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2008年02月16日

覆面3・冬 Cブロック:感想

Cブロックの感想です。
やー、本当この企画は一つのテーマから色んな物語が生まれて楽しいワー。
推理はのんびりやってます。
まずは感想まで。

例によって長い上に盛大にネタバレしているのでご注意です。

それと、『』内は本文からの引用です。



C-01 毒

あー……何て美味そうで、何て苦そうで、何てしょっぱそうで、でもやっぱり何て美味しそうな一皿。そして、なんて重い一皿。
革命の裏側、その中でも実はこれが核だった、というシーンだけを切り取られているから表だって何が起こっていたのかこちらは分からないし、料理人の語る尾ひれの付いた話から主人公の人生を推測することしかできないけれど、それでも革命家が料理人の兄が死んだことを知っていて、『保安隊と衝突したときの指揮官もあんた』というセリフが両者の因縁を垣間見せる。そして『あなたの料理が生かしたはずの人々が、互いに殺し合う』という主人公の言葉が予言となり、成就されてしまったのであろうことを。
でもそれを料理人が――「恨み」はあるだろうけど――主人公を責めていない姿が、彼女の料理人としての信義の強さと、人間としての人生の悲哀を感じさせて重い。
そしてこの作品。背景が描写されていないからこその深みがスープにコクを与えて、飲み干した時に深い十足感をも味わわせてくれる。
そしてタイトルの『毒』。強烈だ。それはどんな毒よりも、主人公にとっては猛毒でしょうね。




C-02 舞夜空(まいよぞら)

フ、フェイクばりばり!? 登場人物まで仮面を被ってらっしゃって……
――気を取り直して。
初めは「お空」が人間(生者)で、青年が死神か盆に返ってきた霊か何かだと思っていたんですが、これ、逆だったんですね。
生前不自由な足のため踊れなかったことに無念を抱えていた少女が盆に戻ってきて、まだ死して間もないのか自分が死んだことを自覚できていずに生きていた時と同じように振舞っていたのかな。
それを霊と関われる青年が盆の終わりと共に迷わず帰れるよう促した二人の交流が、盆踊りの囃子と光景、仮面の持つイメージもあって彼方此方の境界の雰囲気の中、侘しくもしっとりとしている。
しかし、すでに死んでいた少女と、彼女が踊りの輪から疎外された姿は、最初から最後まで物悲しい。何かこう、祭りの会場から離れた場所、日も沈んで周囲は暗く人もいなくて、遠目に祭り会場の明かりが見えて囃子や盆踊りの歌がやけに遠くから聞こえてくる……そういう場所でふと一人になった時に感じる寂しさを、思い出していたたまれなくなってねぇ……。




C-03 ジンニーと魔法の絨毯

ラブコメ! アラビアンナイトな情景に、少女漫画のような雰囲気があいまって、人買に掴まり売られただのとなかなか物騒なことを言っているのに何だかほんわかしている。そのイメージにくすぐられていても楽しいし、快活で魅力的なルゥルゥの言動にくすぐられるのも楽しい。
『ふーきーとーばーさーれーるー』って何か変に余裕ないかねルゥルゥさん。
ルゥルゥのキャラクターのせいか脱出する奴隷という悲壮感はなく、むしろこの状況を楽しんでいるかのような彼女の姿にもしやスルタンとは悪い仲じゃないのでは? と思えばやはり。しかしそれが落ち着くところに落ち着いて気持ちいい。ジンニーもいいキャラしてますねー。お陰でオチに一捻りが効いて、綺麗にまとまって心憎い。
そして文章も小気味良く。『諸悪の原因』と『根源』の使い分けだけでスルタンの方を危険視しているのが分かって巧いなー。『諸悪の原因』と来た時は間違ってないけど慣用句的に「ん?」とひっかかったけど、それが逆にこんなに活きるとは。
やー、カートゥーンとかの原作にできそうな作品で頭に浮かぶ映像がいちいち面白かった。




C-04 起源の探査

「現在」でも古代文字の解読をしている人達は、この観測員と同じ気持ちなのかもしれませんね。この文字は何を意味しているのか、何という言葉なのか、言葉の意味はなんなのか。そして言葉の意味が分かれば、それが正しいのか、あるいはその意味が視覚的に見られるものであれば見てみたい――と。
舞台は気が遠くなるほど遠い未来であるだろうに、観測員の動機は実に素朴で共感を得ました。過去の言葉を連ねて、一つ一つその意味の真実を紐解こうとする会話は楽しい。
ただ、宇宙に出るだけの技術があって、文献は残っているのに写真や動画といった記録がないのはどうしてだろう――と疑問に思ってしまって、それが気になって途中から純粋に楽しめなくなってしまって……。
おそらく言外に膨大にありそうな裏設定がありそうなので、そこにはその理由もあるのかな(読みこぼしていたら申し訳ない)。書かれている中でも、保護服を脱げば『この惑星の重力が骨格系統を押しつぶし、この惑星の酸素が神経系統を腐食させる』というからには二人の姿はもはや「人間」の形ではないかもしれないし、生物的にも別種になっているのかもしれない。それを思うとどこか無機質な会話も、そういう「宇宙人」になった人類と思うと納得できて、演出にうならされる。




C-05 クウジュ※注

空恐ろしい話。
時系列の流れが逆転している構成なんだと最後の節で解り、思わず最初から読み直してしまいました。なるほど、冒頭の節はそういう意味か……と、理解してまた空恐ろしく。
具体的にグロテスクな描写や身に迫る危険といったものではなく、「実験体」として存在することを余儀なくされてしまった無力な子ども――あるいはその末路――の恐怖や葛藤や諦観がじわじわとくる。当初理由の明かされていなかった自己矛盾への疑問が、最後の節で解消された時、クウジュの絶望の深さとなって明確な姿となるのも巧い。
しかし、「※注」がつくのが納得の薄寒さ。いや、作品が寒いんじゃなく、この話の中にいる人間の温度が恐ろしい。
凄烈な悪意ではなく……言うなら、冷たい水の底でどんよりと澱む邪悪を見せられた感じでしょうか。人間の暗部だけが存在している感覚、『クウジュ』という名のもう一つの意味も、ラストの母親へ投げかけられたセリフにもそれが凝縮されているようでゾッとする。




C-06 ボクらの、冒険前夜。

まさにタイトル通り! さあこれからというところで、次回作にご期待下さい? そんなー!
――と、いうのが読後一発目の感想で。
落ち着いてから思ったのは、間違いなくこの作品は「看板に偽りなし」ということ。初っ端で宣言されたようにこの作品は『冒険前夜』を書き切っているんですね。主人公の生い立ち、張り巡らされる伏線、謎、小出しにされる情報、先へ先へと興味を引かせる不安の増大、深まる謎、文字通り雲行きの怪しい中で未知を知る者と知らぬ者の対峙、誘惑、現状への未練と葛藤、冒険が始まる直前の焦燥と高揚、そして決断。そして……。
まさに長編プロローグのお手本。20ページという規定内で物語を展開させるのではなく、完成されたプロローグをどかんと出してきたのがいっそ清々しい。
でも気になるんですよ。本格ファンタジーか児童文学系ファンタジーか、こちらに入ってきている情報から想像される展開は無数で、興奮に満ちた冒険活劇を予感させる。双子というただでさえ神秘的なイメージを持つキャラクターに、両者にある差異、悲しいほどの感情の違い。ロンドウおばさんも鍵を握っていそう。最後に二人は――あるいは一方は、彼女の家に戻ってくるのか。家族はどうしていなくなったのか、そもそも「空」は何を象徴しているのか。……な、生殺しです。
(予感の域を出ないけど、作者さん、「本体」は考えてない気もするんだよなー)




C-07 鏡よ鏡

いーやー、なんだろう、今回(冬)は甘い話に心緩まされっぱなしですよ。
ひとまず……可愛い乙女心だねー!
何だかいちいち主人公の言動にほんわかしてしまいましたよ。お弁当作りに努力する姿が目に浮かんで楽しいですよ。そりゃあお母さんも張り切るさ。父と弟よご愁傷様。特に父、多分心と味覚に大ダメージな心境だろうけど。
それもほんわかなだけでなく、挿入されたエピソードにしんみりする。冒頭の『鏡よ鏡』はここに端を発しているのかと。そしてトラウマ、それともコンプレックスが先輩の心根に氷解していく過程がもう……甘甘ですよ! ていうかでっかいハートマークとはまたどストレート。それを描くはもはや想いを煎り込めた桜でんぶ? それもまた甘いハートと熱い想いとで相乗効果ですよ!!
で、繰り返しを利用した構成も巧み。冒頭の二文とラストの二分、最初の寝ていることを示唆する教師の声と地文のテンポ、同じ状態になったクラスが二つ、地文にも所々にちらほら、時に入れ子状に使われていて作品の雰囲気とテンポにまとまりあって気持ちいい。
読後、ほんわかいい気分になりました。




C-08 Deserter's 45 minutes

こうね、外国の郊外、ちょっと寂れた場末のレストランかなんかでさ、赤ら顔の元軍人のおっさんがバーボンのロックをからころ揺らしながら語り聞かせてくれてる光景が見えるようで、その雰囲気の中、聞き終えた話は切なく、それなのにどこか温かくてねぇ……。これは最後の陽光の温かさのせいなのか、それとも不可思議な現象に遭いその『逃走劇』に触れた語り手の、消えた二人への同業者としての祝福のせいなのか。
イトマキエイや黒イルカ、聞いただけで姿をイメージできる愛称はいいですねー。空を飛ぶイトマキエイ。だけど親しみすら抱くその機体の中でやり取りされた会話は哀しい。死に瀕した相棒へ語りかける者の声、それにまともに応えられない声、耳に聞こえるようで。そしてその二人の最後のやり取りを誰かに伝えようとしているかのように動く「残骸」がまた胸に迫る。
消えた二人の素性は最初から最後まで謎で、真実は気になるけれど、最後まで読んだときにはもうどうでもいいですね、それは。
語り手の言うとおり、『めでたしめでたし』。それでいい。




C-09 私と私の黒のこと

短いながらも綺麗に完結した作品。
冒頭で主人公が一体何なのかと色々考えちゃいましたよ。人ならざるものの独白? とか。もう一人の登場人物『A』の存在があるから、もしや『私』はAが飼ってる「何か」だったりして、とか。
けれどAが部屋に入ってきてから作品が色づいて、二人の交流、小気味良く気の利いたやり取りが妙にしっとりと続いて楽しい。バッハのチェロの無伴奏組曲を聞きながら、ドライブへの回顧と空想を始める「私」は本当に楽しそうで、その描写もドライブの快感を伝えてくれて、だからAの差し水に「私」と一緒に落胆してしまう。悪気はないんだろうし、それにこのAはエンターテイナー根性が染み付いていると見た。『楽しい?』と感想を聞かずにはいられないところから。
Aとの小説を絡めた会話から「私」がどういう存在かを伝えるのも巧み。そして冒頭の「私」の語りにアレンジを加えたあらすじに二人の絆の強さを感じる。
無駄なくしかし想像の余地は広く、心地良い余韻を与えてくれる話でした。外に猜疑を向けながら、「私」の根の明るい性格もいいですねー。




C-10 てるてる坊主の気持ち

冒頭二文でやられたー! いいですねぇ、その口調に合わぬ可愛い名前。
「てるてるくん」の軍人っぽい口調で語られる主人の描写や、次々と出てくる『クールっぽいコードネームを与えられている』仲間の名前や、それらが残した引継ぎ事項の先代達の口調につい笑ってしまう。あー、確かにクール「っぽい」名前。そしてその名前を与えられた先代達の思考回路の素晴らしさよ。
……が、その内容には次第に切なさが積み重なってきて。
語り手がてるてる坊主の主人・智沙ちゃんに代わってからは、それまでのユーモラスさから一転、周囲の環境が激変して心の安定を失った少女の行き詰まりと危うさに溢れる。いや、これ、まずい方向に行っていたら自傷行為・他人への暴力に走っていたかもしれないと思うほど。まだ「物」に当たっているだけ健康的なのかもしれないけれど。
そこからの歴代のてるてる坊主との夢(?)の中での会話は温かみに溢れていてじんと来る。うーん、いい奴だ、てるてる坊主ズ。特に「てるてるくん」。さすが頭の中に入っているものが雑巾だけでなく、特別なメッセージ入りなだけはありますね。
……ところで、「てるてるくん」の中に入っているそのメッセージは、ラストの一文でいいんですよね、きっと。




C-11 ふりさけ見れば春日なる

きっとこれ以外にないのだろうという結婚を前に、それを承諾すると思っていたはずなのに答えを保留せざるを得なかった主人公の気持ちは素直に共感できるもので、すっと感情移入ができました。
そうですよねー、故郷って、でかいですよねー。
十年経っても『片足はこの土地を踏んでいた』と言い切れるほど思い入れのある故郷(ホーム)を、他の場所に変えるというのは、それも現在のものとは空の見え方の全く違う土地を新しい『帰る土地』にするというのは、怖いというのは無理もない。故郷って、自分のアイデンティティの少なからぬ部分を担っていたりしますものね。
それだものだから、この問題をどうやって解決するのかと主人公の不安げな心を追っていたら……タイトルをさらに展開させて綺麗に落としてくれて、お見事。二人の未来を素直に祝福したい気持ちになりましたし、それに、故郷を帰るセリフを土地柄の出る雑煮の内容に重ねたのもエスプリが効いてて心地良い。
それにしてもこのタイトルは中盤から最後まで作品のスパイスとしてずっと効き続けていていましたねー。でもそのままタイトルに関する感情に頼るのではなく、ラストでさらに一展開してくれたから余計に印象に残りました。




C-12 三つ葉

不可思議な一夜を過ごした寂しさと孤独を抱える不器用な男。
店はこの世ならざる場所にあるものなのでしょうか。彼の前に現れた少女は、冒頭の言葉もあり、歳不相応に『紅の塗られた唇』と描写されたこともあってかどことなく不気味さもある。何と言うか……不思議と大人びた少女の組み合わせの妙、のせいか。
遊郭の空気も纏う不思議な店での主人公と少女のやり取りは優しいものであるのに、なぜか重苦しさも感じる。そう感じたのは、別れ際に主人公に少女が見せた『泣きそうに私を見ていた』が関係しているのかも。
もしかして少女も主人公に「父」を重ねていた? 例えば生前死に別れていて……なんて。
料理はさらっと描写されているけど、懐石系かな? それとも唐揚げや味噌汁とどことなく家庭的だから、客の食べたいと思う料理の系統のものを出してくるのか。それが『お付の者』との会話のための呼び水にして――あるいは『孤独』のような「空腹」を「代金」として回収するために。
色々と作品の背後に想像を巡らせてしまいまう不思議な魅力。
最後のエピソードではこの店で主人公が何を得たかを描かれていて、彼がこの店にやってくることは二度とないんじゃないかな? と予感させられました。

投稿者 楽遊 : 2008年02月16日 23:12

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