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2008年02月10日

覆面3・冬 Dブロック:感想

このブロックは「注・注意」最多のブロック。
「デンジャラス」のD(by 曽野 十瓜さん)ですよ!


長い上に盛大にネタバレしているのでご注意です。
思えば冒頭の一文もある意味ネタバレになりそうなので削除・書き換えました。

推理はエントリーを分けました。こちらです。



D-01 星下双酌

満月の下での月見酒ならぬ、暗月の下での月と酒。いいですねー。月琴を聴きながらの一杯なんて最高じゃないですか。なんだか居酒屋のカウンターの隣の席で、『聞くともなく聞いて』、ちょっと話に参加させてもらった気分です。
作品全体に漂うのは親しい友との酒席の雰囲気か、それとも物腰落ち着いた月の精の優しさか。月の精が「お前に呼ばれた」というから主人公に何か特別な力が? とも思ったけれど、名前が月に由来するため「私に属する」と断言されて変に納得。名前には力が宿るというか、人ならざるものとの契約でも『名前』って重要ですものね。
それにしても定休日にも関わらず主人公(眷属?)の苦しみを吐露させにきてくれるなんていい精霊様だ。主人公も薄ぼんやり光る精霊様に向かって『発光ダイオード?』とはちょっととぼけた感じもあっていいキャラクターをしている。
そして別れ際につけた『印』も粋。なるほどそれは機会がないと気づかないかも。爪を切っている時も意識しなければ気づかないでしょうしね。
そうそう、過去に飲んでいたという詩人はもしや李白でしょうか。水面に映る月を取ろうとして溺死っていう伝説がありますし。……違うかな。



D-02 十六年目の「ただいま」

親父、あんたバカだよー!
いや、事情は分かるけど、それでもなぁ、父と娘、どっちにしても辛いよなあ。問題の原因が過去にある以上、取り返しはつかないけれども。
色々と語られたこと以上のものがこの作品には隠されている印象です。叔母夫婦がラズに父の事情を話さなかったのは、姉がゾイと一緒になることに反対していたのかな? とか。一部タルクを視点の軸にしていた地の文で『誰も知らないような情報』が書かれていたことに「あれ? タルク色々知りすぎじゃね? まさかこの人も」と思ったら、やはりそうで、てことはタルクにも魔物の力を得たが故の苦悩があり、ゾイとの関わりで何か彼自身もその後の人生を変える決断をしたのかな? とか。例えば本人はそれまで〈天空の涙〉は単に稼ぎの対象で元の体に戻ろうという気は薄かったけれど、思い直して体を治すことにした……とか。
星振るような空の下の採掘場という場面の力も効いていて、始終哀愁が漂い、最後の命を落とした父の帰宅の言葉が二重の意味で切な過ぎる。これでラズは本当に天涯孤独になってしまったわけだけど……幸せになって欲しいですね。



D-03 鏡からの訪問者

別世界への入口としての鏡の話題が出てきた冒頭、合わせ鏡のような呪いものが出てくるのかな? と思っていたら『洋服ダンスの鏡』とは。なんでもない日常的な鏡――でも普段は閉ざされている鏡が、冒頭の文に引きずられて急に力を持つ。冒頭のあるなしで鏡の存在感が変わるなぁ。
過去に大病を患っていたらしい主人公に、どうやらコンビ制らしい死神が二人、その片方が「逸脱したもの」。背後関係や世界観は作品の外にもっと広がっている印象です。
『裁きの門を潜って』と言うからには灰無は有力な死神だったんだろうし、直前の『切なくも笑っている』というのが何か犠牲を払ってきた、もしくは犠牲を払うことになるのかと思わせて。最後の一文が単に祝福の眼差しを二人に向けているのか、逆に苦難があることを示唆しているのかと想像させられる。
幻想的な序盤のシーンが存在感を放っていて、それ自体が作品を支配しているかのようでもあり、夢幻に囚われているかのような雰囲気に酔える作品でした。



D-04 腐乱天使※注意※

うおお、ホラー。
過去の記憶に捕らわれ罪悪感の余りに見た幻覚か、それとも本当に「やってきていた」のか――終盤の気合の入った腐乱死体の描写、目に浮かぶ水流の中の水死体の絵は鮮やかで。そしてソレが風呂場に現れ、じわじわと近づいてくるシーンは主人公の心が追い詰められていくのに比例して恐ろしさを増していて。
だけどその霊的な恐ろしさだけでなく、前半の子どもながらの残酷さもじわりとくる。
排除される子どもを「優等生」が見るとそう思ってしまうんだろうと納得させる筆力は凄い。けしていじめを肯定しているわけじゃなく、しかし疎ましく思うことに自然さを出していて、それどころかむしろ共感をも呼ぶ。「努めて良い子」でいたいならそう考えてしまうのだろう、と。
先生の空ちゃんの気持ちも分かるという『嘘への逃避』を否定しながら、後でそれに主人公が逃げ込む構成も巧い。そして「嘘」に逃げ込んでいたからそ、「現実」を突きつけられ逃げ場だった「嘘」が壊れて恐怖にかられてしまう流れもお見事。
そしてラストの死する主人公を迎えに来たのは『腐乱天使』。途中「天使みたいな笑顔を浮かべる友達の腐乱死体」から来ているのかと思ったタイトルが、実はここに効いているのに読み終わってから気づいて、感嘆。



D-05 巡礼とロバ※注意※

一貫して、因果応報ですねぇ。
グロテスクな描写が強調されてこないのは文体のためだけでなく、主人公の性格によるところも大きいんでしょうね。どっかズレている人間だと思ったら、ラストの締めでなるほどと大いに納得。でも、僕が受けた印象は『腐って』るというより『強固な信念』を持つ人物でした。その方向性がどうであれ、ですけどね。
しかしこの話に出てきた「殺人」にまつわる因縁は、悪魔の話をどこまで信用するかで印象が変わりますね。第一の殺人は自分が犯した妹に告発されるのを恐れて動機を『不名誉な境遇から救って』やろうと摩り替えたのか、それとも本当に『救って』やろうとしたのか。第二の殺人も男の人格がどこまで悪魔の言うとおりだったのか。野次馬達の語ることの方が真実で、男を殺した女の思い込みによる凶行だったのか、はたまた世間がうわべだけで兄妹のことを語っているのか。そういった謎かけを内包しながらも、その上を他人事と素通りしていく主人公と皮肉屋なロバがまたいい味を出している。
努めて人に関わろうとするのが悪魔で、ただ傍観者であるだけの天使もまた諦観じみていて。淡々と話を進めながら、さらりとした毒が満載。



D-06 空を越えたら

青春だーっ!
くそう、にやにやが止まらなかった。なんかもう、色々と甘甘ですよ。
信也君の良い意味での馬鹿な熱さがいいですねぇ。うん、女性に体重を聞くのはまずいわ。特にクラス内でなんて無謀もいいとこだわ。でもその無頓着な『愚行』が信也君の性格を表していて、突拍子もない提案も冒頭から繋がる「現状」も何のひっかかりもなく理解させてくれる。
そして馬鹿な幼馴染の馬鹿な提案に付き合わされて心揺らされる乙女心の、自分の心とそれを吐露した先の未来への恐れ、不安定な揺らぎの機微がまた頬を緩ませる。
地の文での言葉を信也君が繰り返すことで二人の相性の良さが解っているから、ラストの面映い二人のやり取りを祝福にも似た気持ちで読んでいける。主人公の『あの青臭い言葉は、こんなにも温かくて、こんなにも私の中に染み入るよ。』は効くなあ。
読後感はとにかく爽やかで、その一方で巧いと拍手。全体的に読みやすく、主人公の心の動きがすっとこちらの心にも移ってくる。過度に飾らずもシーンを鮮やかに思い浮かばせる描写、筆力が素晴らしい。
ああ、幸福感に満ちた甘酸っぱさよ。堪能です。



D-07 そらをみた人魚姫

まさか『人魚姫』を題材にしてこうくるとは……
「空」というテーマの処理と題材への関連の仕方も白眉だったけど、何と言っても秀逸だったのは水の中の臨場感。『しゃらしゃらと揺れる真珠の首飾りがほどなく揺れず胸に張り付くようになる。』という一文だけでスピードが上がっていく様と、そのスピードがいかほどまでに速いかを目に伝える。優雅に泳ぐ人魚の、弾丸のように水を切り水面を突き破っていく姿の何と美しいこと。それを後押しするかのように現れたのは満天の星空。僕たちにも「美しいもの」として思われているその『空』に、戸惑いながらも目を奪われる人魚姫の姿。そこだけがスローモーションに描かれる間の取り方、演出もお見事。
空へと躍り出るのは過去の因習を打ち破ることへの比喩にも思え、この作品、悲恋を描いた大昔の物語とは違い未来への希望とエネルギーに溢れている。力強さにはっとなる。
漢字の多くを開いてあえて簡易な文を選んでいるんだと思うけど、それが力強さを損なうことがないのも凄い。空を『そら』と常時開いていたのは「空」とすると具体的・概念的な強さが出ちゃうから、空を知らない人魚の世界にそぐわないと『そら』にしたんでしょうか。徹頭徹尾計算されている印象もある作品でした。



D-08 灼けた空に手を伸ばす※注

始終重苦しく、切々と吐露される絶望感がひりひりとして。
吸血鬼が感じている孤独は常に行き詰まり感と、虚無感と、絶望、それとも己自身への強烈な失望に支配されているようで、息苦しく辛い。
だからこそ遠い過去のものとなった空に憧憬を抱くことが心に入ってきて、月も無い夜との対比でその憧憬がどれほど鮮烈なものかを静かに伝えてくる。
感情の動きといった動きはなく描かれ続けた女性の存在感が、絶望感に包まれた作品の軸に錨をつけているかのよう。彼女は主人公にとって何だったのか。自分の業の深さを改めて自覚させる存在か、それとも仲間にしたいと思わせるだけの情を傾ける相手か、それとも彼の生を終わらせるために彼の前に現れた何かか。
まさか、絶望のあまり主人公が見ていた幻……ということも?
何も説明されず、そしてまた苦しい最期の時にもただ向けられる青い瞳が印象的で、それが故に青空も見ることもできず苦痛の中で死ぬ主人公の過酷な死が、痛烈。



D-09 ボクの赤い手

あらまたこりゃ可愛らしい。青春、というにはまだ早いか、なんていうか、うん、可愛いなー!
ちょっと気の弱そうな、けれど年相応に分別や見栄や(悪)知恵も付いてきている普通の小学二年生男子の語り口が見事に世界観を作ってる。ぶれずにここまで書ききられると感嘆です。
幼い語り口なのに冒頭の節がインパクト大で、すっと物語に引き込んでくれる。そして再び同じシーンが作中に現れた時、今度は導入とは違う印象で――その左手がどういうものであるかを知り、そこに気になるあの子の影響が絡んでくるいたたまれなさが加わって、冒頭で受けたものとはまた違う形で受け止められるのが楽しい。
それにしてもなー、幼さゆえの残酷さとはいえ、かなちゃんきついよ、それは……。
そして直後、それを救ってくれる真理ちゃんのちょっと夢見がちだけど、主人公にとっては何より嬉しい言葉は効くなあ。ただでさえ気になっているのに、心弱ってるところにそんなこと言われちゃった主人公はそりゃあコンプレックスなんて吹っ飛びましょうなあ。いっそう惚れたな、こりゃあ。
いや、ほのぼのさせて頂きました。
ところで真理ちゃん、ユーレイ捕まえるって。……度胸あるな。



D-10 ハンガー・ストライキ

倦怠感に満ちている。
360度見渡す限り何もない荒野を歩き続けているというか、何に急かされているのか分からないのにとにかく感じてしまう焦燥感というか、題名からして『ハンガー・ストライキ』。でも誰に対して何を要求してストライキを行っているのかという自覚も、そもそもストライキをしているという表明もない。
ただ食べたくないから。
結局それは友人の言った言葉に対し主人公が思った『最後の「うざい」は何に対しての「うざい」なのだろう』という疑問にかかっているような気がする。とにかく形のないフラストレーションというか、本当はそこにあるのに形として現れていない……あるいは自覚するまでには至っていないフラストレーションが鬱屈しているというか。
それが無自覚に爆発したのがラストの涙なのか……
そう解釈することはできるけど、まあ、それは僕の推測と解釈でしかありませんね。単純に僕が穿ちすぎていて、これは進路選択を前にした少女のブルーな気持ちなのかもしれないし。主人公の「わたし」の食べることについての意識が変わった時には、海を見た時、彼女の胸にはまた別の感情が沸きあがるのかな。



D-11 獣王の眼

おおお、重厚なファンタジー。
こういう謎に満ちた遺跡、世界の創造と破滅に関する伝説、その伝説を巡る物語は大好きです。わくわくしますね、どうしてもっ。
前半はコミカルなやり取りが続くのに、悪夢以降は重い宿命に囚われた者達のシビアな物語へと急転。人の感情を持ってしまった世界を滅ぼす獣の王の苦悩は、その性格からもきつい宿命ですね。何も背負ってなかったら明るく悪戯好きな悪ガキ、だけど心根は優しい。それだからこそ余計に。
女騎士の悪夢からその左目には何かあるんだろうと思っていたら、やはりの結論。覆面少年共々中途半端な存在となってしまったのには深い事情があるんだろうし、悪夢に出てきた謎の男性の存在も気にかかる。もしやグリグリ君はあの男の生まれ変わり? 彼女が眼を「失った」のは十三年前で、彼もちょうど十三歳。となると二人の間には別つことのできない因縁があるんだろうし、暗殺に来た兵の『凄い数』にも理屈が通る。初めから暗殺対象は二人だったんでしょうか。となるとバルバラさんも獣の王の力を秘めているのか……。
これはこれで完結としてもいいと思うけど、ここから長編に展開できる情報がぎっしり詰まっているだけに、色々と想像をめぐらせることができて楽しかった。



D-12 空の君※注

やー……怖いわー。
女の戦い? いや、その前に姉さんが暴走・自爆しちゃった気もするけれど……それとも親方の娘が達者すぎるのか。
鬱々とした独白で語られるそれまでのタメが、ラストで一気に負の方向へと解放されて変なカタルシスを持っている。なんて言うんだろう、カタストロフィ? や、適当な言葉が出てこないけど、茫然自失感というか……最後の三毛猫が残っていたのは救いなのか、それとも冒頭の仲の良い姉弟のシーンを連想させて、その片割れが消えた喪失感を象徴しているのか。
姉さん後手後手に回って、本屋の主の態度を見るにしても、レナの態度を見るにしても、その恋慕の情はバレバレだった模様で、それがまた不器用さを表していて。
それにしても弟君は親方の娘に良いように操られているなあ。何となく、今後の彼の人生が順風満帆とは行かないことを予感させる。本屋の主の言うとおり弟が働きに出ていたのは姉を助けるためだとしたらそれなりに親愛の情があったんだろうし、それをこういう形で不様に壊してしまったとしたら、それはこれからずっと心に引っかかることになると思いますし。この後の姉弟が心配な結末。
でも親方の娘はやり手の女将として事業を大きくしそうな気がします、ええ。

投稿者 楽遊 : 2008年02月10日 00:27

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コメント

はじめまして、覆面作家企画3冬でお世話になりましたD7の藤原です。
このたびは拙作をお読みいただきありがとうございました!
数々のお褒めの言葉、ありがとうございました。こんなにほめられたことがなかったので、すごく照れています。『そら』を開いていた理由を分かっていただいたのが、嬉しかったです。

それでは短文ですが、しつれいします。

投稿者 藤原 湾 : 2008年03月04日 22:51

はじめまして、藤原さん。……といっても、あの企画を通すと何だか以前から知り合いだったような気分になるから不思議ですね。

あの「そら」と開いていたのは僕が思った通りでよかったんですね。ああ……外れてなくて良かった。
なにせ「あ、空にしなかったのはそういうことかな?」と気づいた時、作品世界のイメージを漢字一つで固めているんだと思って(その時点では勝手な解釈ながら)巧いなーと感嘆したものですから(^^

そうそう、あとがきも拝読しましたが、あの『しゃらしゃらと揺れる真珠の首飾りが』からのくだり、あれには本当にはっとさせられたんですよ! もう、頭の中では人魚が物凄いスピードで海を貫いてました。

いや、覆面作家企画3ではこちらこそお世話になりました。
それでは、今回はこの辺で。
失礼致します。

投稿者 楽遊 : 2008年03月05日 23:17

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