星に願いを

 昔、昔ね。
 地球のおへそに星が落ちてきたんだって。
 それはとってもおかしな形をした星で。
 そしてとってもおかしな色をした星で。
 でもその星が本当におかしかったのは、地球に住む人間をおかしくしちゃったこと。
 昔、人間は火をつけるのにライターっていう道具を使っていたんだって。
 でも今じゃみんな指の先っぽに火を灯せるから、そんなものはいらない。
 昔、人間は光のないところでは懐中電灯がないと危なくて歩けなかったんだって。
 でも今じゃみんな猫みたいに夜目が効くから、そんなものもいらない。
 大昔の人はそれがあるかないかで口げんかをしていたらしいけど、もし今超能力なんて存在しないなんて言ったらみんなに笑われちゃう。

 でもね。
 わたし、もし超能力なんてなかったら、どんなに良いかっていつも思う。
 だってわたし変なんだもの。
 みんなとちょっと違う……ううん、すごく違う、変な超能力があるから。
 生まれつき、初めて見た人は誰でも驚いて、そして笑っちゃう超能力。生まれつきあるくせに、ちゃんと扱えるわけじゃないからいつも笑われるしかなかった超能力。
「ミっちゃん、おっはよ!」
「きゃあ!」
 突然背中を叩かれて、びっくりしたわたしの目から星が二つ飛び出した。
「あ……驚かしちゃった?」
 地面にころころ転がった星を見て、ナっちゃんがばつが悪そうに笑ってる。
「ううん……」
 驚いてないよって言おうとして、わたしはそう言うのをやめた。
 嘘はつけないもの。
「うん、ちょっと驚いた」
「ごめんね」
 ナっちゃんはわたしが創り出した星を拾い上げて、水晶みたいな二つの星を透かして青空を見た。
「だけど、いつ見ても綺麗だね」
 ナっちゃんはそう言うけれど、わたしはうなずくことはできなかった。
 だって、わたしはこの超能力が大嫌いだから。
 勝手に、驚くたんびに目から星を飛ばしちゃう、まるで漫画みたいなこの力が。
 きっと地球に落ちてきた星が嫌がらせしてるんだ。
 わたしにはそうとしか思えなかった。
「あー、『星子』がまた星を飛ばしてやがる」
 後からやってきた同じクラスの竹谷くんが、わたし達を追い越しながら笑って言った。
 恥ずかしくてうつむくと、ナっちゃんが竹谷くんを怒鳴って追いかけた。
 竹谷くんは驚いて逃げるけど、『肉体強化』が大得意のナっちゃんはあっという間に彼に追いついて、思い切りグーで殴りつけた。
 悲鳴を上げて頭を抱えて竹谷くんが、一本道の向こうに見える学校へ逃げて行く。
 制服のチェックのスカートを翻して振り返ったナっちゃんは、ピースサインをわたしに見せた。
 わたしはそろそろと小さくピースした。
 ナっちゃんは満足そうに笑ってわたしを待っている。
 わたしが追いついたら、ナっちゃんは「気にしちゃ駄目だよ、すごく素敵な超能力なんだから」って、慰めてくれるだろう。
 幼稚園の頃からずっとそうしてくれてたように。
 だけどわたしは幼稚園の頃からずっとそうしてたように、小さくうなずくことしかできないんだ。
「気にしちゃ駄目だよ」
 でも、でもね。
 ナっちゃん。
 わたし、最近ね。
「すごく素敵な超能力なんだから」
「……うん」
 やっと、この超能力のこと、少しだけナっちゃんみたいに思えるようになってきたの。
「お、また星ができたのか?」
 背中に声をかけられて、また一つ星が飛び出した。
 わたしの横を通り過ぎて、その星を拾い上げた広田くんが残念そうに言う。
「今日は透明か。約束のができたらちゃんと教えてくれよ?」
「う、うん」
 わたしがうなずくと、広田くんは星を制服のポケットにしまってナっちゃんに言った。
「ナツキ、そんなに男子を殴ってばっかじゃいつまでたってもゴリラ女だぞ」
「うっさいヒョロ。余計なお世話だ」
 ナっちゃんが拳を振り上げると、広田くんは肩をすくめて早足で歩いていった。
「あ〜あ」
 どんどん先に行く広田くんの背中を見ていたら、ナっちゃんがため息をついた。
「どうしたの?」
 ナっちゃんはわたしの肩を抱いて、ぼそっと耳元で囁いた。
「幼馴染より、男か」
「!?」
 目から星が散った。
 顔から火が出るようだった。
 わたしは『発火』が苦手でよかったと本気で思った。
「い……いつから気づいていたの?」
「ちょっと前からおかしいなって思ってたんだ。いやいやまさか、ヒョロをねえ」
「言っちゃ駄目だよ? 誰にも言わないでね!」
 ナっちゃんは意地悪な顔をしている。
 でも、そう。
 わたしがこの超能力のこと、ナっちゃんみたいに思えるようになってきたのは広田くんのおかげ。
 わたしの星を綺麗だって言ってくれて、地球のおへそに落ちてきたおかしな星と同じ色のものができたら、お守りにするからちょうだいって、言ってくれて。
 だからわたし、この変な超能力のこと、少しだけ好きになって……。
 それから星がこぼれるたびにお願いするようになったんだ。
「ね、お願いだから言わないでね?」
 いつか七色に輝いて、彼の喜ぶ顔を見せてって。

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