ライターオイルの匂いが硝煙の残り香に混じった。拳銃の重さにまだ痺れている手で口にくわえたマルボロを燃やす。肺に流れ込んだ煙が、強張った体を嘘のようにほぐしてくれた。
「大丈夫か」
聞いてきたのは、駆けつけてきた応援の一人だった。まだ若い警官だ。顔は色めき、着こんだ防弾チョッキにも慣れた様子がない。こいつが来る前に終わって良かったと、ジムは少し安堵した。
彼がうなずくと、若い警官は鑑識班がうごめく現場に走った。そこには窓の割れた高級車と数台のパトカー、そして死体が二つある。
車両窃盗犯二名、銃撃戦の末に死亡。明日の朝刊に、小さな記事がそう載るだろう。
煙草が苦かった。繰り返される日常だというのに、若い命が散るのには慣れない。
ため息とともに吐き出した紫煙は、渇いた青空の下で名残もなく、風に消えていった。
040727-050120