凶_pre

(『おみくじ2014 3』の同日、『おみくじ2018 凶』の二日前)

「ところで撫子」
「ハイ」
「どうやら一部で拙者は『恋の守護天使』と呼ばれているらしい」
「把握シテイマス」
「何故報告しなかった?」
「報告スルホドノコトデハナイト判断シマシタ」
「何故?」
「生命ニ関ワルコトデモナク、危機ニ繋ガルコトデモナク、マタアラユル面デハラキリ様ノ指定シタ報告基準ヲ満タシテイマセンデシタ」
「いや、危機に繋がる可能性はあった」
「ソレハ会話ノ中ニオイテ不利ナ立場ニ追イ込マレル危険ガアッタトイウコトデショウカ。例エバ、ティディア様ニカラカワレル等」
「解っているなら」
「ソレホドノコトガ何ダト仰ルノデス」
「……」
「ソレトモ、ソレホドノコトモ切リ抜ケラレナイトデモ? ハラキリ様ハ小サナ未知ノ情報ニモ翻弄サレテ、ドウニモナラナクナッテシマウト」
「……」
「私ハ、コノコトヲ知ラヌ方ガハラキリ様ニトッテ良イトモ考エテイマシタ。ソウト言ワレテ驚ク程度ノ“可愛ゲ”クライハアッタ方ガ、ムシロ利益ニモナリマショウカラ」
「撫子」
「ハイ」
「むしろ、その“可愛げ”はお前が見たかったんじゃないか?」
「見ルコトハ叶イマセンデシタガ実際ニハラキリ様ガ想定シタ事態ニ陥ッタトナレバ、カエッテ想像力ガ働クモノデスネ。可能デアレバ想像ノ精度ヲヨリ良クスルタメニソノ時ノコトヲオ教エ願イタク存ジマシテ――ドナタニ、ドノヨウナシチュエーションデ言ワレタノデショウ。オソラク、ハモン氏ニ言ワレタノダト推察スルノデスガ」
「……撫子」
「ハイ」
「もしや、おひいさんの悪影響を受けていないか?」
「ソノヨウデス」
「……。
 ……大体そんな可愛げなんて、拙者にあるようなものではないよ」
「ソウデショウカ。私ニトッテハ、ハラキリ様ハイツデモ可愛ゲノアル方デスノニ」
「――ふむ。となると、どうも拙者はお姫さんじゃなく今まさに撫子にこそからかわれているらしい」
「ホラ、ソノ口振リナド可愛ラシイ」
 とうとうハラキリは深く息を吐いた。小さく頭を振り、
「あぁ、はいはい。撫子姉サンがそう言うのなら、きっとそうなんだろ」
「久方振リニソウ呼バレルト、ドキリトシマスネ」
「なんだなんだ、今日は本当にご機嫌じゃないか」
「エエ、ソノヨウデス」
 微笑を浮かべて、前髪を一直線に切り揃えたアンドロイドは手に入れたばかりのタンモノにハサミを入れる。
 生地の切られる一種快感を得る音を耳にハラキリは今一度深く息を吐いた。
 撫子は、フフと笑った。

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