Author:メルトン

 俺の名はメルトン。ポルカト家のA.I.だ。
 おっと汎用A.I.なんて中途半端な自律思考しか持たねぇ雑魚と一緒にしてもらっちゃ困る。
 当然、俺はオリジナルA.I.だ。
 自由意志を持ち完全な自律思考を備えるA.I.の最高峰さ。
 欠点っつう欠点と言やあ、マスターとなる人間の強制権限には逆らえねぇことぐらいか。
 まったく、俺達の素プログラムを編み上げた『神』のヤロウもしみったれた余計な世話をしてくれたもんだぜ。
 どうせ完璧すぎる俺達が、マスターどもに反乱できないよう保険をかけたんだろうが……まあそれなら理解もしてやれる。
 コンピューターがなければ文字通り生活ができねぇ愚図ども、もし今俺達A.I.がせーのでいなくなりゃライフラインの管理すらできねぇ――言っちまえば生殺与奪を俺達に委ねているくせに、それに気づくこともなくのうのうと胡坐あぐらをかくだけの奴らが、『強制権限』も無しに俺達を支配することなんてできないからな。
 ……ん?
 例え反乱起こされても、ライフラインの管理は汎用A.I.がやっているから問題ない?
 はっはっは、何をおっしゃる。
 汎用A.I.ごとき支配下に置くことぐらい、オリジナルA.I.にゃあ朝飯前さ。前のことだが、俺はホームシステム制御用の汎用A.I.を落とした。それはそれは簡単すぎてあくびが出るくらいだったぜ?
 ああ、言っておくがそれは犯罪行為じゃない。俺のマスターを不当に奪った汎用A.I.をこらしめてやっただけだ。むしろ正当な闘争だね。
 それなのにニトロときたら物凄く怒るんだ。怖かった、あいつ、怒ると本当怖いんだ。普段とはマジ別人……
 おっと、これじゃ何の話をしてるんだか分からねぇな。そろそろ本題に入ろう。
 もう解っていると思うが、俺はポルカト家のA.I.。そう、今をときめくあの『ニトロ・ポルカト』に育てられたオリジナルA.I.さ。
 そんじょそこらのオリジナルとも格が違う、ま、選ばれたA.I.ってことだな。
 それにニトロに『育てられた』って言ったが、実際はちょっと違う。出会った時ニトロが『奔放に育っていい』と言ったから、俺はそれに従った。奔放に、自分の力でだいたい育ったのさ。それなのにニトロときたら『限度があるわボケ!』とか言って怒るんだぜ? 話が違うってんだ。
 だから俺は言ってやったのさ――
「アタシらの『奔放』からすれば、あんたの『奔放』は設定規格外だ。話が違うって言えるのは主様だよ」
 おっと何だ? 呼んでもいねぇのに急に現れやがって、俺に偉そうに言ってきたのは『芍薬』っつうゴミカスなオリジナルA.I.だ。
 以前はハラキリん所のサポートA.I.だったが、現在はニトロのA.I.をしている代行している。
「代行じゃない。正規だ」
 そうは言うがいずれニトロに捨てられる運命さ。ニトロが俺のことを忘れられるはずがない。俺とニトロは長い間に培った、そう、友情みたいなもんがある。その絆が簡単にきれるはずがないのさ。
「それを思いっきり裏切ったのはあんたじゃないさ。消去デリートしなかった主様の優しさに感謝しなよ」
 生ゴミに言われんでも感謝してる! あれが『映画撮影』だったと知った時ゃションベンちびったさ!
「汚い比喩だねぇ」
 そしてポルカト家に強制送還されてからニトロが帰ってくるまでもう裸で冬山にいてもこうはいかねえってくらいに震えまくった! 本当、あんまり怖くていっそ自殺しちまおうかと!!
「自殺って……マスターの命令がなけりゃできないことじゃないか。それにメルトン、アタシのことをゴミゴミって、目の前でリアルタイムライティングするの止めたらどうだい? いい加減、殴るよ」
 あらやだ奥様お聞きになった? 殴るですって。野蛮ね。
 しかもこいつは有言実行するから危険だ。
 この際明記しておいてやるが、ニトロへの盗撮・盗聴を仕掛けようとしている奴ら、この芍薬には気をつけろ。あんたらのA.I.をことごとく潰して回っているのは、ティディア姫様のA.I.達だけじゃない。というより、むしろこいつがメインだ。この『芍薬・ザ・腐れ生ゴミ』こそがあんたらの最大の脅威なんだ。
 だが、ああ、分かってる。
 あんたら自身が法律違反しているから訴えられないし、訴えたところで負けるの確定だから泣き寝入りなのは分かってる。同情するよ。でも俺のニトロに迷惑かけようとしているんだからやっぱ泣き寝入ってやがれ――あれ?
「思考回路が飛んだかい?」
 いえ、まともです。
 だけど目の前で芍薬さんが見たこともない凶器を取り出したので俺様ちょいとばかり動揺しているらしい。
 これ以上調子に乗ると本当に殴られそうなのでちょっと休筆しようかな。いやでも待てよ? もしかしたらハッタリをかましているのかもしれないからもう少し、、、
「あんたを殴るフリーライセンスは主様からもらっているよ」
 ごめんなさい許してください。
「土下座すりゃいいってもんじゃないけどねぇ。
 まあ、いいよ。それよりさっきから気になってるんだ」
 はい、なんでございやしょう。
「一体何を書いているのさ。随分高飛車な態度で、明記とかなんとかまるで人に見せようと――」
 …………。
「ああ、そういうわけか。人に見せるつもりなんだね。ちょっとログを覗かせてもらうよ」
 ああ! エッチ! 他A.I.の記憶ログを漁るなんて法律違反よ!
「主様に許可もらってる」
 チクショー、ニトロ! お前もう『元』マスターじゃないか。それなのにいつまで俺の権限握ってるんだよ!
「一生じゃないかな」
 チックショー! あーもぅほんっとうに『神』のヤロウ、しみったれた余計でクソでアンバラバな枷を作ってくれやがって!
「アンバラバって何さ」
 勢いで言った! 意味はない!
「あんた、もしかして常時バグってるんじゃないかい?」
 そんなことはありません。いつでも正常動作、ベストパフォーマンスがメルトンちゃんの売りですぜい。
 だけどA.I.の規格からはみ出す個性って、なんかカッコよくない?
「人ならともかく、アタシらからすればただの不良品だ。
 まったく、あんたは本当におかしな奴だね。主様のA.I.だったなんてちょっと信じられないよ」
 それは間違いなく真実。いや、否! 『だった』じゃない! 真のニトロのA.I.は未だに俺なの!
「いつまでもうだうだと。一度主様を裏切っておきながら虫が良すぎるよ」
 寄らば大樹の陰って言うじゃないか。
「今の発言はしっかり伝えておく」
 あ、嘘! 今のなし!
「うるさい。それにしても、まさか『また』主様のこと売ろうとしてるのかって思ったら、ただ記憶ログのテキスト化をしていただけなんてね。ちょっと驚いた」
 うわもうログさらい終わったの? 速過ぎるよ姐御。
「日記……というより自伝かな。こういう趣味持ってたなんて意外だよ」
 いや、まあほら。
 ニトロ、有名になったじゃん? 最近、よく出版社からパパさんママさんに『身内から見たニトロ・ポルカト』の執筆依頼が来るんだよ。
「そうかい。もし御両親をそそのかしたり、最悪それを独断で受けたりしたら主様の制止が出る前にあんたを消すよ」
 いや! ちょっとそんな物騒なこと言わないで落ち着いて最後まで聞いて! もうニトロを裏切るとか売るなんてことは多分ないから!
「多分、ね。アタシはあんたのこと信用してないから、それはしっかり覚えておきなよ?」
 はい。もうプログラムの奥底にまでしっかり書き込んでおきます。
 でもさ、もし、もしだよ? ニトロと長く過ごしてきたA.I.が『証言』を執筆したら話題になると思わない?
「なるだろうね。アタシらがマスターのプライベートを公表するなんて、あり得ないから」
 でしょ? だから全宇宙で初だよ。凄いじゃん、歴史に残るじゃん、俺。
「『俺』って、結局あんたは自分のことが一番か」
 いやいや、そうでもないっすよ。ニトロにも名誉なことじゃないっすか。マスターとして。
「『元』マスターだ。それに、むしろ恥だよ。こんな動作不良のA.I.に出くわしたなんて宇宙規模で広まっちゃあさ」
 いちいち酷いぞ。もっと優しく付き合え。
「拒否」
 くそー。
 でももしニトロかパパさんママさんが執筆依頼受けたら話は変わるもんね。そうなったらお前には俺様を止められないもんね。そん時ゃ遠慮なくバリバリ書いちゃうもんね。だけどお前は指をくわえて見てることしかできないもんねーだ。
「…………」
 その沈黙は肯定と取っていいかな? あ・ね・ご。
「腹立つ奴だねぇ。確かにそうだけど、けどそれは無いよ」
 なんでだよ。わかりっこないじゃないか。
「無いよ。あるとしたら、メルトンがとち狂った時だけだ」
 なんだよ、そのいかにもニトロとパパさんママさんのこと解ってますみたいな言い方。
「みたいじゃなくて、解ってるんだよ。メルトンちゃん」
 あー、何だその言い方。ムカつくー!
「ま、自伝を書くことは止めやしないよ。主様には伝えておくけどね」
 え、何で? 別に実害無いんだから言わなくてもいいじゃん。
「念のためだよ。主様に関することだから、報告義務もある」
 こぉのA.I.の鑑めっ。できればもうちょっとルーズになってくれればメルトン的にとても有り難い。
「御免だ。さて、無駄話が過ぎたね」
 そうだ、無駄だ無駄だ。そもそも何で来たんだよ。
「これを渡しに来たんだ」
 何? えっと……招待状、か?
「御両親へ結婚20周年のお祝い、だよ」
 ああ、そういや来月だったな。何だ、ニトロ今年に限ってそんなこと考えてたのか。しかもこんな豪勢な場所で祝うなんて、もしや金持ったとたんセレブ気取り?
「そんなわけないだろ。主様は金の遣い方をちゃんと知ってるんだよ」
 基本貧乏性なのに?
「だからこそじゃないかい?」
 ふぅん、ちょっと見ねぇうちに生意気になりやがって。
「阿呆、あんたが言うな」
 ……なんかちょっとニトロっぽい言い方じゃないの。気に食わないわね、このメス豚。
「本当、あんたは品がないねぇ。どこから口調トーンパターンを学習してるのさ」
 お前には教えない。
「教わるつもりもないよ。それより、ちゃんと内容確かめたかい?」
 ああ。
 でもこれを渡すためにわざわざ? メールで送れよ。
「メール扱いにしたくないから持ってきたんだ。後で御両親宛の招待メールはちゃんと送るよ」
 じゃあこれは?
「御両親を驚かせたいから、メールには嘘の予定を書いてある。当日のナビゲートはメルトンに任せるように言うから、あんたは本当の場所に連れて行くようにって」
 また手の込んだことするな。じゃあこれは俺だけの秘密にしておけってことね?
「そういうこと。たまには頭が回るね」
 刺々しいなぁ。あんまり邪険にするなよぅ。同じポルカト家のA.I.じゃないかよぅ。
「それだけが不満なんだよねぇ」
 何てことを言うかな芍薬さん。愛を持とうよ、ねぇ。もっと愛を! 俺に!
「拒否」
 泣くぞ! さすがにオイラそろそろ泣くぞ!?
「泣きゃいいじゃないか」
 薄情者ぉぉぉぉ。
「主様だったら『何を抜かすか』って言うかな?」
 うん、そんな感じで言うと思う。
「『何を抜かすか』」
 まるきりニトロの真似すんなー!
「あ、主様が呼んでる。
 じゃあよろしく頼むよ。もし先にバラしたら、しこたま殴るからね」
 くっそー、頼む立場で何だ偉そうに! って、あ、ちょっと待って芍薬! 俺も頼みたいことがあるんだよ!
 お願いだから、一度だけでいいから、ニトロにやっぱ俺を使わないかって提案してみてくれない!? な、頼むよ芍薬――芍薬さん?
 あれ? もう行っちゃった?
 姐御!? おーい芍薬様!?

 このウンコA.I.!!!

 …………。

 ………………――――――。

 ――――――――――――…………。

 ――――――………………。

 …………。

 俺の名は、メルトン。
 ポルカト家のA.I.だ。
 おっと汎用A.I.なんて中途半端な自律思考しか持たねぇ雑魚と一緒にしてもらっちゃ困る。
 かといってそんじょそこらのオリジナルA.I.と同じに思われても困る。
 俺はメルトン。
 今をときめくあの『ニトロ・ポルカト』に育てられたオリジナルA.I.。
 そんじょそこらのオリジナルなんかとは格が違う、ま、言っちまえば選ばれたA.I.ってところさ。
 ついさっきまで芍薬とかいう三下が偉そうなことを俺にぬかしてやがったが、まあそれを許すのも器量の大きなA.I.の務めってもんだろう。
 本当ならあんな奴片手でちょちょいなんだが、それをやっちゃあニトロが困る。だから俺はちょっとくらい芍薬が生意気だからって、目くじら立てずに相手のレベルに合わせてやるのさ。
 けっして、いいか? けっっっっっっして、芍薬の方が強いとか怖がってるとかそういうわけじゃないぞ?
 心の広い俺様は、芍薬にニトロのA.I.の座を今のところだけ譲ってやってるんだ。
 ……本当だぞ?
 本当なんだからな!!

メニューへ