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2008年02月29日
覆面3・冬 Aブロック:感想
他のブロックに比べて短いですが、実はここが一番初めに感想を書いたブロックで、そのためエンジンかかり切ってませんで。
ご容赦です。
Aブロックの皆さんと相席させていただけて、楽しかったです。
ありがとうございました。
m(_ _)m
A-01 ミズと小さな秘密基地
童話調の語り口に独特の世界に引き込まれる。
途中、空についての描写がなにやら不可思議で何だ? と思っていたら、なるほどそういうことかー。
兄弟の正体が判るまでの描写は自然で、兄弟の正体が判ってからまた前半部分を読み返してみても自然で、そしてこういう仕掛けかと面白い。
構成と描写がかみ合っていてうならされるなー。
この話は絵本にしても映えそうですね。童話にしても子どもが喜びそう。その時の挿絵はもちろんほんわかとした絵柄で。
A-02 タイトル未定
饒舌な愚痴の吐きっぷりが冒頭から素敵です。ていうかこの使用人最強です。パンチ速すぎです! なんかモノスゲー絵が頭に浮かんでますよ! それ、伝授してください!
読んでいると段々、あれ? なんかこの使用人てば主様のこと悪からず思ってね? と思わせるのは計算でしょうか。だとしたら凄いなー。
告白の瞬間も、そこに至るまでの流れも淀みなく、巧み。
物語への結末も、主人公の語り口がどこまでも「明るい」から、切ないながらも楽しく、そして納得させてくれる。
タイトルの役割が大きくて、落とすところに満足をきちんと落としてくれる。悲恋ものであるのに、清々しい読後感でした。次から次へと出てくる「空」も楽しかったー。
A-03 公主と鸚鵡
冒頭一節はまるで叙事詩の冒頭を読んでいるよう。
そして中身は叙事詩を短くまとめ、朗々とした語り部の話のよう。
言い方は適切ではないかもしれないけれど、緻密な取材に基づいた重厚な歴史番組を見ているような気分になりました。BBCとかNHKスペシャルが作りそうな。いや、むしろこの作品を下地に作って欲しい。
運命に翻弄された公主の話、そこに甘えやロマンチズムがなく、どこまでもシビアに進むからか最後の一節に至っても緊張感が抜けない。
それはあるいは予知夢なのか。
最後の鸚鵡の姿が何かを象徴しているかのように感じたのは、こちらが穿ちすぎているからなのでしょうか……。
それにしても磨き上げられた文体。圧巻です。
A-04 アタタカイアメ~普通に雨が降ること,実は当たり前のことではないのです~
童話調、それとも幻想的な児童文学の雰囲気。
『「空」さん』と呼んでいるからてっきり「空」さんは年寄りもしくは大人だと思っていたけど、ミスリードだったかー。会話の途中で察せたけど、だからといってそこで作品の面白さが壊れることなく、むしろこっちが分かっているからか純粋な主人公の反応が余計に可愛く感じてしょうがない。
味付きの雨。そんな雨が降ったらそりゃあ雨の日は楽しいでしょうねぇ。
酸性雨って酸っぱいんだったけかな……なんて考えてしまった僕は子どもの心をきっと失くしてる。
A-05 心残り
『天ぷらが食べたい』……これ、僕にとっては物凄く切ない言葉です。~が食べたいって最期の言葉、耳にするたびにこう、胸にくるんですよねぇ。だからこれに類する『蛍の墓』とか駄目ですねん! 他にもほら、こうサバイバル物とか戦争物とか、何でもいいけど「ああ、○○の作った**が食べたかったなぁ……」なんてつぶやかれて死なれたらもう駄目なんですよ、僕! ……ハァハァ。
閑話休題。
主人公の『心残りがない、心残り』はもしかしたら究極の心残りかもしれませんね。
主人公が語っていたように、自分の人生に意味を見出せないから、そう思ってしまったら、特に。
それに対する不良クンのアンサーが実に案内人らしく、優しく、そこでこの作品の「色」が定まった気がします。袖振り合うも他生の縁。どんな人だろうと、関わった時点で少なからず他者に影響を与えている。それは人生の価値として確かなものでしょうね。
A-06 鳥籠の唄※注
アズエルという狂気を、さらに飲み込む狂気が誕生する瞬間の文章には得も言われぬ迫力が。無垢とはいえ随分徹底した「無垢」だな、と思っていたら、それが狂いをはらんだ無垢と分かったときの不気味さ。
鳥籠の檻を挟んである写し身同士の、しかしどこまでも相容れないズレがそこにある写し身の不均衡さが狂気を強く演出している。
相手を求めるが故の相手との同化。例えば恋人の趣味に合わせるとか、それは程度の差はあれよく見られる心理で、だからこそ行き着いちゃった二人の姿は天使というリアルな存在じゃなくても、奇妙なリアルな存在感を持っていて不気味でした。
A-07 あいつが残していったもの
最初から最後まで謎は謎のまま通し切ったのがいいですねー。
確かに、理由の判らない死を身近な人間が選んだ時、残された者はその死の意味を探さずにはいられないでしょうね……。
そしてそれが例え「彼」が言ったように『自分がその人の死に納得する理由を見つけたいからだ』という思いの下にあったとしても、何故その原因に気づかなかった? 止められたのでは? もっとできることがあったのではと、それこそ遺書が出なければ、永遠に答えのわからない問いに苦悩し続けてしまう。
「あいつ」が残していったものは、謎のまま。そして胸に刺さる悲しみと整理の付かない思い。そうか、このタイトル、ダブルミーイング(それとも多重の意味)が込められていたんですね。
A-08 二番目の男
運命の悪戯、驚くべき偶然、最後の節を読んだ時、暗示されていた「何かあるんだろう」という二人の関係性が驚くほど清々しく腑に落ちた。
二人の二番目の男。二号のコンプレックスの対象だった一号がまた「二号」だったという皮肉じみた巡り合わせが小憎らしい。
二番目の男の語る愚痴は本当に隣で彼が愚痴を語り聞かされているようで、お見事。変にとりとめない愚痴でなく、嫌悪を抱かせない理路整然とした愚痴だから、二号さんが二番目にいられるだけの人物だと疑いを持たせない効果もあって、うまいなー。
最後に、いやいや彼は「一号」の存在があったから努力した結果今の幸福手に入れたんじゃないかな? と思ったけれど、まあ、これは外から言えることですね。ようは気の持ちよう、うん。
A-09 ネイヴァー・ドール
色々と、また、謎が……。
主人公の男の子の閉じた世界での独白で作り上げられていて、こちらに与えられる情報が少ないから何が起こり何が進行し何が問題となって何がどうしてそうなっているのか掴みきれない。
これは……読む人によって感想も印象も変わるように演出したのかな……
だとしたら、僕がこの作品から感じたのは子どもの持つ特有の、これから知ることになっていく自分を取り巻く環境やいわゆる社会に対する不信や無理解を抽出して固められた、ええっと、適切な表現か分からないけど「反抗期前夜」の物思いでしょうか。
しかし掴みきれないとはいえ、所々に共感できる部分や痛烈な皮肉があるからこそ、この作品はただ解らないで通り過ぎることのできない個性を持っているんだろうなあ。
ところで題名の「ネイヴァー」って綴りはどうなんでしょう。思い当たる単語が無くて色々調べたけど、最も近いのは「ナイーヴ」しか出てこなかったよ……
A-10 空を見あげて
主人公の最後の八年に焦点を当てられた回想。
飲酒運転の事故、相変わらず多いですもんね。事故や事件で突然命を失った人はどんなことを思って命を終えるのか、というのは常々考えさせられることですが、こうやって回想しながら、明るい未来とちょっとかっこ悪い過去を交互に見せられると、人生の幕が降りるには早いだろうという静かな無念が感じられて、作品自体はそう強烈な悲壮感に溢れてはいないのに、重い。
最後の案内人のセリフは輪廻転生を示しているのでしょうか。希望があると言われ、疑いなく主人公が足を踏み出していくから、それは確かに希望への一歩なんでしょうね。
最後の節の光化学スモッグと太陽の組み合わせを美しいと描写しているのが案内人の言葉を象徴して、なんだか妙に効くなぁ。
A-11 リワインドの神は虚しき骸にして愚かなる人間。※注意※
凄い構成と演出力! そして面白い!
途中の何度もリフレインする場面。何度もやり直される、やり直されたところで何も変わらぬ惨劇、悲劇。
それでも、自分の殺される時を冷静に平坦に語る主人公のためかこの作品にはただ空虚しか漂わず、そして最後にもう一つの空虚が入り込んできて――鮮やかに、人間らしくなる。
神は死んで、骸になってようやく人間に戻れた。そこには悲しい人間が二人いるだけだけれども。
最後にそう思った時に戻ってくるのは、また空虚。
でもその空虚は作中で感じた空虚とは違って、人間らしい空虚だったのが不思議。この空虚も「感動」なんだろうなあ。
A-12 そらうみそら
タイトルからは想像もしていなかった話。初めは、何だろう、と思っていたタイトルの意味も、読み進めていく内になるほどと納得させられて感嘆。
前半の部分の幻想的な話から、切り替わってきな臭さの漂う舞台へと移り、そしてそこに出てきた『かみさま』と『私』の人物像が流水のように滑らかで綺麗な文と合わさって映えている。
タイトルが示唆していた構成も、大きな構成の中にある小さな構成の反復や前後で符合するもののある仕掛けなども綺麗。
なんというか……文から構成から見事に作り上げられたガラス細工を見ているような透明な美しさがあって。
話自体は悲しみを帯びているのに、その悲しさは作品が持つ美しさに彩られているからか、悲惨さを感じない。それはこの作品が持つ力のためなんでしょうね。
海に帰った二人は仲良く冒頭の真珠貝のようになるのかな。今度は人に採られることなく。
投稿者 楽遊 : 2008年02月29日 22:57
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