「主様、ハラキリ殿カラメールガキタヨ」
恐怖と、戦慄と、体に残る戦いの高揚と熱とに浮かされ寝つけなかった昨夜。
ようやく眠れたのは明け方で、夕日の光で目覚めたニトロは、食事を作るのも
「なんだって?」
テレビはつけていない。インターネットも開いていない。人間怖い。昨日のことは、早く忘れたい。
「『今、メオドラ星に向かうシャトルの中にいます』」
芍薬が、ハラキリの声を作って読み上げる。
「メオドラ……どこらへんだっけ?」
ニトロは野菜ジュースを飲みながらテレビモニターに映し出された銀河地図を眺めた。アデムメデスから随分離れた
(あんなところまで行ってるのか)
ティディアの『映画』のプロモーションの力の入れ具合が痛いほど分かる。できればこれ以上有名にはなりたくないのだが、今さら言ったところでもうそれは叶わないだろう。
まあ一度の映画出演での知名度なら、アデムメデス以外なら光陰矢のごとく忘れ去られるだろうから、それだけが救いではあった。
およそ他星の姫君の『恋人』とて、地味であれば取り立てて覚えこまれもすまい。
だから最近、他星への移住も考え出している。
「それで?」
ハラキリが帰ってきたらどこが住みやすそうだったか聞いてみようと思いながら、ニトロは芍薬を促した。
「『機内食を噴飯させて頂きました。
監督が嫉妬に狂っていますよ? なぜあれを僕が撮れないのだって。
あ、ちなみにこちらでもトップニュースでした。もう銀河クラスの有名人ですね、ヒューヒュー』」
ニトロも噴飯した。
その口腔から飛び出たものはシリアルと、いや、絶望――それだけだった。
「主様……」
シリアルの器に顔面を突っ伏して動かないニトロに、芍薬が声をかける。
『ミッドサファー・ストリートのサバト』から生還した主。
しかしボロボロになって帰宅した彼は、さながら悲惨な戦場で重大なショックを受けて還った新兵のようで。
帰ってくるなり着替えもせず、ベッドの上で膝を抱えて毛布を被り、半分割れたトレイを抱えて『人間怖い人間怖い』とずっとつぶやき続けて……
「主様シッカリ」
芍薬は、最も優しい声を作り出そうと苦心した。
「主様ニハあたしガツイテルヨ」
「……うん」
ミルクとふやけたシリアルの中から顔を上げもせず、ちょっと涙声。
もう少し追い込んだら、立ち直れないかもしれない。
(アア、哀レダヨゥ)
芍薬はその一言をメモリの中に秘め、