ニトロは爪を切りながら、ニュースを見ていた。
以前は報道番組をほとんど見ることはなかったが、ティディアと相対するようになってからはそれを中心にしている。
公なティディアの行動を知るには手っ取り早い媒介だし、それに王家広報の情報にはない、例えばインタビュアーへのコメントも知ることができる。
(まあ、でも)
今日は奴は
[さて、次は
ニトロは一度顔を上げた。
画面がスタジオから録画映像に切り替わる。
そこに映る会見場、並べられた席に多くの記者が座る中、演台の前に立ったYシャツとパンツルックのティディアを見止め、ニトロは視線を手に戻した。右手の爪を全部切り終えて、爪切りを持ち替え左の親指に刃を当てる。
(会議がうまくいかなかったかな?)
[ご機嫌がよろしくないようですね]
記者の一人が問うた。
確かにティディアの顔は見るからに『不機嫌です!』と宣言していた。しかしそれはこの状況を鑑みれば、問題解決のための会議の成果が良くなかったということしかあるまい。いかに無敵のティディア姫とて、けして神のごとく万能ではない。最後には事をうまく治める比類なき姫君もその過程ではそれなりの労も要する。
直接会議の件を問い質せないのは、その記者の切り出し方だからか、それとも厳しい姫様を畏れてのためなのか。もし後者であれば、彼女は敏感に感じ取って『下積みから出直しなさい』とでも言うかも知れない。
「……ん?」
妙に間が空いていることが気になって彼が目を上向けてみると、ティディアは眉間に皺を寄せて瞼を固く閉じていた。
王女を囲んでいる皆が息を呑んでいるのが分かる。中でも質問をした記者が、可哀想なくらい緊張していることが。
やがて彼女は拳を握り、声高に叫んだ。
[ニトロのせいよ!]
「なんでだ!」
予想のはるか下を行くバカの答えに反射的に叫んだニトロは、思わず手を握りこんでいた。
人差し指に当てていた爪切りを、握っていた利き手を、ツッコミに任せて思い切り。
思い切りブシッと。
深爪ざっくり
「ッぎゃーーーーーーーーす!!」
「アア!? 主様大丈夫カイ!」
悲鳴を上げたニトロに芍薬が悲鳴じみた声をかけた。慌てて
「我慢、我慢ダヨ、主様!」
芍薬はロボットアームでニトロの手を握るや治療薬をどばっとかけた。
「――っ!」
[だってニトロったら忙しい私に『頑張れ、愛してる』ってメールの一つも寄越さないんだもの! 約束したのに!]
「うひょぉおぉう!!」
遠慮なくかけられた治療薬が傷に沁みて、ていうかティディアの言葉も色々痛くてニトロは叫んだ。
「ほぉぉ……ぉぉ」
「我慢ダヨ!」
[え? ああ、何だ。会議のこと?]
てんやわんやなニトロと芍薬の後ろで、ティディアはのん気な声で記者に応えていた。
[そっちは大丈夫。これからいい方向に――]
急に機嫌よく首尾を語り始めたバカ姫の声を耳に、じんじん痛む指を抱えてニトロは唇を噛んだ。
嗚呼、痛み損。