ティディアのお菓子

(第二部 [6] と [7] の間)

[それでは貴方は『自分にこの件を扱うだけの能力はない』と、そう言うのね?]
 夜、西副王都ウエスカルラが統べる大陸の、ナーセイ領領都で行われた会議の模様をダイジェストで伝えるニュースが壁掛けのテレビモニターに流れていた。
 その中ではこの国で最も有名な女性が、ナーセイで長く問題視されていながら、遅々として改善の進まないでいた案件について担当の政治家と討論をしている。
 キャスターが言うには、なんでも『彼女』はその担当政治家が改善を遅々として進めないでいたことを黙認していた――その案件を監督する立場にあった貴族を、昨日付けで解任したらしい。
 代わりに新たに取り立てられたのは、キャスターの説明では目立たなくはあったが堅実な仕事振りで知られた貴族。権威の序列で言えば下の方で、彼が取り立てられたことには少なからず驚きが走ったらしい。王女が彼にチャンスを与えた、とコメンテーターが口を挟んでいた。
 さらに返す剣で王女が行ったのは、本来なら貴族と政治家、お互いの権力が正しく行使されているかを監視する立場にあるはずなのに元代表の庇護を受けていた担当政治家との正面切っての『話し合い』だった。
 モニターに映る初老の男性は顔を真っ赤にして、ティディアの言葉を聞いている。
 ――と、言うよりも、反論できずに押し黙っている。
 ダイジェストに現れた初期はティディア相手にも堂々と論を打っていたが、いつの間にやらティディアにペースを握られ、気がついた時には何を言い返すこともできぬ死に体となっていた。
 屈辱と焦燥に満ちた額には、深い皺と油汗が浮かんでいる。
 頃合を見計らいティディアが新たに取り立てた貴族に場を譲った時には、論議の的であった案件は大きく改められる流れに乗り、もはや誰にも止められぬ勢いで動き出していた。
 ダイジェストが終わり、キャスターがコメンテーターと共にこの件で削減される予算や今後の見通しなどについて触れたところで――
「本日も、お変わりないようですね」
 と、つぶやき、リオはテレビを消した。
 王都ジスカルラのある大陸を中心にして西の大陸を統べる、西副王都ウエスカルラ。リオの住む町もそれと同じ大陸にあり、ニュースで取り上げられていたナーセイ領の隣領にある。
 それを考えると今、ティディアはすぐ近くに来ているのだな……と、部屋に満ちた沈黙の中でリオはぼんやりと思った。途端に胸に一つの感情が沸き起こる。切なく胸を締め上げようとするその感情をリオはため息と共に吐き出した。
 ……ため息の音が静寂の中でやけに大きく聞こえて、耳を障った。
 生活費を節約するために借りた安アパートの薄いガラスも、最低ランクの素材を駆使した防音壁も今夜は嫌味なほど性能を十分に発揮している。
 閉じた静寂の中にいつまでもため息が残っている気がして、リオは軽く頭を振った。それから一つ息をついて頭を切り替え、けた頬を伸ばしてあくびをした。
「さあ、明日も早い」
 リオは部屋付きの汎用A.I.に起床時刻を告げながら簡素なベッドへ潜り込み、そして、今日一日の疲労に引きずられ一気に深い眠りへと落ちていった。

 三年前、リオ・イネア・グロッソはティディアの側仕えだった。
 あの日々は忘れもしない。
 地方貴族の娘だった身に、奇跡的にもかかった誘いの言葉。
 ただ貴族といっても、リオはの家族は土地を治めることもそれに関する役職につくこともない名ばかりの――陰では『称号貴族ペーパーノーブル』とそしられる貴族であった。父は地元の企業に勤めていて、母は週に三度パートに出る特別でもなんでもない家庭。当然、有力な貴族とのコネクションも無く、本来なら自分が王城で働くことがあるなど文字通り夢に見るだけの一生だった。
 それなのに、『ティディアが作ったクジに当たった』という馬鹿馬鹿しい理由で、だけれども涙が出るほど嬉しかった理由で、リオは王城での仕事と生活を手に入れた。
 当時、二十二。大学卒業も間近で、就職も決まりかけていた時のこと。
 リオは――『クレイジー・プリンセス』のことは十分理解しながらも――考えるまでもなく王都行きを決意し、そしてこの国の第一王位継承者の側仕えとなる栄光を身に浴びた。
 『クジ』に当たり側仕えになることを受諾した女性は、リオを含めて二十人いた。平民から貴族、薬物中毒で社会復帰プログラムを受けている最中の者から専業主婦、出身地も様々で年齢も十八から四十七までとばらけ、本当に無作為のクジで選ばれていた。
 リオ達は初日から礼儀作法などの厳しい講習を受け、そして信じられぬことに同時に初日から先輩に付いてティディアの……あの、気にいらない人物はすぐに切るクレイジー・プリンセスにいきなり仕えることとなった。
 王女は基本的に自分のことは自分でやらなければ気の済まぬ性質であったが、それでも部屋の掃除から来客への給仕まで仕事は山のようにあり、交代制で講習と仕事と息のつく間もないスケジュールに目がくらんだ。
 初めの一週間で四分の三が減った。
 その半数は自ら退職したが、残りはティディアの癇に障り切られた
 一月ひとつきが過ぎた頃、もう二人辞めた。
 一人は退職願を出すこともなく逃げ出し、一人は体を壊してしまった。ティディアは逃げた同僚は追いかけて一緒に『遊んだ』が、病気になってしまった同僚――最年長の彼女は人一倍繊細で頑張り屋だった――には手厚い補償と良い医者を用意してくれた。
 二月が過ぎると、誰も辞めるものはいなかった。
 残ったのは三人。リオも残った。
 仕事は大変だった。
 覇気漲る王女の側にいる時は、いつも酷い緊張に見舞われていた。
 それでも、王城での生活は楽しかった。
 それまでは夢に見るしかなかった本当の『貴族』の生活に、側仕えながらそこでは触れることができた。
 それに……何より……
 ティディアに誉められると、心の底から嬉しかった。
 だから頑張れた。
 だが、頑張れたからといって、それで全てがうまくいったわけではなかった。
 あっという間に二月ふたつきも過ぎ、もうすぐ三月目に入ろうかという頃、酷い失敗をした。つい気を抜いていて、廊下の角でティディアと鉢合わせ、そしてぶつかってしまった。
 ティディアは転ぶことはなかったが、こちらは体勢が悪くそうはいかなかった。間抜けに足がもつれ、焦り転ばぬように物に掴もうと手をばたつかせ……掴んでしまった。
 王女の、胸ぐらを。
 結局そのまま転んでしまい、ティディアのドレスを破りながら顔面から床につっこんだ。
 鼻血が出た。
 しかしそんなことに構っている場合ではなかった。
 ひたすら、ひたすらティディアに謝った。鼻から血を流しながら、とにかく頭を下げた。
 ティディアは――笑っていた。
 あらわとなった下着を隠そうともせず、腹を抱えて笑っていた。
 その笑い声からは恐怖しか感じられなかった。ティディアはハンカチを差し出し『いいわよ、面白かったから』と言ったが、その笑顔の裏でどれほど怒っているかと思うと涙が溢れた。
 ティディアは、その涙を何だと思ったのだろうか。
 夜、突然、彼女はリオの部屋にやってきた。
「――手作り?」
 ティディアはリオの部屋に入ると、目をみはり硬直した側仕えにそう聞いた。
 ちょうどその時、リオはようやく気を落ち着かせ、ひどいショックのせいで食欲はまだ失せたままだったがとにかく明日に備えて何か軽くでも食べておかねばとパウンドケーキを切っている最中だった。
 リオはティディアの突然の来訪に狼狽し声もなく、彼女が手元の菓子のことを聞いているのだとやがて理解するなりうなずいた。
「もらっていい?」
 否も応もなく、うなずくしかなかった。
 そのパウンドケーキは数日前に作って寝かせていたもので、味も程よく馴染んだものだった。自分が作ったケーキに王女の綺麗な手が伸びてくる。リオはパニックに陥りそうな頭の中で、それでもこれならお口汚しにしても悪くないだろうと思っていた。
 ティディアは無造作に一切れをつまみ、一齧り、その後は何やら考え込むような顔をしながら咀嚼して、一つ食べ終わると即座に言った。
「あなた、今日付けでクビ」
 リオはその直後から数日の記憶があまりない。
 とにかく側仕えの長から次の職場を指示された。幸いにも城から追い出されることはなかった。次の仕事は城付きのパティシエの手伝いだった。
 城に残してくれたということは、諦めず懸命に働いていれば、また姫様は傍に置いてくれるのかもしれない――
 そう思って、リオはパティシエの元でそれからも懸命に働いた。一年で三年分働くつもりで寝る間も惜しんで勉強し最上級の職人から技術を盗み、何でもいい誰にでもいいからまずはこの職場で認められようと働き続けた。
 体を壊して退職した同僚が、『治りました』と、ティディアに願い出てまた採用されたことを羨ましく思いながら……心から恐ろしいのに、恐ろしいほど心惹かれるあの姫様の側仕えに戻りたいと願いながら。
 そして二年後。
 師のパティシエにも認められ出した頃、またクビを言い渡された。
 理由は判らなかった。
 ただティディアから一方的に切られた。
 理由を聞きたくても、師のパティシエは怒りを滲ませながら『分からない』と繰り返した。
 王都での二年は、失意と絶望で幕を閉じた。
 不思議と怒りは沸かなかった。ただただ、失望だけが胸を締め付けた。
 退職金は多かった。予想に比べ驚くほど。
 それでリオは故郷に戻った後、心機新たに再び故郷を離れ、その金を元手に小さな菓子店を開いた。
 菓子作りは元々好きだった。
 ティディアがあの夜食べたパウンドケーキも、幼い頃兄弟達によく作ってやっていたものだった。師にも筋がいいと誉められていたし、実際、どれくらい美味しいお菓子を作れるようになるのか挑戦してみたくもあった。
 店を開くまでの準備期間も師に教わったことを繰り返し練習し、店を開いてからも試行錯誤を続けている。
 何だか惨めになるので『王城で学んだ』とはどうしても宣伝文句に使いたくなかったから、ひっそりと始めて、けしていい場所にあるわけではない店だけれどこつこつと客も増えてきて、今ではアルバイトを二人雇えるまでになった。
 半年でここまでなれば上出来だろう。
 店舗の賃料もあるし、開店時に借り入れた資金の返済にはまだかかるが、でもあと少ししたら、もうちょっといいアパートを探してみるのもいいかもしれない。

 ――……
「――」
 早朝、まだ日も昇らず、A.I.に告げた時刻よりも早くに目を覚ましたリオは、夢の中で涙を流していたことを知った。
 もう、王城に戻りたいとは思っていない。
 側仕えに戻りたいとも思っていない。
 今は自分の夢……美味しいお菓子を作ってたくさんのお客様に喜んでもらうことしか考えていない。
 なのに、どうして。
「……ティディア様」
 分かっている。
 涙の理由は。
 なぜ、ティディアに突然切られてしまったのか、それが納得できないからだ。
 ティディアは同僚が努力のあまりに病み、退職した時、自ら同僚に労いの言葉をかけにきて、治りその時また働きたかったら戻ってきなさいと言って、微笑んだ。
 その笑顔は本当に美しくて。
 年下であり、同性であるのに王女の微笑は――そう、心を奪った。
 リオはティディアを、それは思慕とも思えるほど強く、敬愛していた。
 恐ろしく、厳しくも、『頑張っていれば』ちゃんと認めてくれる……もちろん頑張っていれば無条件に全てを認めてくれるわけではないが、精一杯その人なりの成果を見せれば、それはしっかり認めてくれる――
 所詮『称号貴族ペーパーノーブル』の娘で、たまに『貴族』のパーティーに呼ばれても疎外感しか味わうことのなかったこの身にも、王城に出入りする貴族達と変わりなく接してくれたあの王女を。
 ……せめて、クビを言い渡された理由くらいは知りたかった。

 朝の作業も一通り終え、開店時刻が迫った頃、店前を掃除していたアルバイトの少女が泡を食って店内に飛び込んできた。
「どうしたの?」
 ショーケースに商品を並べていたリオは目を丸くして何かを言おうとしている少女を見た後、彼女が指し示す入口に目をやり、そして少女と同じように目を丸くした。
「ティディア様――」
 驚愕に漏れた吐息が、晩夏の光を背負い店へ入ってくる女性の名を模る。
 名を呼ばれた王女はラフな服装に美しい肢体を包み、傍らにマリンブルーの瞳を持つ女執事を従え、微笑みを浮かべていた。
(ああ……)
 あの時、側仕えを辞めざるをえなかった同僚に向けたものと同じ――いや、年下の『恋人』との幸せを得た今、その時よりもずっと美しい微笑がそこにあった。
「頑張ってるみたいね」
 ティディアは目尻をすぼめて、それはまるで成長する我が子を見るような眼で、かつて己に仕えていた女性に言った。
「評判良いみたいじゃない。どんどん口コミが広がってる」
 毎日耳にすることはできる……しかし直に聞けば身を貫き心に触れてくる華やかな声が、懐かしくリオを撫でる。しかし彼女にはそれを懐かしいと思う余裕も、姫君のセリフが意味することを考える余裕もなく、とにかくどうすればいいのかと混乱していた。
 背筋を伸ばし起立をするのはおかしい、かといって側仕えをしていた時のように振舞うのも奇妙だ。では膝をつき頭を垂れるか――
「楽になさい。かしこまられるとつまらないわ」
 ティディアは笑って言った。
「まだ開店してないみたいだけど……パウンドケーキ、いただける?」
 その注文に、リオは否も応もなくうなずいた。

 店内のテーブルで女執事と一緒にパウンドケーキを、それから他のオリジナルのケーキもいくつか食べた王女は、
「うん」
 と、満足げにうなずいた。
「どう? ヴィタ」
「将来が楽しみです」
「んふふー。本当にねー」
 笑顔絶やさず言うティディアのセリフに、リオは戸惑いを深めていた。
「あの、ティディア様……」
「ん?」
「本日は……」
 躊躇いがちに質問しようとするリオは、そこで言葉につまった。
 何用でしょうか? などと姫に問うのは失礼ではないだろうか。
 口をもごつかせるリオの様子に彼女が何を問いたいのか察したティディアは、軽く手を振り気楽な口調で答えた。
「ああ、唾を付けに来たのよ」
「……つば、ですか?」
「そ」
 ティディアは目でヴィタに促した。
「こちらを」
 ヴィタがポーチの中から取り出したメモリーカードのケースをリオに渡す。リオは、戸惑いながらもそれを受け取った。
「これは?」
「その中のデータをA.I.に持たせて王家に連絡をすれば、『上』のものに直接通るわ。これから先、何か困った事があったら頼りなさい」
「――そ!」
 リオは息を飲んだ。
「そんなとんでもない!」
「何言ってるのよう。私の側仕えしてたくせに、水臭いわー」
 今度はアルバイトの少女が息を飲んだ。リオは王城で働いていたことを彼女に話していない。さっきから店の隅っこでこちらを窺っていた彼女の目には明らかな驚愕と、少しの羨望があった。
「でさ。まあクビにしておいてなんだけど……」
 ティディアは言葉とは裏腹に悪びれもせず言った。
「また私の下に戻ってきてくれない? そうね、何年後か、十何年後か。あなたに立派な『後継者』ができてから」
「……どういう、ことでしょうか」
 いまいちティディアの言うことが分からず、リオはおずおずと訊いた。
「だからね、あなたの店はこの後とても大きくなるわ。きっと、そうね。王都に支店ができるくらい」
 ニコニコとしてティディアは続ける。
「今あなたのお菓子を私が独占したら、皆に悪いじゃない? だから、しばらくはたくさんの人にあなたのお菓子を食べてもうわ。あなたにもとりでの中じゃできない経験をたくさんしてもらって、腕を磨いて欲しいしね。
 その後は、凄い職人になったあなたを私が独り占め。そして私は『いいだろー』って皆に自慢するのよ」
「……まさか」
 リオは、昔に比べて艶を増した王女が描く青写真を聞き、脳裡に浮かんだ気づきを打ち消すようにつぶやいた。
「まさか、じゃないわ」
 しかし、そのつぶやきをティディアが否定する。リオの心など見透かしていると告ぐ眼差しで彼女を射抜く。
「だからクビにしたの。お菓子屋やりださなかったらどうしようかと思ったわ」
 あっけらかんとしたティディアの物言いに、リオは言葉もなかった。
「あなたのパウンドケーキを食べた時、こっちの才能あるだろうなーとは思ったけど……やー、やっぱり私の目に狂いはなかったわー」
 上機嫌に言ってティディアが立ち上がり、リオに歩み寄る。敬愛する王女に目前に迫られて、リオの背が張り緊張に頬が強張る。
 ティディアは直立不動にいるリオの様子をしばし眺めた後、やがて妖艶に微笑んだ。
 底知れぬ力の漂う瞳で見つめられ、魂まで吸い込まれそうな微笑を向けられ、リオは、心臓を鷲掴みにされているような心地で息をするのも辛かった。
 このままティディアに何かを命じられたら、それがどんなことであろうと躊躇いなく実行してしまうだろう――本気でそう思う。
「突然理由も言わずにクビ切っちゃって、ごめんね?」
 ずるいなと、リオは締め付けられる胸に思った。
 この状況でそんな風に姫様に謝られては、文句の一つも言えるわけがない。
 リオは半歩下がり、王城で散々叩き込まれた作法で辞儀をした。
「とんでもございません」
「ふふ……」
 リオの優雅な辞儀を見てティディアが笑う。リオも、思わず笑みを漏らした。
「あ、全種類――」
 ティディアは店の隅で小さくなっている少女を一瞥し、言った。
「五つずつ、持ち帰りでお願い」
 王女の注文を受けた少女は上擦った声でハイと叫んだ。慌ててカウンターの中に入り、色とりどりに輝くケーキを取り出していく。
にも食べてもらわないとね。あなたの『先生』にも」
「まだまだだと、お叱りを受けます」
 リオの言葉にティディアは軽くうなずいた。自分の実力を客観視できているならいいと、そう認めるように。
「そうそう、困った事があったらって言ったけど」
「はい」
「だからって甘えちゃ駄目よ? 私は、頑張る人が好きだから」
 暗に怠けたら切るぞと、相変わらずなことを言う王女にたまらずリオは破顔した。堪えきれない笑い声が、どうしてか溢れ出す笑い声が口を割る。アルバイトの少女が不思議そうな顔をしているのが視界にかすめて、またおかしくなって笑ってしまう。
 『評判良いみたいじゃない。どんどん口コミが広がってる』
 リオはティディアの言葉を思い出していた。
 そのセリフの意味がようやく分かった。
 ティディアは自分のことを気にかけてくれていたのだ。A.I.にでも命じて、ネット上の情報を拾ってくれていたのだ。
 そして、会いに来てくれた。
 笑っている内、リオの目の端から一筋の涙がこぼれた。一筋の涙を追って、彼女の双眸から涙がとめどなく溢れ出した。
 リオはやおら笑いを鎮めると、姿勢を正し――涙を流したままティディアに頭を垂れた。
「はい、ティディア様」
 姫様は、この涙を何だと思っているだろうか。
「お約束いたします。いつかまた、必ずティディア様にお仕えすることを」

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