このまま口論を続けても意味がない。なら話題を変えてみる。変えたところでニトロが乗ってくるわけがない。模試の判定について言ってみる? セドカルラ大学国際学部を第一志望に決めたことを振ってみる? どうせ国外逃亡とかハラキリ君の店の手伝いとかそういうのを考えてるんだろうけど『王』にとっても異文化を勉強するのはとっても重要なこと、ふふ、ニトロったら裏目っちゃって可愛い! なんて言ったところで勝手に知るなって言われちゃうわね。また怒らせちゃうだけ。でも、どうしてそういうことするんだって言わせる流れを作って、えっと、ニトロのことなら毛穴の数まで知りたい! って言ったら愛情の深さに思いをめぐらせてくれるかしら? そんなわけがないじゃない、阿呆、嫌われるっていうより気持ち悪がられるわよ。だったらとにかく帰らないでって説得しようか。いいえ、それは今までみたいに事故だって主張し続けるのと変わらない。ここにきてこれ以上の説得などできるものか。説得が駄目なら拝み倒す。拝み倒してどうにかなる相手だったら苦労はしない。片っぽなんて中途半端だったから駄目? いっそドレスを脱いでみようか。この期に及んでそんなことして何になる。ああでも時間稼ぎはできるかも。少なくとも口論はぶっ飛ぶ。てかそんなこと意味ないわよ、おっぱいの一つ二つに違いなんてないわよ、だってニトロは私の体に興奮するわけないもの。武器だもの、私の裸はニトロにとって。涙。大体興奮するならもうしてくれているわよ! 血涙。それに脱いだりしたら、きっとニトロは逃げる。しかも怒って逃げる。裸を見られて、ていうかおっぱい見られて怒られるってよく考えたらとっても酷くないかしら。さっきあんな目で見られて本当にちょっと傷ついたんだからね、ニトロ。しかも私に諦められるためなら愛撫することも辞さないみたいな反応までしてくれて、本当にショックなんだから。自業自得? 解っている、解っているわよそれくらい。ああもう脱線している。そうだ、ドレスを脱いだらどうなる? ニトロは出て行く、逃げていく。きっと止められない。なら追いかける。芍薬ちゃんが止めにくる。それはヴィタに頑張って抑えてもらう。ビームは当たらないことを祈る! そうだ、ショーツも脱いで全裸で追いかければ流石にニトロも外を駆け回るのは躊躇ってくれるはずよ。でも躊躇ってくれるかもしれないけど痴女決定ね。今更だけど今からさらにマイナスポイント。うわ。躊躇ってくれなかったらマイナスポイントに加えて……追いかけるには限度がある。だってニトロ以外の男に見られたくないもの。あ、限界線まで追いかけてからそう言って訴えてみるのはどうだろう。ふふ、信じてもらえるわけがない。効かない上に残るのは大マイナスポイントだけに決まっているじゃない、うっわ。こうなったら泣き崩れてみる。ニトロは演技だって解っちゃう? うん、解るはず。ハラキリ君が保証してくれている。何だかんだ言ってもニトロが私のことを最も理解してくれているのだから。ニトロならそんな演技は見破ってくれる。って見破られちゃ駄目なのよ今この場においては、それじゃ相手にされずに帰られちゃうじゃない。くそ、意味がない。それなら土下座してみる。ニトロは冷やかに出て行く。うん、意味ない。土下座してみる。ニトロがそんなことをするなと言ってくる。それで? 立ち上がったらさようなら。うう、意味ない。あ、顔をとにかく赤らめて抗議し続けてみたらどうだろう。頭に血が昇っちゃってしょうがないって感じで反論の余地なく無呼吸早口でまくし立てて、どんどん耳まで真っ赤にしていってそれで最後は倒れるの。ふぅって気を失うの。ニトロは心配してくれる? きっと心配してくれる。だって何だかんだ言ってもニトロは優しいもの。看病してくれる……わけないわね。ヴィタがいるもの。任せてさよなら、お大事に。ぬぅ。こうなったら恥も外聞もなく足にすがりついてみる。ニトロに蹴り飛ばされる。痛いけどちょっとスキンシップできて嬉しいけどそれでお仕舞い。うん、意味ない。すがりついてみる。ニトロ、情にほだされる。そんなに楽ならどんなにいいことかチクショー! すがりついてみる。芍薬ちゃんに蹴り飛ばされるパターン発動。とても痛い。すがりついてみる。ついでにどさくさまぎれに股間に触れて誘惑してみる。うん、色んな意味で駄目。ニトロの馬鹿力がきたらいいけど芍薬ちゃんの憤激がきたら避けられない、ビームでこんがり焼け死んじゃう。ニトロに飛びついて離れないのは? ニトロに引き剥がされそうになる。抵抗する。引き剥がされそうになる。抵抗する。何かやばい投げ技くらいそう。それでも離れない? 芍薬ちゃんにはニトロを向けて、盾にして。でもそうしたらニトロは最後は馬鹿力。結局私は痛い目を見てお仕舞い。むう。もう一回最初から、ニトロに飛びついて離れない。ニトロに……飛びつき方を変えてみる。ニトロの顔を私の胸で押さえ込む、そう、あの時『銀行』でそうしたように! そうすればニトロは私のおっぱいにめろめろ――そんなわけないか、ちぇ。だけどニトロは私の胸の中。ひとまず私は良い思い。ニトロの息が、あん、私の胸に―ってンな妄想している暇はない、そんな場合じゃないでしょティディア・フォン・アデムメデス・ロディアーナ! 頭脳明晰な私はどこに行ったの? ここにいるじゃない! あわわわ待って待ってニトロ、そんな扉に足を踏み出そうとしないで!――ひ・と・ま・ず! ニトロを抱き締め私は良い思い! 一方的には胸に残せるニトロの温もり! 何にも得られないよりはマシ! 芍薬ちゃんにはやっぱりニトロを向けて盾にして。そうしてニトロと抱き締め合う。きっとニトロはベアハッグをしてくるはず。苦しい私。でもそんな苦しみもニトロの腕の中では喜びに! いやんマゾね私! 違う、そういう話じゃない! ニトロツッコミプリーズ!――だから違う! ああもう何でこんなに頭が回らない! うわわわ待って待ってニトロそんな扉へ足を踏み出さないで! ええっと、そうだ、もうこの際マゾでも何でもいい、ニトロに形はどうあれ抱き締め返されるなら! 私は頑張るわ、ギブアップなんてしない、耐えれば耐えるほどニトロと抱き締め合えるのだから、きっと最後にはニトロは切れちゃうわね、馬鹿力よ、そうなったら私の肋骨バッキバキかも下手したら背骨ボッキボキかも、いいえ大丈夫、馬鹿力は馬鹿な力なのに馬鹿みたいに致命傷は与えないでくれるから、死にかけるけど激痛で失神しちゃうけど絶対に泡吹いて失神しちゃうけどそう、私は失神させられればいいのよ! ヒーヒー言って昇天しちゃうの! それをメディアに伝えるわ、大体の時間はヴィタが覚えていてくれる、そうね、二・三分は頑張りたい、二・三分でニトロに失神させられちゃった(ハート×10)うん、これがどんな風に世間に伝わっていくかなんて火を見るより明らか! これね!!
――――違う!
それも楽しいけど、私らしくもあるけれど、今日は……違う!!
もっと考えろ!!! 素直に、いつも素直だけど今日はもっと素直に――……