずつ必要な動力源を補給する程度で済む、と。
SFとしてこういう生物を考察するのも楽しいですよね(^^)
ただ、かなり特異な生物になるでしょうから、『ニトロ』の世界でもマイナー中のマイナーに属する種族です。きっと、普段はじっと動かず思考しているだけなんじゃないかなー。

あ、アドレスは多分『http://』が禁止ワードになっているからだと思います(ここでは大文字で表記しています)。


> ティディアの誤算でニトロの悲劇 第三部
> だから、第一部の少し後で初めてのチュウはOK?

こちらは第一部でもキスしていますが、「公の場」と限定していますので、つまり“イベント会場のような公の場で、それも大勢の人前でした初めての”ということです。
ですので、三部のものはここでは無関係になります(カウントに入れたとしても一部が「初めて」で、三部は時系列的には『黄金に輝く』の後になります)。


『全開』と『全力』の差は、ニュアンスの違いの問題ですので、ここは僕があえて限定するのではなく、ご想像にお任せするということで(^^)
お書きになられた意味合いも、もちろんありますよ。


『芸術性』については、これは「一体、芸術とは何か」という問題もはらんでいる気がするので、さらっと(^^;
まず、「精巧なのも止めだ。意味がない。」には、話の流れとして「(ティディアの言うような)精巧なのも止めだ。(ティディアの意図から外れるのだから)意味がない。」というニュアンスも含まれているのを大前提として。

単純に「精巧であれば芸術的」というのも是、「精巧でなくても芸術的」も是、ということで、これは当然常闇さんも前提とされていると存じますが、そこらへんをひっくるめてニトロは事態の収拾のために「精巧じゃないほう」に話の流れに乗せにかかっています。精巧方向を許すとティディアの提案を強く反映しそうですから、とにかく逆を突こうと。誤解を与えるかもしれませんが、極端な例を言えば、ロダン方面を示していたティディアに対し、ニトロは岡本太郎方面に舵を切ったという感じです。
また、純粋に精巧に作るだけなら機械的にプログラムして……という工業的な作業でもできる、ナノマシンを実用化するなどそれなりに科学技術が発展している世界ですので、それよりも手作業で、例え同じ形でも彫刻のタッチの違いが差を生むような範囲で、(先の繰り返しになりますが、または奇抜な方向性、こちらでいう現代アートという方向性でも、という含みも持たせています。
あ、工業的な過程を通った作品は芸術ではない、というわけではありませんので、念のため。
ここらへんの背景は想像していただければ楽しいかなーという、裏設定的な、またSFならではの深読み用ということで(^^)

埋め込まれる像がどのような像になるかはご想像にお任せします。
先述の通り可能性は多くあります。仏像のように素朴ながら部分部分に意味を込めたものになるかもしれませんし、ある一定の肉体美を誇張したものになるかもしれません。ただ、話の流れからティディアが提案したような「リアル」なものにはならないでしょう。

ちなみに金の像は僕も生では観たことはないのですが、金と一口に言っても加工しだいで色々な表情になりますので、そちらもご想像にお任せいたします。
(落ち着いた金の参考 → www.nhk.or.jp/tsubo/program/file198.html まっきんきん → オスカー像)


『ぞろ』は、前回お答えしたように『またぞろ』の誤使用でしたので、僕も『ぞろ』そのものという言葉はないかと存じます。
あっても「ぞろぞろ」や「ぞろり」を個人的に変化させたものか、「巨大なとかげの舌がぞろっとわたしを舐める。わたしは死を覚悟した。」みたいに半ば擬音化して扱う場合でしょうか。
すいません、それくらいしか思いつかないです。


保健はねえ。僕も orz


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/04/15(Fri) 01:14 No.860

(こちらが思いつかない根深い事情があるのでしょうがねぇ……)

しょうかねぇ? の疑問的なのか、ハラキリに事情があって諦めな しょうがねぇ なのか。

女王の方は勘定的に敵に回したくない。王といえば感情的に敵に回したくない

損得の感情と気分の感情で女王と王に対する思惑なんですか?

さしものハラキリ・ジジも友達には弱いようだぞ。

マードールを友達認定しているハラキリでしたっけ?
笑いのもとはマードールの姿を想像した事。
友達という部分がキモとはならないような・・・
ニトロ・ティディアが絡む事での友達には弱いという事?


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/04/15(Fri) 02:25 No.861

こんばんは、常闇さん。
早速参りますね。

まず、

> (こちらが思いつかない根深い事情があるのでしょうがねぇ……)

は、『こちらが思いつかない根深い事情があるのでしょうが……』でも問題ない形になり、「ねぇ」は単に口語におけるニュアンスを修飾する語尾です。
ですので、嘆息とか諦観を示す方向のものですので、常闇さんの後者の例が当てはまるかと。


> 勘定的、感情的

これは、ご理解いただいているとは思いますが、ここで言われている『女王』は前のセリフを引き継いで「ティディア」を示しています。『王』はもちろん「ニトロ」です。
マードールは、女王ティディアは損得を考えて(つまりより利益を基準として)敵に回したくない相手と強調し、王ニトロに対しては自身の心を考えて(より人情を基準として)に敵に回したくないと言っている、と。


> さしものハラキリ・ジジも友達には弱いようだぞ。

ここの『友達』はニトロを指していますので、『ニトロ・ティディアが絡む事での友達には弱いという事』です(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/05/01(Sun) 15:50 No.862

中央にまだ何も移さぬ黒い画面が現れ、

映さぬ・写さぬ?

プカマペ教団の『祭事』が移される画面が小さくなり、

移動とかの移すなのかな?
そんなわけないか・・・

写る・映るが気になるが用途の差は調べたらわかるだろうけど
作者の意図もあるし、気にしたら負け?


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/05/01(Sun) 19:06 No.863

常闇さん、こんばんは。
そこの『うつす』の選択は変換をミスして表記揺れを起こしていました。
ここで正しくはどれも『映す』です。

写る・映るの差はよほどの演出意図がなければ、基本的に辞書の通りに使い分けています。
代表的には『印画紙に写る』『テレビに映る』ですね。
そこに意図があるかどうかを探るのは読み側の楽しみだと思いますので、そこはご自由にお楽しみください。

……って、その前に、誤表記してたら世話がありませんね(^^;
どうにも減りませんが、気をつけたいと思います。


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/05/21(Sat) 23:39 No.866

 ――ミリュウは、夢に思う。
 ――瞳を明けて、夢に思う。

なんらかの韻でもあるから 明けて なんですか?
年が明けてのような、明けの意味か。
開けてという普通の開く目という事ではない?


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/05/22(Sun) 01:05 No.867

お晩です、常闇さん。

さて、ご質問の『明けて』の用法ですが、こちらは読み手さんの解釈に任せて構わないところだと思っています。
常闇さんのお書きになられたことも含意していますし、例えば「先見の明」に代表される『眼識』という意味合いや『視力』へのニュアンスも。
これ以上書くと解説になってしまいますので、どうぞ深読みをお楽しみいただければと思います(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/06/11(Sat) 19:27 No.868

沈黙の中、改めて『ニトロ・ポルカト』と二人きりであることを自覚すれば、肉を内側から凍らせる緊張と骨を内側から焼く覚悟が体を縛る。どちらが優位かといえば、情けなくも前者だ。

すごく難しくてわからないんですが、
優位性取るとして、緊張と覚悟では緊張ということ?
優位性は相手との比較だと思うけどミリュウ自身で取る
位置が緊張か覚悟で何かが変わったりする?


猛獣を目の前に、凍てつくような緊張と熱せられる様な覚悟で体を縛る、これは前者が優位である。
こんな感じな事を思えばいいのかな?
覚悟だけ縛られるって・・・


 いいや、ここに表れた人間は――複雑に過ぎる。

表情の表れ?
ニトロの人物像が現れたのか。

他所のアドレスは貼らないほうがいいね。
良い相方がいればいくらでも取替えの効く

利く・・・だと思う。
効果があるの効くと
無理が利くとかの作用ではどちらだろうか。

融通の利く間柄
融通の効く間柄


今の時期、蚊に効く何とかの取り換え用のが反応するね、検索したら。


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/06/11(Sat) 21:26 No.869

こんばんは、常闇さん。
誤字、減りませんねー(汗)

> 取替えの効く

は「利く」が正しいです。この誤字、よくやってしまっていますね。変換に頼りすぎてるんでしょう(言い訳)


次に、

> いいや、ここに表れた人間は――複雑に過ぎる。

ここは誤字も誤表記もありませんので、この文をどう解釈するかはお任せしようと思います。一応これだけ書いておくと、ここはニトロの視点に寄っていますので、「人間」が示すのはミリュウ、またはミリュウにまつわる事となります。


そして、

> 沈黙の中、改めて『ニトロ・ポルカト』と二人きりであることを自覚すれば、肉を内側から凍らせる緊張と骨を内側から焼く覚悟が体を縛る。どちらが優位かといえば、情けなくも前者だ。

これはご質問に答えるのが難しいのですが、ここにも誤字、誤表記はないと思っています。
ミリュウの内心の描写ですので、ここもご解釈とご推察を楽しんでいただきたいのですが、ひとまず大まかに文を分解すると(釈迦に説法になってしまうかもしれませんが、ご容赦ください)、

:<“肉を内側から凍らせる緊張”と“骨を内側から焼く覚悟”>が<体を縛る>。

となりますので、次に「どちらが優位かといえば〜前者」というのは、前者後者の関係にある『緊張』『覚悟』の緊張側と言うことになります。
で、これはどうしてミリュウが緊張して、どういう種類の緊張を得ているのか――という問題になりますが、それは僕が明示するのは無粋と存じますので、割愛します。
この文は、さらに次の「気を抜けば〜」という文の理由を説明しながら、逆に補完されている形にもなります。
そういった点から理解を進めていただければ、と。
未熟につき悪文になっているかもしれませんが、現状の僕では最適と思う形で表現しています。よろしくお付き合い頂き、「読み」を楽しんでいただければ幸いです(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/06/26(Sun) 00:55 No.876

黙思口吟(もくしこうぎん)

疑念と困惑の沼に二人の思口(しこう)が囚われそうになる。が、

思考でなく もくしこうぎん の思口?


死刑を差すのではない
ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%99
指す3差す4であるけど、指すと思う・・・


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/06/26(Sun) 20:12 No.878

こんばんは、常闇さん。
「差す」はここでは「指す」が適切でした。早速修正いたしました。

さて、「思口」ですが。
これは造語(辞書にはない言葉)です。
大体字面で捉えていただいて構わないのですが――“思”は思考や思索、“口”は言葉や喋ることを指して、合わせて「考えることと、(考えたことを形にして)言葉を紡ぐこと」という意味で使っています。ちょうど音も「しこう」で『思考』にかけられましたので。ただ、造語ですので、ルビを振っておきました。
ここの文章を詳細に書くと『二人の思考と、思考を言葉に換え、互いに述べ合おうという意志が疑念と困惑の沼に囚われそうになる』――といった形になりますが、これを短く言い換えたくて、また、掲載した文のほうがこの場に描きたいニュアンスを表していると思ってこのようにしました。


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/07/16(Sat) 17:32 No.890

主はきっと心からそう望んでいるのだ。

今まで 主人(あるじ?しゅじん) と書いてたのに
主(あるじ) になるのか。

鏡に映る主の笑顔を見て、
主人の……大切なミリュウ様のその微笑みの正体。

あるじ・しゅじんと使い分けか。

ティディア姫の最も近くにいるだけの気に入りの従者

お気に入りでなく?


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/07/16(Sat) 21:24 No.891

こんばんは、常闇さん。
早速ですが、

> 主はきっと〜

ここは表記揺れの修正ミスでした。
主・主人については、その時の文章の流れや、人物の関係性で使い分けたりしてます。
ここでは「主人」に統一しようとして、その前に「主」と書いていた部分を直していたのですが、ここを見落としていました。
修正済みです、ありがとうございました。


> 気に入り・お気に入り

こちらは「お気に入り」の意味ですが、「気に入り」でも同じ意味を示しますので(辞書には『多く「おきにいり」の形で』とあるので、“お”がなくても問題ないと認識しています)、これは、このままです。
文章的には「ティディア姫」を主格にして、そこから見て「気に入っている」というニュアンスの強調でしょうか。ですので、“お”をあえて抜いています。

また、あまりこういうネタを言うのもなんですが。
既にお気づきになられているかもしれませんが、この表現は以前(『続々』より前)に既出でして、そこと対応しています。
気の長い伏線、というやつで(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用 - 常闇 2011/07/23(Sat) 22:06 No.895

申請総数は普段のティディアの会見へのものも上回るほど。

その時点を表すのに へ はありなんですか?
会見でのものも上回る、じゃなく。
へ は方向格らしくおおよその感じとか、
申請数に対して会見が方向性もって へ でティディアを上回る状態を表す?

空調の聞いた部屋にありながら

どっちの 効いた 利いた でしたっけ?
効いたかな?


わたしに証立ててみせたのだと“かの世”から褒め称えよう

かの世って何処ですか? あの世じゃなく?



対岸、陸で道路の向かい側の場合なんで言うのかわかりますか?
いつも対岸と言って、河じゃねぇ道だろ! と怒られてました。
思い出せない・・・


Re: 誤字脱字等連絡用 - 楽遊 2011/07/24(Sun) 01:26 No.896

空調は「効いた」でした。
“きく”の変換ミスは多いですねー、気をつけたい(汗)

こんばんは、常闇さん。いつもありがとうございます。
今回の修正が必要なのはおそらく「効く」のみかと思っています(そして修正しました)。

まず、『かの世』ですが、これは「あの世」と同義で、別称のようなものです。goo辞書などにも載っています。
おそらくマイナーな呼び方で、一瞬、「あれ? こういう言い方もなかったっけ?」と動揺してしまったほどです(^^;
ちなみにここでは“此方”と“彼方”の意味合いでの「“この”世」「“かの”世」の含みと、「ア」と「カ」の音の比較では後者のほうが強く聞こえると思われるので『かの世』を選びました。


> 申請総数は普段のティディアの会見へのものも上回るほど。

こちらは時点を表しているのではなく、方向を示すもので「へ・の」を使っています。「普段のティディアの会見」と「今回のミリュウの会見」を並べて、“後者の方”という形です。
「〜への抗議」などと同じ意味合いで使っています。
文章全体で言うと、
『一週間での許可申請数の増加率は過去最高であり、』で一週間という期間を主格にした話をして(なので、こちらでは期間の「で・の」です)、句点で文章を一旦閉じ、後半の『申請総数は普段のティディアの会見へのものも上回るほど。』では申請総数を主格として比較をしています。
重文になるのでしょうか。う〜ん、悪文だったかなぁ。
文章は難しいですね。


「陸で道路の向かい側」を指す言葉は……なんでしょう。
これといって明確に示す特定の単語があったか僕も思い出せないのですが……単純に『向こう側』とか『反対側の歩道』とか使っています。
個人的には対岸でも通じるので問題ないと思うんですけどね。
道にも「流れる」という表現を使ったりしますから。
お力になれず申し訳ないです。もし思い出したり、その言葉に出会うことがあったら、何らかの機会に書き込みますね。


それと。
そろそろこのスレッドも長くなりましたので、後日新しく立てて起きますので、次回は(できれば誤字脱字をなくしたいですが;)そちらによろしくお願いいたします。


掲示板少々変更しました 投稿者:楽遊 投稿日:2013/07/13(Sat) 02:15 No.1033

と言っても、スパム対策のためにお借りしているプログラムのバージョンを上げただけなのですが……
そのため、これまでの掲示板とは少々仕様が違う部分が出ています。
何故か投稿画面には選択項目が出てしまっていますが、アイコンは不使用設定にしているため使えません。
それ以外には機能は正常動作しているようですので、しばらくこちらで様子を見てみます。
もし何か不具合、不都合がありましたら、拍手等でお知らせいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。


こんばんは 投稿者:招夏 投稿日:2012/12/02(Sun) 23:00 No.978

こんばんは。ぼちぼち活動を始めた招夏です。本日、楽遊さんへの返信をようやくブログにしたためたので、ずいぶん遅くなってしまったことのお詫びとお知らせを兼ねて参上しました。が、滝汗なうです^^;。楽遊さんの作品への感想に名前を書いていなかったんですね、私ってば……(涙) なんかもう、色々すみませんm(_ _)m←ジャンピング土下座中。

楽遊さんの書く作品も感想も、深く考えさせられることばかりで、ホント、いつも勉強させられます。ありがとうございました。

こんなおっちょこちょいな私ですが、楽遊さんのサイトを当方サイト「エメラルド☆ファンタジア」にリンクさせていただいても良いでしょうか? 問題がある場合はお知らせくださいませね。あ、それから、ブログ「招夏の庭」のURLを参照先に書いておきますね。お時間がある時にでもお立ち寄りくださいませ〜 ではでは


こんばんは! - 楽遊 2012/12/03(Mon) 22:13 No.979

こんにちは、招夏さん。
体調を崩されていたということで心配していました。ご丁寧なお詫びまでしていただきまして恐縮です。しかしお休みを取ってらっしゃることを知っていましたので、こちらは全く気にしていません。ですから、どうぞお気になさらないでくださいね。ご回復されたことが何よりの幸いと存じます(^^)

拍手からのご感想も、照らし合わせて見当がつきましたのでこちらも問題無しです! ただ、間違っていたら折角のご感想を送って下さった方に悪いことですので、念のためあのように確認の言葉を入れさせていただいていました。やはり招夏さんであって、良かったです。

さて、拙感想へのご返信、ありがとうございました。
招夏さんのところのブログでもご返信させていただいていますが、何度も読み返していただいて光栄です。四話構成のため一話一話に感想をつけていったら物凄く長くなってしまって、ひょっとしたらご迷惑かなと思ってもいましたので、そう言っていただけて本当に嬉しいです(^^)

リンクについては、当サイトはリンクフリーですので全く問題ありませんよ。
といいますか、リンクしてくださるとのこと、感謝以外のなにものもありません。ありがとうございます!

それでは、今後ともよろしくお願いいたしますね!(^^ノシ


花粉症ギャー! 投稿者:楽遊 投稿日:2011/02/24(Thu) 18:59 No.835

花粉ギャー!!


サイト移転しましたー 投稿者:紅月赤哉 投稿日:2011/05/05(Thu) 10:22 No.864

お久しぶりです。紅月赤哉です。

今回はサイトが移転しましたのでリンク張替えの依頼に参りました。
移転先はURL欄のアドレスになります。


お手数おかけしますが、よろしくお願いいたします。


移転作業お疲れ様です - 楽遊 2011/05/05(Thu) 19:22 No.865

紅月さん、お久しぶりです。
サイトの移転作業、あれだけの作品数ですから大変だったことと存じます。お疲れ様でした。
早速変更しておきました。
今後ともよろしくお願いいたします(^^ノシ


誤字脱字等連絡用02 投稿者:楽遊 投稿日:2011/07/24(Sun) 23:14 No.897

どなた様もお気軽にお書きください。

……誤字脱字なくしたいけども!


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2011/07/31(Sun) 00:32 No.898

不法侵入を企てたパパラッチも既に七人逮捕されからにはどのような情報も期待できず

七人逮捕され彼らには
七人逮捕されたからには

どっちかかな?


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2011/07/31(Sun) 20:19 No.899

一つ上で言ったそばから…… orz

正しくは「七人逮捕されたからには」でした。
修正いたしました。
常闇さん、ありがとうございました。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2011/08/07(Sun) 21:59 No.904


ミリュウ姫に負けてなんかいらない。


いられないと思うけど、いらない?

それも始めて受ける伏礼に動揺

初体験の初だとおもう。
物事の開始の始発とかの始じゃあ無いと思う・・・

他の 初 始 はわからないけど合っていると思う。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2011/08/07(Sun) 23:09 No.905

こんばんは、常闇さん。
今回のものは見事に誤字脱字です。

「いられない」が正しく、「初めて」が正しいです。
減りませんねー。うーん;

ご指摘ありがとうございました。
修正済みです。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2011/08/21(Sun) 08:26 No.912

ロボットが衝撃吸収剤

ぱらっと探しただけだけど 吸収材 だとおもう。
剤って薬とかのイメージだけどあるような気もする。
ゲルタイプとか・・・


が、ロボットが道を開けた先で何やら操作をすると、

これは、先に立っていてニトロ達に道を譲り自分は
道を開けるついでに(その目的として)操作しに行った。

指し示して、道を開けて自分は何らかの操作する。
開けるは移動したって意味合いですか?


灯りが這い込んできた

入り込んできた? 這い込んできた?

そこから階段を這い登ってきていた。
コレに合わせて 這う 事の這い込んで来たと。

はいこ・む はひ― 3 0 【▼這い込む】
(動マ五[四])

(1)はって中にはいりこむ。はい入る。
「―・むすきもない」「石垣から、獺(かわうそ)が―・んで/歌行灯(鏡花)」
(2)夜這(よば)いをする。
「ラシヤメンの処へ―・んで/西洋道中膝栗毛(魯文)」
[可能] はいこめる

ニトロは鞘を噛んで剣を口で持ち

床に置けばいいのに・・・というか両手で何かしないと解けないスーツ? モジモジ君みたいな全身タイツじゃないのね。

やおら静かに燃え出した。

灯りにはならない燃え方でしたっけ?
というか ソコ で跡形もなくとしても燃えたら駄目だよ・・・

体制不利ではあるがニトロに隙はない。

政治体制と姿勢の体勢。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2011/08/21(Sun) 12:39 No.913

こんにちは、常闇さん。
今回もまた変換ミスですね……。
『吸収剤』と『体制』はどちらもミスで、「吸収材」と「体勢」が正しいです。
早速修正いたしました。


> ロボットが道を開けた先で何やら操作をすると、

> 灯りが這い込んできた

はどちらもその意味で書いています。
また、付け加えるなら、「這い込んできた」は少し異質な表現をすることで不気味さを演出しているところもあります。


> ニトロは鞘を噛んで剣を口で持ち

これは、単純にすぐに剣を手に取れる状況にしています。
この場面で武器から手を離すのは少々無用心に過ぎると思いますので、色々考えた結果(芍薬を傍に呼ぶ以外では)これが一番対応できそうだと。


> やおら静かに燃え出した。

消えかけた焚き火程度の明るさでしょうか。
暗闇の中では灯りになりますが、灯りのある中ではそこまで灯りにはなりません。ただ、青いので目立ちますが。
演出としての燃焼ですので熱もそこまでありません。
換気がされているので酸素等的な問題もありませんが、もちろん、ここで燃えるのはよくないことです。しかしそれを承知でしている――ということで(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2011/10/21(Fri) 14:57 No.934

用途に合ったプログラムをインストールしければならない。

しなければ。

オリジナルA.I.は『強いA.I.』であり『記号的A.I.』と『非記号的A.I.』を同時に実現したコンピューター知能(生命)とも言い換えられる。
その場合、汎用A.I.は『弱いA.I.』で『記号的A.I.』となる。


なんの強さなんですか? 人工知能としての?
記号? 書き表す固定的表示があるのと無いの?


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2011/10/21(Fri) 21:34 No.935

常闇さん、こんばんは。
脱字のご指摘ありがとうございました。
こちらは早速修正いたしました。
設定メモを元にしていたためか、誤字脱字が多いですねぇ。
一度下げておこうかなぁ……。

『強いA.I.』『弱いA.I.』
『記号的A.I.』『非記号的A.I.』

これらは現実にある概念です。
Wikipediaですが、

//ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD → 人工知能

//ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B7%E3%81%84AI%E3%81%A8%E5%BC%B1%E3%81%84AI → 強いAIと弱いAI

こちらにそれぞれ項目があります。
おまけの用語集で、興味がある方向きなので、こちらでは詳細説明を省いています。
僕の理解が間違っていなければ、使い方は適当だと思っています。


うーん。
用語集、やっぱり考え直さないといけないかもしれませんね。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2012/02/18(Sat) 08:41 No.962

眉をひそめる
怪訝であったり不愉快であったりして、眉間にしわを寄せること。「眉を顰める」と書く。「顰める」だけでも、眉間にしわを寄せる意味を持つ。

と、彼の表情の変化に不安げに眉を潜めているニトロへ、

今しがたふいに投げかけられた希望をおうむ返しに口にして、眉をひそめた。


変換候補として眉を潜めるがあるけど、
不安げな表情として潜めるという語句があるのか。
例の造語?

s ぼこぼこにされ、自信を木っ端微塵にされ、長らくうなだれさせられた――が、

s なんだろうね。


一分はやはり一部だったか。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2012/02/18(Sat) 22:03 No.963

こんばんは、常闇さん。
はい、一分は一部でした。他にも結構ミスを見つけて修正時にうめいていました(苦笑)

早速ですが、前者の『潜める』は造語ではなく、単純に誤変換でした。携帯電話の変換予測をそのまま使っちゃったようです。よく見ないといけませんね(^^;

後者の「s」は、確認して自分で「なんだこれ」とのけぞってしまいました。
どうやら“保存”のショートカットである「Ctrl+S」を使用したときに、Ctrlをミスしてsだけ打ってしまったようです。

どちらも修正、削除してあります。
ご指摘、ありがとうございました(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2012/03/04(Sun) 20:08 No.971

充実一途

どこの局かの指向性スピーカーが質問を投げかける。

かの、は疑問系のなのかな。
語感が悪い気がする。
どこの局かの
どこかの局の


芍薬は、閉め切ってあるカーテンと窓に向かった。ニトロが出掛ける際はセキュリティのためにいつもこうしているのだが、反面これでは外から中を窺うことはできない。

えーセキュリティを主目的とするなら外から見られない方が都合がいいかと・・・反面とするなら中から外の状態がわからない。外からの視線を避ける目的が反面となりうるのか。


聞こえてきた寝息に問いかけを返してみるが、マスターは反応しない。

「くーすぴすぴ」
と寝ている主に問いかけを返してみるが、返事はない。
返すって「言われたことに対するいらえ」ではないの?

折り返す、切り返す、やり返す、受けてからの返し、
アレがもし寝言で「芍薬」と 寝言 を言ったなら
問いかけを返してみるが、返事はない。
は成立しそうだけど。

事態・自体、書き方が変でしたね・・・
間違い、疑問を先に書くべきでした。

お値段

「もしくは大胸筋のぴくつきと腹筋の割れ目から生まれる深遠的な何かのせいで」

しん‐えん【深×淵】 1 深いふち。深潭(しんたん)。
2 奥深く、底知れないこと。「孤独の―に沈吟する」

しん‐えん〔‐ヱン〕【深遠】 [名・形動]奥深くて容易に理解が及ばないこと。また、そのさま。深奥。「―な教理」
[派生]しんえんさ[名]

『劣り姫の変』のミリュウの持つ深淵な世界、
妹に対する深遠な配慮。

ワレメから生まれるのはどちらのシンエンか。
未知なるものと、計り知れない考えの差だと思うけど。
深謀遠慮の略が深遠かと妄想してみる。

お値段+

まるで笑うせぇるすまんのようなハラキリだわ。
たいていが自滅しちゃう黒い作品。
トクホのCMで「ドーン」と指さしするやつ。


特別トレーニング

意気も満ち満ちて帰ってくることができる

い‐き【意気】
1 事をやりとげようとする積極的な気持ち。気概。いきごみ。「その―で頑張れ」「人生―に感ず」
2 気だて。気性。気前。
「心のむさきを―のわるきなど言ふ」〈色道大鏡・一〉
3 意地。いきじ。

やるき、なんだろうけどどこに向ける 意気 なんだろうか。

公務とかニトロ成分足りなくて落ちた場合ならありうるだろうけど、彼女はならないだろうし、ニトロもそれだからと会うことはないだろうし。


天網恢恢、意味的には目の荒い神様のあみでも
悪人を取りこぼすことがない、のはず。
内容的には 口は災いの元 のきがする。
うっかり漏らした発言に自分も陥る羽目になる、
タイトルに込められた意図が読めない。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2012/03/05(Mon) 01:02 No.972

こんばんは、常闇さん。
早速参りますね。


『充実一途』

> どこの局かの指向性〜

「かの」は疑問系ですね。
語感については、僕は悪いようには感じていません。むしろリズムよく読んでいるくらいで……例えば「どこの誰かの」みたいな感じです。


> ニトロが出掛ける際はセキュリティのためにいつもこうしているのだが、反面これでは〜

ここの「反面」は、後の芍薬の行動を反映しています。
この後で芍薬は、部屋が消灯していることを見せます。が、「消灯している=ニトロは寝ている」ということを知らしめるためには、セキュリティが仇になっている。
ですので、『外からの視線を避ける目的が反面となりうるのか』という方向で、後の行動も含めて解釈してくだされば問題ないかと思います。


> 聞こえてきた寝息に問いかけを返してみるが〜

ここはですねぇ、悩んだんですよねぇ。
おっしゃるとおり、「返す」は「応答」に属するものです。
そこで“聞こえてきた寝息に問いかけてみる”としてみたのですが、どうもしっくりこない。他にもいくつか文の形を変えてみたのですが、そちらもしっくりこない。
結局この形が僕はしっくりきて、どうしてかと考えてみたところ、この『聞こえてきた寝息』を、ニトロのうわごとや寝言のように扱うと、『聞こえてきた寝息』=「ニトロの何言か」→そこに(寝息と理解しながらも)問いかけを返す――という形が出来て、すとんと落ち着きました。ので、この形にすることとしました。



『お値段』


> 深遠

あれ? これ、「深淵」に直さなかったっけ。と思ったら、掲示板だけ直していたようです。早速修正いたしました。


> ハラキリ

基本的に、胡散臭い奴です(笑)

『笑うせぇるすまん』はもうあの絵を見た瞬間にあの声が自動再生されます。名キャラクターですよねえ。



『特別トレーニング』

> 意気

どこに向ける意気かというと、「全方位」です。代表的に言うと、人生などです。公務などを落とすことはないでしょうが、その他のプライベートな時間はしょんぼりしっぱなしという状況はありますので(^^)



『天網恢恢』について

これは、仰るとおり元の慣用句の意味は『目の荒い神様のあみでも悪人を取りこぼすことがない』です。
ここではもう少し拡大解釈して、「隠し事」を含ませました。
口は災いの元、は、もちろん適切ですが、それは主にハラキリに対してそうなります。
実はタイトルの後ろに「〜漏らすな(涙目)」としようかとも思っていたのですが、これはとばっちりを食らった芍薬の視点のタイトルです。オリジナルA.I.にとってはマスターに対する隠し事は、もちろん程度にもよりますが、善か悪かで言えば「悪事サイド」に分類されること。これまたもちろん全て悪と決め付けられるわけではありませんが、例えば今回の芍薬の行為は、主に不快を与えるかもしれないということから隠している、芍薬からして少々後ろめたさのある行為です。
そういったところから、半ば八つ当たりも込めて「漏らすな(隠し事を取りこぼしてマスターにばらすな)」という形です。隠されていた方から言うなら「漏らさず」なんでしょうけどね。
……と、ここまで書いていて何ですが、芍薬に天罰が下った、というのなら「漏らさず」の形でもいいんでしょうけどね(^^;
うーん、思ったよりややこしい、それとも意味のないタイトルになっていたのか……ニュアンスにも頼りすぎましたか(反省)

色々考えた結果、『思わぬド壷』と改題することにします。


ご指摘、ありがとうございました。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2012/03/11(Sun) 03:18 No.973

(1)事物の本質をとらえる思考の形式。事物の本質的な特徴とそれらの連関が概念の内容(内包)。概念は同一本質をもつ一定範囲の事物(外延)に適用されるから一般性をもつ。

(2)大まかな意味内容。

一般的な用法としては、その語からイメージされる(多くは実地に見聞される以前の)漠然とした意味内容、だいたいのありようについての予期。

例)「0歳児には数の概念がない」


講談社類語大辞典には「ある物事や言葉についてのこういう内容・意味のものであるという、だいたいの考え」との説明がある。

ニトロの家に、お泊まり!!
 そのあまりに甘美な響きが彼女の心臓を鷲掴みにする。
 だが、彼女は、つい十数秒前、弟のこの部屋に入るまで“その概念”を忘れていた。いや、忘れていたというのは少々違う。そもそも彼女は、その概念に考えを及ばせることができていなかったのである。


け‐ねん【懸念】
[名](スル)

1 気にかかって不安に思うこと。「安全性に―を抱く」「先行きを―する」

2 仏語。一つのことに心を集中させること。

3 執着すること。執念。


これも違うか、懸念・概念。

「お姉ちゃん、そんな話は聞いてないわ」
「だって今日約束したんだもん」
「……今日?」
「うん。夕方電話がかかってきて、誕生日のお祝いだけど、って」
 ティディアは歯噛んだ。ということは、漫才の練習前には既に約束されていたということだ。

ニトロが

 弟は明日、ニトロのところへ遊びに行くと言っていた。ニトロのことだから、きっとその時にでもお祝いしてくれるだろう。彼の祝福が無いわけではない。当日にお祝いに来てくれることが最良ではあったが、それを逃しても最悪ではないのだ。

でフォロー入れる際の懸念として お泊り での埋め合わせ・・・ちと無理があるか。
ティディアがそこまで予見できるほど平静じゃない・・・

概念、
アドレスsmcb.jp/ques/26327
おおまかに、こんなモノだろうと推測する思考?



鑑みるに、外泊セット、そのような印象を受けるが……

アドレスic.nanzan-u.ac.jp/~mizutani/essay-2/147%20kangamiru.shtml

前例と比較しての鑑みる?
ありのまま見た目を感じて考えるの意味での鑑みる?

アドレスkotobahiroi.seesaa.net/article/136102267.html

セイラが、そろそろ食事を終えてしまいそうなヤギへの対処を鑑みて、ヤギの綱をすぐに取れる場所に立つ。

いつものヤギの行動が判っているから過去と比較して事前の行動に移れる、これはアリだろうけど。

「全く、価値があると思い込んだら『架空』かどうかも鑑みずに殺到するのですから、人間はいつまでも成長しませんねえ」

顧みず
読み方:かえりみず

振り返らず、考えず、ものともせず、などの意味の表現。「危険を顧みず」などという具合に使われる。「顧みる」を否定した表現。

鑑みずに、はぐぐっても鑑みるじゃね? と否定される。
有るんなら私の間違いですけど。
用法に疑問があるので 鑑みる の使い方教えてください。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2012/03/11(Sun) 22:07 No.974

こんばんは、常闇さん。
用例について、早速参りますね。


> 『概念』

これについては、常闇さんが取り上げられた用例を入れ替えればそのまま意味合いとして通用しそうです。

例)「0歳児には数の概念がない」→「ティディアには“お泊り”の概念がない」

数の概念がない0歳児が数について考えられないように(思いを及ばせないように)、あの時点のティディアにとっては“お泊り”という行為やその関連の事物が考えられない(思いを及ばせられない)「その(=お泊りという)概念(大まかな意味内容)」となっていたということです。
なので、ここは懸念ではありません。
概念の意味として『大まかな』と書いてあるように、この言葉ははっきりとした境界を持たず、少々ぼんやりとした範囲を示す言葉でもありますので、そこらへんでふんわり内包して理解していただければ問題もないかと思います。


さて、『鑑みる』については大変勉強させていただきました。
割合無考慮に使っていたところのある言葉だったのは正直なところです。
が、どのように使っているかというところでは言葉の選択時に考えていることでありますので、その点からお話いたしますね。

まず、

> 『鑑みるに、外泊セット、そのような印象を受けるが……』

の鑑みるは、『前例と比較しての鑑みる』です。
ただ「前例」というより、「様々な例」ですね。
目の前に揃っている品々と関連する“可能性”を思い浮かべ、思い浮かんだ可能性が、今「目の前にある品々の組み合わせ」と「その意味するところ」として最も妥当な答えを経験則や理論的な妥当性と参照して考え、最後に『印象』を導いています。
例えば、「下着や服やモバイル―お泊り」・「下着や服やモバイル―着替えの必要な場所へ遊びにいく」・「下着や服やモバイル―一泊の旅行に行く」等様々な先を考えた中、パトネトの“誕生日のお祝い”や“人見知り”や“それをニトロは考慮するだろう”等の要因を絡め、照らし合わせて考えているということ。
ここではその『例』をパトネトが用意した品々から連想・類推されるものから引っ張ってきているので、具体例として書かずに「鑑みるに」といきなり結論づけている文章となります。


後者のハラキリは、

『価値があると思い込んだら『架空』かどうかも(過去の同種の事例・『架空』の事例や、その事柄の妥当性を担保する根拠を手本に)鑑みずに殺到するのですから』

という流れで使っています。
若干、ニュアンスを重視したセリフでもあります。

「鑑みず」に関しては、ググッて「鑑みる」が出てくるのは、単純に検索数の問題だと思いますよ。
「考える」が「考えず」になるのと同じです。ちなみに「考えず」はググッても否定されませんので、やはりこれは検索数の問題(「鑑みる」で検索する人が圧倒的)と思います。


また、個人的に、この「鑑みる」という言葉には辞書に『過去の例や手本などに照らして考える』とあるように、手本などに参照するだけでなく、そこから“考える”という意味があります。
ここで、この言葉から“考える”という行為を抜くわけにはいきません。
さて、そこでニュアンス的なお話となりますが、用例として参考としてお出しになられたサイト様の説を読んだ上でお答えしますと、

・「○○に鑑みる」の場合、○○を手本として参照して考える
・「○○を鑑みる」の場合、○○を手本にし合わせて参照して考える

という、紹介いただいたサイトの中で引用されていた考察と同じ結論になります。

それから、言葉は時代によって変わっていくもの。もちろん正しい意味を守るべき、という考えにはうなずくところもありますが、この『鑑みる』に関しては緩やかに考える余地があると思っています。
何故なら、もし、「〜に鑑み」が正しく「〜を鑑み」は間違いというなら、「かんがみる」が「かがみる」の音“変化”である以上、そもそも「かがみる」と読まないことが間違いとなるでしょう。となれば、むしろ「〜に鑑み」が間違いということにもなりえます。
また、辞書で『「鑑み(かがみ)」が「鑑み(かんがみ)」と同じ』となっているからには、用法も同じくなるのは自然なことと考えます。

また、この言葉は使われていくにしたがって、「何かに何かを参照してor何かを何かに参照して+考える」の二つの行為を合わせた動詞という意味合いが強くなってきたのだと思います。元々そのような意味ですが、元が「何かに参照して考える」という一つの行為としてのニュアンスが強かったものが、今では二つの行為を伴うもの――というニュアンスも強くなった、ということですね。そして僕は後者のニュアンスを、様々な使用例から覚えてきた……ので、自然と使うようになっている、と。


ご理解、納得いただけるか分かりませんが、僕からお答えするとしたら以上となります(^^)


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 常闇 2012/07/28(Sat) 21:17 No.976

困惑と驚きのどちらを示せば判らないような顔をしている撫子の他方、

示せば良いのか判らない、では?

うーん、あるかもしれない言葉だろうけど。
右か左どちらを示せば判らないような
犬と猫どちらを選べば判らない

右か左どちらを示せば良いのか判らないような
犬と猫どちらを選べば良いのか判らない


久しぶりにこっちでしてみた、感想の中一人だけツッコミ入れているのもなんだかなぁっと。

web拍手の方に気を取られ楽遊さんが気づかなかったら、それはそれで面白いかも。


Re: 誤字脱字等連絡用02 - 楽遊 2012/07/28(Sat) 23:50 No.977

こちらではお久しぶりです、常闇さん。
掲示板は定期的に確認しているので、ちゃんと気づきましたよー(^^)


さて、

> 困惑と驚きのどちらを示せば判らないような

これはご指摘の通り『どちらを示せばいいのか判らない』でした。
文章の順番を入れ替え、二文を一文に統合――などをしている最中に「いいのか」を消してしまったようです。コピペミスか、入れ忘れたのかはともかく完全に見落としてました。誤変換に並び、この文章改変中の脱字も多いんですよねぇ。しかも「誤文だけど言っている意味は分かる」という状況だと特に見落としやすい(汗) 気をつけないといけませんね。


先にも書きましたが、書き込みのほとんどない掲示板ですが(苦笑)特に更新後はチェックしています。
Web拍手と使いやすい方をどうぞお使いくださいね。

それでは、ご指摘ありがとうございました(^^)


ニトロの悲劇・短編 『黄金に輝く』 投稿者:楽遊 投稿日:2011/03/19(Sat) 22:03 No.839

第一部のしばらく後のお話。



第一部未読の方にはネタバレになります。ご注意を。


1 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:23 No.840

 西大陸にマナランという町がある。アデムメデスでも有数の穀倉地帯であるアボド平野の隅に位置し、大昔は集められた収穫物を各地に運ぶ拠点として栄えた。が、高速道路や飛行場など新たな輸送手段が増え、また取引先の盛衰に伴う主要輸送路の変化や市場の移転等がある度に力を削られ、衰退の一途を辿ってきた町である。
 そのマナランが今、晴れやかに活気づいていた。
 特に何が変わったわけでもない。未だ作物は東を抜ける高速を通過して行くし、あるいは北にある空港から頭上を越していく。南西の港の荷も西よりの環状路へ流れる。海のレジャーを求める者もその路を沿う。過去には穀物を山と蓄えていた倉庫街は旧跡となり果て、輸送業者を癒やした宿街は寂れて久しい。
 確固とした産業もなく、それでも土地を離れられぬ人々が何とか仲間内で経済を回す困窮は終わっていない。
 だが、マナランは希望に沸き立っていた。
 何故なら、マナランはこれまで何度も振興策を講じては失敗し続けてきた−−しかし努力は無駄ではなかったと知ったからである。その挑戦と挫折の歴史が、希代の王女の目に留まったのだ。


 その日、ティディアはマナランの市役所前広場にあつらえられた演壇にいた。
 広場はマナラン市民全てが集まっているかのように人で埋まり、各メディアの報道陣がその映像を全国に配信する。寂れた町が錆を落とすように身震いしていた。そして、慈悲深くも町の復興のため、格別なるお力をお貸し下さるという姫君に期待の熱視線を注いでいた。
 あの過去の栄光を取り戻す時がきたのだ!
 数々の改革を行い国を高め続ける希代の王女は誰もが驚き誰もが注目する計画を用意したと言う。サプライズ! それはまだ誰も知らない。家族も、側近も、『恋人』も。まだ美しい姫君の胸の内にある、家族も側近も『相方』でもある彼ですらも驚くものだから楽しみにね、と麗しの姫君は言う。
 計画の発表を前にして、既にマナランには国中の目が注がれている。それだけでも素晴らしい成果。この上、ティディア様は何をもたらして下さるのだろう。
 ああ、あの過去の栄光を取り戻す時がきたのだ!−−マナランの市民が期待に胸を高鳴らさぬはずもない。
 ついに時は来た。
 演壇に立つ第一王位継承者が歓声を鎮め、そして、マナラン復興の始まりを高らかに告げた。
「この広場に『大便をする女の像』を建てる!」
 と。


2 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:31 No.842

 その計画が発表された時、マナラン市役所前広場に集まった群集は水を打ったように静まり返った。
 無理もない。演壇に立つ『町おこし』を担った王女様は、こともあろうに彼らの集まる広場にこそ糞を垂れる女の像を建てると言ってのけたのだ。唖然とするほかにない。中には理解が全く追いつかない者もいるだろう。実際、演壇の王女の両脇にいる市長をはじめ名士達はぽかんと大口を開けている。
「目指すはアデムメデス一の大きさよ。色は黄金、全部金色、全裸の女も全開のアレも物の見事に真ッ金々、夜はもちろんライトアップ! 微妙な光量でぼんやり不気味に浮かび上がらせるわ。ひょっとしたら幽玄厳かに見えるかも」
 王女は嬉々として語り続ける。
 誰も彼女を止められない。止めようとすることもできない。
 シンと静まり返った広場でただ一人、あらゆる視線の集まる壇上で笑顔を弾けさせる姫君−−クレイジー・プリンセス・ティディア−−希代の王女にして、色んな意味で無茶苦茶な第一王位継承者。彼女に疎まれることは即ち社会的な死を意味し、つれて実際の死にもつながる恐怖の存在!
「臭いも再現しようと思うの。流石に常にそれだと厳しいだろうから、日に三度、フレーバー放出って感じで、こうプ〜ンって」
 瞳を輝かせる最強にして最凶のお姫様に、何か反対意見をぶつけるなど誰にできようもない!
 沸き立つ希望から一転、マナランは失望の底にあった。未来図を描く声が愉快気であればあるほど絶望の色が増していった。
 しかしその頃から、一方、失望の底にある一つのものが芽吹き出していた。絶望の色の裏側から透き抜けてくる光があった。
 そうだ。ただ一人、この悪夢を修正し得る人がいる。彼がいる!−−誰もがそう思い始めたその時だった。
「あほーぅ!」
 市役所玄関から広場へと、期待のツッコミがえらい剣幕で飛び出してきた。


3 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:33 No.843

 歌うように流れていたティディアの饒舌がぴたりと止まった。
 同時、マナランの群衆は駆けつけてくれた期待のツッコミの効力に歓喜し、歓声を上げようとしたところでまた、同時に、一様に、息を飲んだ。驚き? 無論それもある。しかしそれ以上に群衆は大きな戸惑いをもって彼を−−声と物言いからして間違いない、ニトロ・ポルカトを迎えていた。
 皆の作る広場の得も言われぬ空気に気づいた少年が足を止める。どこか気まずそうにもじっとする。が、彼はすぐにその感情を別の形に変換することに成功したらしく、気を取り直して肩を怒らせると棒立ちの警備隊の間を縫ってずかずかと王女の立つ演壇に登った。一段高い場所に上がった彼を、陽が明るく照らした。すると彼は、見事きらびやか、黄金に輝いた。上から下まで過度にラメった真ッ金々のシャツとスーツとシューズに身を包み、同じく金色の蝶ネクタイを喉元に煌めかせ、日当たりの良い衆人環視の中心で、彼は実にゴールデンに光を放った。
 あまつさえ髪はショッキングピンクに染められている。派手に派手が合わさるコーディネートには一種奇妙な収まりがあるものの、しかしそれでも彼には似合わない。ひどく似合わない。いや、解っている。それは間違いなくこの後のイベント、そこで行う漫才のための衣装だ。しかし、だからって、ニトロ・ポルカトの性質を思えばこれは「どうしちゃったの?」と精神にお伺いを立てるレベルである。市役所前広場が息を飲むほど戸惑ったのも、無理のないことだった。
 ニトロが演壇の王女と並び立つ。
 ニトロを迎えた王女ティディアは、おかしなことだが、彼女も聴衆らと同じく戸惑っているようだった。今にも「どうしちゃったの?」と問いかけそうに深い困惑を眉根に潜ませ、じっと『相方』を見つめ、
「やだ、こんなに似合わないなんて!」
「うっさいわ! 分かってるわ! 俺だってスタッフがこれ持ってきてから小一時間悩んだわ!」
 ティディアはふむとうなずき胸を張り、
「その時間を計算してスケジュール組んだ私、大正解!」
「黙れこの馬鹿!」
 怒鳴るニトロに対して、ティディアはぶりっ子ぶって口を尖らせ、
「何よぅ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない。第一それ、ここの市旗を元にしてるんだから文句があるなら元市長に言ってほしいわ」


4 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:36 No.844

 瞬間、マナラン市役所前広場が一つの理解に支配された。
 マナラン市の市旗は、二代前の市長の手で金とショッキングピンクのチェック模様に改められた。中央にはビビッドカラーで七色に染め分けられた、輸送の拠点であった過去を誇る、トラックを図案化した市章。
『町おこし』の一手、とにかく注目を集めるための奇策。そして確かに注目を集め話題になったが、それもすぐに忘れられ、今では悪趣味な市旗・市章として笑い物になっている負の遺産。
「スタッフに伝えるよう指示していたけど?」
「聞いたよ」
 歯噛むようにニトロは言い、そこで大きく息をつき、
「それで思い直した。チェック柄の服を着せられて車の被り物をさせられないだけマシかと思ったんだ」
 肩をすくめ、洒落めかせてそう言った。その口調と様子とに、聴衆の気が和らいだ。彼の言うことはもっともだ−−と、安堵にも似たものが皆の心を緩ませる。幾らかの人には笑顔も見られた。そして一人だけ、険しく−−渋面を作る者がいた。ティディアだ。
「しまった。その手がもっと嫌がらせになったか」
「嫌がらせだったのかい!」
「え? それ以外に何があるの?」
「いや半分判ってたけども! ここは誤魔化しでも『マナラン縁に合わせまして』ってことにしとけよ!」
「いやだから、マナランへの嫌がらせなんだってば」
「そいつぁ全然判らなかった!」
「何でよ! 私がニトロに嫌がらせするわけがないじゃな−あ痛! え? 何でビンタ?」
「二重にド肝を抜かれて思わずな!」
「そんなに驚くことかしら!」
「何をちょっとキレ気味か! あれか、人の振り見て我が振り直せの逆用か、悪用か? 見てみろ、皆さん思わぬ上に遠回し過ぎる攻撃にビックリ眼だ。市長さんたらあんなに目が丸くなってら!」
「あら、そんなに目が開くなんて立派な芸だわ」
「感心しろって言ってんじゃないわ! 大体『大便女の像』だけでもとびきりの嫌がらせだろう」
 その指摘に皆がはっとした。自分たちでもどうかと思う旗印への揶揄は正直−−ニトロの対応のためもあって−−苦笑いだ。しかし『大便女の像』は笑っていられない。この王女はやると言ったらやってくる。止められるのは、おそらく、君しかいない!


5 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:43 No.845

 聴衆の望む本題に入り、演壇に集まる眼差しがニトロへの期待に変わる。しかしそれらはすぐに戸惑いの色に再度染まった。今度はティディアが目を丸くしていたからだ。
 その様子にニトロまでもが困惑する中、彼女はいたく傷つけられたように叫んだ。
「嫌がらせだなんて、ひどい! 真剣に考えた一発ギャグなのに!」
「なおさら悪いわあ!」
 スパン! と、ニトロの振るった平手がティディアの額と小気味良い音を奏でる。
「言うに事欠いて一発ギャグ!? しかも下ネタとかお前マナランの皆さんの期待と税金使って何さらそうとしてんだ!」
「まあ、お聞きなさい」
「何だいきなりそのキャラは」
「ギャグと言ってもそれなりの集客効果は見込めるのよ」
「その心は」
「まず話題性は抜群よね」
「まあ王族が音頭をとって建造するもんの中じゃあトップクラスのバカ物だろうからなあ」
「銀河規模で笑えるわよね」
「笑われる、だ。判ってるだろう」
「でも芸術にもなると思うんだ」
「思うだけなら何だってな」
「根拠はあるのよ?」
「聞きましょう?」
「排泄を必要としない種族がいるでしょう? 少ないけれど。あちらから見ると排泄行為は生命が互いに支え合っている連鎖の象徴で、摂取したものを完全にエネルギーとして消費できる自分達に比べて非効率の象徴でもあるけれど、それがかえって不完全な生命の連帯を強めて神秘的にさえ感じるって。もちろん全員が全員そう考えているわけでもないけれど」
「つまり芸術はそれに因んで、継いで穀倉地帯のこの場で『我々も食物連鎖の中に』と高らかに示すと」
「そういうこと」
 思わずのため息がそこかしこに流れた。ニトロも関心顔でショッキングピンクの髪を揺らし、
「おお、意外にしっかりした理屈が出てきてビックリした」
「つってもウンコはウンコだけどね」
「台無しだー!」


6 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:46 No.846

 ニトロのショッキングピンクの髪が天を仰いで金ラメスーツが異様に乱反射する。派手な色彩は彼の動きを無駄に飾り立て、すなわち滑稽だった。
 しかし滑稽な格好とは裏腹に彼は言う。
「台無しだお前、そこでそう言っちゃったら台無しだ!」
「でもそうじゃない。ウンコを金と等価にすることはできてもウンコを金そのものとすることは不可能よ。認識相手に言葉遊びをするかお薬で回路をねじ曲げるんなら話は別だけど」
「ええい、さも小賢しく並べ立ておって。話を別にするな、問題はやっぱり大便は大便だってことだろ。芸術でも大便だろ。やっぱ駄目だそんなん集客と引き換えにマナランの皆さん何かを失っていくわ」
「そんじゃあ売り文句その2!」
「今度は何だ!」
「大便女はヌードです、下も上もすっぽんぽん」
「だから何だ、裸婦像なんぞ珍しくもない」
「造りは精巧、まるで生きているように、乳房は触れば柔らかそうに」
「無駄に力を入れるなあ」
「腰掛ける便器はシースルー」
「ん?」
「もちろん下から覗けば「わー! お前何言うつもりだ!」
「保健体育?」
「嘘つけ!」
「中学男子大喜び?」
「やかましいわ!」
「間違いなくスカトロ趣味は大喜び!」
「お前もう黙れ!」
「つまりこれは流行る!」
「流行るかあ! 話つながってねえし、排泄行為の像なんて流行るかあ!」
「何よ、つながってるわよ、信じられないことに全銀河中のスカト「だから黙れあほーぅ! ああ少年、そんなことお母さんに聞かなくていいんだよー」
「いずれ分かるからー」
「黙れってんだー。いい加減喉潰すぞー?」
「喉潰されたくないから売り文句その3!」
「まだあるのかい!」
「これが肝心!」
「ようし、それならそこまで聞いてやる」
「こうでもしなきゃ、ここには売りがない!」


7 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:49 No.847

 ニトロは驚愕し、それ以上にマナランの市民こそが驚愕した。
「何という暴言! お前何言ってんの!?」
 ショッキングピンクの髪を逆立てニトロが叫ぶ。彼の指は始めからずっと自分らを凝視している無数のカメラを示している。
「ここには『町おこし』にきたんだろ!?」
「だから頑張って起こそうとしているじゃない」
「裸婦を座らせようとしかしてねえだろが! その上、ここには売りがない!?」
「見栄でも張らなきゃ事実じゃない」
「なら見栄張らしたれ!」
「見栄張って失望売ってもリピーターは得られないわ」
「それはそうだけども!−−いや、あるよ!? マナランの売り物、あるよ!?」
「例えば?」
「昨日今日来た俺に判るかあ!」
 突如ニトロにまで匙を投げられ、マナラン市民はさらに仰天である。
「それもそうね、じゃあ市長?」
 驚愕し仰天し両目を見開く市長は突然矛先を向けられ息を飲んだ。さらに目が開かれ、もはや顔面の三分の一が目玉に支配されているようだ。
 市長がどもりながら何とか言葉を探す。しかしティディアは素早く見切りをつけて、
「そこのあなたは?」
 目の先にいる男性が、よもや自分にくるとは思っていなかった油断のために押し黙り、力ない誤魔化し笑いを浮かべる。
 それを頼りないと罵倒するように見ていた女に王女の問いの視線が突き刺さり、また力ない笑みが。
 次第に聴衆達は振りまかれる王女の視線から逃れるように目を落としていった。自分達の町への愛着はある。だが愛着だけでは『売り』を求める弁の立つ彼女を納得させられまい。もし愛着からくるこの町の美点を上げ、それを国中に映像を中継するカメラの前で『売りにならない』と否定されたとしたら−−数々の失策の歴史の重みも合わさり、きっと耐えられなくなる。その恐れが皆を縛りつける。
「あ、そうだ」
 と、その時、ニトロが声を上げた。
 マナランは震えた。王女の『相方』として昨日この町にやってきた少年−−少し前には期待をかけたニトロ・ポルカト。頼む、下手なことは言ってくれるな!
「ここには西大陸最古の上下水道の遺跡があるじゃないか」
「公衆便所もね」
 ティディアがうなずく。
 ニトロがどうだとばかりに胸を張り、そして彼は気づいた。ほぼ同時にマナラン市民も気づき、絶望した。
 ティディアが小鼻を膨らませて胸を張る。
「ほら、大便女でいいじゃない」


8 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:50 No.848

 クレイジー・プリンセスの暴走、奇抜にして悪意があるとしか思えない『大便女の像』なる案に、よもやのまともな拠り所が存在した。−−その事実は強烈だった。
 確かに町の外れのさらに片隅に、埃を被り市民にすらほとんど忘れられている遺物がある。この町だけが、そう、唯一独自に自慢し得るものが!
 太古の旧跡がマナランの人間の脳裏に蘇ってきた時、付き従って皆の胸に去来したのは『決定』の二文字。−−駄目だ、そんな由来があるのなら、あのクレイジー・プリンセスの突進を止めることなど不可能だ。
「だからって何で大便女だ」
 しかしニトロは言った。
「上水道もあるんだから水を飲む女、とかでもいいじゃないか」
 この国で最も権力を持ち、最も恐ろしい希代の王女−−一方で覇王の再来とも噂される暴君を相手に彼は食い下がった。
 だが、彼女はつれなく、
「そんなの三日で忘れ去られる」
「だからって糞を垂れるのが必須ってわけでもないだろう」
「なら小便女」
「なぜに便にこだわるのかな!」
「生きてりゃ糞も小便も垂れるもんでしょう!? この町が生きてるからよ!」
 一瞬、ニトロは怯んだ。衰退し過去の栄光があるが故に侘びしさの増すマナランが、生きている、その言葉が持つ力に圧倒されたのだ。
 どうだ。とばかりにティディアが鼻を膨らませる−−が、しかし、ニトロは頭を振り、
「うおお今納得しかけちまったけど、つかお前聞こえのいい言葉をいきなり放言しただけじゃねぇか、そんなんで押し通させるものかよ」
「ちっ」
「舌打ちすんな! それにだ! 裸婦像ってことはまたお前はぞろモデルが必要だとかで町の皆さん困らせるだろ?」
「そこは心配ない。モデルは私だから」
 次の瞬間、マナラン市役所前広場を、いや、アデムメデスを今日一番の驚愕が包み込んだ。


9 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:52 No.849

 今、この瞬間、問題はマナランのみに止まらなくなった。
 この『町おこし』を伝える報道陣には、これまでは、マナランの災難に同情しながらも他人事を眺める余裕があった。だが、そんな余裕は欠片も残さず消し飛んでいた。
 王女が、現役の第一王位継承者が、未来の女王が! 裸で排便している姿を巨大な黄金像にする!? それも下から覗ける形で!!?
 そんなことを許せば国の恥、汚点、ああ言葉が追いつかない。アデムメデスは銀河に末永く『大便女王の国』と語り継がれていくこととなろう!
「お前バカだろう!!」
 悲鳴じみたニトロのツッコミは、まさに的確だった。的確過ぎて、他の誰もが彼の言葉を追いかける必要がなく、彼は今まさに国民の代弁者だった。
「いやもうホントに頭どうかしてるだろう!」
「そりゃあクレイジー・プリンセスだものぅ」
「何を嬉しそうに笑ってんだ!」
 ツパンと頭をはたかれてもティディアはにんまりとしている。
 駄目である。
 ホントにこの姫君はどうかしてる。
 ここで思いとどまらさねば、絶対に実行する。
 気づけばニトロの双肩にマナランのみならず王国の誇りまでもがのしかかっていた。
 しかし彼にはそんなことを気にする余裕もない。彼は必死に考え、
「この町は、綺麗だ!」


10 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:54 No.850

 ニトロの主張は苦し紛れにしても平凡に過ぎ、なまじ姿がどぎつく派手であるために彼はどうしようもなく滑稽で、もう、笑いではなく哀れみを誘うことしかできない道化にしか見えない。
 少なからず、彼を見る目に目に諦めが漂う。
 それでも道化は言う、
「道は路地裏にもゴミ一つないし、どの店も綺麗に掃除されてるし、どこのトイレもピカピカだ。清掃ロボットの働きだけじゃない」
 ティディアは小さくうなずき、息を吐く。
「ひょっとしたら一番早く上下水道に公衆便所も作った流れかな。衛生意識が高いんだ」
「その当時とこの町に歴史的な繋がりはないわ」
「土地柄だよ」
「土に意志決定をさせる力があるってのはオカルトね」
 ニトロは片目尻を小さく歪めた。そして、彼は腕を組み、挑戦的に鼻を鳴らし、
「オカルトなんかじゃない。もちろんこの町の人の心がけに決まってる。そしてこの町は、綺麗なんだ」
 挑戦的ながらも一度言った内容を繰り返したに過ぎないニトロを、ティディアはため息であしらうように、
「どこが?」
「例えば旧い宿街」
 少し、広場に反応があった。高慢な王女への対抗心も疼いたか、対決するニトロの背を支えるように視線に熱がこもる。
「400年前の建物をそのまま使い続けてるんだっけ」
「空き家でも手入れは行き届いているわね」
「今でもそのまま宿に使えそうだ」
「でも100年前の都市改造で郊外になっちゃったから繁華街から離れてる。不便よ」
「道路網は解りやすくて歩きやすいから、問題ないさ」
「まあ輸送の拠点だったくらいだしねえ」
「それに街並みがレトロでいいんだ」
「レトロなだけじゃあ退屈よ。昨日、名物とかいう超絶レトロな馬車に乗ってみたけど? アイントからパッカパッカ運ばれるだけだったし、いくら立派な畑もずっとそれだけじゃ見飽きるし」
「おっと? あれが退屈だったと言うのか? 馬車でのこと、よもや忘れたとは言わせないぞ」
「あら、何かしたっけ。セッ「朗・読・会・だ! 突然脈絡もなくな! しかも無理矢理熱の入った演技指導までしやがっただろう!」


11 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 22:58 No.851

 ティディアはわざとらしくハッと胸に手を当て、やおら羞恥と期待と不安の全てを抱くように、
「『あなたはキスをしたことはある?』」
「やっぱ覚えてるじゃねえか!」
「『あなたはキスをしたことはある?』」
 ニトロはため息をつき、
「『ないよ』」
「『……したい?』」
「『……わからない』」
 ふいにやり取りされたセリフの情感に、どこかでため息が漏れた。
 それは文豪アデマ・リーケインの作。翌月には顔も知らぬ男に嫁ぐ、弟のように思っていた少年を男性として意識しだしてしまった少女と、三つ年上の少女を姉のように慕いながら、思春期に入り女性とも意識しだした少年との、触れ合いながらもすれ違う恋慕を描いた秀作−−『麦の穂』。
 作中の二人と同じ年齢差の『恋人』が語らうには、たまらないものがある短くも濃密な一編。
「最近の研究で、アイントからマナランへの道すがら、馬鹿みたいに300年も続けている『赤字馬車』の中で一気に口述筆記したことが判ったそうよ」
 広場が、どよめいた。
「文学の論文にまでアンテナ張れとは言わないけどね」
 言外に自分達の町の名くらいにはアンテナを張れと含めるティディアの視線を引き戻すように、ニトロはため息をついた。
「それで最後の方は『まき』で進めさせたのか」
「どうせなら書いた時間に合わせたいじゃない?」
「解らないでもないけどな」
 ティディアは微笑む。そして、
「それにしても」
 ふいに不機嫌な様子で口を尖らせた。
「何で昨夜、黙って一人で出歩いたのよ」
「何だよ、悪いか?」
「悪いわ。私だって一緒にグリルチキン食べたかった! 何あの屋台、倉庫街の隅っこに出してる程度のくせに、何あのスパイス効いたトマトベースのソースにつけこんで焼き上げるジューシーチキン!」
「……え? 何でお前、俺が食べたもの知ってんの?」
「つけてたからにきまってるじゃない!」
「ストーカーか!」
「あんまり寂しいからついニトロが食べたチキンの骨持って帰ってきちゃったもの!」
「てか性質の悪いストーカーそのものでした!?」
「骨だけ舐めてもあんなに美味しいものを一人で見つけるなんてズルいわ!」
「いや待て言葉も変だしそれより舐めたの? お前、まさか本当に舐めたの?」
「しかも何だか同席したおじさん達と仲良くなっちゃってさ! 私がどれだけ寂しい思いをしたと思ってるのよニトロのバカ!」


12 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 23:01 No.852

「バカぁ!?」
 バカ姫にバカと言われたニトロは至極心外とばかりに怒声を上げた。
「言うに事欠いてバカぁ!? お前にだけは言われたくないわ!」
「言われたくないんなら再来年私も連れてってよね! えーっと」
 と、突然ティディアが広場を見渡し、
「そこの屋台の爺さん! だから医療費ケチらず腰を治して絶対にそれまで店を続けてなさい! 保健も効くから! ついでにその借金、違法性があるから諸共そこの市役所まで要相談!」
 ビシッと伸びた彼女の指の先、広場に集まる人の隅っこで一人の老人が硬直した。
「それからそこのオヤジ! 速度違反の自慢なんかしてないでニトロに言われたとおりに安全運転! 彼と黒ビール飲みながらあのチキンを食べる約束、事故なんかで破ったら墓の中にまで罰しにいくから!」
 改めて王女が指差した群集の中心部から、反射的に上擦った声が返る。
 驚くべきティディアの視力、そして識別能力であった。
 やや遅れて老人が声を−−涙声を張り上げ返答し、クレイジー・プリンセスは満足げにうなずき、
「約束の頃には、あの寂れた倉庫街でフェスティバルなんか開けるようになっていたらいいかもしれないわね」
 ふっ−−と、広場のどこかで鋭い吐息が漏れた。するとそれに刺激されたかのように、そこかしこでクスクスと笑いがこぼれ出した。
 やがて小さな笑いの起こりが大きな笑顔を引き寄せ、恐ろしくも親しみある王女様の偏屈な激励に、マナラン市役所前広場は愉快げな声と歓声に包まれていた。
 いつの間にか哀れみではなく笑いを起こせる道化(クラウン)に変じていた、ショッキングピンクの髪色のゴールデンボーイ。最初から最後まで強烈なクレイジー・プリンセス。二人にくすぐられた町の長所が腹を抱えているようでもあった。
「さて」
 と、頃合を見て、ティディアが言った。
「それじゃあこれで気兼ねなく大便女の像を建てられるわね!」
「まだ造るつもりだったんかい!」
 一仕事終えたつもりで気を緩めていたニトロが、半ば反射的にティディアをすっぱたく。
「当たり前よ!」
 叩かれたティディアが怒ったように言う。
「さっきも言ったけどこの町には売りがないんだから!」


13 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 23:03 No.853

 ニトロは首を傾げた。
「何言ってるんだ? さっき色々……」
「『売り』は、人を呼んで、かつて呼んだ人をまた呼び寄せられてこそ本物。さっきのは売りになりそうなだけでまだ『売り』にはなれていない」
「それは……そうかもしれないけど」
「それに今の話だけでどれだけ集客できるかしら。集客力の差もどう? 私の案は話題性は抜群で、しかもそれなりに長い月日をここに居座れる」
「いずれ飽きられるにしても、定番になるにしてもか」
 確かにそう言われてしまうとティディアの言い分に勝てるだけの材料がない。
 再び広場の活気が減りつつあることを肌で感じ、焦燥を覚えたニトロはふいに思いついたことをそのままティディアに投げつけた。
「分かった。大便女、了解だ」
 つい直前まで笑いに包まれていた広場が、悲鳴と抗議に包まれた。


14 - 楽遊 2011/03/19(Sat) 23:07 No.854

「ただし!」
 騒ぎに負けずニトロは声を張り上げた。それはマイクを通して音の爆弾となり、爆発し、広場を一瞬にして沈黙させた。
 壇上にあっては、マナラン市長ら名士を脇に置いてティディアと並ぶ存在感で彼は言う。
「でっかいのは止めよう。逆にアデムメデス一小さい像にしよう。精巧なのも止めだ。意味がない。むしろそんなに小さいのに芸術的な彫刻である方がいい。便座は最古の形でもちろん有色。そして、そこに埋め込む」
 ニトロが指差したのは、市民達の足元。
「そんなの、それこそ意味ないじゃない」
 広場を一瞥するティディアにニトロは肩をすくめ、
「見つけられたら幸運が訪れるってことにすればいいんじゃないか? 定期的に位置も変えてさ」
「『ことにすれば』って、それもそう言っちゃあ意味がなくない?」
「意味がないことも意味があるようにするのは得意だろ?」
 問い返され、ティディアはうつむいた。2秒後、顔を上げた彼女は満面に笑み、
「確かにそうね」
「だろう?」
 と、ニトロがうなずいた、その瞬間。
 スッとティディアが顔を差し上げ、ニトロの唇に唇で触れた。
「ッ!?」
 ニトロが目を見張り後退りすると同時、これまでで最大の歓声が広場に沸き上がった。
 歓声の中、ティディアが自分の紅が薄く移ったニトロの唇を見つめる。それに気づいたニトロが唇を拭おうとするが、しかし、ティディアの鋭い眼差しが彼にそうすることはならないと強く警告する。
 ニトロはティディアを睨んだ。照れるなと声が飛ぶ。
 ティディアは唇を動かした。それが何か恋人への甘いセリフと見えたか、もう一度と声が飛ぶ。
 ニトロは、やがて観念した。ティディアが示したのは甘い言葉などではない。『謂われよ』−−そう、彼女は彼の希望に応えたのだ。
「決定のキス、ね」
 歓声が薄まり、ティディアの声が皆に届く。
「それも公の場で、私達がした初めてのキス。ふふ、像を見つけてから『決定』のキスをした恋人達は、私達と同じね」
「……」
「私がモデルの大便女にはインパクトで負けるけど、まあ、良いところかしら」
 ニトロはおよそ無表情にティディアを見つめ続けていた。周囲にはそれが真剣な表情に取れ、真正面から彼を見つめ返す彼女にはもちろん彼が文句を噛み殺しているのだと知れた。知った上で、彼女は軽くウィンクをし、
「サービスしすぎちゃったわね、マナランに」


- 楽遊 2011/03/19(Sat) 23:12 No.855

 ティディアのあくまで『悪びれぬ態度』にニトロは、ついに肩を落とした。
「まったくだ」
 その承知が発せられた瞬間、先にも増して広場に歓声が轟き、拍手が鳴り響いた。
 ニトロの承知は、皆の承知。
 とんでもない提案を皮切りにして、しっちゃかめっちゃかに振り回してくれたクレイジー・プリンセスの『演説』も最後は平和に収まった。
 鳴り止まぬ拍手と歓声の中でティディアは微笑を称えて手を振り皆に応え、促されてニトロもぎこちなく手を振る。
 数分も続いた喝采の最中、ニトロとティディアは幾度も目と目を合わせた。目と目で語り合った。わずかな表情の変化と取り合わせ、
『−−よくも都合良く利用してくれたな』
『期待以上だったわ』
『いけしゃあしゃあとコンチクショウ。しかも全部アドリブってどういうことだ』
『必死だったわねー』
『必死にもなるわ』
『恋人のお尻を晒させないため?』
『断じて、お前のためじゃねえ』
『そうね。皆のため』
 二人を包むのは、改めて自分たちの町への情を温める人々の高揚感、そして、歓喜。
『……いけしゃあしゃあと、コンチクショウ』
『これだからニトロ、大好き』
『これだからお前が大嫌いだ』
 彼と目を合わせるごとに微笑みを増す王女。
 彼女と目を合わせるごとに頬を動かし応える少年。
 端から見る限りは真に目と目で語り合う恋人に他ならず、いつしか場には二人への祝福までもが溢れていた。
 やがて、未だ歓声と拍手が残る中、ティディアは締めの言葉を結ぶために演壇に立った。
 彼女の言葉を聞くために、皆、静まり返る。
 希代の王女は歓びの余韻を残す広場をゆっくりと見渡し−−と、突然、
「あッ!」
 ティディアは大声を上げたかと思うと勢い良くニトロへ振り返り、そしてまじまじと彼を凝視した。
 その様子はあまりにただ事ではなく、そのため緊張が走った。
 まさか、またクレイジー・プリンセスは妙なことを言い出す気じゃあるまいな?
 疑念と困惑の沈黙が広場を支配し、ニトロも戸惑いの目を投げる中、ティディアは叫んだ。
「ニトロ! あなたの出番はまだ後よ!?」
 刹那、ニトロの手がティディアの頭をスパンと叩く。
「今更かい!」





ご無事で何よりです 投稿者:新東 投稿日:2011/03/19(Sat) 00:56 No.837

はじめまして。
掲示板に投稿するのは初ですが、いつも楽しませてもらってます。
東日本大地震の影響を受ける場所でご無事だったのは本当によかったですね、こちらは関西在住なのですが被災者のこれからについては色々助ける事ができるのでしょうが、個人としては募金しただけですが…(募金した所がユニセフ経由だったみたいなので全額送ってくれるか心配)。
でも楽遊さんがご無事なのは何よりです、停電の影響とかもあるのかも知れませんが頑張ってください。
あと何故か投稿キーエラーが異常に頻発してます、これ誰も書き込めないんじゃ?


ありがとうございます! - 楽遊 2011/03/19(Sat) 02:01 No.838

新東さん、初めまして!
いつもおいでいただき、そして楽しんでくださってありがとうございます。さらにはご心配と温かいお言葉までおかけいただき、重ねて御礼を申し上げます。
今回の地震では、間違いなく人生最大の揺れを感じました(数値上は震度5でした)。いつまで揺れるんだ!? というのも初めてで、正直もう二度と味わいたくないものです。
しかし怪我一つなく済んだのですから、それ以上は望むべくもありません。
停電の影響は確かにありますが、やれることをしっかりやっていこうと思います。頑張りますよ!
そしてこちらでも募金等、被災者の皆様への助けになることをやっていきます!(それにしても募金。ルートが変に複雑なものや、最悪詐欺などもあるので、それが厄介ですよね(汗&怒))

投稿キーエラーについてのご報告も、ありがとうございました。しかしエラーをこちらで確認できなかったため、しばらく様子を見ようと思います。また何かありましたらお気軽に、拍手などでも。


新東さんも、地震等天災に関わらず、お怪我などなされませんようお気を付けくださいね。
できるだけ近いうちにサイトも――節電に協力しつつ――平常運転に戻そうと思いますので、またいらっしゃってください。
それでは(^^ノシ


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