釣り

 しゃらしゃらと早瀬を下る水の音が、生まれては砕ける水鏡の光を溶かしている。川べりに群れるツルヨシの葉がそよ風に揺れている。水面に丸い頭を突き出す浮きの朱が、瀬の尾に撫でられ静かに流れている。
 柔らかな青空には綿雲。向こう岸の河原の先を緑に染めるシロツメ草の中、幾数ものタンポポが鮮やかな花を陽に誇っている。
 白髪の男がいた。ただ黙して座し、浮きが水下みなしもへ流れきればまた水上みなかみへと竿を振っていた。男の影は、幾度も幾度もそれを繰り返していた。
 綿雲が先よりずいぶん西へと泳いだ。ふいに、朱色の浮きが水底に引きずり込まれた。
 ひょうと竿が音を立ててしなった。
 水を切り縦横に走る糸が、抗ううおの力を男に伝えた。
 だが抗うにはすでに遅かった。円熟した男の腕はうおを逃がさない。そして一息の後、春日の中に美しい銀鱗が光の滴を散らし輝いた。

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