ツト パタパ
 ふいに音がして、物語に落としていた目を上げ外へとやれば、小さな庭の隅で紫陽花の葉たちが首振り張子のように揺れていた。
 やがて空を重く這う雲から降り立った小人たちが、一際静かな緑を誇る紫陽花の葉の上で一人また一人と躍り跳び回り始めていた。
 読み進めていた本、そこに描かれる人間模様は雨の中で一つの山場を迎えていた。
 今、高潮していく物語の熱が胸を焦がしている。
 サアア パパタラ ザアサア
 雨の音が大きくなっていく。まるで物語の雨を追いかけてきたかのように。それとも物語を抜け出してきたかのように。
 雨の中、物語に戻っていく。
 雨の中、彼女は泣いていた。
 はちきれそうに盛り上がる蕾を天にかざす紫陽花は、明日にでも雲に隠された青を見せてくれるだろう。

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